うだるような、暑いある夏の日。
俺___秋川 悟の目の前には、巨大なご神木がそびえ立つ。そして、ご神木の前にちょこんと存在するのは、紛れもなく妖怪ガシャだった。
「う、嘘だろ...?なんでこんなところに?」
『俺はあの日、奇妙なものに出会った』というナレーションでも聞こえてきそうな、まさに妖怪ウォッチと同じシチュエーションだった。
なぜ俺がこんな状況に置かれているかというと、それは少し前に遡る。
何を隠そう、俺は高校2年生なのだが、夏休みに入ったので少しばかり自分の町を散歩していた。
しかし、
「こんな道...あったっけ?」
見慣れているはずの近所の家と家の間に、なんの前触れもなく道ができていたのだ。
そしてその道を進んで行くといつの間にか周りは木々に囲まれた神社になっていて、そのさらに奥の道に進んでみたら、さっきの御神木と妖怪ガシャにたどり着いたって訳だ。
どこからどう見てもゲーム「妖怪ウォッチ」の導入そっくりではあるのだが、重要なのは俺がその妖怪ウォッチをプレイしている人間だということだ。
時間は再び現在に戻る。
「マジかよ...!ドッキリでもなければ、これを回せば妖怪が...!?」
実際に妖怪ウォッチをプレイしたのはもっと幼少の頃だが、それでもゲームと同じ状況が目の前に現れれば、その興奮は抑えられないだろう。
迷うことなく妖怪ガシャに近づき、原作さながら財布から100円玉を取り出し、古びた取っ手を回す。
ガガガゴ...ガガガゴ...
少し軋んだ音がしたあと、取り出し口にカプセルが落ちてくる。
(頼むっ!妖怪でてきてくれぇっ!)
ボンっと中から飛び出してきたのは...
「はれ?なんだこれ」
妖怪ではなく、銀色の髪留めのようなものだった。
(おいおいハズレか...!?原作みたいに最初はウィスパーが出てくれるんじゃないのかよっ...!)
「も、もう一回!」
その銀色の髪留めをポケットに突っ込み、再び100円を入れ、回す。カプセルを夢中で取り出し、あける。
すると、今度は様子が違った。開けた瞬間、煙が発生し、魔法陣のようなものも輪っか状になって出てくる。
それはまるで、自分が何度も見てきたあの光景で...。
「あ、あのう...ありがとうございますっ!」
目の前には小さな、着物と頭巾を着用した女の子...
その名も、妖怪「ゆきおんな」が立っていた。
「え、ゆきおんなちゃん!?」
思わずびっくりして名前を呼んでしまう。
「え、な、名前知ってるんですか?」
身長120cmほどの小さな少女は、俺を不思議そうに見る。
「そりゃそうだよ、だって...!」
君に性癖を破壊されたから、とはもちろん言えなかった。
俺は、そう。妖怪ウォッチで性癖を破壊されていたのだ。間違いない。色んな女の子や妖怪を見てきたせいで拗らせてしまっていたのだ。このゆきおんなや、進化系のふぶき姫も例外ではなかった。
あんな登場の仕方をするんだから、もうドッキリでは絶対ないことを確信した。俺は本当に妖怪ウォッチの世界に来てしまったらしい。そうとくれば...!
(この妖怪ウォッチの世界で無双して、女の子とイチャイチャしてやるぜ...!)
「み、見た目が雪女っぽかったし...!」
俺が邪な決心をしたとはつゆほども知らず、ゆきおんなは俺の回答に納得したようだった。
「なるほど...!確かに私はゆきおんなです!すごいです!さっきも言いましたけど、出してくれてありがとうございます!」
「ど、どういたしまして!俺の名前、秋川悟!名前で呼んでいいよ...!」
俺はすっかり舞い上がって&テンパってありえない距離の詰め方をする。
「は、はい、悟さん!」
(名前呼び...幸せぇ...)
このままゆっくり関係を維持できれば、このゆきおんなちゃんとあんなことやこんなことができてしまうかも...!と、数年ぶりに思い出した「性癖」との未来に想いを馳せる。
もちろんこれは全て頭の中の発言なので、黙ってしまった間を埋めるようにゆきおんなちゃんが話し始める。
「私、夢があるんです。今は雪女ですけど、いつか白銀のかみどめ、っていうアイテムを手に入れて、憧れのふぶき姫になりたいんです...!」
...........んん?
「もしかして、これのこと?」
ゴソゴソとポケットの中からさっきの銀色の髪留めを出す。すると___魚のようにゆきおんなちゃんがパクパクと口を開く。
「そ、そ、それはーーー!」
「「白銀の髪留め!?」」
俺とゆきおんなちゃんが同時に叫ぶ。いや、こうしてまじまじと見ていると間違いない。ゲームで見たことがある、白銀のかみどめそのものだ。久しぶりに見たので今の今まで思い出せなかった。
「それ一体どこで...!?」
「や、なんか...このガチャから出てきたよ...?」
けれど白銀のかみどめはゆきおんなちゃんにとってはずっと欲しかったもののようで。
「あ...すごい...悟さんすごい...」
うっとりした顔で髪留めを見つめる。
その顔はさっきの他人行儀なものではなくて、身体に電流が流れたような、恋をしているかのような表情だった。
(嘘だろ、こんな女の子の顔されたら...俺...俺...!)
「あ、あげようか?」
ぽろっとこぼしてみる。すると、ゆきおんなちゃんはそのうっとりした顔を俺に向ける。
「そんな...!出会ったばかりなのに...いいんですか...?」
「う、うんいいよいいよ。」
「ありがとうございますっ...!私、私ずっと欲しくて...!」
ゆきおんなちゃんは丁寧に俺の手のひらから受け取ると、ほんのり顔を赤らめる。
そして、ゆきおんなちゃんが頭巾を取り、丸っこい可愛らしい頭に髪留めをつける...と同時に。
またもや煙が出てくる。
そして次に現れたのは、ひとまわり大きくなって、俺の性癖を一番壊したと言っても過言ではないふぶき姫だった。
「外の世界に出していただいただけでなく髪留めまで...感謝してもしきれません...!良ければこれ、受け取っていただけませんか...?」
「おっおうふ...」
女の子らしい柔らかな手で俺の手を取る。それに少したじろいでしまうが、俺の手に握られていたのは、やはり妖怪メダルだった。
「私の妖怪メダルです...!親愛の証です。それと...」
「それと?」
「恩を返しきれないので、私決めました!悟さんのお供妖怪になります♡どこでもついていきます♡」
そう言うふぶき姫の目に一瞬ハートが浮かんだような気がする。
(ま、まさかあれだけで好きになっちゃった!?)
けれど、性癖を壊された女の子を前にして、そのお願いを断れる男は存在しないだろう。
「分かった!よろしくな、ふぶき姫!」
こうして、スタートダッシュにはあまりにも魅力的で、あまりにも心強いお供妖怪を手に入れて、俺の妖怪ウォッチ人生はスタートしたのだった。