レイプから始まる異世界生活 私は「犯られ戻り」で異世界を生きていく 作:みなぽん
天童昴(てんどう・すばる)
十八歳。黒髪のショートカット。小柄で細身だが、弓道の有段者で、神社の境内を走り回り、祭りの準備や薪割り、掃除などを手伝って育ったため、体幹が強く運動神経もいい。性格は快活、行動的、好奇心旺盛。異世界に転生時に権能を特殊な授かる。それは「犯られ戻り」男に犯されると一定のタイミングで
過去の時間に戻ることができる。
アルキュオネー=ヴァル=ルシリオン 種族 人間
二つ名 傲慢(プライド)のアル
金色の髪とサフィアの瞳を持つ、姫君のような美貌の聖騎士。お嬢様言葉が堅苦しい印象を与えるが、高貴な誇りゆえ。
•武器:光翼剣《ルクス・レギナ》
「聖騎士の力は心の中に宿るもの、気高い心で自らに誇りが持てる生き方をするのです。」
二つの星の日常
アル姉
「アル姉、ご飯できたよ」
昴が声をかけると、卓に向かって分厚い本を読んでいたアルキュオネーが顔を上げた。
背中まで届く長い金髪が窓から入る光を受けて淡く発光しているようだった。サファイアの瞳が細められ、柔らかな微笑みが浮かんだ。
「ありがとうございます、昴。今日は何ですか」
「この世界の豆と、干し肉の煮込み。味付けは勘だけど」
「あなたの勘は当てになりますよ。前回の野菜スープも美味でしたもの」
アルキュオネーは本を閉じ、椅子に座った。二人が借りている宿屋の一室。狭いが清潔な部屋で、窓からデルムの港の海風が入ってくる。
昴が鍋から煮込みを取り分けると、アルキュオネーはスプーンを手に取り一口食べた。
「……美味しい。豆の甘みが出ていますね」
「よかった。火加減が難しくて」
「料理も上達していますね。この世界に来たばかりの頃は、何も作れなかったのでしょう」
「うん。日本では母が作ってくれてたから。でもこっちに来て、やるしかなくなって」
「強い子ですね、昴は」
「アル姉の方が強いよ。剣も強いし、心も強い」
アルキュオネーは少し驚いたように目を丸くし、それから照れたように視線を落とした。お嬢様言葉の堅苦しさの奥に、年相応の可愛らさが覗く。その一面が昴は好きだった。
「その……アル姉、と呼ぶの、本当にいいんですか。わたくしの方が年上とはいえ、身分も何も——」
「いいの。だってアル姉はアル姉だもん。わたしにとって、一番近い人だから」
アルキュオネーは黙った。そして静かにスプーンを置き、昴を見つめた。その目が少しだけ潤んだ。
「……はい。嬉しいです、昴」
それから「アル姉」という呼び名は、二人の間に定着した。
-⭐️世界を学ぶ
朝の習慣ができた。
昴が早起きして朝食の準備をし、アルキュオネーがその間に世界の知識を教える。宿屋の食堂で、パンと果物を前に、アルキュオネーの講義が始まる。
「この大陸には五つの主要国家があります。中央にアルトリア王国、サラディーン商国、北のレイスヴェル皇国、東のドルガルド連邦、そして南のアーミターヴァ教国。もちろんこれが大国の他にも20以上の小さな王国や公国があります。わたくしたちがいるデルムはアルトリアの港街です」
「五つもあるんだ。日本は一つの国だったのに」
「にほん……昴の故郷ですね。いつか話を聞かせてください」
「うん。でも先にこっちのことを教えて。アル姉の話は面白いから」
アルキュオネーは本を開き、地図を指し示した。細い指が国境をなぞる。
「アルトリアは王政国家です。現国王は善良な方ですが、地方貴族の中に腐敗している者もいます。冒険者ギルドは中立の組織で、どの国にも属さない。だからこそ身分証のない者でも登録できるのです」
「それでギルドで登録できたんだ」
「ええ。ただしランク制度が厳格で、実績を積まなければ上位クエストを受けられません。昴はすでに白ランクから銅ランクに昇格していますから、順調です」
「アル姉のおかげだよ。前衛がこんなに強いと、後衛は安心して撃てる」
「わたくしの剣の射程より、昴の弓の射程の方が長いです。遠距離から的を射抜くあなたの腕は、この街の冒険者の中でも一級品ですよ」
「弓道の基本が役に立ってるだけだよ」
「謙よ」
「謙遜しなくていいのです。先日のクエストで、走行するゴブリンの目を射抜いた一射。あれは並みの弓手にはできません」
昴は少し照れた。アルキュオネーの褒め言葉は、いつも的確で、過度でなく、でも温かかった。
講義は風土や文化にも及んだ。
「アルトリアの北にはレイスヴェル皇国の雪原が広がっています。そこには氷の精霊が棲んでいて、冬季には極光が空を覆うそうです。わたくしも行ったことはありませんが」
「極光……オーロラか。日本でも見に行きたかったんだ」
「いつか、冒険者として実績を積めば、遠征クエストで行けるかもしれません」
「うん。アル姉と一緒ならどこでも行けそう」
アルキュオネーはその言葉に微笑んだ。微笑みの中に、ほんの少し切なさが混じっていたのを、昴は見逃さなかった。
⭐️祭りの話
ある夜、二人は宿屋の屋上で星空を見上げていた。デルムの夜空は、日本とは星座が違った。だが星の密度は同じくらい美しかった。
「ねえ、アル姉。この世界にもお祭りってあるの」
「ありますよ。アルトリアでは収穫祭が最も盛大です。秋の満月の夜、街中に灯りが灯り、音楽が鳴り、人々が踊ります」
「それ聞いたことある。日本にも祭りがあるんだ。夏にね。実家の神社で毎年やっていたの」
「神社、とは」
「日本の……神様を祀る場所。鳥居があって、境内があって、おみこしを担いで町を回るの」
「おみこし」
「神様の乗り物を、みんなで担ぐの。重いんだよこれが。木でできてて、大人でも四人がかりじゃないと持てない」
「それは力仕事ですね」
「うん。わたし、小さい頃から手伝ってた。境内の掃除も、薪割りも、祭りの準備も。父が神主で——」
昴は言葉を止めた。父のことを思い出した。和弓をくれた父。弓道を教えてくれた父。もう会えないかもしれない父。
「……ごめん。ちょっと、しんみりしちゃって」
「謝ることはありません。大切な方の話を聞かせてくれるのは、嬉しいことです」
アルキュオネーは昴の隣に座り、同じ高さで星空を見上げた。
「お父様が、弓を教えてくれたのですね」
「うん。弓道は的を射る技術じゃないって、父が言ってた。自分を射る技術だって」
「自分を、ですか」
「的を見つめると、自分の心が映るんだって。焦っていれば矢がぶれる。怖ければ的を見失う。でも心が静かなら、的が見える。父の言葉が、やっとわかるようになったの、この世界に来てから」
アルキュオネーは昴の手を取った。白い指が、昴の弓タコだらけの手を包んだ。
「お父様は、きっと立派な方なのでしょう。昴の言葉に、深い愛情があるから」
「アル姉……」
「わたくしも、父がいました。もういない方ですが」
「えっ」
「ルシリオン家の当主でした。わたくしを聖騎士として育て、剣と誇りを教えてくれました。ですが国が滅び、父も亡くなりました。わたくしだけが残った」
昴はアルキュオネーの手を握り返した。強く。痛いほどに。
「アル姉は一人じゃないよ。わたしがいる」
「……はい。ありがとうございます、昴」
アルキュオネーの声が少し震えた。夜風が金色の髪を揺らした。星の光がサファイアの瞳に浮かんだ。
二人は手を握ったまま、長い間、黙って星空を見ていた。
⭐️信頼の形
日々のクエストを重ねるうちに、二人の連携は洗練されていった。
前衛のアルキュオネーが敵を引きつけ、光翼剣で敵陣を切り裂く。その間、後衛の昴が的確に矢を放ち、遠距離から援護する。近接と遠距離、剣と弓。二人の組み合わせは、ギルドでも珍しいと評判になった。
「昴、右に二体」
「見えてる」
矢が放たれ、ゴブリンの肩を射抜く。隙ができた瞬間にアルキュオネーの剣が走る。一閃。二体同時に斬り伏せた。
「はい、クエスト完了です」
