※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方―   作:和泉終夜

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湯煙の中の極楽

チンピラどもを追い払い、再び歩き出した6人は、ほどなくしてレナードたちが宿泊している一角の宿へ到着した。

 

白造りの重厚な建物で、プロンテラの中でも歴史のある大きめの宿屋だ。

 

受付に向かったエルネストは、リリアとレイの防犯面を最優先に考え、レナードたちの部屋の近くに「女性陣(リリアとレイ)の部屋」と「自分の部屋」の計2部屋を追加で確保した。

 

「それじゃあ、荷物を置いたら……ふふふ、みんなで『あそこ』へ行こうか!」

 

レナードが金色の瞳を輝かせ、楽しそうに提案した。

 

「あそこ?」

 

リリアが首をかしげると、ノアとバルドがニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ふふふ……実はこの宿ね、プロンテラでも珍しい貸し切りの『天然温泉』が湧いてる宿なんだよ〜!」

 

「なんだって……! 温泉!?」

 

レイが思わずハスキーな声を跳ねさせた。

 

「すごい! 異世界に来てからお風呂はずっと簡易的なものばかりだったから、温泉に入れるなんて夢みたい!」

 

リリアも目を輝かせて歓声を上げた。

 

こうして6人は各自の部屋に荷物を預けると、宿の奥に併設された広大な浴場へと向かった。

 

脱衣所で衣類を脱ぎ捨て、リリアとレイは女湯の暖簾をくぐった。

 

ガラガラと扉を開けると、そこにはゆったりとした湯船と、周囲を囲む情緒ある石組み、そして心地よい湯煙が立ち込めていた。

 

「今度こそ転ぶんじゃねーぞ、リリア」

 

「大丈夫だよ! 最近は転ばなくなってきたんだから!」

 

リリアがむっと頬を膨らませつつも、嬉しそうに裾を翻す。

 

「わぁぁ……っ! すごい、本当に広い温泉だね、レイちゃん!」

 

リリアが桃色の髪をアップにまとめ、白く透き通るような肌を湯煙に晒しながら、嬉しそうに湯船へと足を浸す。

 

豊満な胸元が湯面を揺らし、心地よさに「はぁ〜……っ」と甘い吐息を漏らした。

 

「……ああ、最高だな」

 

レイもまた湯船へと身を沈めた。

 

じんわりと身体の芯まで染み渡る温もりに、肩の力が抜け、溜まっていた疲労が綺麗に溶けていく感覚がする。

 

温泉に入れること自体は、間違いなく単純に最高で嬉しい。

 

……嬉しいのだが。

 

(……はぁ〜〜……。温泉は本当にありがたいし生き返るんだが……またリリアと一緒にお風呂か……。良いんだか、悪いんだか……)

 

チラリと視線を向けると、湯煙の向こうで無防備に豊満な肢体を揺らすリリアの姿。

 

レイの精神は生粋の男である。

 

異世界に来てから何度も直面しているとはいえ、この圧倒的な美少女と二人きりで風呂に入るというシチュエーションは、男としての理性と倫理観を大いに揺さぶってくるのだった。

 

(姿は女になっちまってるから仕方ないとはいえ……男としてのプライドと下心が毎回葛藤して精神的に命が削れるんだよな……)

 

そんなレイの心の中の葛藤など露知らず、リリアは湯船の中で少し泳ぐように近づいてくると、隣でニッコリと可憐に微笑んだ。

 

(――はぁ、レイちゃんのお肌、近くで見ると本当につるつるで柔らかそう……。おまけにいい匂い……ってどうしたんだろ私……)

 

わずかに頬を赤らめつつも、リリアは気を取り直すようにふにゃりと目を細める。

 

「レイちゃん、すごく気持ちよさそうだね」

 

「……ああ。プロンテラまでの旅は色々あったからな。こうしてリリアやエルネスト、みんなが無事で温かいお湯に浸かれてるのが、なんだか信じられないくらいだ」

 

「ふふ、そうだね。でもね、わたしはレイちゃんが一緒で本当に心強かったよ。魔法もすごく格好いいし、いつも落ち着いてて……頼りになるお姉さんみたい!」

 

「お、お姉さん……」

 

無邪気に首をかしげるリリアの眩しい笑顔に、レイは鼻の奥がツンとするような甘酸っぱい葛藤を覚えつつも、ハスキーな声で苦笑した。

 

「……サンキュ。そう言ってもらえると、悪戦苦闘しながら魔法を覚えた甲斐があったよ」

 

湯煙の向こうからは、男湯の方からバルドの豪快な笑い声や、ノアの「あっつ……! なんだよこの湯、レナード! 煮えちゃうよ!?」という賑やかな叫び声、さらにバルドの「おいレナード、お前どこから尻尾生えてんだよ!? ちょっと触らせろよ!」という声やレナードの慌てる声がうっすらと聞こえてくる。

 

「ふふ、男湯の方も賑やかだね」

 

「まったく、相変わらず騒がしい連中だ」

 

顔を見合わせ、クスリと笑い合うリリアとレイ。

 

一方その頃、男湯では——。

 

「あっつ……! なんだよこの湯、レナード! 煮えちゃうよ!?」

 

男湯の広々とした湯船に足の指先を浸けた瞬間、ノアが悲鳴を上げて跳び上がった。

 

「ははっ、大げさだなあノア。最初は熱く感じるかもしれないけど、肩まで浸かっちまえば最高だぞ?」

 

豪快に笑いながら、バルドが頭に手ぬぐいを乗せてどっぷりと湯に身を沈める。

 

日頃の激闘で刻まれた体に残る傷跡が湯気の中に浮かび上がり、気持ちよさそうに深々と息を吐き出した。

 

