突然だが俺にはセフレがいる。
人に言える立場じゃないが、ガサツ・ずぼら・無頓着の三拍子が揃った駄目人間だ。だが、身体の相性だけは最高にいい。それは彼女も──平塚さんも同じことを思っているようだが、お互いに口に出したことは一度もない。
彼女について知っていることといえば、同職で同じアパートの隣室に住んでいるということ。同じ教師の職に就いているということ。平塚という苗字。あとはフェラをしながら器用に喋ることとか、絶頂の瞬間に喘ぎ声を必死に押し殺そうと喉を鳴らすこととか、そんな社会的な肩書きよりもよっぽど生々しい類のことばかりだった。
彼女とはまさかのマッチングアプリで出会った。彼女も酒の勢いで適当に登録してみただけに過ぎず、「相手がお前じゃなきゃ、一言二言話して逃げていた」と後に語っている。
ムードもへったくれもない、アパート近くの小汚い居酒屋で互いに酌み交わし、はしご酒をした後の記憶は曖昧だ。気づいた時には流れに身を任せ、ホテルのベッドでお互いを貪り食っていた。
互いにいい大人だったので、翌朝に目が覚めた時も特にパニックになることはなかった。ただ身体の相性だけは恐ろしいほど抜群だったのでどちらからともなく連絡先だけ交換して別れた。それ以来、気が向いた時に連絡を取り合ってはセックスをする、そんな関係が続いている。
時刻は夜の9時を過ぎたところだ。外気は肌を刺すように冷たいが、店の中に入ればどうせ暖房が効いているだろう。俺は数学教師という職業柄、論理的に考えたつもりであまり着込まずに外へ出た。しかしこの待ち時間はその計算を少しばかり狂わせる。
平塚さんと俺は、近所のディスカウントストアの入り口で待ち合わせをしていた。珍しく、どちらも多忙な身でありながら休みが重なった。それも連休だ。そうなれば、やることは一つしかない。話はトントン拍子に進み、今夜からラブホテルに籠もってぶっ通しでやりまくるための買い出しに来たわけだ。
「よっ」
「ん、来たか」
向こうからやってきた平塚さんは、相変わらずの野暮ったい格好だった。
着古して少し毛玉の浮いたグレーのオーバーサイズパーカーに、膝の出た紺色のスウェットパンツ。髪は後ろで適当にまとめられているが、後れ毛がだいぶ暴れている。これからホテルへ行こうという女の格好ではないが、俺も人のことは言えない。
「平塚さん、それ寒くないのか」
「んあー、動いてりゃそのうち温まるだろ。それよりお前こそ、そんな薄着でよく平気だな」
「店の中は暖かいだろうと思ってな」
「合理的すぎて馬鹿なんじゃないの。外で待ってる間のこと計算に入ってないだろ」
「全くだ。で、何買うよ」
「そりゃ、まずはゴムだろ。在庫切らしてんだろ?」
「ああ、こないだので最後だったな。特大パックにするか」
「だな。あと酒。ビールと、あと強めのサワーも。飯はどうする。中で頼むか?」
「ホテルの飯もいいけど、高いしな。適当に惣菜と、つまみの乾き物でも買い込むか。連休だぞ、一歩も外に出ないつもりで買わねえと」
「わかってるよ。あ、アイスも買え。濃厚なやつ」
「贅沢だな」
「連休のご褒美だよ。お前も食うだろ」
「まあな。とりあえず、先にゴムのコーナー見てみるか?」
「おう、サイズ間違えんなよ。お前のは無駄にデカいんだから」
「わかってるって。……じゃあ、行くか」
俺たちは遠慮もクソもない、まるで十年来の腐れ縁のような空気感を纏ったまま、自動ドアを抜けて店内の暖気へと吸い込まれていった。
主人公がさん付けなのは最初にさん付けで呼んでから、それが抜けきってないせい。