綾小路をハメるために綾小路の周りの女全員ハメる 作:泌尿器形成外科
「2年Dクラスに所属する綾小路清隆を退学させろ」
南雲雅生徒会長がそう告げたのは、俺こと
まだ制服の襟元が肌に馴染まず、廊下を歩くたび新しい靴の軋む音が耳に残るような、そんな時期である。
学校の基本的なルールから始まり、全生徒の個人データを閲覧できる「OAA」というアプリの導入、さらには2年生とパートナーを組んで挑むという特別試験の詳細。
それらの説明を一通り受けた後、南雲会長から1年全体に連絡が入ったのだ。
その内容とは、各クラスから1〜2名の代表者を選出し、内密に生徒会室へ集まれというものだった。
我がDクラスからは、俺と宝泉和臣が代表となり招集に応じることが決まる。
宝泉が俺の名を挙げた時、クラス内に一瞬だけざわめきが走ったのを見逃さなかった。
誰しもなぜアイツが、という目を俺に向けてきたからな。
クラスの誰もが警戒を払う宝泉に指名されたことによって、奴と俺が同類だと思われていたら心外である。俺には気楽に話しかけてほしいものだが、今後どうなっていくのか先行きは不安だ。
そんなこんなで俺と宝泉が生徒会室に入ると、既に他クラスの代表者が集まっていた。
もれなく全員男で構成されており、俺たちが加わったことによってむさ苦しさが向上した。
そんな計6人の一年生達に向けて、南雲会長は言葉を続ける。
「手段は問わない。期限は2学期が始まるまでだ。それまでに見事綾小路を退学させた生徒には報酬として2000万ポイントが支払われる」
「2000万……!?」
南雲会長の説明を聞いて、Aクラスからきた一人が声を漏らす。
その声には驚きと同時に明らかな欲の色が混じっていた。
そこで咄嗟にチラリと隣に目をやると、宝泉の顔には下卑た笑みが刻まれていた。
唇の端を吊り上げ、目を細めて南雲を見据えるその表情は、すでに獲物を捉えた獣のようであった。
プライベートポイントと呼ばれるそのポイントは、高度育成高等学校の閉鎖環境内において現金の代わりとして使える重要なものであり、2000万ポイントとはそのまま2000万円の価値を持つと言えるだろう。
まだ学校に慣れていない一年生の俺達だったが、今月の支給額が8万ポイントと聞いているため、この報酬がどれだけ破格なものなのかをすぐさま理解することが出来た。
宝泉が前のめりになるのも無理はない。
「いわば、ここにいるお前達だけに限定された特別試験みたいなもんだな。言っておくが、他言無用だぞ?」
南雲会長がわざとらしい笑顔で忠告してくる。
いくつもの疑問が浮かんでくるが、この特別試験とやらが決して南雲会長の暴走ではないということを、彼の背後に控える人物が証明していた。
「……とまぁ、こんな感じでどうでしょう? 理事長代理」
「ええ、特に問題はないでしょう」
南雲会長の視線の先には、立会人として月城理事長代理の姿があった。
月城理事長代理は静かに頷くと、その視線をゆっくり俺たち代表者ひとりひとりに這わせていく。
まるでこれから始まる狩りの参加者を品定めするかのように。
この状況が意味することはすなわち、学校側もこの特別試験を黙認しているということだ。
個人の生徒をターゲットにしたバウンティハント。
果たして、件の綾小路という人物は何者なのだろうか。
俺は内心でその名前を何度か反芻した。
「皆さんの奮闘に期待していますよ」
月城理事長代理の言葉を最後にその場はお開きとなる。
彼の声は終始穏やかだったがどこか機械的で、感情が一切感じられなかった。
生徒会室から廊下に出ると、代表者達はそれぞれのクラスへとバラバラに散っていく。
俺は前を行く宝泉を少し後ろの位置で追いながら、屈強な背中に向けて声をかける。
「宝泉、お前はどうする気だ」
「あぁ?決まってるだろ。綾小路とやらをぶっ殺すんだよ」
「何か計画はあるのか?」
「ハッ、お前に話す義理がどこにある。ポイントは全部俺のモンだ」
ニヤニヤとこちらを一瞥して、宝泉は荒々しい言葉を吐きつけた。
その目は独占欲でギラギラと光っている。
宝泉とは入学早々因縁をつけられ何発かやり合ったが、その中でお互いの実力を認め合い今では共同戦線を開くことになっている。
「分かった。じゃあ俺は俺で動くことにするよ」
「そうしろ」
