※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方―   作:和泉終夜

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波乱の午前中

プロンテラの上空に澄み切った青空が広がり、眩い朝の光が街全体を優しく包み込む頃。

 

冒険者ギルドに近い大通りの一角にある大きめの宿の食堂には、昨夜の賑わいから明けたばかりの穏やかな朝の空気が流れていた。

 

広々とした木製のテーブルを囲むように、レナード、ノア、バルド、エルネスト、リリア、そしてレイの6人全員が揃って腰を下ろしている。

 

「おはよ〜っ! いやぁ、昨日はよく寝たぁ! みんなどこか調子狂ってない? 俺は絶好調~!!」

 

ノアが両手を大きく上に伸ばして伸びをしながら、満面の笑みを浮かべた。

 

その金髪は朝の光を浴びてキラキラと輝いている。

 

「おう、朝から焼き立てのパンとスープのいい匂いが充満してやがるぜ。腹ペコだ!」

 

バルドも豪快に笑いながら、目の前に置かれた大皿の肉料理とパンをさっそく自分の皿へと豪快に取り分けていく。

 

「バルド、朝からそんなに肉ばかり食べてると胃がもたれるよ?」

 

レナードがクスリと笑いながら、目の前のスープにスプーンを差し入れた。

 

人目の多い食堂で余計な騒ぎを起こさないよう、ダブついた法衣の深々としたフードをすっぽりと被り、ドラム族特有の愛らしい耳や頭部を注意深く隠しながら、朝の温かなスープを静かに味わっている。

 

そんな賑やかな男たちのやり取りを横目に、食堂の端の席では、エルネストとリリア、そしてレイが静かに朝食のコーヒーや紅茶を口にしていた。

 

(……昨夜のことがあってから、どうも顔を合わせるのが気恥ずかしいな……)

 

レイは黒髪のボブヘアを軽く揺らしながら、カップの縁を見つめてそっと心の中で息を吐いた。

 

昨夜、同じ部屋の中で起きたリリアとの秘密の出来事。

 

お互いの体温を求め合い、朝まで深く結ばれていたという事実は、普段クールで無愛想を貫いている「美少女・レイ」の中身(男の精神)にとって、想像以上に破壊力抜群の記憶として焼き付いていた。

 

しかも今朝方、起き抜けの理不尽な思考泥沼にハマっていたところをリリアに可愛く手篭めにされかけ、壁を突き破らんばかりの悲鳴を上げてしまったばかりだ。

 

チラリと斜め向かいに視線を走らせると、そこには同じく少しだけ頬を赤らめ、どこか潤んだ瞳でこちらを見つめてくるリリアの姿があった。

 

「……リリア。どうした、今朝はあまり食が進まないようだが」

 

すぐ隣に座るエルネストが、冷徹ながらもどこか甘さを孕んだ心配そうな声でリリアに話しかける。

 

甲斐甲斐しく彼女のお皿へ小さくちぎった温かいパンを添え、スープの器を近づけてやる手つきは、完全に過保護な保護者のそれだった。

 

「あ、ううん……! なんでもないよ、エルネストさん! ちゃんと食べるから……!」

 

慌てて首を振るリリアの耳たぶは、ほんのりと可愛らしいピンク色に染まっていた。エルネストはそんな彼女の様子を不思議そうに眺めつつも、「無理はするなよ。今日の午後からは大聖堂での調査が控えているんだからな」と優しく声をかけ、彼女のカップにそっとミルクを注ぐ。

 

さらに斜め向かいのレイに対しても、当然のような顔で焼き立てのスコーンの皿を滑らせて寄せた。

 

(……エルネストの奴は相変わらず過保護にベッタリだし、リリアはリリアで俺の視線を受けるとすぐ赤くなるし……。まったく、これじゃあいつにいつか感づかれちまうぞ……)

 

冷や汗を隠すように、レイは差し出されたスコーンを一口かじり、コーヒーですまし顔を作った。

 

——そうやってリリアとレイへの給仕や配慮に余念がないエルネストだったが、当の本人の前には、気づけば温かいポタージュスープと、適度にバターが塗られたパンの皿がそっと置かれていた。

 

「はい、エル。君も自分の朝ごはんちゃんと食べなよ? 二人の世話ばかり焼いてないでさ」

 

レナードが深々とかぶったフードの奥からクスリと笑い、ごく自然な動作でエルネストの手元へフォークとスプーンを揃えて置いてくれたのだ。

 

昔からの癖なのか、エルネストの好む焼き加減やスープの量まで完璧に把握された給仕。

 

「……あぁ、すまない」

 

リリアやレイへ向ける過保護な顔とは一転、エルネストはレナードからの給仕を一切疑うこともなく自然に受け取り、スープを口に運ぶ。

 

自分が「庇護者」として振る舞っている裏で、幼馴染のレナードには無意識のうちに世話を焼かれ、当たり前のように甘えているその無自覚な関係性が、テーブルの一角に奇妙な安らぎを生み出していた。

 

しかし、当のリリアの頭の中は、そんな周りの視線とは全く別の「甘い企み」で満たされていた。

 

(レイちゃん……今朝あんなに真っ赤になって怒ってたけど、昨夜はあんなに可愛らしく甘えてくれて……。やっぱり、レイちゃんのスタイルも、照れたお顔も、私……大好きだな……)

 

スプーンを弄びながら、リリアは隣のエルネストと、斜め向かいのレイを交互に盗み見る。

 

エルネストの冷酷なまでに自分に向けられる過保護な執着と甘い愛。

 

そして、レイの男らしい(と本人は思っている)不器用さと、女の子としての華奢な身体が見せる甘いギャップ。

 