「ほら、ノアもゆっくり入れば大丈夫だよ。旅の疲れも一気に吹き飛ぶから」

 

レナードが穏やかな笑みを浮かべ、手桶で湯を体にかけながらノアを促す。

 

「うぅ……レナードがそう言うなら……」

 

おそるおそる腰を下ろし、肩まで湯に浸かったノアは、数秒後には「はぁ〜〜……ほんとだ、気持ちいい……」と脱力したように顔をほころばせた。

 

そんな賑やかな3人の少し離れた場所で、エルネストは一人、静かに湯に浸かっていた。

 

整えられた銀色の長髪をかき上げ、引き締まった胸元まで湯に沈めながら、壁の向こう——女湯の方へと微かに視線を向けている。

 

「……ふふ、エル。そんなに心配しなくても、ここは安全だよ。女湯の周りにも宿の警備が入っているしね」

 

レナードが湯船を揺らしながらエルネストの隣へと歩み寄り、優しく声をかけた。

 

「……いや、心配なのは当然だ。プロンテラは一見平和に見えるが、大都市ゆえに悪意も潜んでいる。さっきのような下衆な輩もいるからな」

 

エルネストは低く静かな声で応えたが、その青い瞳にはリリアに対する揺るぎない独占欲と過保護さが滲み出ていた。

 

「それに……レイのこともだ。あいつは男勝りで度胸もあるが、女の身。リリア共々、俺が守らねばならん」

 

その言葉を聞いて、バルドが腕を組みながらニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「へっ、さすがエルネストだ。だがよ、あまり根詰めすぎるなよ? ここはせっかくの温泉なんだ。長旅で擦り減った神経を休めるのも、隊長としての大事な仕事だぜ」

 

「バルドの言う通りだよ」とレナードも頷く。

 

「明日からはプロンテラでの本格的な調査や準備が始まる。今夜くらいは、みんなでゆっくり体を休めよう」

 

「……そうだな。配慮に感謝する」

 

仲間たちの温かい言葉に、エルネストの険しい表情が少しだけ和らいだ。

 

長弓を構えている時には見せない、年相応の柔らかな吐息が湯煙の中に溶けていく。

 

……かに見えたのだが、その平和な空気は一瞬にしてぶち壊された。

 

「おいレナード、お前どこから尻尾生えてんだよ!? ちょっと触らせろよ!」

 

「うわっ、ほんとだ……! 裏側どうなってんの?」

 

「 ちょ、引っ張るなよ痛い!」

 

突然、バルドとノアが面白がってレナードに群がり、湯船の中で大騒ぎを始めたのだ。

 

「……お前ら、温泉に来てまで人の体を観察するな!」

 

(まったく、これだから脳筋どもは……! 人の体を珍しいものみたいに見るなっ……ていうか、自分でもまだこの体に慣れてないっていうのに!)

 

レナードが真っ赤になりながらタライで追い払おうとするが、二人はケラケラと笑って一歩も引かない。

 

半ば本気で恥ずかしがるレナードの反応が、さらに面白がらせる燃料になっていることには、本人は気づいていない。

 

見慣れない猫耳と尻尾を面白がる二人のせいで、レナードの羞恥心は限界を突破していた。

 

「……おい、少しそこをどけ」

 

低く冷ややかな声とともに、スッとスープの具材を検品するかのような視線をたたえたエルネストが、バルドとノアを無言で押し退けてレナードの真横に滑り込んだ。

 

「エ、エル……? お前まで何なんだよ、そんな冷たい目で――ぐっ、近っ……!?」

 

「動くな。……ふむ、尾椎周辺の筋肉組織と神経接続のエンドポイントか。思っていたよりアノマリーの定着率が高いな。耳の裏の毛細血管の血流はどうなっている……」

 

エルネストはレナードのプライドなど一切気にせず、濡れた銀髪を揺らしながら、猫耳の生え際から背骨に沿って尻尾の付け根の構造まで、至近距離でジロジロと、それはもう熱心にまじまじと観察し始めた。

 

「ちょっ、まっ、おまっ……! そこをそんな生々しい目で直視するな! しかも触るな、尻尾の付け根は敏感なんだからなっ……!!」

 

「……なるほど、刺激に対する反応速度もデータとして有意義だな」

 

「人の体を実験動物みたいに観察するなバカエル!!」

 

レナードの悲鳴混じりの必死なツッコミと抗議が、脱衣所にまで盛大に響き渡ったのだった

 

「……っ!……善意で取り持ってやったというのに、言うようになったな」

 

エルネストは呆れたように細い息を吐き、レナードのこの見慣れない猫耳と尻尾の挙動データに密かな満足感を覚えながら、再び目を閉じて湯に沈み込むのだった。

 

レナードの悲鳴と仲間たちのバカ騒ぎで一頻り盛り上がった男湯も、心地よい湯冷ましのような穏やかな静けさに包まれていく。

 

じっと温まった体をゆっくりとほぐしながら、ノアが弾んだ声を上げた。

 

「よし! じゃあ上がったらみんなで冷たい飲み物でも飲もうよ! 宿の売店に美味い果実酒とジュースがあるって言ってたし!」

 

ノアが湯船でバシャリと水を撥ねさせながら提案すると、バルドが「おう! そいつはいいな、俺はキンキンに冷えたエールだな!」と大声を上げた。

 

男湯に広がる、気置けない仲間同士の笑い声。

 

過酷な旅の合間に訪れた束の間の平穏の中、男たちは明日からの戦いと探索に向け、静かに、そして確実に英気を養っていくのだった。

 




ここまで読んで下さりありがとうございます。

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現段階で六章まで書き終えておりますので暫くは毎日7:00と19:00の1日2回のペースで更新していこうと思っています。

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