ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
「ちょっと……君たち……」
静寂が戻ったプロンテラ西門前。
レナードが、震える手で深く被っていた法衣のフードをそっと後ろへ払った。
そこから現れたのは、ダボついた服には収まりきらない180センチを超える巨体と、頭頂部にぴょこんと生えた黒い猫耳、そして金色の目の柔らかな表情の美青年だった。
エルネストは息を呑み、信じられないものを見る目でその頭上を凝視する。
(…………あの頭の物体は……)
「ボクだよ……ギルドマスターの、レナードだ」
「「レナード(さん)!?」」
リリアと、そしてリリアに支えられていたレイの悲鳴のような声が重なった。
「うそ……レナードさん!? 猫ちゃんになっちゃってるの……!?」
リリアが桃色のボブヘアを揺らし、驚きのあまり口元を押さえる。
(え……うそ……可愛い……っ!……うん、レナードさんならこれでも似合う……!)
衝撃の姿に戸惑つつも、180cmくらいはありそうな巨体からぴょこんと生えた猫耳のあまりのギャップに、リリアはどこか愛らしさを感じてしまい、目をパチクリとさせてその姿を見つめた。
その横で、重厚な甲冑を鳴らしていたバルドが、豪快に槍を地面に突き立てて笑い声を上げた。
「ガハハハ! 驚いただろ! 俺様はドラゴンナイトのバルド様だ! そしてこっちの金髪のおちゃらけたバカがノアだぜ!」
「バカって言うな! バルドはすぐそうやって言うんだからさ〜! ……でも、本当にみんな……会いたかったよ〜〜っ!!」
ノアがアークメイジの豪華な法衣の裾をなびかせ、感極まった様子でリリアたちへと駆け寄った。
「ノアさん! バルドさんまで……! みんな、無事だったんだね……っ!」
リリアの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「……まったく。無茶ばかりする奴らだ」
エルネストも長弓を背負い直し、どこか憑き物が落ちたような、柔らかい微笑みを口元に浮かべる。
生きて再会できたという圧倒的な安堵感が、6人の間に広がっていく。
そんなやり取りを一通り見届けたレナードが、ふと思い出したように手をぽんと打った。
(エルが連れているってことは……この可憐なカーディナルがリリアだね)
レナードがリリアを確認し、ふと視線をその隣へと移した。
(……でも、リリアの近くにいるこの美人なエレメンタルマスター…………女の子だよね?)
「あ、そうだった! バルド、ノア! こっちがエルネストだよ。カーディナルがリリア……だよね?……で、その隣の美人な子は?」
「……ねえ、ところでさ」
ノアが金髪をくしゃくしゃと掻きむしりながら、エルネストの隣に立つ人物をまじまじと見つめた。
黒髪のショートボブに、涼しげで凛とした顔立ち。
かなり慎ましい胸の華奢な体つきにエレメンタルマスターの法衣を纏った、誰もが目を奪われる美貌の持ち主。
「その……めちゃくちゃ美人な女の子、誰……? 新しいお友達……?」
レナードとバルドも目を丸くして、その女性を凝視する。
「……なに見てんだよ」
不機嫌そうに低く、けれどどこか聞き覚えのあるハスキーな声で呟いたのは、その黒髪の美女——レイだった。
「「「……は!?」」」
3人の動きがピタリと止まる。
「お、おい……嘘だろ……? その喋り方、声……まさか……『レイ』……なのか……!?」
バルドが顎が外れそうなほど口を開け、指をさした。
「えぇぇぇーーっ!? レイって、実は最初から女の子だったのーーっ!?」
ノアが頭を抱えて叫び、レナードも瞳を極限まで見開いて固まっている。
思わぬ反応にレイが眉をひそめると、ノアとバルド、そしてレナードの頭の中で、彼らなりの勝手な「納得」の論理が凄まじい勢いで組み上がっていった。
(((そうか……! ネット越しにプレイしていた頃からあんなに男勝りで頼もしく振る舞っていたのは、女だと舐められないために男のフリをしていただけだったんだ……! 異世界に来てからも混乱して男のフリをしてたみたいだけど、本当は最初から可憐な女の子だったんだ……!)))
