ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
酒場での賑やかな宴も一段落し、6人は今後の行動を念頭に置きながら店を出た。
外へ出ると、プロンテラの街角には茜色の夕暮れが広がり始めており、涼やかな風が石畳を吹き抜けていく。
「ふぅ……美味しかったぁ! プロンテラの料理って本当においしいね」
リリアが満足そうに胸の前で手を合わせ、桃色のボブヘアを揺らす。
「ああ、とりあえず今後の腹づもりもできたしな。……さて、次は今夜の宿だが」
エルネストが長弓の位置を整えながら、仲間たちへ視線を向けた。
「あ、それならボクたちが泊まってる宿に来ないかい?」
レナードが穏やかな笑顔で提案する。
「ボクとノアとバルドの3人は、すでに大きめの同室で宿を取ってるんだ。プロンテラに来たばかりのリリアちゃんたちも、新しく別の宿を探すより、ボクたちと同じ宿で追加の部屋を取る方が安心だと思うんだけど」
「おっ、名案だな! その方が夜もまたみんなでワイワイ話せるしな〜!」
ノアが賛同するように手を叩き、バルドも「おう、そいつは助かるぜ。
プロンテラは広いからな、別々の宿だと連絡を取るのも一苦労だ」と首を縦に振った。
「なるほど……同じ宿なら何かあった際にもすぐ動ける。確かにそれが賢明だな」
エルネストも同意し、リリアとレイも頷いた。
こうして6人は、レナードたちが拠点にしているプロンテラ市内の宿へと向けて歩き始めた。
ところが、路地を数本曲がり、少し人通りの落ち着いた大通りに入ったところで、不意に前方を塞ぐように数人の人影が立ちはだかった。
酒の臭いをプンプンと撒き散らした、見るからに質の悪そうな冒険者のくずれや酒乱の男たち——チンピラどもだ。
「ヒック……へへっ、お前ら、いい気持ちで歩いてやがるなぁ……」
赤ら顔の男がへらへらと不快な笑みを浮かべ、ねっとりとした視線をリリアとレイに向けた。
「さっき酒場で見かけた時から思ってたんだよ。なぁ、お兄さんたち、そんな可愛いおねえちゃん二人も連れ回して独り占めはズルいだろ? 俺たちと一緒にこれからもう一杯遊びに行こうぜぇ……」
下衆な笑いを浮かべながら、ぐいっと手を伸ばしてくるチンピラたち。
「……チッ」
レイは黒髪のボブを揺らし、ハスキーな声で短く舌打ちをした。
(酒場からついてきてたのは分かってたが、面と向かって絡んでくるとはな……。本当にどいつもこいつも、人の見た目ばかり見て頭が湧いてやがる)
レイが即座に魔法の詠唱に入ろうと指先を微かに動かした、その瞬間——。
——ズドンッ!!
凄まじい風切り音とともに、チンピラたちの足元、わずか数ミリの石畳へ一射の矢が深々と突き刺さった。
「……あ?」
あまりの速度と精度に、酔っ払っていたチンピラたちの動きがぴたりと止まる。
「次の一歩を踏み出せば、その足を射ち抜く」
低く、氷のように冷徹な声。
エルネストがゆっくりと歩み出ていた。
手にした長弓にはすでに次の矢が番えられており、その青い瞳からは一切の情け容赦ない殺気が溢れ出している。
「俺の連れに不躾な手を出そうとしたこと、そしてその下劣な口で気安く触れようとしたこと……万死に値するぞ」
旅の中で深まっていったリリアに対する苛烈な過保護さと独占欲。
そして仲間であるレイを守ろうとする冷酷なまでの保護本能が交錯し、エルネストの発する威圧感はプロンテラの冷たい街頭の下で圧倒的な恐怖となってチンピラたちを押し潰した。
「ひ、ヒィッ……!? こ、こいつ本気だ……!」
「な、なんだよこの威圧感は……! 逃げるぞ!!」
あまりの殺気に酔いが一瞬で吹き飛んだチンピラたちは、蜘蛛の子を散らすように脱兎の勢いで逃げ出していった。
「……まったく、下品な輩だ」
エルネストは冷ややかに弓を引きながら深々と息を吐き、すぐさま表情を一変させてリリアの方へと振り向いた。
「怪我はなかったか、リリア。 嫌な思いをさせてしまってすまない」
「うん! エルネストさんが守ってくれたから平気だよ! ありがとう!」
可憐に微笑むリリアの頭を、エルネストは愛おしそうに優しく撫でる。
だが、その背後で見守っていた3人の反応は綺麗に分かれていた。
ノアとバルドは、瞬時に見せたエルネストの凄絶な殺気に身体を強ばらせ、ガタガタと震えている。
((……うわぁ、エルネスト……こっわ……っ!!))
「相変わらず過保護」などという生易しいものではなく、本気で人を殺めかねない冷徹な迫力に、2人は顔を見合わせてゴクリと生唾を飲み込んだ。
一方でレナードは、少し見ない間にどこか冷酷さを色濃くさせたエルネストの背中を、複雑な瞳で見つめながら小さく息を吐く。
(……エル、君は本当に……どうしてそんなふうに……)
危うさを増したその変化に対する困惑と、どこか胸を締め付けられるような切なさがレナードの胸中に去来していた。
「やれやれ……まあ、無駄な喧嘩にならなくて良かったよ」
レイは呆れたように肩をすくめつつも、先ほど自分をも庇うように前に出たエルネストの背中に、確かな頼もしさを感じていた。
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