「アル姉、早すぎ。まだ矢が残ってるのに」
「昴の弓が速いから、わたくしも急がなければなりません。負けていられませんから」
「負けてるつもりないけど」
「わたくしは負けていますよ。遠距離では昴に敵いません」
「近距離じゃアル姉に勝てないよ。だから組んでるんでしょう」
「……ふふ、そうですね」
二人は顔を見合わせて笑った。
ギルドの掲示板の前で、他の冒険者が二人を見て囁く。「あの二人、またソロクエストを二人でクリアしたらしい」「あの聖騎士の剣技と、あの弓手の射精度、異常だろ」「新人パーティなのに銅ランク駆け上がりだって」
評判など気にしていなかった。二人にとって重要なのは、互いの背中を預けられること。それだけだった。
⭐️教わること、教えること
ある休日の午後、二人は港の防波堤に座っていた。海風が髪を揺らし、波の音が心地よく響く。
「アル姉、この世界の魔法ってどういう仕組みなの」
「精霊との契約です。火、水、風、土、光、闇。六つの属性の精霊と共鳴することで、魔力を現象として顕現させます。わたくしは光属性です。聖騎士の多くは光属性を持っています」
「精霊か。日本にも妖怪とか精霊みたいなのはいたけど、ちょっと違うね」
「昴の世界の精霊は、どんなものなのですか」
「神様とか、狐とか、河童とか。実家の神社にも狐の石像があったよ。稲荷神社って言って、お稲荷様を祀るの」
「おいなりさま」
「穀物の神様。農業の。五穀豊穣を祈るの」
「この世界にも穀物の神はいます。豊穣女神エルダ。収穫祭は彼女に捧げる祭りです」
「同じだ。人間はどこでも、食べることに感謝するんだね」
「ええ。生きることは、食べること。そして感謝すること。それは世界が変わっても変わりません」
昴は防波堤の上で足をぶらぶらさせながら、アルキュオネーの横顔を見た。金色の髪が海風に流れ、サファイアの瞳が海の色を映している。博識で、品があって、どんな話も面白く教えてくれる。世界の広さを知っている人。その広さの中で、それでも真っ直ぐに立っている人。
「アル姉って、すごい人だね」
「すごくありません。本を読んでいるだけです」
「本を読んでいるだけの人は、剣で三人を同時に斬れないよ」
「……それは、まあ、修行の賜物です」
「謙遜。またやってる」
「ふふ。申し訳ありません」
アルキュオネーは海を眺めたまま、静かに言った。
「昴。わたくしは、あなたに出会えてよかった」
「どうしたの、急に」
「いえ、ただ……思っただけです。わたくしは長い間一人でした。国を失い、父を失い、誇りだけを抱えて彷徨っていました。誇りはあります。でも、それを共有する人がいなかった」
「アル姉……」
「あなたは、わたくしの誇りを、否定しなかった。むしろ、あなた自身の誇りで応えてくれた。あのダンジョンで、自分も罠にかかると知って飛び込んできた。あの勇気は、わたくしにはないものです」
「勇気じゃないよ。ただ、放っておけなかっただけ」
「それが勇気なのです。わたくしの剣は強いかもしれません。ですが、人のために自分を投げ出せる強さは、あなたの方がずっと上です」
昴は顔を赤くした。褒められることに慣れていない。弓道で賞をもらっても「まだまだです」と父に言われて育ったから。
「……アル姉の方が、よっぽど強いよ。わたし、アル姉のこと、すごいと思う。剣も、知識も、言葉も、全部。アル姉の話を聞いてると、この世界が怖くなくなる。一人じゃなかったら、きっと怖くて動けなかった」
「昴……」
「だから、ありがとう。わたしの、アル姉でいてくれて」
アルキュオネーの目が潤んだ。泣かなかった。聖騎士は泣かない。だがその瞳に浮かんだ光は、涙よりも雄弁だった。
「はい。これからも、あなたのアル姉でいます。ずっと」
⭐️傷痕と夜明け
ある夜、昴は悪夢にうなされた。
路地裏の男たち。ダンジョンのガルドたち。体に残る感覚が、夢の中でよみがえる。石畳の冷たさ。男の息遣い。裂ける痛み。動けない体。声が出ない。
「いやっ——!」
昴は叫んで飛び起きた。冷や汗が背中を濡らしていた。息が荒い。心臓が早鐘を打っている。
「昴」
隣のベッドから、アルキュオネーが起きた。すぐに昴のベッドに来て、昴の肩を抱いた。
「大丈夫です。わたくしです。アルです」
「あ……アル、姉……」
「深呼吸してください。吸って、止めて、吐いて。あなたの弓道の呼吸法で」
昴は言われた通りにした。吸って、止めて、吐いて。吸って、止めて、吐いて。アルキュオネーの体温が背中から伝わる。温かい。生きている人の温度。
「……ごめん。起こしちゃって」
「謝らないでください。夜中にうなされているのを知っていたのに、放っておいたわたくしの方が悪いのです」
「知ってたの」
「ええ。ここ三日間、毎晩うなされていました。聞こえていました」
昴は驚いた。気づかれていた。声を堪えていたつもりだった。
「……言えなかった。何があったか。アル姉には言ってないことがあるの」
彼女の頭に2回にも及ぶ辛い輪姦の記憶が去来する。
「言わなくていいです。話したくないことは、話さなくていい。ですが、わたくしが隣にいることだけは、忘れないでください」
「アル姉……」
「わたくしも、同じだからです。国が焼ける夜、父が目の前で斬られる夢を見ます。何度も。何度も。目が覚めても、剣の音が聞こえます」
アルキュオネーの声が震えた。初めてだった。いつも凛として、揺るがない彼女の声が。
「でも、隣に誰かがいれば、少しだけ、収まります。昴がいてくれるから、わたくしも眠れるのです」
アルキュオネーは昴抱きしめた。小柄な昴が、長身のアルキュオネーに抱かれた。
「わたしがいる。ずっといる。昴が眠れるまで、起きてる」
「…アル姉」
アルキュオネーは昴の頭を抱き、金色の髪が黒い髪に落ちた。
アルキュオネーの腕の中で昴は静かに目を閉じた。夜明け前の薄暗さの中で、二人の体温だけが世界のすべてだった。
「昴」
「ん」
「目を閉じていてくれますか」
「うん」
アルキュオネーの手が昴の頬に触れた。白く細い指が、輪郭をなぞるように顎から耳元へと滑った。そして柔らかな唇が、昴の額に落とされた。
温かかった。ただ温かかった。
唇が額から眉へ。眉から瞼へ。瞼から鼻筋へ。ゆっくりと、丁寧に、祈るように。
「アル姉…」
「まだ、閉じていて」
唇が昴の唇に触れた。
柔らかかった。甘い花のような香りがした。アルキュオネーの唇は、剣を振るう唇とは思えないほど繊細で、壊れ物を扱うように昴の唇を愛した。
重ねるだけのキス。吸うだけのキス。唇と唇が触れ合い、離れ、また触れる。その繰り返し。何度も。何度も。
「んっ…」
昴の口から息が漏れた。アルキュオネーの舌が昴の下唇をなぞった。ためらうように、問いかけるように。昴は応えた。唇を少し開いた。
アルキュオネーの舌が滑り込んできた。ゆっくりと。昴の舌に触れ、絡め、愛撫する。深く、長い口づけ。昴の体から力が抜けていった。
「ふ…ぁ…」
昴の手がアルキュオネーの寝間着の胸元を掴んだ。白い亜麻布の下に、細身だが女性らしい曲線がある。アルキュオネーは昴の手を拒まなかった。むしろ体を近づけ、昴の手が自分の胸に触れることを許した。
「アル姉、だいすき」
その言葉を口づけの隙間に囁いた。唇が離れた一瞬。アルキュオネーのサファイアの瞳が昴を捉えた。
何かが変わった。
アルキュオネーの瞳の奥で、光が揺れた。静かな湖に石が投げ込まれたように。波紋が広がり、水面が乱れる。
「…昴」
アルキュオネーの声が低くなった。お嬢様言葉の丁寧さが溶け、奥底にある熱が滲んだ。
「もう一度、言ってくれますか」
「アル姉、大好き」
「…もう一度」
「アル姉が、大好き」
アルキュオネーの目が細められた。サファイアの瞳が昏い光を帯びた。聖騎士の凛とした光ではない。別の光。女性の光。
「だめですね。あなたがそんなことを言うと、わたくしは——」
