※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。(仮)   作:和泉終夜

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交易都市の暗雲と潜む手
アルベルタでの第一歩と拠点確保


アルベルタの石畳を踏みしめながら、リリアは目を輝かせて周囲を見回した。

 

潮風に乗って漂う魚介の香ばしい匂いと、活気あふれる商人たちの威勢の良い掛け声。

 

画面越しに何度も見慣れたはずの「港町アルベルタ」は、五感に直接訴えかけてくる圧倒的な「現実」として二人の全身を包み込んでいた。

 

「リリア、キョロキョロするな。人混みで離れると面倒だ」

 

そう言いながら、エルネストは自然な動作でリリアの細い手首をキュッと掴んだ。

 

骨ばった男らしい指先が、彼女の華奢な肌にしっかりと食い込む。

 

(……足手まといを気にかけているだけだ。そう自分に言い聞かせなければ、この異世界でいつの間にか他人に依存し始めている自分に気が狂いそうになる)

 

頭の片隅で冷ややかな理性が警鐘を鳴らすものの、三日間の過酷なサバイバルを共に生き抜いた唯一の人間である彼女を、無意識に手元へ引き離したくないという衝動が理性を脅かす。

 

「あ……はいっ、すみません……!」

 

顔をほんのり赤らめつつも、リリアはその力強い体温に安心感を覚え、素直にエルネストの隣へと身を寄せた。

 

彼女の豊満な胸元がエルネストの腕に少し触れるが、当の本人はそれに気づいていないのか、純粋に頼もしそうに彼を見上げている。

 

(っ……!)

 

ふと触れ合った熱に、エルネストの心臓が不規則に跳ねる。

 

それはかつてのデスクワーカーだった彼にはない、猛禽類が己のテリトリーや番(つがい)に執着するかのような、攻撃的ですらある生々しい独占欲だった。

 

――コントロールできない。

 

サバイバルを生き抜くうちに、自分の内側で何かが決定的に変質している。

 

その事実に軽い眩暈を覚えながらも、エルネストは動揺を押し隠すように冷徹な視線を周囲に走らせた。

 

すれ違う船員や冒険者たちが、リリアのサラりとした桃色のボブヘアや豊満な体躯に視線を奪われるたび、エルネストの胸のなかで黒々とした殺意がスパークする。

 

喉の奥がピリピリと熱を帯び、今すぐその視線を引き剥がして隠してしまいたいという理不尽な衝動がせり上がってきた。

 

危うく表に出そうになる野蛮な本能を、エルネストは凍てつくような眼差しで無理やりねじ伏せる。

 

「まずは当面の資金と拠点だな。向こうに見える青い看板のところへ行くぞ」

 

「あ、カプラサービスですね!」

 

二人が向かったのは、街の中央広場近くに位置するカプラ本社の支社テントだった。

 

「いらっしゃいませ! カプラサービスをご利用いただきありがとうございます!」

 

メイド服に身を包んだカプラ職員が、完璧な笑顔と深々としたお辞儀で二人を迎える。

 

「……本物のカプラさんだ……すごい……」

 

感無量といった様子で呟くリリアを横目に、エルネストは手際よく腰のポーチからいくつかの素材を取り出した。

 

森で討伐した魔物から得た爪や稀少な鉱石だ。

 

(自分の手で生き物の命を奪い、その生温い血を浴びて泥まみれになった代償がこれか……。だが、強くなるため、生き残るためには、この汚れた手で稼ぐしかない)

 

かつてのデスクワーカーだった頃の倫理観を奥底に押し込め、エルネストは無機質な手つきで素材をカウンターへ差し出した。

 

「これらをZeny(ゼニー)に換金したい。それと、この街で一番セキュリティがしっかりしている宿の紹介を頼む」

 

「かしこまりました! 少々お待ちくださいませ」

 

手際よく査定が進み、カウンターの上にズシリと重みのある袋が置かれた。

 

ジャラリと音を立てて開けられた袋の中には、金色に輝く美しいコインがぎっしりと詰まっている。

 

「こちら、合計で250,000Zenyとなります! それから、お宿ですが……冒険者様方に一番人気なのは、港を一望できる高級旅籠『海風の回廊』でございます。全室に強化魔法の施された鍵と防音結界が備わっておりますよ」

 

「へぇぇ……! 250k……! 本物のゼニーの硬貨って、こんなに重いんですね……!」

 

リリアが持ち上げようとして「う重っ……!」と小さな悲鳴を上げると、エルネストは呆れたように短く息を吐き、彼女の手から袋を滑り込ませるように回収した。

 

「部屋はそこにする。二部屋……いや、一番広い部屋を一つ頼む」

 

「えっ……!? エ、エルネストさん!? 一緒の部屋ですか……!?」

 

リリアが驚いて目を丸くすると、エルネストは表情一つ変えずに冷徹な声で言い放った。

 

「当たり前だ。見知らぬ世界で、いつ刺客や魔物が襲ってくるかもわからない。純支援(ヒーラー)の君を一人で別の部屋に置けるわけがないだろう」

 

(――それに、夜の闇に紛れて、他の誰かがこの無防備な女に触れるなど……この荒ぶる衝動が、絶対に許さない)

 

理性の裏側で不気味にうごめく本能の制御に、エルネストは密かに奥歯を噛み締めながら、淡々とそう言い切った。

 

「う……それは、そうですけど……でも……」

 

「俺に不満か?」

 

「ふ、不満なんてないです! エルネストさんが一緒ならすごく安心です……!」

 

慌てて首を振るリリアの素直な反応に、エルネストの唇の端がかすかに吊り上がった。

 

手続きを済ませた二人は、カプラ職員に案内されるまま、アルベルタの港を一望する高台へと足を向けた。

 

潮風が心地よく吹き抜ける石畳の坂道を登り、白亜の壁と濃紺の瓦屋根が目を引く重厚な建物――高級旅籠『海風の回廊』の前に到着する。

 

受付を済ませた宿の従業員に連れられ、二人は最上階にある最も広い一室へと向かった。 重厚な木製の扉が押し開かれ、案内された部屋の内部を見たリリアは「わぁ……!」と小さく歓声を上げる。

 

室内には、旅の疲れを癒やすふかふかな大型のベッドや、清潔なソファセット、そして大きな窓からはアルベルタの美しい港の夜景が一望できる最高のロケーションが広がっていた。

 

壁や窓枠には微かに青白い魔力の光が宿っており、カプラ職員が言っていた「強化魔法と防音結界」がしっかりと施されていることが見て取れる。

 

「荷物はそこに置いてくれ。ご苦労だった」

 

エルネストが短く告げると、従業員は恭しく一礼して部屋を辞去していった。

 

カチャリ、と重い音を立てて扉の鍵が閉まり、完全に外界から遮断された静かな空間に、二人きりが取り残される。

 

急に現実の「密室感」を意識したのか、リリアはモジモジと裾を摘まみながら、落ち着かない様子で視線を泳がせた。

 

こうして二人は、安全な拠点と潤沢な当面の資金を手に入れ、アルベルタでの第一歩を踏み出したのだった。




第二章はじまりです。


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