ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
プロンテラ西門前の惨劇から少し離れた街道沿い。
待機していた商隊の面々は、無事に帰還したリリア、エルネスト、レイの姿を認めると、一斉に安堵と祝福の声で迎え入れた。
「おお……! 無事だったか!」
商隊の責任者が駆け寄り、3人の無傷な姿を見て深く胸を撫で下ろす。
「門前の激しい騒ぎと魔法の閃光が見えてな、どうなることかと生きた心地がしなかったよ。……で、西門の刺客どもは?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
エルネストが背負った長弓を軽く正しながら、落ち着いた声で報告をつなぐ。
「駆けつけた面々との共同作業により、西門で暴れていた刺客の頭領を含め、一匹残らず排除した。……これで、城塞への最短ルートは確保された。……問題はない。」
「本当か……! ああ、なんとお礼を言ったらいいか……! 東門の崩落から長い迂回路を辿り、幾度も危機を救ってくれた。君たちがいなければ、この商隊はプロンテラに辿り着く前に全滅していたよ」
責任者は感極まった様子で3人の手を硬く握りしめ、約束の報酬に加えて多額の追加報酬が詰まったズッシリと重い革袋を手渡した。
「これは約束の護衛料と、西門での危険な戦闘に対する我々からの感謝の証だ。ぜひ受け取ってくれ」
「ありがとうございます!皆さんが無事にプロンテラへ到着できて、本当に良かったです!」
リリアが桃色のボブヘアを揺らし、柔らかで可憐な笑みを咲かせる。
その無邪気で温かい笑顔に、長旅で疲弊していた商人や護衛の冒険者たちも一瞬で心を洗われたように表情を緩ませた。
無事に依頼達成の報告と報酬の受け取りを済ませ、商隊の面々と温かい別れを告げた3人。
賑やかな西門のアーチをくぐり、白亜の街並みが広がるプロンテラ市内へと足を踏み入れると、あらためて怒濤の如く喜びが込み上げてきた。
「ふぅ……! やっと、本当にプロンテラに着いたんだね……!」
リリアが胸の前で小さな手をギュッと握りしめ、目を輝かせて白石の石畳を踏みしめる。
「うん! 東門が崩れて遠回りになって、途中で怖いこともたくさんあったけど……エルネストさんとレイちゃんがずっと守ってくれたから、ここまで来られたよ。本当にありがとう!」
「礼には及ばない。俺は護衛として当然のことをしたまでだ」
エルネストが短く首を振ると、隣を歩くレイの方へ視線を向けた。
レイもハスキーな声でふんと鼻を鳴らし、照れくさそうに呟く。
「俺も同じだ。無事に着いて何よりだよ」
「それにしても……すごかったね! レナードさんにノアさん、バルドさん! みんないてびっくりしちゃった!」
リリアがうれしそうに弾んだ声で言うと、レイとエルネストは顔を見合わせた。
「……ああ。あの突き抜けた無茶苦茶な戦い方は間違いなくあいつらだったな」
エルネストが呆れ混じりの息を吐き出す。
「……ただでさえそこそこ目立つデカさだったが、猫耳まで生やしてるとは……、それにやたら前に突っ込む金髪アークメイジ、それに無駄に豪快なドラゴンナイト。……予想以上にノイズの多い連中だな」
レイも口元に薄く苦笑を浮かべ、腕を組む。
「……でも、あいつらが無事で本当によかったよ。これで、またみんな揃ったぜ」
「……ねぇ、エルネストさん。もしかしてレナードさんと、元々知りあいだったりしたの……?」
ふと思い立ったように、リリアが首をかしげて尋ねた。
「そういえば……俺も初耳だぜ。さっきのあの距離感、お前が受け入れたのにびっくりだよ」
レイもニヤッとした悪戯っぽい笑みを浮かべ、横から視線を送る。
「……あいつとは、向こうにいた頃からの腐れ縁だ。昔から距離感が壊れている奴だからな」
照れも恥ずかしがりもなく、事もなげに「いつものことだ」と言いたげな顔で一蹴するエルネスト。