言葉が途切れた。アルキュオネーが昴を押し倒した。
昴の背中がベッドに沈んだ。アルキュオネーが上に乗っている。金色の髪が降り注ぎ、昴の顔を覆った。
「アル姉…?」
「静かに。わたくしに任せてください」
アルキュオネーの指が昴の寝間着の紐を解いた。ゆっくりと、丁寧に。一つずつ。亜麻布が左右に開かれ、昴の体が露わになった。
弓道で鍛えた体。引き締まった腹。小ぶりだが形の整った胸。白い肌が夜明けの薄明かりの中で淡く光った。
「美しい」
アルキュオネーが呟いた。その声には、剣を振るうときと同じ真剣さがあった。
「弓で鍛えた体は、無駄がない。筋肉のつき方が美しい。でも——」
指が昴の鎖骨から胸の間を滑り降りた。
「——柔らかいですね。弓使いの体は引き締まっていると思っていましたが、こうして触れると女性らしい柔らかさがある」
「そ、そんな…」
「謙遜はいけません。わたくしは嘘を言いません。美しいものは美しい」
アルキュオネーの指が昴の左胸を包んだ。白い手が小さな膨らみを優しく握る。指先が乳首に触れた。桜色の小さな蕾が、指の熱で硬くなった。
「んっ」
「ここ、敏感ですね」
アルキュオネーが乳首を指先で転がした。優しく、円を描くように。右の乳首には舌を這わせた。温かい舌が乳輪をなぞり、蕾を口に含んで軽く吸った。
「あっ…アル姉…」
「感じますか」
「んっ…感じる…」
「いいえ。感じていいのです。わたくしはあなたを気持ちよくしたい。それだけです」
その言葉が昴の胸を溶かした。路地裏の男たち。ダンジョンのガルドたち。彼らは昴の体を消費した。だがアルキュオネーは昴の体を愛している。同じ触れ合いでも、意味が全く違う。
アルキュオネーの舌が右の乳首を愛撫しながら、左手で左の胸を揉み込んだ。優しく、でも的確に。親指の付け根で乳首を擦り、指の腹で膨らみ全体を愛撫する。
「あっ、あ…アル姉、そこ…」
「ここですか」
「んっ…」
乳首への刺激が背筋を走り、下腹部に届いた。体の奥が熱くなる。路地裏やダンジョンのときとは違う熱。嫌悪ではなく、期待の熱。
「体が熱くなってきましたね。昴」
「…うん」
「正直でいい子です」
アルキュオネーが昴の寝間着を完全に脱がせた。下着も取り去った。全裸の昴がベッドの上に横たわる。アルキュオネーは自分の寝間着も脱いだ。
白い肌。長い手足。細身だが曲線のある体。女性的で、それでいて聖騎士として鍛えた筋肉が薄く浮き上がる。胸は昴より大きく、形が良い。腰のくびれが女性らしい曲線を描いている。
「アル姉、きれい…」
「ありがとう。あなたもきれいですよ昴」
二人の体が重なった。肌と肌が触れ合う。アルキュオネーの胸が昴の胸に押し付けられ、柔らかな肉が互いに形を変えた。乳首同士が擦れ合い、昴の体が跳ねた。
「んっ…」
「暖かい。あなたの体、暖かい」
アルキュオネーが昴の耳元に唇を寄せた。
「これから、あなたを気持ちよくします。わたくしの手で。唇で。体全部で。あなたがいいと思うことだけします。いやなことは何もしません。だから——」
「うん…」
「安心して、身を委ねてください」
アルキュオネーの唇が昴の顎から首筋へと降りた。耳の裏の敏感な場所を吸い、鎖骨の窪みに舌を滑らせる。昴の体が小さく震えた。
「あ…アル姉、くすぐったい…」
「くすぐったいのと気持ちいいのは、紙一重ですよ。もう少し我慢してください」
唇が胸に戻り、今度は両方を交互に愛撫した。右を舌で転がしながら、左を指でつまむ。左右同時の刺激に、昴の背中が弓なりに反った。
「あっ、あっ…両方、だめ…」
「だめではないでしょう。気持ちいいのでしょう」
「…んっ、気持ちいい…」
「正直でいい子です」
アルキュオネーの唇がさらに下へ降りた。肋骨の一本一本にキスをし、へその窪みを舌で探り、下腹部の柔らかな皮膚を吸った。
「ここ、弓で腹筋を使う場所ですね。筋肉の上の皮膚が薄くて、敏感ですよ」
「あっ、そこ…」
アルキュオネーの指が昴の下腹部を撫でた。恥骨の上。産毛の薄い滑らかな肌。指がさらに下へ降りると、昴の脚が無意識に閉じた。
「脚を開いてください。大丈夫です。わたくしです」
「…わかってる。でも、恥ずかしくて」
「恥ずかしくないです。美しいのです。あなたのすべてが美しい。わたくしに見せてください」
アルキュオネーの手が昴の膝の内側を撫でた。優しく、ゆっくり。内腿の柔らかな皮膚を指の腹で愛撫する。弓道で鍛えた筋肉の表面が、指の熱で弛緩していった。
「んっ…」
脚がゆっくりと開かれた。アルキュオネーの目が昴の最も秘められた部分を捉えた。
「きれいです」
その言葉に嘘がなかった。アルキュオネーの目は聖騎士が邪悪を睨むときと同じ真剣さで、昴の性を見つめていた。
アルキュオネーの指が昴の割れ目に触れた。すでに濡れていた。粘液が指先に絡みつく。
「濡れていますね。いいえ。自然なことです。あなたの体がわたくしを迎えてくれている」
「アル姉…」
「わたくしも、同じですよ」
アルキュオネーは昴の手を取り、自分の股間に導いた。昴の指がアルキュオネーの割れ目に触れた。濡れていた。熱い液体が昴の指に絡みついた。
「アル姉も…濡れてる…」
「ええ。あなたに触れられて。あなたの言葉で。あなたの体を見て。わたくしは興奮しています」
お嬢様が「興奮しています」と言う。その言葉の破格さが、昴の心をさらに溶かした。
アルキュオネーの指が昴の割れ目を上下に撫でた。ゆっくりと。濡れた粘膜を指の腹でなぞる。上の小さな突起に触れたとき、昴の体が跳ねた。
「あっ!」
「ここがいいのですね」
「んっ、そこ、だめ、強い…」
「強くないですよ。優しくです」
アルキュオネーの指が昴の陰核を優しく撫でた。円を描くように。ゆっくりと。濡れた指が敏感な蕾を包み込むように愛撫する。
「あっ、あっ、あ…アル姉、そこ、すごい…」
「感じますか。いいですね。もっと感じてください。わたくしはあなたを気持ちよくしたい。それだけが今のわたくしのすべてです」
指の動きが少しだけ速くなった。陰核を指の腹で転がし、時折、下の割れ目に指を滑らせて濡れを確認する。そしてまた陰核に戻る。一定のリズムで、休むことなく。
「あっ、あっ、あっ…」
昴の声が高くなった。腰が浮き、ベッドのシーツを掴む指が白くなった。快感が波のように押し寄せ、引いてはまた押し寄せる。路地裏やダンジョンのときとは全く違う波。嫌悪も恐怖もない。ただ純粋な快楽の波。
「アル姉、アル姉、アル姉…」
名前を呼ぶことしかできなかった。何度も何度も。アルキュオネーはそのたびに「はい、ここにいます」と応えた。指の動きを止めずに。
「いきそう…」
「いいですよ。いってください。わたくしが受け止めます」
アルキュオネーの指が少し速くなった。陰核を親指で撫でながら、中指を昴の中にゆっくり挿入した。一本。濡れた粘膜が指を包み込む。指を曲げ、腹側を撫でた。
「あっ! ああっ——!」
昴の体が反り返った。腹筋が痙攣し、内壁がアルキュオネーの指を激しく締め付けた。波が昴を飲み込んだ。快感の波が頭の先から足の先まで駆け抜け、体が震え続けた。
「はい、いい子。いい子です昴。そのまま。わたくしが受け止めています」
アルキュオネーが昴の体を抱きしめた。痙攣が収まるまで、ずっと背中を撫で続けた。震えが止まるまで、耳元で囁き続けた。
「大丈夫です。わたくしに任せて。ゆっくり。ゆっくり」
痙攣が収まった後、昴はアルキュオネーの胸に顔を埋めた。涙が出ていた。苦痛の涙ではない。溢れる感情の行き場がなくて、涙になった。
「アル姉…」
「はい」
「気持ちよかった。こんなの、初めて」
「よかった。あなたが気持ちよかったなら、わたくしも嬉しい」
「わたしも、アル姉のこと気持ちよくしたい」
昴は顔を上げ、アルキュオネーの目を見た。サファイアの瞳が潤んでいた。聖騎士の強さが溶け、女性の柔らかさだけが残っていた。
