ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
エルネストが二人を連れ去るようにして食堂を出ていったあと、取り残されたレナード、ノア、バルドの3人は、しばらくポカンと開いた口が塞がらなかった。
「……あ〜あ、本当に行っちゃった。理由は分からなくもないけど……エルネストってば、相変わらず極端なんだから」
ノアは呆れたように苦笑いしながら、3人が出ていった扉の方をきょとんとした顔で見つめた。
「それより俺だ!! 何で俺が、あんな可愛いリリアやレイと一緒に街を回れねぇんだよ——ッ!!」
バルドはガシャンとテーブルに肘をつき、不満タラタラといった様子で頭を抱えた。
その顔には、先ほどまでのショックの色などどこへやら、「あわよくば可愛い女の子二人を連れ回してチヤホヤされたい」という下心が露骨に滲み出ている。
「お前なぁ、そういう分かりやすい下心がダダ漏れだから、エルに『下世話な視線』と一緒にまとめられて警戒されたんだろ」
レナードが呆れたように小さく息を吐いた。
「だいたい、エルが言ってた通りだよ。周りの連中がリリアちゃんやレイちゃんの噂をコソコソ話してただろ? あれだけの美人が揃っていれば当然だけど……エルの鋭い耳には、その下世話な話し声や周りの視線が全部聞こえてたのさ。だからこそ、これ以上変な虫がつかないうちに、自分の目の届く範囲に二人をガッチリ囲い込んでおきたかったんだよ」
レナードの補足に、バルドは「ふん、相変わらず独占欲の強い弓手様だな!」と鼻を鳴らしつつも、どこか納得したように腕を組んだ。
「まあ、あいつがガチガチにガードしてるなら、今日のところはあいつらに任せるしかなさそうだな……。で、どうするよレナード? 残された俺たちは」
「あはは、あいつの過保護にはびっくりするけど……ボクたちはボクたちで、プロンテラの冒険者ギルドで別の依頼や情報集めといこうか。エルがああなると何を言っても聞かないし、マイペースに動こうよ」
すまし顔で「やれやれ」と微笑むレナードを見つめながら、ノアがニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべて身を乗り出した。
「——って、人ごとみたいに言ってるけどさぁ、レナード。君、昨夜部屋に帰ってこなかったよね?」
「……ぶっ!?」
ノアの唐突な突っ込みに、パンを一口かじろうとしていたバルドが目を丸くして二人を交互に見た。
「おいおいマジかよ! レナード、お前昨夜俺たちが寝た後も部屋に戻ってこねぇと思ったら……どこで何してやがったんだ!?」
「あはは、どこって……エルの部屋にいただけだよ」
レナードがフードの陰で至って平然と答えると、ノアは呆れたように肩をすくめた。
「やっぱりね〜。朝起きたらベッドが一つ空っぽだったからさ。君がマイペースなのはいつものことだけど……正直、あのエルネストがそれを平然と受け入れちゃってることに俺はびっくりしてるよ? あいつ、昔から他人に自分の領域に入られるのすっごく嫌うのにさ。君に押し掛けられて一緒に寝るのをフツ〜に許してるあたり、全然そんなイメージじゃないんだけど?」
「え〜? 別に普通じゃない? ボクたち、子供のころからずっとこんな感じだし……そんな驚くことかなぁ」
レナードは首をかしげ、ケロとした顔で言葉を続ける。
「昨夜だって、ボクはただ落ち込んでたエルが気になって行っただけだよ? ……まあ、そのまま一緒に寝ちゃったのは事実だけどさ」
「……俺たちの知らないところで弓手様とドラム様が何してんだか知らねぇが、相変わらずお前らの距離感はおかしいぜ……」
バルドが呆れ果てたように頭をかくと、レナードはどこまでもマイペースにクスリと笑った。
「開き直ったよこの人……」
ノアが「あ〜あ(笑)」と心の中で苦笑しながら、パッと切り替えて立ち上がった。
「……まあいいや! それじゃあ気を取り直して、午前中はギルドで美味しい依頼を探しつつ、街をブラブラしようよ!」
「おう、そうと決まれば美味い露店巡りも追加だ!」
こうしてエルネストの過保護な独占欲と、レナードの無自覚なマイペースさに振り回された男3人だったが、それぞれの思惑と気楽さを胸にプロンテラの街へと繰り出していくのだった。
プロンテラの賑やかな大通りには、朝市を楽しむ市民や商人たちの活気ある声が響き渡っていた。
しかし、その活気の裏側には、このルーンミッドガッツ王国の首都特有の冷ややかな空気が常に漂っている。
人間中心主義が根強く、人間以外の種族や亜人種に対する視線は、決して温かいものではない。
その事実を誰よりも深く理解しているレナードは、180cmを超える筋骨隆々とした巨体にダブついた法衣をまとい、その頭部をすっぽりと包み込むフードを目深に被り直していた。
人目の多い大通りで万が一にも素顔やドラム族特有の大きな耳を露わにすれば、衛兵たちの露骨な警戒や職務質問の的になることは明白だからだ。
(……相変わらず、人間以外の種族に対するこの街の空気はピリピリしているね)
フードの深い陰から、レナードの鋭い瞳が周囲の往来を静かに観察する。
自身の存在感を極力消し、巨体を丸めるようにしてノアとバルドの少し後ろを歩いていた。
「ねえねえレナード、そんなにすっぽりフードをかぶってたら前見えにくくない? ほら、あっちの露店にすごく美味しそうな焼き立てのパンが並んでるよ!」
ノアが金髪と青いピアスを揺らしながら振り返り、無邪気に声をかける。
「おいおいノア、朝から食い気ばかりだな。……だが、確かに美味そうな匂いだな、どれ……」
物珍しそうに露店の品々に視線を向けるバルドに対し、レナードは低い声音で二人を軽く制した。
「あまり目立った行動は控えるんだ、二人とも。ボクたちがこの街でトラブルを起こせば、エルたちや、何よりリリアたちにまで余計な飛び火しかねないからね」
レナードの冷静な言葉に、バルドは「わかってるさ、無駄な喧嘩は売らねぇよ」と肩をすくめ、ノアも「は〜い、気をつけま〜す!」と元気よく返事をした。
周囲の人混みを避け、亜人に対する冷ややかな視線をフードの陰でやり過ごしながら、レナードたち3人はプロンテラの冒険者ギルドへと静かに歩みを進めていくのだった。
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