※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方―   作:和泉終夜

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聖堂の決戦

重厚な扉を破って噴き出してきたのは、冷気とは質の異なる「澱んだ闇の魔力」だった。

 

「チッ……! 倒した雑魚どもは単なる『前座』か『足止め』だったってワケかよ。相変わらず趣味の悪い趣向だぜ!」

 

レイは男らしい乱暴な口調で吐き捨てながらも、瞬時に後方へ躍り退いた。

 

自身の本職が接近戦をこなす前衛ではなく、精霊と属性魔法を極めた『エレメンタルマスター』であることを誰よりも理解している彼は、無駄に距離を詰めるような愚は犯さない。

 

「レイ、下から何か来るぞ……!」

 

エルネストが瞬時に矢を番え、冷徹な青い瞳で地下への扉を凝視する。

 

「分かってる! 物理攻撃の効きにくいタイプなら俺の領域だ。リリア、前線の足元を固めるぞ!」

 

「うん、任せてレイちゃん! 『バジリカ』!」

 

リリアが聖職者の杖を掲げると、動揺する老神父や周囲の聖職者たちの足元に神聖な十字の光が走り、不可視の厳重な聖域――バジリカが展開されてその身を完全に守り包み込む。

 

その隙に、レイは高速の詠唱とともに触媒の鉱石を地面へと滑らせた。

 

「『セイフティウォール』!」

 

足元に展開されたのは、物理攻撃を完全に遮断する鮮やかなピンク色の魔法陣――SWだ。

 

レイはSWの真っ只中に陣取り、自身へのあらゆる物理不意打ちを完封する万全の態勢を整える。

 

ゴゴ……と激しい振動とともに扉を砕いて現れたのは、黒い泥のような魔力を纏った異形の影だった。

 

鋭い爪が大聖堂の石床を切り裂こうと振り下ろされるが、最前線に位置するエルネストと、レイの展開したSWの防護壁がその苛烈な一撃を完膚なきまでに受け止める。

 

「エルネスト、そのまま引きつけろ! 大聖堂の建物を傷つけねぇよう、範囲と威力をギリギリまで絞って叩き込む!」

 

「……誰に口を聞いている。指図するな、レイ」

 

エルネストが不機嫌そうに冷徹な視線を一瞥させつつも、その体さばきは完璧に敵の注意を引きつけ、大聖堂を守るための位置取りを隙なくキープする。

 

SWの安全地帯から、レイは内心で(うわ、機嫌悪っ……いや今のはこっちが言い方悪かったか?)と思いつつも、素早く切り替えて冷静に魔力を練り上げた。

 

前衛を張るWHのエルネスト、手厚い支援を欠かさないCDのリリア、そしてSWの領域から超火力の属性魔法を精密にコントロールして撃ち出すEMのレイ。

 

トリオとしての真価である「前衛・支援・後衛魔法」の役割分担が完璧に噛み合った瞬間だった。

 

「食らいやがれ――《エレメンタルバスター》!」

 

レイが両手を突き出すと同時に、大気中の全属性の魔力が一極集中し、周囲の空間が眩い極彩色の光に歪む。

 

――轟ッ! と世界が揺らぐほどの爆音が響き渡り、四属性の奔流が混ざり合った圧倒的な超巨獣の如き魔法の光弾が、大聖堂の壁や柱を寸分違わず回避しながら、異形の影だけに直撃して完全に粉砕し尽くす。

 

過酷な「縛りプレイ」の中でも、後衛職としての正解の立ち振る舞いを選んだレイの魔法は、圧倒的な精度と最大火力を両立させて迫る危機を霧散させていくのだった。

 

異形の消滅によって静寂が戻ったのも束の間、大聖堂の地下へと続く闇の奥から、今度は地響きのような低音が響き渡った。

 

「チッ……! まだ打止めじゃねぇのかよ。次から次へと沸きやがって!」

 

レイは乱暴な口調で吐き捨てつつ、触媒の鉱石を指先で弾いた。

 

自身の足元に展開していた《セイフティウォール》(SW)の効果時間が切れる直前、間髪入れずに次のSWを足元へ上書き展開する。

 

「レイ、地下の狭い通路から一気に押し寄せてくる。広い大聖堂で迎え撃つより、あの狭い出入口で前線を塞いだ方が大聖堂の被害を抑えられる」

 

エルネストが冷静に状況を告げると同時に、脳内で瞬時に戦術の計算が高速回転する。

 

(――この物量を狭隘な通路で自力でいなすのは、俺では機動力を加味しても防衛限界を超え被弾してしまう。ならば、物理攻撃を完全に無効化するSWや精霊を展開可能なレイを前衛に据えるべきだ。その方が、防衛戦としての勝率は確実に跳ね上がる)

 

「――よし、ロールチェンジするぞ、レイ!」

 

その指示の意図を、レイは一瞬で察知する。

 

(あぁ、なるほど。俺にSW張らせて壁役やれってことね。オッケー、任せろ!)

