※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方―   作:和泉終夜

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聖堂の乱戦

(くそっ、まさかプロンテラの大聖堂のど真ん中で、こんな胡散臭い狂信者みたいな連中に鉢合わせるなんてな……! 下手にここで戦闘になって、俺がエレメンタルマスターの派手な魔法でも使おうもんなら、変なところで正体がバレかねないぞ……っ!)

 

レイは冷や汗を拭いながらも、内心で盛大に舌打ちした。

 

外見こそ美しく凛とした黒髪ボブの少女だが、その内面で暴走しかけている男の焦燥はピークに達している。

 

エルネストは音を立てぬよう慎重に身を低くし、リリアを背後に庇いながら、銀色の瞳を細めて先ほどの書庫エリアの扉へと視線を注いだ。

 

レイもまた、そのすぐ傍らで呼吸を殺して様子を窺っている。

 

やがて、角を曲がったその先――。

 

重厚な木製の扉の前に、数名の黒衣の男たちがうごめいているのが、三人の視界に飛び込んできた。

 

(くそ、あそこまで離れてると……薄暗くて、連中が手元で何やってるのかまでは全然見えねえな……! おい、マジであいつら何を持ち出そうってんだ……?)

 

レイが目を凝らしながらも、距離と暗がりで詳細を掴みかねて小さく眉をひそめる傍らで、リリアも「遠くてよく見えません……」と不安げに呼吸を詰まらせる。

 

だが、常人離れした動体視力と瞳を持つエルネストだけは違った。

 

彼ははるか前方の扉の前に立つ男たちの手元までをまるで目の前で捉えているかのように正確に見据え、冷徹な銀色の瞳を細める。

 

男たちは青白く不気味に発光する魔導具を扉の鍵穴や隙間に差し込み、なにやら呪文のようなものを低く詠唱していた。

 

(あれは……魔法の結界を強制的に解除しようとしている……?)

 

エルネストの脳裏で状況証拠が組み立てられていく。

 

そのすぐ直後、黒衣の男たちのリーダー格らしい大男が、低く冷たい声で仲間たちに指示を出した。

 

「急げ!『古の封印』を解く時間は限られている。教皇庁の衛兵や騎士団が気づく前に、目的のものを回収するぞ!」

 

その言葉が、耳のいいエルネストだけでなく、少し離れた位置にいたレイたちの耳にも微かに届いた。

 

(……『古の封印』だと……っ!? あんな奥の書庫に、そんな物騒なものが隠されてやがったのかよ……!)

 

視力の限界から手元の細かな作業こそ見えていなかったものの、聞こえてきたワードの物騒さに、レイの背筋に冷たいものが走る。

 

ただの盗賊やゴロツキの類ではない。彼らは明確な目的を持って、このプロンテラ大聖堂の最深部に眠る禁忌に触れようとしていたのだ。

 

だが、エルネストは動じることなく、得た視覚情報を冷静に分析しつつ、つがえた矢の狙いをリーダー格の男の眉間に定めながら、隣に立つリリアとレイに小さな声で告げた。

 

「……数はおよそ5人。全員が練度の高い魔導師あるいは暗殺者崩れだ。まともに正面からやり合えば周囲の神官たちも巻き込まれる。……一瞬で奇襲をかけ、一匹残らず叩き伏せるぞ」

 

そのエルネストの言葉に、リリアは杖をしっかりと握り締め、微かに震えながらも聖職者としての強い光を瞳に宿した。

 

冷涼な回廊の空気が、緊迫感によって一瞬にして凍りついたように張り詰める。

 

「……いくぞ」

 

エルネストの低く冴え渡る合図とともに、彼の弓から放たれた一筋の矢が、闇を切り裂くような鋭い風切音を伴ってリーダー格の男の眉間へと直進した。

 

——だが。

 

「ほう……甘いな」

 

リーダー格の男は、矢が直撃するコンマ数秒前に不気味な笑みを浮かべ、身を翻すようにひらりとそれを躱し去る。

 

壁に突き刺さった矢の衝撃で、周囲に微弱な魔力のスパークが散った。

 

「ちっ……! 躱したか……!」

 

エルネストが素早く次の矢をつがえようとするが、黒衣の男たちはすでに臨戦態勢に入っていた。

 

「侵入者だ! やれ、計画の邪魔をする厄介な虫どもを排除しろ!」

 

リーダーの号令具に合わせ、残りの4人の黒衣の男たちが一斉に不気味な青白い魔導具を掲げ、禍々しい呪文の詠唱を始める。

 

周囲の空間が重く歪み、冷たい殺気が通路を埋め尽くしていった。

 

(おいおい、マジかよ……! あんな至近距離で一網打尽にできると思ったのに、そう簡単にいかないか……!)