「いいのですか」
「うん。アル姉がわたしにしてくれたように。わたしもアル姉にしたい」
昴の唇がアルキュオネーの胸に触れた。白い膨らみに唇を押し当て、舌を這わせた。アルキュオネーの体が微かに震えた。
「んっ…昴…」
「ここ、敏感?」
「ええ…あなたの舌が暖かくて…」
昴はアルキュオネーの乳首を口に含んだ。小さな蕾が舌の上で硬くなった。軽く吸い、舌で転がす。アルキュオネーの指が昴の髪に差し込まれ、優しく撫でた。
「いい子…昴はいい子ですね…」
アルキュオネーの声が甘くなった。お嬢様言葉の丁寧さが溶け、深い甘さが滲んだ。
昴の唇が下へ降りた。アルキュオネーの腹、へそ、下腹部。弓道で鍛えた指が、アルキュオネーの内腿を撫でた。アルキュオネーの脚が開かれた。
「見てもいい」
「ええ。見てください。あなたになら、すべて見せます」
昴はアルキュオネーの割れ目を見た。金色の産毛の下、濡れた粘膜が淡く光っていた。昴の指が触れた。アルキュオネーの腰が浮いた。
「んっ…」
「アル姉、濡れてる。すごく」
「あなたに触れられて、濡れました。あなたのせいですよ」
「わたしのせいだね」
昴は微笑んだ。そして顔を下ろした。舌がアルキュオネーの割れ目に触れた。
「あっ——!」
アルキュオネーの体が跳ねた。声が高くなった。聖騎士の威厳が崩れ、ただの女の声になった。
「昴、そんな、舌で…!」
「だめ」
「だめでは…ないです。でも、強い…あっ!」
昴の舌がアルキュオネーの陰核を舐め上げた。下から上へ、ゆっくりと。弓道で鍛えた舌の筋力は、意外なところで役に立った。陰核を舌の腹で包み、優しく吸った。
「あっ、あっ、昴…!」
アルキュオネーの指がシーツを掴んだ。聖騎士の手がシーツを握りしめ、皺を作る。その姿が昴は愛おしかった。強い人が、自分の前で弱くなる。その信頼の重さが胸に迫った。
「アル姉、気持ちいい」
「はい…気持ちいいです。あなたの舌、暖かくて、やわらかくて…あっ」
「わたしも、アル姉に気持ちよくなってほしい」
昴の舌が速くなった。陰核を舐めながら、指を一本、アルキュオネーの中に挿入した。熱い粘膜が指を締め付ける。壁が指の形を覚えようとするように、収縮を繰り返した。
「あっ、あっ、昴、そこ、そこ…!」
「ここ」
指を曲げて、腹側を撫でた。アルキュオネーの背中が反り、金色の髪がシーツに広がった。
「ああっ——!」
アルキュオネーの体が弓なりに反った。内壁が昴の指を激しく締め付け、粘液が溢れた。痙攣が波のように何度も押し寄せた。
「アル姉、いったの」
「はい…いきました…昴のおかげで…」
アルキュオネーは昴を引き寄せ、抱きしめた。二人の体が重なり合い、汗と体液が混じり合った。温かかった。
「もう一度、キスして」
昴が言った。アルキュオネーは微笑んで、昴の唇に自分の唇を重ねた。
今度のキスは、最初のキスより深かった。舌が互いを探り合い、唾液が混じり合う。二人の体が絡み合い、脚と脚が交差した。
昴の脚がアルキュオネーの脚の間に割り込み、互いの濡れた割れ目が触れ合った。
「あっ…!」
「んっ…!」
二人同時に声が漏れた。濡れた粘膜が擦れ合う。陰核同士が触れ合い、電流のような刺激が走った。
「アル姉、これ…すごい…」
「ええ…あなたの、わたくしの、触れ合って…あっ」
昴が腰を動かした。ゆっくりと、前後に。弓道で鍛えた腰の筋肉が、正確なリズムで動いた。二人の濡れた割れ目が擦れ合い、粘液が混じり合って滑りを生む。
「あっ、あっ、アル姉、気持ちいい…!」
「はい、気持ちいい…昴、もっと…」
腰の動きが速くなった。二人の呼吸が荒くなり、汗が混じり合った。アルキュオネーの金色の髪が昴の黒い髪に絡み合い、二人の体が一つに溶けていくようだった。
「アル姉、アル姉、大好き、大好き——!」
「わたくしも、あなたを愛しています昴——!」
「愛してる」という言葉が、二人の上に降った。聖騎士が初めて口にした言葉。その重さを、昴は全身で受け止めた。
波が来た。二人同時に。昴の体が震え、アルキュオネーの体が震え、二人の痙攣が重なり合った。快楽の波が二人を飲み込み、海に沈めた。
沈んでいく。深く、温かい海に。互いの体温だけが頼りで、互いの鼓動だけが道標の海に。
波が去った後、二人はシーツの上で絡まり合ったまま動けなかった。汗と体液が混じり合い、シーツが湿っていた。だがどちらも動こうとしなかった。
「アル姉」
「はい」
「わたし、幸せかも」
「わたくしもです。あなたが隣にいれば、わたくしは幸せです」
「これからも、ずっと」
「はい。ずっと」
窓の外が白んでいた。夜明けが来ていた。デルムの港に朝の光が差し込み、海面が金色に輝き始めた。
アルキュオネーは昴の額にキスをした。優しく。祈るように。
「昴。あなたはもう一人ではありません。わたくしも一人ではありません。二人なら、どんな世界でも生きていけます」
「うん」
「わたくしの剣は、あなたを守るためにあります。あなたの弓は、わたくしを守るためにあります。それがわたくしたちの誇りです」
「誇り、だね」
「ええ。聖騎士の力は心の中に宿るもの。気高い心で、自らに誇りが持てる生き方をするのです。あなたはもう、それを持っています」
昴はアルキュオネーの胸に顔を埋めた。心臓の音が聞こえた。穏やかで、力強い鼓動。
「アル姉の心臓、聞こえる」
「どうですか」
「元気だね。生きてるって、わかる」
「ええ。生きています。あなたの隣で」
朝の光が部屋を照らした。金色の髪と黒い髪が、白い枕の上で混じり合っていた。
天童昴、十八歳。異世界で傷つき、何度も時間を戻し、それでも前を向いた少女。この朝、初めて「幸せ」という言葉を、自分のものにした。
アルキュオネー=ヴァル=ルシリオン。国を失い、父を失い、誇りだけを抱いて彷徨った聖騎士。この朝、初めて「幸せ」の意味を、人から教わった。
二つの星が、夜明けの空の下で、寄り添って輝いていた。
⭐️市場の惨劇
午後の日差しが市場を照らしていた。
昴は一人で市場に出かけていた。食材の買い出しだ。豆と野菜と干し肉、そして最近見つけた聖導女アリステラさんの店で彼女の手作りの美味しいクッキーを買っていこう。
アルキュオネーは宿で本を読んでいる。「今日はわたくしが夕食を作りましょうか」と言ったが、「アル姉には休んでほしい」と昴は断った。昨夜の深い交わりの後、アルキュオネーは少しだけ疲れているように見えたから。
デルムの市場は活気に満ちていた。屋台が並び、商人が叫び、客が行き交う。香辛料の香りと果物の甘い匂いが混じり合う。異世界の日常。平和な光景。
その平和が、一瞬で破られた。
市場の端から、人々が逃げ出し始めた。悲鳴が上がった。昴は即座に弓を構えた。矢を番える。何が起きているのかわからないが弓道で鍛えた集中力が周囲の状況を捉えた。
見えた。
市場の入り口から、一団が押し寄せてきた。ボロボロの服を着た人々。痩せ細った子供を抱く母親。傷を負った老人。難民だ。数十人の難民が市場に流れ込んできた。
そしてその後ろから——
男たちが追いかけてきた。
傭兵だ。鎧を着け剣を持った男たち。五人。いや六人。七人。もっといる。十人以上の傭兵が難民を追い立てていた。
「逃がすな! 女と子供は生け捕りだ! 歯向かう男は殺せ!」
傭兵のリーダーらしき男が叫んだ。太い腕に傷があり歯が欠けている。下卑た笑い声が響いた。
難民の男が傭兵に立ち向かった。棒切れを振り回して。傭兵は笑いながら剣を一振りした。男の腕が飛んだ。鮮血が噴き出し男が倒れた。
「次!」
傭兵たちが難民に襲いかかった。
男たちは即座に殺された。剣で斬られ槍で突かれ石畳の上に倒れた。血が石畳を赤く染めた。
女たちは別の扱いを受けた。
「品定めだ! 若い女は並べろ!」