 

「了解!」とレイが軽快に返し、二人は長年の熟練プレイで培われた呼吸で即座に位置を入れ替えた。

 

いわゆる前衛と後衛の『スイッチ』だ。

 

本来、後衛のEMであるレイだが、超高耐久のSWを前線に重ね掛けしつつ自身を『絶対に突破されない肉の盾』として出入口に固定。

 

その背後へWHのエルネストが素早く下がり、狙撃に専念できる射程距離を即座に確保した。

 

「『バジリカ』! レイちゃん、エルネストさん、二人とも重ね掛けいくよ!『クレメンティア』『カントキャンディダス』『メディアリボトゥム』『ベネディクトゥム』『レリギオ』『アルグトゥステルム』『アルグトゥスヴィタ』『プレセンスアキエース』『アスムプティオ』!!」

 

CDのリリアも二人の意図を瞬時に察知し、スイッチに合わせて的確な支援魔法を飛ばす。

 

地下の闇から雪崩を打って飛び出してきたのは、暗殺者たちが引き連れていた数体の強化魔導兵だった。

 

鋭い鋼の刃が、狭い出入口を塞ぐレイに向かって一斉に振り下ろされる。

 

カガガガッ――!

 

重苦しい金属音が大聖堂に響き渡るが、レイの足元に展開されたSWがその苛烈な物理攻撃を全て完璧に無効化した。

 

「へっ、SWの領域内ならどんな物理重攻撃も無駄なんだよ! エルネスト、後ろから全弾叩き込め!」

 

「ふっ……任せろ」

 

SWの絶対安全圏で敵を完全に足止めしたレイの頭上を越えて、後方に下がったエルネストが解き放つ。

 

迫り来る敵が単体であれば、重く鋭い一撃で致命打を叩き込む高威力の『クレッシブボルト』で確実に穿ち、群れをなして雪崩れ込んでくる多勢に対しては、吹き荒れる暴風の如き矢の嵐――『ゲイルストーム』を叩き込んで一網打尽にいなしていく。

 

直線上に並んだ敵の隙間を縫うように、一分の狂いもなく急所だけを射抜いていく精緻極まる狙撃と華麗なスキル回しは、まさに圧巻の一言だった。

 

「グアアッ!?」

 

(……いや、マジであいつのスキル回しと判断力はエグいな。前衛で暴れて良し、下がって高火力の弓で殲滅して良しって、どんな万能チートだよ……。でも、だからこそ安心して壁役に徹せられるってわけだ)

 

敵の猛攻を完璧にさばきながら、レイは内心で(まったく、流石だぜ……!)と相棒の背中に頼らしさを感じつつ、次なる魔法の詠唱へと魔力を込めていく。

 

前衛・後衛の柔軟なスイッチと、SWを活用した超高精度の局地戦。

 

プレイスキルの高い三人だからこそ成せる圧倒的な連携の前に、大聖堂の出入口は完全な絶対防衛ラインと化していた。

 

「ぐ……っ、引け! 一旦引くんだ!」

 

出入口を塞ぐ後衛のレイから繰り出されるとは思えないほどのの完璧なタイミングで繰り出されるSWによる壁性能と、その背後から容赦なく叩き込まれるエルネストの狙撃によって完全に進路を阻まれた強化魔導兵たちが、焦燥の混じった怒号を上げた。

 

「へっ、もうお帰りかよ? 大聖堂を散々荒らしといて、タダで帰れると思うなよ!」

 

レイは可憐な美女の姿のまま、荒々しい言葉で吐き捨てると、即座に大気中の水元素を急速凝縮させていく。

 

「吹き飛びな! 『ダイヤモンドストーム』!」

 

レイが杖を振り抜くと同時に、通路いっぱいに吹き荒れたのは美しいダイヤモンドストーム――極冷の結晶群だった。

 

大聖堂の壁や床には一切の傷を与えず、敵の足場のみを的確に狙い撃つように極寒の結晶が床面を凍てつかせ、その身動きをその場で完全に奪って足止めしていく。

 

(完全に凍結させてない!さすがレイちゃん!それなら、あそこの隙間にLAが通るはず……!)

