買ってきた柿ピーをつまみながらビールを煽り、壁に掛けられたテレビの画面に目をやる。
画面の中では、いつの時代のものかもわからないチープな洋画が流れていた。画質や引き延ばされたアスペクト比からして、最近の映画ではないことだけは確かだったが、正直それ以外の情報は全く頭に入ってこなかった。爆発音や不自然な演技のセリフが部屋の防音壁に吸収されていくのを、ただなんとなく鼓膜で受け止めているだけだ。
それはベッドの縁に腰掛けている彼女も同じだったようで、口を半分ほど開けたまま、所在なげに天井の一点を見つめて缶ビールを傾けている。映画のストーリーを追う気などさらさらないのは一目瞭然だった。
というより、彼女はいつの間に脱いでいたのだろうか。
さっきまで着ていたはずの毛玉だらけのパーカーとスウェットパンツは、すでに足元に無造作な塊となって転がっていた。視線を戻せば、彼女は完全に全裸の状態でベッドの端に佇んでいる。薄暗い間接照明に照らされた身体は俺が声をかけて手を伸ばせば、その瞬間にでも次の段階へと移行できるほど準備万端な状態だった。
それでも部屋には無言で映画が流れ続ける時間が流れた。いつもなら、どちらかが脱ぎ出した時点で我慢できずにおっぱじめるのが常なのだが、今回は何と言っても滅多にない連休だ。時間が無限にあるかのように思える贅沢な状況が、お互いの心に奇妙な余裕を生み出していた。焦る必要はどこにもない。これからいくらでも、嫌というほど互いの身体を貪り合えるのだから。
「ちょい、お前」
不意に、平塚さんが天井に向けていた顔をこちらに巡らせて声をかけてきた。
「お、そろそろヤるか?」
「いや、ちょっとその前にな。いつもの前戯しようぜ、前戯」
「いいね。何するよ」
俺たちは身体の相性が抜群にいいとはいえ、よりスムーズで、より深い快感を得るためのペッティングを決して欠かしたことはない。その日の気分や、どちらかの気まぐれによって内容は毎回変わる。キスを執拗に繰り返すこともあれば、子供じみた、けれど確実に身体を火照らせるくすべり合い、胸を揉みほぐすこと、パイズリ、あるいは指を使った愛撫など、過去にあらゆるパターンを試してきた。
平塚さんは手元に残っていた缶ビールをしっかりと握り直すと、ベッドから腰を上げて浴場の方へと歩き出した。俺は自分の缶を持って、その引き締まった背中と小刻みに揺れる臀部を眺めながら後に続く。どうやら今回は、向こうのスペースで何かを企んでいるらしい。
中折れドアの手前で、俺は彼女の背中に声をかけた。
「前やったのって、何だったっけ」
「あー……確か、フェラだった気がする」
「そっか。まあ、何でもいいけどな」
「あ、ちょっとこれ持ってて」
彼女は振り返り、飲みかけの缶ビールを俺の手に押し付けてきた。そのまま浴室の中折れドアを開け、中へと入っていく。すぐにジャーという勢いのあるシャワーの音が響き始めた。俺は脱衣所の壁に背を預け、渡された彼女の缶ビールと自分の缶ビールを交互に見つめながらその音を聴いていた。
時間にして五分ほどだっただろうか。シャワーの音が止み、換気扇の回る音だけが残る。
「入ってきていいぞ」
中から少しこもった彼女の声でお呼びがかかった。俺は手早く自分の衣服をすべて脱ぎ捨てて床に重ね、二つの缶ビールを両手に持ってドアを開けた。
浴室の床に敷かれたマットの上に、平塚さんは胡座をかいて座っていた。濡れた黒髪が肌に張り付き、湯気の中でその輪郭が少しぼやけて見える。男らしいというかおよそ色気とは程遠い姿勢ではあったが、俺の愚息はそんな彼女の姿を目にしただけで既に明確な反応を返していた。