傭兵たちが女たちを引きずり出した。服を引き裂き体を露出させる。悲鳴と泣き声が市場に響いた。
「こいつはいい肉だ」
「俺から先だ」
傭兵が女の上に覆いかぶさった。市場の真ん中で。大勢の目の前で。女の抵抗など意に介さず傭兵は女の中に入った。
「やめて! 助けて!」
女の叫び声。だが誰も助けなかった。市場の人々は遠くから見ているだけだった。恐怖に顔を歪めながら。
昴の目が怒りで燃えた。
弓を引き絞った。
残心。
矢が放たれた。
傭兵の一人の喉を射抜いた。男が目を丸くして倒れた。
「なっ——!」
二本目の矢が放たれた。別の傭兵の胸を貫いた。男が石畳に崩れ落ちた。
「弓手だ! どこにいる!」
傭兵たちが昴の位置を特定した。五人が一斉に走ってきた。
昴は三本目の矢を番えようとした。だが速すぎた。傭兵たちは戦い慣れていた。弓手の弱点を知っていた。距離を詰めれば勝てることを。
最初の傭兵が剣を振り上げた。昴は弓を盾にして受けた。弓が悲鳴を上げた。和弓は武器ではない。弓道の作法で間合いを取ろうとしたが足元の野菜屋台の残骸に足を取られた。
「捕まえた!」
背後から腕を掴まれた。弓が手から滑り落ちた。
「離して!」
昴は暴れた。弓道で鍛えた体幹。薪割りで培った握力。男の指を噛み切ろうとした。
「この野郎!」
腹部を殴られた。息が止まった。その隙に四人の傭兵が四肢を掴んだ。
「いい女だな弓使いか? 弓使いの体は引き締まってていいんだよ」
「犯れ! 順番だ!」
服が引き裂かれた。市場の石畳の上で。大勢の目の前で。
傭兵が昴の中に入ってきた。
痛みが走った。乾いた粘膜を無理やりこする摩擦。路地裏やダンジョンの記憶がよみがえった。同じだ。また同じだ。
「犯られ戻り」が発動する前に——
男が動いた。荒々しく容赦なく。昴の体は石畳の上で揺さぶられた。背中が石に擦れ皮が剥けた。
「次は俺だ」
二人目が入ってきた。三人目。四人目。五人目。
昴の意識は白く霞んでいた。痛みと屈辱の境界で明滅していた。
終わった後傭兵たちは昴の首に鎖をかけた。
「こいつは商品だ。売れば金になる」
昴は石畳の上で動けなかった。体の中に複数の男の体液が流れ込んでいた。太ももを伝って血と体液が混じった液体が石畳に広がった。
——戻って。
心の中で叫んだ。
——お願い戻って。
そして世界が反転した。
気づいたとき昴はベッドの上にいた。
「昴? どうしました顔色が悪いですよ」
アルキュオネーが心配そうに覗き込んでいた。
戻った。
「アル姉…市場に行く前に話があるの」
昴は昨夜のようにならないように身支度を整えながら最近市場で奴隷狩りをしている男たちがいると言う話をした。そして、彼らが昴のことを狙っているように見えたと伝えた。さすがに「犯られて戻りました。」とは言えない。
「…そんなことが」
アルキュオネーのサファイアの瞳が怒りで燃えた。
「許せない。絶対に許せない」
「だから今日はアル姉と一緒に行く。二人とも完全武装で」
「ええ。当然です」
二人は装備を整えた。アルキュオネーは光翼剣ルクス・レギナを腰に差し鎧を着けた。聖騎士の白い鎧。金色の髪が風に揺れた。昴は和弓を背負い矢筒を腰に付けた。
「行こうアル姉」
「ええ昴」
市場に着いたとき惨劇はまだ始まっていなかった。難民の群れが市場の端から流れ込んでくるのが見えた。そしてその後ろから傭兵たちが。
「来た」
昴は矢を番えた。
「待ってください昴」
アルキュオネーが制止した。
「わたくしが先に立ちます。あなたは後衛で」
「でも——」
「信じてください」
アルキュオネーは剣の柄に手を置いた。サファイアの瞳が傭兵たちを捉えた。
傭兵たちが難民に襲いかかった。男を殺し女を引きずり出した。
その瞬間アルキュオネーが動いた。
速かった。目に見えないほど速かった。白い鎧が光の軌跡を描き金色の髪が風を切った。
光翼剣が走った。
一閃。
傭兵の一人が両断された。鎧ごと。血が噴き出す前に次の一閃が走った。二人目が倒れた。三人目。四人目。
「なっ何だこの女は!」
傭兵のリーダーが叫んだ。だが答える暇はなかった。アルキュオネーの剣が容赦なく傭兵たちを斬り伏せていった。
十人以上の傭兵が一分も経たないうちに全滅した。
昴は見惚れていた。
美しかった。残酷だが美しかった。無駄のない動き。正確な刃筋。光の軌跡が空中に描く線が舞のようだった。聖騎士の剣技。圧倒的な強さ。
——強い。アル姉は本当に強い。
傭兵たちが倒れた後市場に静寂が戻った。難民たちが震えながら立ち上がった。女たちが服を合わせ子供を抱きしめた。
「助けてくださったのですか」
難民の老婆がアルキュオネーに近づいた。
「はい。大丈夫ですか」
アルキュオネーは剣を納め老婆に手を差し出した。
「ありがとうございますありがとうございます」
老婆がアルキュオネーの手を握った。
その瞬間だった。
老婆の目が見開かれた。アルキュオネーの顔を見た瞬間表情が変わった。
「あなたは…あなた様は、、もしや」
「はい」
「聖騎士の…アルキュオネー様ではありませんか」
市場の空気が凍った。
難民たちの表情が一変した。感謝の表情が消え憎悪と怒りの表情に変わった。
「聖騎士のくせに国を捨てて逃げた裏切り者!」
男が叫んだ。
「お前逃げたから俺の娘が犯されて殺されたんだ!」
「お前たち王族がしっかりしないから国を侵略されたんだ!」
「裏切り者! 人殺し!」
難民たちがアルキュオネーを取り囲んだ。罵声が飛んだ。唾が吐きかけられた。石が投げられた。一個がアルキュオネーの鎧に当たり火花を散らした。
「待って! アル姉は何も!」
昴が叫んだ。だが難民たちは聞いていない。
「黙れ! お前も裏切り者の仲間だ!」
石が昴に飛んできた。肩に当たった。痛みが走った。
「やめてください!」
アルキュオネーが叫んだ。だがその声は憎悪の叫びにかき消された。
「お前を許さん! 家も国も失った俺たちの苦しみを見せつけろ!」
男がアルキュオネーの腕を掴んだ。
「離しなさい! 無礼者!」
アルキュオネーは振り払おうとした。だが難民たちは怯まなかった。
「裏切り者は罰を受けろ!」
難民たちがアルキュオネーを引きずっていった。物陰へ。市場の端の廃墟の影へ。
「アル姉!」
昴が追いかけようとした。だが難民の群れに阻まれた。
「どいて! アル姉を助けないと!」
「邪魔するな! 裏切り者への制裁だ!」
昴は押し返された。体が地面に打ちつけられた。
そして見た。
廃墟の影で何が起きているのか。
男たちがアルキュオネーを取り囲んでいた。
鎧を剥がす。白い鎧が石畳の上に転がった。聖騎士の紋章が刻まれた兜が泥に汚れ踏みつけられた。
服を引き裂く。絹の下着が裂かれ白い肌が露わになった。
「やめなさい! わたくしは——」
「うるせぇ! 聖騎士のくせに泣きごと言ってんじゃねぇ!」
男がアルキュオネーを押さえつけた。石畳の上に組み敷いた。背中が石に打ちつけられた。
「アル姉!」
昴は叫んだ。だが誰も振り向かなかった。
最初の男が入ってきた。
「ひぃいっ!くうっ!」
アルキュオネーの声が上がった。叫びではなかった。抑え込まれた呻き。アルキュオネーは歯を食いしばっていた。
「王女様はどうやって生き延びたんだよ?敵兵に足でも開いたか?ちんぽでもしゃぶったか?」
「全く夢みたいだぜ、王女様のおまんこにちんぽぶち込めるなんてよ!」
聖騎士の体が揺れた。男の体が動くたびに金色の髪が石畳に広がった。
二人目が加わった。三人目。四人目。
「ほら、抵抗してみろよ、強いんだろ?あいつらを殺したみたいに、俺たちを殺してくれてもいいんだぜ。聖騎士のアルキュオネー第三王女様よぉ!」
男が弾むように腰を振り、彼女の中に容赦なく射精した。
別の男たちは、フェラチオ強要し、口の中にぶちまけた。
彼女の金色の髪が、汚れた白濁液に染まっていく。