 

「レイちゃん、そのまま固めて! 『ヴィトゥペラトゥム』!」

 

後方からリリアの凛とした声が響き、凍りついて膝をついた指揮官や、その周囲で逃げ場を失った強化魔導兵たちの頭上に、次々と魔法のダメージを倍増させる聖なる十字の印が刻み込まれた。

 

「…………これで仕留めるぞ。 」

 

「おうっ!頼む!」

 

前衛のレイが放った『ダイヤモンドストーム』で作った絶好の隙、そして支援のリリアが与えた致命的な弱体化。

 

三人の息の合ったコンビネーションに応えるように、エルネストが放った渾身の一矢が空を切り、指揮官の装備を打ち砕いてその場に崩れ落ちさせた。

 

残された敵も戦意を喪失し、全員が武器を捨てて床に突き伏せる。

 

「ふぅ……。なんとか大聖堂を半壊させずに片付いたな」

 

レイは男らしい調子で息を吐きながら、SWの魔法陣から一歩踏み出した。

 

だがその瞬間、倒れた指揮官の懐から、不気味に明滅する黒い結晶石が転がり出た。

 

「レイ、待て! それに触るな!」

 

エルネストの制止の声と同時に、結晶石から狂おしいほどの闇の魔力が溢れ出し、大聖堂全体を揺らすほどの激しい不協和音が響き始めた――。

 

「っ……!? この魔力、ただの暴走じゃない……!」

 

狂おしい不協和音とともに結晶石から噴き出した闇の泥が、まるで意志を持っているかのように大聖堂の天頂へと駆けあがっていく。

 

崩れ落ちた暗殺者たちの身体から微かな残魔力を吸い上げ、泥は急速に巨大な「異形の影」へと形を変えていった。

 

「レイ、下がれ! 奴の狙いはその場の魔力を溜め込んでいるお前だ!」

 

エルネストの冷徹な声が飛ぶと同時に、一射の矢が異形の核と思われる胸元へ吸い込まれた。

 

しかし、矢は泥の表皮をすり抜けるだけで、決定打には至らない。

 

「チッ、物理攻撃の通りが極端に悪いタイプかよ! だが、生憎だが魔力の制御なら俺の十八番だ!」

 

レイは即座に、足元のSWを維持しつつ、精霊との対話を試みる。

 

外見は黒髪の可憐な美女でありながら、内に秘めた『エレメンタルマスター』としての圧倒的な知識と熟練度が、危機的状況で冴え渡る。

 

「リリア、大聖堂に充満した不浄の魔力を散らす! 俺自身の《生命力変換》で強引に魔力を捻出するから、俺のHP(命)を途切れないように維持してくれ!」

 

「うん、任せて! 聖なる調べよ、みんなの心と力を満たしたまえ――『レノヴァティオ』『メディアリポトゥム』『ディレクティオヒール』……その他諸々、全部乗せで行くよ!」

 

リリアが捧げた祈りの光が波紋のように広がり、レイとエルネストの全身にみなぎる魔力を充填していく。昨夜レイと心身ともに深く結ばれ、固い絆を得た彼女の支援は、以前とは比べものにならないほど素早く、そして力強い。

 

「エルネスト、俺が精霊の力で奴の足止めと魔力遮断を行う! その隙にお前の狙撃で核を打ち砕け!」

 

「……だから、俺に指示をするなと言っている。言われなくても、お前の狙い通りに撃ち抜く。」

 

前衛・後衛の目まぐるしいスイッチと、完璧な『役割』の理解。

 

レイは両手を掲げ、大気中の水と氷の元素を極限まで圧縮させた。

 

「ただの氷じゃねぇ、魔力を固めて閉じ込める檻だ――撃ち抜きな、《ダイヤモンドストーム》!」

 

極寒の結晶群が襲いかかり、異形の影の動きだけでなく、その体内に渦巻く黒い魔力そのものを瞬時に凍りつかせて完全停止させた。

 

「そこだ、エルネストーッ!」

 

「――『クレッシブボルト』!」

 

寸分の狂いもなく放たれたエルネストの必殺の一矢が、極寒の氷の檻ごと異形の核を貫き、黒い結晶石を粉々に打ち砕いた。

 

ドォン……! という鈍い音とともに、闇の泥は光の塵となって大聖堂の空間へと霧散していったのだった。

 

 




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