「俺も女キャラ使ってたけどここに来た時から男だし……!女の子ってことは……そっか……!俺と違って、レイちゃんは本物の女の子だったんだ……! なのに、ネットではあんなに男勝りに男のフリをして頑張って……」
「おう……! 納得がいったぜ! ネットでいくら男のフリたって、この世界に来ちまえば隠し通せるわけねえもんな! もう無理して強がる必要なんてねえんだぞ!」
「ボクもびっくりしたけど……女の子だって全然気にしないよ! 無事で本当によかった、レイ」
ネットゲーム時代の言動やこの世界での振る舞いを勝手に解釈し、「男勝りな女の子が男のフリをしていた」という方向で完全に自己完結して、温かくもどこか優しく微笑みかけてくる3人。
以前、リリアやエルネストに必死で「俺は元々男だ!」と弁明したものの、全く信じてもらえず「いいんだよ、レイちゃん!」「無理をする必要はない」と温かい受容の空気でスルーされた苦い記憶が、レイの脳裏を駆け巡り、同じ女キャラを使っていたノアまで男となって現れた。
(……もうだめだ。ここで何を否定しても、こいつらの脳内では『照れ隠しで必死に突っ張ってる可愛い女の子』にしか変換されない……)
すべてを悟ったレイは、もう弁明する気力すら完全に失い、深々と大きなため息を一つ吐き出した。
腕を組むと、フイッとあからさまに顔を背け、肯定も否定もせず完全にノーコメントの姿勢を貫く。
だが、その流すような態度すらも、3人にとっては「正解を突かれて恥ずかしがり、強がっている可憐な女の子の態度」にしか映らないのだった。
そんなレイと、隣に立つ桃色ボブの童顔爆乳美少女・リリア。そして、その二人をさも当然のように従えているハンサムなウインドホーク・エルネスト(見た目はレンジャー)。
3人は一瞬だけ無言になり、目の前の光景と自分たちの現状を激しく見比べた。
(((……ボク(俺)たちは男3人でむさくるしいパーティーだったっていうのに、エルネストは女の子(美女ふたり)に囲まれてたって……ボク(俺)たちはどんな罰ゲームだよ)))
レナード、ノア、バルドの脳裏に、全く同じ言葉が同時に駆け巡る。
理不尽な格差に対する猛烈な羨ましさと困惑、そして呆れが交ざり合った視線を一斉に注がれ、エルネストは「……なんだその目は」と少しだけ居心地悪そうに身を引いたのだった。
さまざまな波乱と重なる勘違いを抱えながらも――混迷の王都プロンテラの門前で、ついに6人の仲間たちは完全な再会を果たした。
互いの生存を確認し合い、驚きと錯綜する勘違いを交えながらも、6人は確かな再会の喜びに浸っていた。
「……さて」
エルネストが周囲の状況を見渡し、静かに声を掛けた。
「無事に再会できたのは何よりだが、俺たちは商隊の護衛としてここまできた。一度商隊の元へ戻り、無事の確認と依頼達成の報告をしてこないとならない」
「あ、そっか……! ゲフェンから一緒に旅してきた商人さんたちを待たせちゃってるもんね」
リリアも桃色のボブヘアを揺らしながら、ハッと思い出したように頷く。
「……そうだな。俺たちにも護衛としての責任はある。報告と報酬の受け取りを済ませてこないと」
隣で腕を組むレイも、落ち着いたハスキーな声で同意した。
一方、その言葉を聞いたレナード、ノア、バルドの3人は顔を見合わせた。
「ボクたち3人は、冒険者ギルドで西門の『聖職者狩り鎮圧』の緊急依頼を引き受けてここへ駆けつけたんだ。だからボクたちも、一度ギルドへ戻って討伐の報告をしておかないとね」
レナードが法衣のフードを目深に被り直し、金色の瞳を二人に向ける。
「おう! 報告を終えりゃ、山分けの報酬も手に入るしな!」
バルドが重厚な甲冑を鳴らして豪快に胸を叩くと、ノアも「頑張った甲斐があったよ〜!」と笑顔で手を叩いた。
一旦はそれぞれの「仕事」を片付けるため、その場で短時間離れることとなった6人。
「じゃあさ! 報告が終わったら、プロンテラの冒険者ギルドのすぐ近くにある酒場で落ち合おうよ! あそこなら広くて飯もうまいしさ!」
ノアが名案と思い立ったように提案すると、リリアが「いいですね! みんなでプロンテラのご馳走を食べましょう!」とパッと表情を明るく咲かせた。
「分かった。プロンテラ冒険者ギルド近くの酒場だな。報告が終わり次第、俺たちもすぐに向かう」
エルネストが頷き、再会の約束を交わす。
「待っててね、みんな! すぐに向かうから!」
「おう、遅れるなよー!」
手を振り合いながら、リリア・エルネスト・レイの3人は街道沿いに待機している商隊の元へ、レナード・ノア・バルドの3人はプロンテラ市内の冒険者ギルドへと足を向けた。
数々の波乱と過酷な遠回りを乗り越え、ついに揃う6人の仲間たち。宴と真の再会の時間は、すぐ目と鼻の先まで迫っていた。
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