アルキュオネーは抵抗しなかった。
ただ目を閉じていた。
まるで嵐が過ぎ去るのを待つかのように。
その目尻に涙が浮かんだ。聖騎士は泣かない。だが瞳の奥の光は確かに濡れていた。
昴は見ていた。
何もできずに見ていた。
難民たちは正しいことをしていると思っている。
「裏切り者には罰を与える」
という論理。だが被害者意識が正当性を与える暴力。自分たちを苦しめたものに対する復讐の感情。
それをアルキュオネーは黙って受け入れていた。
贖罪だと。
自分は国を守れなかった。父を守れなかった。民を守れなかった。その罪を今受けている。
「これはわたくしの贖罪です」
以前アルキュオネーが言った言葉がよみがえった。
昴は立ち上がった。
足が震えていた。肩に石が当たった傷が痛んだ。だがそれ以上に、心が痛かった。アルキュオネーが辱められている。自分を救ってくれた人が、自分が守りたい人が目の前で。
昴は走った。難民の群れを押し分け、廃墟の影へ飛び込んだ。
「やめて!」
声が響いた。男たちが振り返った。
「んだ、てめぇ」
「アル姉から離れて」
昴はアルキュオネーの上に覆いかぶさった。裸の体を重ねて、男たちから隠すように。
「これ以上、アル姉を傷つけないで」
「どけ小娘」
「いや」
「どけって言ってんだ!」
男が昴の髪を掴んで引き剥がそうとした。昴はしがみついた。アルキュオネーの体に。離れまいと。
「離しなさい昴」
アルキュオネーの声がした。弱々しかった。
「だめ」
「あなたまで」
「私がみんなの相手をするから」
昴は顔を上げた。男たちを見た。十人以上の男たちが、憎悪の目で二人を見下ろしていた。
「私が、みんなの相手をする。だからアル姉はもう、やめて」
「昴、やめなさい!」
「アル姉は黙ってて」
昴は立ち上がった。そして自分の服に手をかけた。裂かれた服を、残った部分もすべて脱ぎ捨てた。
弓道で鍛えた体。引き締まった腹。小さな胸。白い肌。傷一つない体が、夕暮れの光の中に晒された。
「私でよければ、好きにしていい。でもアル姉はもう、やめて」
男たちがざわめいた。
「自分から?」
「そう。私から。だから、アル姉を解放して」
男たちの目が変わった。憎悪の中に、別の光が混じった。欲望の光。
「いいだろう。その代わり、たっぷり楽しませてもらうぞ」
「構わない」
昴は石畳に横たわった。自ら脚を開いた。アルキュオネーがそれを見ていた。サファイアの瞳が涙で濡れていた。
「昴、やめて、そんなこと——」
「アル姉は、私が守る」
昴は微笑んだ。痛々しい微笑みだった。
最初の男が昴の上に覆いかぶさった。
昴は目を閉じた。
痛みが来る。知っていた。でも今度は違う。これは自分が選んだ痛み。アル姉を守るための痛み。
男が入ってきた。乾いた粘膜を無理やりこする。昴は歯を食いしばった。
——アル姉を守るため。アル姉を守るため。
心の中で唱え続けた。男の動きが激しくなる。体が石畳に擦られる。だが昴は声を出さなかった。アルキュオネーの前で、弱さを見せたくなかった。
「次だ」
二人目。三人目。四人目。
昴の意識は白く霞んでいった。体中が痛んだ。粘膜が腫れ、腹が打撲で痛み背中が石畳で擦り切れた。
だが、アルキュオネーはもう触られていなかった。
それが昴の支えだった。
五人目。六人目。七人目。
——まだ、大丈夫。まだ耐えられる。
八人目。九人目。十人目。
昴の体は限界に近づいていた。だが、あと少し。あと少しで終わる。
十一人目が終わったとき、男たちは満足したようだった。
「もういいだろう。これで罰は済んだ」
「裏切り者も、その仲間も、思い知ったろう」
男たちが去っていった。石畳の上に、昴は一人残された。体中に男たちの体液が塗りたくられ、脚の間からは白濁した液体が流れ出ていた。自ら進んで犯された場合は権能は発動しないようだ。
「昴!」
アルキュオネーが駆け寄った。裸のまま、昴を抱きしめた。震える手で昴の体を抱きしめた。
「昴、昴、ごめんなさいごめんなさい」
「アル姉…無事…?」
「わたくしのことはいい! あなたが、あなたが——」
アルキュオネーの涙が昴の頬に落ちた。温かかった。
「アル姉を、守れた?」
「守れた、守れました。でもあなたが——」
「よかった」
昴は微笑んだ。意識が遠のいていった。
「よかった、アル姉…」
そして昴は気を失った。
目を覚ましたとき、昴は誰かに背負われていた。
「アル姉…?」
「気がつきましたか」
アルキュオネーの背中だった。裸のまま。だが、昴を背負っていた。自分も傷ついているのに。
「アル姉、降ろして。自分で歩ける」
「歩けません。あなたはボロボロです」
「アル姉もボロボロだよ」
「わたくしは大丈夫です」
アルキュオネーの声は震えていた。でも足取りはしっかりしていた。宿まで、二人は帰った。
宿の部屋に入るとアルキュオネーは昴をベッドに下ろした。そして水桶を用意し、布を浸した。
「体を拭きます」
「うん」
アルキュオネーは昴の体を拭き始めた。顔から首、腕、胸、腹、脚。丁寧に。一つ一つ。男たちの痕跡を、拭い去るように。
「痛くないですか」
「平気」
「嘘つき」
アルキュオネーの声が震えた。
「あなたは、いつも、嘘をつく。大丈夫って。平気って。でも、本当は——」
「アル姉こそ」
昴が言った。
「アル姉こそ、いつも平気って言う。でも本当は——」
アルキュオネーの手が止まった。
「わたくしは、聖騎士ですから」
「聖騎士だって、痛いときは痛いんでしょ」
「…ええ」
アルキュオネーの涙が、また零れた。
「痛いです。とても。でも、これはわたくしの贖罪です。受け入れるべき罰です」
「違う」
昴が起き上がった。体中が痛んだが、構わなかった。
「アル姉は、何も悪くない」
「わたくしは、国を守れませんでした。父を守れませんでした。民を守れませんでした。逃げたのです。剣を捨てて」
「逃げたんじゃない。生き延びたんだ」
「同じです」
「違う」
昴はアルキュオネーの手を取った。
「アル姉は、生きて、ここにいる。私を助けてくれた。私を守ってくれた。それだけで、アル姉は十分すごい」
「昴…」
「アル姉が生きてくれたから、私は今ここにいる。アル姉が逃げてくれたから、私はアル姉に会えた。それだけで、アル姉の存在には意味がある」
アルキュオネーの目が見開かれた。サファイアの瞳から、涙が溢れた。止まらなかった。
「昴…昴…」
アルキュオネーは昴を抱きしめた。強く。痛いほどに。
「ありがとう…ありがとう…」
「アル姉、水浴びしよう。二人ともボロボロだから」
「ええ」
宿には共同の水浴び場があった。この時間は誰もいなかった。二人は湯を張った桶に入った。温かいお湯が体中の傷に染みた。痛かったが、気持ちよかった。
昴はアルキュオネーの体を洗った。金色の髪を洗い、背中を流し、腕を拭いた。アルキュオネーも昴の体を洗った。黒い髪を洗い、背中を流し傷ついた肌を優しく拭いた。
「アル姉の髪、きれい」
「昴の髪も、きれいです」
「アル姉の肌、白い」
「昴の肌も、白いです」
「アル姉、温かい」
「昴も、温かいです」
二人は桶の中で向かい合った。体中に傷があった。青痣、擦り傷、歯形、指の痕。男たちの痕跡。だが二人の間には、温かいものがあった。
「アル姉」
「はい」
「泣いていいよ」
「…え?」
「私の前でなら、泣いていい。聖騎士じゃなくていい。アル姉でいていい」
アルキュオネーの目が大きく見開かれた。そして、ゆっくりと、崩れた。
「う…ぅ…」
アルキュオネーが泣いた。声を上げて。子供のように。聖騎士の仮面を脱ぎ捨てて。ただの、アルキュオネーとして。
「怖かった…! 怖かったです昴…! あの男たちの手が、体が、息が…! わたくしは、また、何もできなくて…!」
「うん」
昴がアルキュオネーを抱きしめた。お湯の中で。裸のまま。傷だらけの体で。
「怖かったね」