 

レイは心の中で冷や汗を拭いながら、素早く両手を構え、エレメンタルマスターとしての魔力を練り上げる。

 

外見は麗しい黒髪の美少女でありながら、その内面で暴走しかけている男の焦燥と冷静な戦闘判断がフル回転していた。

 

下手にここで派手な範囲魔法でも使えば、大聖堂の神官たちに気づかれるだけでなく、自分の正体や特殊な力に関するボロが出かねない。

 

だが、ここでエルネストやリリアに危険が及ぶようなことになれば、それこそ最悪の事態だ。

 

「エルネストさん、レイちゃん……! 私も援護します!」

 

リリアが透き通るような声を響かせ、聖職者としての祈りを込めた光の杖をしっかりと握りしめる。

 

その瞳には、恐怖ではなく、仲間を守りたいという純粋で強い決意の光が宿っていた。

 

昨夜の密室でレイと交わした深い温もりと、そこで得た確かな絆が、彼女の心に折れない芯を与えていたのだ。

 

「リリア、無理をするな! 俺の後ろに下がってい——」

 

エルネストが鋭く叫ぶのを遮るように、黒衣の男たちの放った魔力の奔流が、一気にこちらへと襲いかかってきた。

 

静寂に包まれていたプロンテラ大聖堂の最深部は、一瞬にして激しい戦闘の渦へと呑み込まれていった。

 

「侵入者だ! やれ、計画の邪魔をする厄介な虫どもを排除しろ!」

 

黒衣の男たちのリーダー格が放った冷酷な号令とともに、4人の部下たちが一斉に不気味な青白い魔導具を掲げ、禍々しい呪文の詠唱を最高潮に高めた。

 

通路を埋め尽くすように、重く凍てつくような殺気が押し寄せる。

 

「くそっ……! いきなり戦闘かよ……!」

 

レイは瞬時に思考を巡らせる。

 

だが、状況は最悪だった。

 

ここは他でもないプロンテラの大聖堂の中である。

 

周囲に神官や信徒が詰めかけているこの場所では、迂闊に大きな被害を出すわけにはいかない。

 

特に、燃え盛る心配のある火属性の魔法や、地形が変わる地属性、物が壊れる可能性のある風属性の精霊魔法などは一切使えない。

 

まさに「縛りプレイ」そのものの過酷な状況だった。

 

「エルネスト! リリア! 下がってろ、ここは俺がやる!」

 

レイは荒々しく声を張り上げながら前に踏み出した。

 

派手な範囲魔法が使えないのであれば、やり方は一つしかない。

 

持ち前のプレイスキルでどうにか立ち回るのみだ。

 

「レイ、無理をするな! 相手の魔力の収束が早い、俺が――」

 

「大丈夫だって! こういう時は、的を絞らせなきゃいいんだよ!」

 

レイは詠唱を最小限に抑えた無詠唱に近いコンパクトな氷の微粒子を足元へ正確に撃ち込み、通路の石畳をわずかに凍らせて黒衣の男たちの足並みを一瞬だけ崩した。

 

「なっ……足元が……!?」

 

「隙だらけだぜ!」

 

バランスを崩した最前の男の隙を見逃さず、レイは体術と最小限の魔力衝撃を巧みに組み合わせ、相手の急所を的確に突いていなしていく。

 

(元々ROの魔法スキルなんてものは、出力の加減次第でいくらでもアレンジが利く。範囲や威力を極限まで削ぎ落とし、ただ『足を滑らせるためだけに』魔力を収束させる――長年培ったプレイヤーとしての感覚があれば、この程度の魔力微調整など朝飯前よ……!)

 

派手なエフェクトや大爆発こそ起こさないものの、一挙手一投足に無駄がなく、敵の攻撃の軌道を完全に先読みした華麗な立ち回りは、まさに熟練プレイヤーのそれだった。

 

その圧倒的な手際の良さに、後ろで矢をつがえてチャンスを窺っていたエルネストは、わずかに銀色の瞳を丸くして目を見張った。

 

(……見事な身のこなしだ。大聖堂内部という特殊な環境で周囲に被害を出さず、本来の魔法の枠組みからは信じられないほど精密に威力を絞り込み、最小限の動きで敵の動揺を誘っている……。レイは、いったいどこでこれほどの実戦経験と、神がかった魔力操作を身につけたというんだ……?)

 

冷徹な弓手であるエルネストがその規格外の戦闘センスに驚愕している間にも、リリアは杖を構え、聖職者としてのヒールや支援魔法でレイの背後を完璧にバックアップしていた。

 

「レイちゃん、危ない……っ! 右からもう一人来るっ!」

 

「わかってる、サンキューリリア!」

 

制限された魔法という強烈な縛りの中、己のプレイスキルと仲間との絶妙な連携を武器に、レイは黒衣の侵入者たちを相手取って互角以上の立ち回りを展開していくのだった。

 

 




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