二人から挟まれ、どちらにも愛され、そして二人を独占しているという倒錯した充足感が、リリアの胸を熱く満たしていく。

 

(……ふふ。エルネストさんも、レイちゃんも……二人とも私を護ろうとしてくれてる。……だったら、ずっとこのままでいいよね。二人とも私の特別な人なんだから……)

 

「レイちゃん、食後のハーブティー、後でお部屋で淹れてあげるね?」

 

リリアがふんわりとした笑顔で問いかけると、レイはゴホッとコーヒーを吹きかけそうになり、隣でエルネストの銀色の瞳がすっと冷たく細まった。

 

「……レイ。貴様、いつの間にリリアとそこまで親しくなったんだ? 今朝も隣の部屋からずいぶん騒がしい声が聞こえていたようだが」

 

「っ……!? ち、ちがうッ! こいつが勝手に言ってるだけだッ! 妙な勘違いすんじゃねぇ!!」

 

男としてのプライドと、昨夜身体に刻まれた快感の残響、そして「普通に処女」という理不尽な事実に頭を抱えながら、レイの冷や汗は留まることを知らなかった。

 

「さて、みんな!」

 

そんな3人の不穏で甘い空気を払うように、レナードがパンを飲み込み、パッと明るい声でテーブルの全員に呼びかけた。

 

「今日はプロンテラでの本格的な活動初日だ。午前中は各自でギルドへの顔出しや買い物を済ませて、午後イチに大聖堂の前で集合。いいかい?」

 

「おうっ! 了解だぜ!」

 

「はーい、了解〜っ!」

 

バルドやノアが元気に声を張り上げ、レナードも満足そうに頷く。

 

レイは冷や汗を拭いながら小さく「……了解」と呟き、リリアも「うんっ!」と可愛らしく微笑んだ。

 

——だが、そのやり取りの最中も、エルネストの鋭い観察眼は冷ややかに周囲を見渡していた。

 

(……やけに、周囲のテーブルからの視線が生臭いな)

 

昨夜の密やかな営みによって、普段よりもどこか艶やかな色香と熱を帯びているリリアとレイ。

 

食堂の隅に陣取る荒くれ者やチンピラどもが、二人の無防備な胸元やしなやかな脚にチラチラと視線を送り、品のない下卑た笑みを漏らしながら卑猥なささやきを交わし合っている。

 

その生臭い視線が向けられるたび、エルネストの胸の奥で暗い殺気と歪んだ独占欲が跳ね上がった。

 

これ以上、こんな下衆どもに二人を晒し続けることなど、到底耐え解されるものではない。

 

手元——絶対に誰も触れられない自らの管理下に二人を囲い込んでしまいたいという衝動が激しく暴れ出す。

 

エルネストは静かにコーヒーカップを置くと、冷徹な銀色の瞳を細めて低く落ち着いた声を落とした。

 

「……予定を変更する。今日の午前中は、俺がリリアとレイの3人で行動することにする」

 

「「「は……? ええっ!?」」」

 

ノアが目を見開き、バルドが食べていたパンを喉に詰まらせそうになって激しくむせた。

 

「別に二人を疑っているわけではない。だが……この街の空気は思っている以上に淀んでいる。周囲の雑多な視線や不測の事態に巻き込まれる前に、後衛としての俺が前線で戦う二人——特にリリアとレイの身の安全を確保しながら動くのが、一番合理的だと判断しただけだ」

 

「相変わらず過保護だなぁ……。俺たちだって、もし何かあっても二人をちゃんと守れるぜ?」

 

バルドが少し肩をすくめると、レナードは深々とかぶったフードの陰からクスリと小さく笑い、達観したような目を向けた。

 

「まあまあ、バルド。エルの頑固さは今更でしょ。あいつ、道中からずっと二人の護衛に関しては鬼気迫るものがあったし、こうなったら何を言っても絶対に引かないよ」

 

「そうそう! エルネストってば、昔からお母さんみたいなところあるしね〜!」

 

ノアがからかうように笑うと、エルネストの額にうっすらと青筋が浮かんだ。

 

「……誰が母親だ。事実に基づいて最も合理的な判断をしているだけだ」

 

ピシャリと言い放つエルネストの横で、当事者であるリリアとレイはそれぞれの思いで複雑に固まっていた。

 

(えっ……! エルネストさんと、レイちゃんと、私の3人で行動……!? うう、昨夜レイちゃんにあんなことがあったばかりなのに、エルネストさんともずっと一緒なんて、なんだか心臓がもたないよ……っ!)

 

リリアは顔を真っ赤に染め、俯きながらモジモジと裾を引っ張る。

 

一方のレイは、冷や汗を滝のように流しながら心の中で絶叫していた。

 

(まっ、待て待て待て……っ!! よりによって、昨夜リリアとあんな深い関係になった直後に、そのリリアと、二人を一番警戒してる過保護なエルネストの3人で終日行動だと……!? そんなの、いつか絶対にボロを出して二人に隠し事がバレるか、精神的に耐えきれずにおかしくなるぞ……っ!!)

 

「そういうわけだ。午後イチに大聖堂の前で合流する。……行くぞ、リリア、レイ」

 

周囲の視線も完全に切り捨てるように、エルネストは立ち上がると同時に二人の背や肩にそっと手を添え、強引に席を立たせた。

 

(~っっ、待ってくれマジで待ってくれ! この過保護弓手の視線と、目の前の可愛いリリアの距離感に一日中耐えるとか無理だろ……っ!?)

 

滝のような冷や汗を必死に押し殺し、レイは震える足取りでエルネストとリリアの後に続く。

 

当のリリアも、照れと動揺で真っ赤になった顔を隠すように俯きながら、エルネストの服の裾をぎゅっと掴んでついていった。

 




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