「昴が、昴が来てくれなかったらわたくしは…!」
「来たよ。アル姉を守るって決めたから」
「でも、あなたが、あなたが代わりに…!」
「アル姉を守れて、よかった」
「よくなんかない! あなたが、あんな目に…!」
「アル姉のためなら、いいの」
昴はアルキュオネーの髪を撫でた。
「アル姉が、私を助けてくれたから。アル姉が、私に『アル姉』でいてくれたから。私、強くなれた。アル姉を守りたいって、思えた。だからよかったの」
「昴…」
アルキュオネーが昴を抱きしめ返した。お湯が溢れた。二人の涙が、お湯に混じった。
「わたくしも、あなたを守りたい。ずっと。これからも」
「うん」
「あなたが傷つくなら、わたくしが盾になる。あなたが泣くなら、わたくしが涙を拭う。あなたが倒れるなら、わたくしが支える」
「うん」
「だから、もう、一人で抱え込まないでください」
「アル姉も」
「ええ」
二人はお湯の中で長い間、抱き合っていた。傷だらけの体で。涙で濡れた顔で。でも、温かかった。お湯よりも互いの体温が、温かかった。
やがて、昴が言った。
「アル姉」
「はい」
「私たち、これからも、一緒だよね」
「ええ。ずっと」
「どんなことがあっても」
「どんなことがあっても」
アルキュオネーが昴の額にキスをした。優しく。今度は、祈るようにではなく誓うように。
「わたくしは、あなたのアル姉です。あなたは、わたくしの昴です。それだけは、何があっても変わりません」
「うん」
昴もアルキュオネーの額にキスをした。
「アル姉、大好き」
「わたくしも、愛しています。昴」
お湯が冷め始めても二人は離れなかった。傷は癒えない。心の傷も、体の傷も。でも、二人でなら癒えるかもしれないと思えた。
その夜、二人は同じベッドで眠った。服を着て。互いの体温を感じながら。悪夢を見ても、隣に誰かがいれば大丈夫だと思えたから。
朝が来る。傷は残る。でも二人でなら、明日も生きていける。
天童昴、十八歳。アルキュオネー=ヴァル=ルシリオン。二つの星は、傷ついてもまだ輝いていた。寄り添い合って。離れないように。
⭐️滅びの宴――聖騎士の告解
その夜、昴はアルキュオネーの悪夢に叩き起こされた。
「いや——! お父様——!」
ベッドの上で藻掻くアルキュオネー。金色の髪が汗で額に張り付き、サファイアの瞳が見開かれたまま、何も映していない。過去の亡霊が彼女の目の前に立っている。
昴はすぐに体を起こし、アルキュオネーの肩に手を置いた。
「アル姉、わたしです。昴です。大丈夫」
アルキュオネーの呼吸が荒い。弓道で鍛えた昴の集中力が、彼女の心拍数の異常さを感じ取った。何度も何度も背中を撫で、呼吸を整えさせた。
「…昴」
「うん」
「ごめんなさい。起こしてしまって」
「謝らないで。アル姉、何の夢を見たの」
アルキュオネーは長い沈黙の後、ベッドに座り直した。窓の外にはデルムの夜空。星が冷たく光っている。その光を見上げながら、アルキュオネーは口を開いた。
「昴。わたくしの過去を、話したことがありませんね」
「…うん。話したくないなら」
「いいえ。話さなければならない。あなたはわたくしのために傷ついた。ならわたくしも、あなたにすべてを知ってもらうべきです」
アルキュオネーは膝を抱え、窓の外の星を見つめた。その横顔に、聖騎士の凛とした強さはなかった。ただ、壊れかけた少女の横顔があった。
「ルシリオン王国の話をします。わたくしの国の話。そして——滅びた話を」
-⭐️三百年の盾
「ルシリオン王国は、この大陸の海岸に位置する小国でした。人口は八万ほど。決して大国ではありません。ですが港を持っていました。良港でした。ドルガルド連邦が三百年、渇望していた港を」
アルキュオネーの声は静かだった。朗読するように。だがその静けさの奥に、深い哀しみが沈んでいた。
「三百年の間、ドルガルド連邦は海洋港を求めて東進を続けました。内陸国家にとっても港は重要です。貿易も漁業も海軍も、すべては港から始まる。ドルガルドにとって港を手に入れることは国の存亡に関わる問題でした」
「三百年も」
「はい。三百年の間、ルシリオン王国はゼルディア公国、ヴァルカス王国、ハルディア公国と同盟を結び、ドルガルドの圧力に耐えてきました。四カ国連合。小国が四つ集まってもドルガルドの国力には及びませんが、同盟がある限り、正面から攻めることはできませんでした」
「バランスだったんだね」
「ええ。脆い平衡でした。だが三百年、その平衡は保たれたのです。わたくしの父、バザン・ヴァル・ルシリオンはその平衡を守る最後の王でした。穏やかで、賢く、誠実な人でした。戦を好まず、外交を重んじ、同盟を大切にする人でした」
アルキュオネーの目が柔らかくなった。父を語るときだけ、声に温かみが戻った。
「父はよく言っていました。『剣は最後の手段だ。剣を振るわずに済むならそれが最上。だが剣を振るわねばならぬときには、躊躇するな』と」
「いいお父様だね」
「はい。わたくしは父が好きでした。兄たちも。長兄のアベル兄様は、父に似て穏やかで優しい人でした。次兄のケイン兄様は、武人で荒っぽいところがありましたが、情に厚い人でした」
「兄が二人」
「ええ。アベル兄様が第一王子。ケイン兄様が第二王子。わたくしは第三王女。上にはナウシカー姉様とカサンドラ姉様がいます。五人兄妹でした」
アルキュオネーは指折り数えた。その仕草に昴は胸が痛んだ。
「ナウシカー姉様は長女で、母様似の美しい人でした。カサンドラ姉様は次女で、気立てがよくて誰にでも優しい人でした。わたくしは末っ子で、一番わがままだったかもしれません」
「アル姉がわがまま?」
「ええ。聖騎士になりたいと駄々をこねたのはわたくしです。ルシリオンの王女が前線に出るなど前例がありませんでした。でも父は許してくれました。『お前の誇りを大切にしろ』と言って」
「…いいお父様だ」
「はい。本当に」
アルキュオネーの目が、また暗くなった。
「その平衡が破られたのは、わたくしが十六歳の春でした」
⭐️ドルガルド8世
「ドルガルド連邦に新たな王が即位しました。ドルガルド8世。のちに『鉄血の覇王』と呼ばれた男です」
アルキュオネーの声が低くなった。名前を口にするだけで、体が強張るのがわかった。
「それまでのドルガルド王は慎重でした。同盟四カ国を正面から突破する国力はなく、和平交渉を続けながら少しずつ浸透を図るのが基本方針でした。ですがドルガルド8世は違いました。野心家であり、同時に有能な戦略家でした」
「何をしたの」
「まず、長年対立していた魔族勢力と手を結びました。ドルガルドの東に広がる魔境に棲む部族連合。人間と魔族が手を結ぶなど前代未聞でした。ですがドルガルド8世は彼らに領土と略奪の権利を約束し、戦力として取り込みました」
「魔族と…」
「次に、ゼルディア公国に対して浸透工作を実施しました。軍事と経済の両面から。ゼルディア公国は四カ国同盟の最東に位置し、ルシリオンとドルガルドの隣にありました。ゼルディアが落ちれば、ルシリオンの側面が裸になります」
「裏切り?」
「最初から裏切ったわけではありません。ドルガルド8世は狡猾でした。ゼルディアの貴族たちに賄賂をばら撒き、商人に特権を与え、軍事顧問を送り込み、少しずつゼルディアの国力を自国に依存させました。十年かけて。じっくりと。気づいたときには、ゼルディアはドルガルドの属国同然になっていたのです」
「十年」
「はい。十年の歳月をかけて、三百年の同盟を内部から腐らせたのです」
アルキュオネーの手が膝の上で握りしめられた。
「そして——春の夜明け前。ドルガルド連邦の軍がゼルディア公国領を経由して、ルシリオン王国の側面に奇襲をかけました」
-⭐️ゼルダンの野
「同盟国の領土から、同盟国の軍勢が来る。誰も予想しませんでした」
アルキュオネーの声が震え始めた。