(……まあ、手がかかるのは相変わらずだが)
心の底でだけ呆れつつ、サッと長弓の肩紐を整えて歩き出す。
「ひとまずは指定された『冒険者ギルド近くの酒場』へ向かおう。報告を終えたあいつらも、すぐに向かってくるはずだ」
エルネストの言葉に、リリアとレイは強く頷いた。
遠くに見えるプロンテラ大聖堂の尖塔と、青空に響く街の喧騒。
数々の波乱と別れを乗り越え、6人が再び一つのテーブルを囲む約束の刻は、もう目と鼻の先に迫っていた。
一方、西門での激戦を終え、報告のためプロンテラ冒険者ギルド本部へと向かって歩を進めるレナード、ノア、バルドの3人。
活気あふれる石畳の大通りを進みながら、ノアが金髪と耳の青いピアスをパタパタとなびかせ、感極まった様子で口を開いた。
「ねえねえ二人とも! いや〜、まさか本当にみんなと再会できるなんて思わなかったよ〜! リリアちゃん、実物もすっごく可愛かったなぁ!」
「おう! 無事で何よりだったぜ!」
バルドが肩に担いだ長槍を軽く持ち直し、豪快に笑う。
だが、ふと顎に手を当てて不敵な笑みを浮かべた。
「しっかし、エルネスト……イメージ通りすました顔しやがってよ。弓の腕前は相変わらず確かだったが、なんだかリリアちゃんに対してやけに過保護というか、ピリピリと警戒姿勢全開だったな」
「あはは! わかる〜! 『近寄るな』みたいな顔で威嚇してきてさぁ! でもエルネストってば、リリアちゃんだけじゃなくて、レイちゃんのこともしっかり庇って守ってたよね」
ノアが可笑しそうに笑うと、歩いていたレナードが法衣のフードを目深に被り直し、金色の瞳を二人へ向けた。
(……エルは昔からそうだ。不器用で冷徹ぶってるけど、自分の領域に入れた仲間だけは絶対に死なせない。……それに、ボクの顔を見たときの一瞬の目。絶対に誤魔化せないよ。エルはボクが無事で……心底ホッとしてたんだ)
胸の中でこっそりと自負を深め、満足気に猫耳をピョコピョコと揺らすレナード。
「エルネストはあれで、元々仲間思いなところがあるからね。女の子のレイに対しても、自然と庇護欲が働いて守ろうとしていたんだろうな。……口は相変わらず毒舌だけど、ボクたちの無事を確認したとき、一瞬すごく安心した顔をしてたよ」
「ふん、まあな。冷徹ぶってるがあいつなりに心配してくれてたんだろうぜ」
バルドが鼻を鳴らすと、話題はリリアとレイの姿へと移った。
「それにしてもさ……リリアちゃん、可愛かっただけじゃなくてスタイルまで凄すぎなかった!? あの童顔であの爆乳は反則でしょ〜っ! 抱きつかれたら一発でノックアウトだよ!」
ノアが両手を胸の前で大きく丸めながらデレデレとした表情で叫ぶと、バルドもニヤニヤとスケベな笑みを浮かべた。
「ガハハハ! 確かにありゃ男を惑わす圧倒的な凶器だな! 『バルドさん!』なんて笑顔で駆け寄られた日にゃ、ノアみたいに砂漠で干物になるどころか鼻血吹いて倒れるところだったぜ!」
「でしょ!?あっでも俺はまだギリギリ干物にはなってなかったよぉ! ……で、もう一人のレイちゃんだよ!」
ノアがさらに大興奮気味に声を弾ませる。
「ネットでプレイしてた頃はあんなに男前で頼れるヤツだったのにさ、本物はめちゃくちゃ凛とした黒髪の美人さんだったなんて~……! 男のフリをして必死に強がってたと思うと、ギャップで余計にドキドキしちゃったよ〜!」
「おう、案外あいつが一番のギャップかもしれないぜ! まさか美女二人を従えてるエルネストの野郎が一番良い思いをしてたとはなぁ!」
「「ハハハハッ!!」」
鼻の下を伸ばしながら盛り上がる二人のバカ騒ぎを横目に、レナードが「……まったく」とフードの深さを確かめた、その時。
バルドがふとピタリと足を止め、じろりと隣のレナードへ視線を向ける。