「お、そっちも準備万端だな」
彼女は俺の股間に視線を落とし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「まあな。で、何をするんだ。大体の予想はついているけど」
「そう? じゃあ答えてみなよ」
「わかめ酒」
「正解ー。じゃあやろうぜ」
彼女は胡座を解くと、今度はマットの上で居住まいを正すように正座になった。そして、左右の太ももをぴったりと隙間なく密着させる。そうして出来上がった、彼女の太ももの境界と、下腹部の陰部を中心とした三角形の窪み。そこが今回の器というわけだ。
俺は膝をついて彼女の正面に身をかがめ、手に持っていた缶ビールに残っている中身を、その三角形の空間へとゆっくりと注ぎ込んでいった。黄金色の液体が、彼女の滑らかな肌の熱に触れながら、陰毛の生え際を浸していく。ビールの冷たさに、彼女の身体が一瞬だけビクッと小さく震えた。
「……量少なくねぇか?」
注ぎ終えた窪みを見つめながら、平塚さんが不満そうに眉を寄せた。
「こんなもんだろ。溢れたらもったいないしな」
「そうかねぇ。もっと並々と注いでもいいのに」
俺は空になった缶をマットの横にカツンと置き、彼女の太ももの間に出来たビールの水たまりへと顔を近づけた。鼻腔をくすぐるのは、麦芽の香りとそれ以上に強く自己主張してくる彼女自身の生々しい匂いだ。
ゆっくりと唇を寄せ、溜まったビールを吸い上げていく。彼女の肌の温もりが移り、少し生温かくなった液体が口内に広がった。そのビールの水面の下で、彼女の性毛がまるでお湯に浸かった海藻のように、ゆらゆらと緩やかに揺れている。まさに文字通りの光景を目の当たりにしながら、俺は一滴も零さないように慎重に、けれど貪欲にそれを飲み干していった。舌先が彼女の肌をかすめるたび、彼女の呼吸がわずかに荒くなるのが伝わってくる。
「っ──、ごちそうさまでしたっと」
最後の一滴まで吸い尽くし、口元を手の甲で拭いながら顔を上げた。
「味どうだった?」
平塚さんは上目遣いで、どこか楽しそうに俺の反応を窺ってきた。
「普通のビールだな。しかも微妙に温めの」
「だろうな。私の体温で温まってるし」
「だな。で、どうする。一回部屋に上がってからヤるか?」
「………いや」
俺は言葉を途中で切り替え、目の前にある彼女の無防備な両肩に手を置いた。そのまま、抵抗する様子のない彼女の身体を後ろへと押し倒し、マットの上に仰向けにさせる。
濡れた黒髪が白いマットの上に扇状に広がり、そのコントラストが彼女の顔をいつもより引き締まって、どこか艶っぽく見せていた。仰向けになったことで、彼女の肉体の起伏が容赦なく俺の視界に飛び込んでくる。重力に従ってわずかに左右に流れる、豊かな胸の膨らみ。アルコールと湯気、そしてこれからの行為への期待からか、その先端はすでに赤みを帯びて硬く尖っている。呼吸に合わせて上下する腹部、そしてその下にある、先ほどまでビールに浸されていた、濡れて光る場所。
「………」
「……んーどうした?」
俺が無言で見下ろしていると、彼女は少し不思議そうに首を傾げた。
「…いや、やっぱお前エロいな」
「そういうお前もエロ……って、男のエロって何だ?」
平塚さんは少し真面目な顔をして、突拍子もない疑問を口にした。
「……チンポじゃない?」
俺が至極真っ当で、これ以上ないほど論理的な解答を返すと、彼女は呆れたように、けれど嬉しそうに鼻で笑った。
ほろ酔い気分の心地よい浮遊感の中、俺はそのまま彼女の身体に覆いかぶさる形で、その唇を強く塞いだ。