とはいえ、宝泉が俺を完全に信頼しているわけではないのは明白だった。そして俺もまた、宝泉を信用しきっているわけではない。
俺にはこの学校でやり遂げたい目的がある。きっと宝泉もそれは同じことだろう。
相手に利用価値があるのか邪魔になるのか。
3年間共に戦っていくクラスメイトといえど、まだまだ腹の探り合いは続いていくといえた。
廊下の蛍光灯が宝泉の横顔に冷たい影を落としている。
まぁ、綾小路の件は一旦置いとくとして。
俺はここで、もう一つの特別試験についても触れておく。
「2年と協力する方の特別試験はどうするつもりなんだ?みんな今日から動き出すはずだろ」
宝泉はDクラスの中で早くもリーダーとして台頭していた。俺はそんな宝泉を立てながら、今後の動きを確認する。
宝泉の判断を尊重しつつ自分の選択肢も残しておく、それが今の俺の立ち位置だった。
俺たち1年生が初めて受ける今回の特別試験の内容は、2年と二人一組となって受けなければならない筆記試験だ。
テストは5科目あり、1科目100点の合計500点満点という配点だ。
クラス全員の点数とパートナー全員の点数の平均点によって学年の順位が決まり、その平均点の高い順から50、30、10、0ポイントのクラスポイントを得る。
クラスポイントとは学年の序列を決める重要なポイントだ。
横並びとはいえ、現在俺達は一番下のDクラス。
Aクラスを目指す上で、負けられない戦いが続いていくだろう。
宝泉自身も、そのことは良く理解しているはずだ。
「今日はどうもしねぇよ。もし放課後残ってるクラスの奴がいたら全員ズラからせろ、誰とも交渉させるな」
「良いのか?さっき2年の女から全体チャットが届いてただろ」
俺は歩きながらスマホを取り出しOAAを開く。
アプリ内のチャット機能に触れると、そこには2年Bクラスの一之瀬帆波という生徒による書き込みがあった。
《本日午後4時から5時まで、体育館で1年生と2年生の交流会を行う許可をもらいました。時間に余裕のある生徒は是非集まってください》
パートナー締結を促進する上級生からの助け舟。
交流会というよりも、これを発案した一之瀬帆波という人物に俺は興味を抱き、参加しようかと考えていた。
俺はチャットを閉じ、一之瀬帆波の個人成績を再度閲覧する。
2-B 一之瀬帆波 1年次成績
学力 A(86)
身体能力 C(54)
機転思考力 B(70)
社会貢献性 A+(96)
総合力 B(74)
OAA上の彼女の数値はとても高く、特に社会貢献性の項目が突出している。率先して交流会を開くのも納得の数字と言えるだろう。
ちなみに俺も宝泉も社会貢献生はE判定だ。
そんな俺達とは真逆の性格をしていそうな一之瀬帆波に、俺は自然と興味が湧いてくる。
しかし、そんな俺の提案を宝泉はキッパリと拒否した。
「無駄だ、そんな交流会カスしかこねぇ。仕掛けるなら明日だ」
「……りょーかい」
俺は宝泉の意図を測りかねながらも、ひとまず従うことにした。
クラスのリーダーとして、宝泉の今の言葉にはある種の計算が感じ取れたからだ。
宝泉の言葉通りなら、交流会に集まるのは成績に不安のある生徒ばかりになる、ということだろうか。
自ら進んで場に出てくるのは、高得点を取ってくれる相手を探す余裕のない者たち。
今回の特別試験では、パートナーを組んだ2人の合計点数が500点以下となった場合にペナルティが発生する。
2年生には退学という最大級のペナルティが与えられるが、我々1年生には3ヶ月間のプライペートポイント振り込み停止というレベルでとどまっていた。
比較すると大したことのないように感じてしまうが、ペナルティを受ければ4月に支給された8万プライベートポイントのみで一学期を凌いでいかなければならない。
何かと入り用な新生活にこの仕打ちは手厳しい。
ルール上、成績の良い生徒から売れていくことが予想される今回の特別試験において、自身の成績が悪いとどうしてもペナルティがチラついてしまうことだろう。
明日、宝泉が仕掛けるというならば俺もそれに乗るのが賢明か。
少なくとも、今は宝泉のペースに合わせておこう。
「何をするか知らんが、俺もついてけば良いんだろ?」
「ふんっ、勝手にしろ」
宝泉は満足そうに鼻を鳴らしてDクラスの教室に入っていく。