「……ってかよ『抱きつく』と言えば。……レナード、お前さっきエルネストの野郎に全力でダイブしてただろ。なんであの冷血漢相手にあんな突撃ハグできたんだよ?――っていうか、お前あんな他人とオフ会とか考えられなそうなエルネストと、そもそも会ったことあったのかよ!?」
「そうだよぉレナード! 俺たち『うわ、あの不審者いきなり他人に抱き着いた!殺される……!』ってヒヤヒヤしたんだからね!? エルネストに抱きついて生還した人間、君が世界初でしょ!?」
二人から一斉に呆れと困惑のツッコミを叩きつけられ、レナードはごく当然のように首をかしげた。
「え? だって、そもそも幼馴染だし。それに、ボクとエルネストだよ? 抱きつくくらい普通じゃないか。……それにバルドだって、いつもノアと肩を組んだりしてるでしょ? それと同じだよ」
「「いや、幼馴染って初耳だよ(ぞ)!!?」」
「あんな冷血漢に幼馴染がいたとか初耳どころか世界七不思議だろおい!!……って、おい、なんでそこで俺とノアの話が出てくるんだよ!? あんな氷の彫刻みたいな近寄りがたい男と一緒にすんじゃねぇ!!」
「そうだよ! 俺とバルドの気のおけないスキンシップと、あんな男のくせに美人で近寄りがたい雰囲気のエルネストへの特攻を同じにしないでよ~!」
「……は? 美人? お前、男に向かって何言ってんだよ! 美人っていうのは綺麗なねーちゃんに言う言葉だろうがよ!」
バルドが盛大に面食らったような声を上げる。ノアは――。
「え? だってめちゃくちゃ整った顔じゃ~ん! 美人以外の何物でもないよ~?」
――と、バルドが何を騒いでいるのか不思議でたまらないとでも言うように、ケロッと言い放つ。
まったく噛み合わない二人の言い争いを横目に、レナードはれっきとした呆れを瞳の奥に潜ませながら、ただ静かに首をかしげる。
――だが、口には出さないその胸の奥で、レナードの記憶には、どこか温かく懐かしい思い出が静かに蘇っていた。
(……はあ。この2人、世界が変わっても相変わらずだな……)
ネットゲームで一緒にボイスチャットをしながら溜まり場に溜まっていた頃も、この2人は攻略や狩りの合間に、いつもこうやってアホみたいに下ネタやくだらない女子の品定めでワルノリして盛り上がっていた。
当時は画面越しのテキストチャットやボイスチャットだったが、こうしてリアルな身体で目の前でワルノリされていると、呆れも倍増するものの「ああ、やっぱりこの2人なんだな」という確かな安心感と、無事に再会できた愛おしさがじんわりと胸に広がっていく。
(……まったく。呆れるけど、このバカ騒ぎが戻ってきたんだな)
そんな心の中の思いを一切顔には出さず、レナードは苦笑いを浮かべながら、エスカレートする2人を宥めるように声をかけた。
「……二人とも、あんまり言い過ぎたらレイに魔法ぶっ放されるよ。……でも、リリアを守るために命懸けで戦ってたし、相変わらず頭脳明晰で頼りになる仲間だよ」
「まあな! あの『エレメンタルバスター』の火力は相変わらずエグかったぜ!」
「うんうん! リリアちゃんのカーディナルの衣装もすっごく似合ってたし、みんな無事で本当に良かったぁ……!」
ノアが感無量といった様子で胸を押さえると、バルドが「おいおい、ニヤけ顔が止まってねえぞバカ」と肘で小突き、3人は和気あいあいと笑い合った。
「さあ、見えてきたよ。報告をサクッと終わらせて、みんなの待つ酒場へ行こう!」
レナードの言葉に、二人も「おうっ!」「ご馳走が待ってるぞ〜!」と元気に頷き、大通りの先に見える巨大な冒険者ギルド本部へと足早に向かっていくのだった。
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現段階で六章まで書き終えておりますので暫くは毎日7:00と19:00の1日2回のペースで更新していこうと思っています。
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