その背中には、すでに勝利を確信したかのような余裕が漂っていた。
頭まで筋肉で出来てそうな見た目の宝泉だが、その実OAAによる学力の査定は76点のB+となっている。
武闘派だけではなく、策を弄す能力も備えている証だ。
俺は宝泉の後に続いて教室へ入り自分の席についた。
そうして放課後となり、宝泉の指示を受けたクラスメイト達が足早に帰路に着いていく。
誰もが宝泉の命令に従い、残ろうとする者は一人もいなかった。
宝泉の威圧感はすでにクラス内で絶大な効果を発揮していると言えよう。
恐怖政治とはいえ、この短期間でクラスを掌握するのは簡単なことではない。
俺もバッグを肩にかけて席を離れると、出入り口の手前でクラスメイトの七瀬翼から声をかけられた。
「早乙女くん、生徒会室で何を聞いたか教えてもらえないですか」
七瀬の青い瞳がこちらを真っ直ぐ射抜いている。
その目には好奇心と、どこか焦りのようなものが混じっていた。
南雲会長の招集で俺がクラスの代表者に選ばれたのは、宝泉の鶴の一声によるものだ。
一方の七瀬は代表者に立候補していたのだが、人数制限によってあぶれてしまい、ギリギリまで俺達について行こうと抵抗していた。
しかし最後は宝泉の容赦のない平手打ちが七瀬に炸裂し、結局彼女は諦めることとなった。
あの時七瀬は頬を押さえて黙り込んでしまったが、決して泣くことなく宝泉から目だけは逸らさなかったのを俺は覚えている。
「すまん七瀬。会長から言いふらすなって言われてるんだ」
「大丈夫です。誰にも言いません」
「そういうわけにもいかないだろ。もしバレたら俺と宝泉がペナルティを受けるかもしれない」
「それは、そうですが……」
俺の言葉を受けて七瀬は少し顔を下に落とす。
彼女の前髪がその動きにつられて目元を隠した。
「……分かった。話すけど、取り敢えず人が絶対来ない場所に移ろう。いいか?」
「……はい!ありがとうございます、早乙女くん」
居た堪れなくなり俺が折れると、顔を上げた七瀬はぱっと笑顔になりこちらを見上げた。
「取り敢えずここを出よう。宝泉に何言われるか分かんねぇし」
「はいっ」
教室を後にして七瀬と並んで廊下を歩きながら、俺はあらかじめ撮っておいたマップを写真フォルダから選択する。
「そういえば、俺まだ敷地内の施設とか全然把握できてないんだよな」
俺はスマホ画面を七瀬にも見える位置に持ち、彼女も自然と身を寄せてくる。
まだ入学して間もない俺にとっては、どこもかしこも行ったことのない建物ばかりだった。
校内の教室の配置すら、まだ覚えきれていない。
「七瀬も同じだろ?」
「はい。寮と教室と食堂以外はほとんど行ったことがありません」
俺の手元に顔を近付けながら七瀬も同意する。
彼女のハーフアップの長髪が俺の腕に僅かにかかり、ほのかに香るシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐった。
「だよな。だったら俺の部屋でもいいか?少し喋るだけなら問題ないだろ」
「えっ」
そこで七瀬は一瞬立ち止まり、少し遅れて俺の横に並び直した。
その足取りは遅く、明らかに慎重になっている。
「あの、早乙女くんの部屋に二人で、ということですか?」
「他に人がいない場所なんて、今すぐには見つからないだろ。カフェとかも今の時間は混んでるだろうし」
男と二人きりであることに警戒されたのか、七瀬の言葉がすぐに返ってこない。
しかし、そもそも話を聞きたいと持ちかけてきたのは七瀬の方だ。情報を握るために、七瀬はこの機会を逃したくないだろう。
あと少しのところまできている。この機会を逃したくないのは俺も同じだ。
「もし嫌なら七瀬の部屋ってことになるけど、それはダメだろ?」
「そう、ですね……」
七瀬はしぶしぶ頷く。僅かだが下がる七瀬の声のトーン。
先ほどの七瀬自身の発言通り、敷地内の施設に詳しくなく代替案が思いつかなかったのだろう。
やがて納得したのか、俺の提案を七瀬は受け入れた。
「分かりました。今日はお世話になります、早乙女くん」
「気にすんなって。ちょうど男一人で寂しかったところだからさ」
七瀬の言葉を聞き、俺はほくそ笑むのを我慢しながらスマホをしまった。
記念すべき高校一人目の女だな。
しかもこんな上玉、ワクワクが止まらねぇよ。