「夜明け前でした。ルシリオンの東の国境、ゼルダンの野に駐屯していた国境守備隊が最初に踏み潰されました。五千の守備隊に対し、ドルガルド軍は三万。魔族の部族兵を含めれば五万。警告すら届かぬ速度でした」
「五万対五千…」
「次兄のケイン兄様が迎撃に出ました。ルシリオン正規軍八千を率いて。父は即座に同盟国に援軍を求めましたが——ゼルディアからは返答がありませんでした。ヴァルカスとハルディアからは援軍が来るはずでしたが、間に合いませんでした」
アルキュオネーの目が遠くなった。見ているのは、あの日の戦場だ。
「ゼルダンの野の会戦。わたくしも出陣しました。聖騎士として。父は止めましたが、わたくしは聞きませんでした。兄様が戦っているのに、城で待ってなどいられませんでした」
「アル姉…」
「ケイン兄様は中央に布陣していました。八千の兵の中心に。わたくしは右翼に。兄様は『アルは右翼を頼む。だが深追いするな。逃げる時は逃げろ』と言いました。兄様はいつもわたくしを心配していました」
アルキュオネーの声が震えた。
「朝の刻に戦いが始まりました。ドルガルド軍の数が多すぎました。正面から押し寄せ、左右から包囲し、後方から魔族の騎兵が回り込んだ。八千の兵が、三万の軍勢に包囲されました」
「包囲…」
「兄様は中央で突撃を繰り返しました。包囲を破るために。わたくしも右翼で戦いました。光翼剣ルクス・レギナがあれば、並みの兵士には負けません。わたくしは斬り込んで、斷ち込んで、敵を倒しました。ですが——」
アルキュオネーの手が震えた。
「数が多すぎました。倒しても倒しても、次が来る。魔族の兵士は人間より体が大きく力が強い。オークの戦士が三体同時にかかってきて、わたくしは馬から叩き落とされました」
「落ちて」
「地面に落ちたとき、左脇腹に槍が刺さりました。鎧の隙間を狙った一撃でした。肋骨が折れ、肺が傷つきました。血が口から溢れました。それでも剣だけは離しませんでした。地面に倒れたまま光翼剣を振りました。光の刃が敵を斬り裂いても、体は動かない。立ち上がれなかった」
「アル姉…」
「ドルガルドの兵士たちがわたくしを囲みました。聖騎士だと気づいたのでしょう。兜を取れば首級に価値が生まれる。槍が何本も突き出されました。わたくしは剣を盾にして受けましたが、体が動かない。もうだめかと思いました」
アルキュオネーの目が潤んだ。
「そのとき——」
-⭐️騎士伯エイミー
「エイミーが来ました」
名前を口にした瞬間、アルキュオネーの声が変わった。哀しみが深くなった。深く、深く、底の見えない淵に落ちるように。
「騎士伯エイミー・ド・レスフォール。わたくしの親友でした。幼い頃から共に剣を学び、共に聖騎士の修行を積んだ。わたくしより五つ上で、姉のような存在でした。栗色の髪に、茶色の瞳。笑うと可愛らしいえくぼができる人でした」
「親友…」
「エイミーは負傷したわたくしを見つけ、馬から飛び降りました。そして——わたくしの聖騎士の兜を奪い取り、自分の頭に被せました」
「えっ」
「聖騎士の兜は金色です。ルシリオンの紋章が刻まれた、目立つ兜です。敵は聖騎士の兜を追っています。兜を被った者が聖騎士アルキュオネーだと信じる。エイミーはわたくしの兜を被り、馬に乗って敵の中央に突っ込みました」
「囮に…」
「はい。エイミーは叫びました。『わたくしが聖騎士アルキュオネー・ヴァル・ルシリオンである! かかってこい!』と。敵の注意が一瞬、エイミーに向きました。その隙に、近衛兵がわたくしを馬に乗せて運び出しました」
アルキュオネーの目から涙がこぼれた。止まらなかった。
「わたくしは逃げながら、振り返りました。エイミーが敵に囲まれているのが見えました。槍が何本も突き出され、馬が倒れ、エイミーが地面に落ちた。敵が群がった。兜を奪い取り、聖騎士アルキュオネーを捕らえたと叫んでいた」
「アル姉…」
「エイミーはわたくしの身代わりになりました。それを知っていたのです。兜を被った瞬間から、自分がどうなるか知っていた。聖騎士の兜を被れば生きて帰れない。それでも——」
アルキュオネーは泣いた。声を殺して。肩が震えた。
「エイミーはルシリオン城を包囲した敵軍の陣幕に引き出されました。見せしめとして。ルシリオンの聖騎士を捕らえたと宣伝するために。そして——」
言葉が途切れた。長い沈黙。昴は待った。
「敵の兵士たちに、輪姦されました」
その言葉が、夜の空気に重く落ちた。
「陣幕の外から、兵士たちの笑い声が聞こえた。エイミーの声も聞こえた。最初は叫び声だった。それが、いつの間にか、声が出なくなった。わたくしは城壁の上から、陣幕の方を見ていた。見たくはなかった。でも、目が離せなかった。エイミーがあの中で何をされているか、想像せずにはいられなかった」
「アル姉…」
「後で聞きました。伝令兵が城壁に来て、報告しました。エイミーは捕らえられた後、陣幕に引き出され、将校から兵卒に至るまで、順番に犯されたと。数十人の男に。夜が明けても続いたと。朝になって、エイミーの体は動かなくなっていたと。だがまだ息があったと。それでも、犯され続けたと」
昴の手が、アルキュオネーの手を握った。強く。
「エイミーは最後に、首を絞められ、地面に叩きつけられた。それで、ようやく動かなくなった。栗色の髪が泥と血に染まっていたと。伝令兵はそう報告しました。わたくしは——」
アルキュオネーの声が途切れた。涙が止まらなかった。
「わたくしは、城壁の上で泣きました。声を上げて泣きました。聖騎士が泣いてはいけない。でも止まらなかった。エイミーがわたくしの身代わりになり、あんな目に遭っているのに、わたくしは城の中で安全にいる。それが苦しくて、悔しくて、情けなくて」
「それはアル姉のせいじゃない」
「わかっています。でも——わかっていても、苦しいのです」
⭐️城下の惨劇
「時間が経てば経つほど、状況は悪化しました。ルシリオン正規軍八千のうち、生き残って城に戻れたのは三千足らずでした。ケイン兄様は——」
アルキュオネーは目を閉じた。
「ゼルダンの野で討ち死にしました。八千の兵と共に。最後は馬から降りて、剣を持ち、立ったまま戦ったと。遺体は見つかりませんでした。あまりに多くの兵の死体に埋もれて」
「兄様…」
「兄様の死は、三日後に伝わりました。斥候が戦場を調査し、ルシリオンの旗の下に折り重なる死体の中に、兄様の鎧の破片を見つけました。父は報告を聞いて、一言も発しませんでした。ただ、椅子に座ったまま、一晩中動きませんでした」
アルキュオネーは、窓の外を見た。星が冷たく光っている。
「城は包囲されました。ドルガルド軍三万が城壁を囲み、攻城の準備を始めました。食料は二十日分。援軍の望みは薄い。父は城民を集めて、状況を説明しました。『援軍が来る可能性は低い。城が落ちる可能性が高い。だが、時間を稼げば、無辜の民が逃げられるかもしれない』と」
「逃がすつもりだったの」
「はい。父は最初から、全滅を覚悟していました。ただ、一人でも多く逃がすために。城を持たせられるだけ持たせ、その間に港から船で民を逃がす。それが父の計画でした」
「どれくらい持ったの」
「十日でした。十日間、城壁を守りました。わたくしも戦いました。脇腹の傷は癒えないまま、光翼剣を持ち、城壁の上で敵を斬った。十日目の夜——城門が破られました」
アルキュオネーの声が変わった。平坦に。感情を押し殺すように。
「破城槌が門を叩き壊した音は、城全体に響きました。あの音は、今でも夢に見ます。ドン、ドン、ドン。一定のリズム。そして最後の一撃で、門が弾け飛んだ。あの音——」
「アル姉、無理に」
「いいえ。話します。話さなければ」
アルキュオネーは深呼吸をした。
「城門が破られると、ドルガルドの兵たちが城下に雪崩れ込んできました。夜でした。松明の光が揺れ、影が走り、悲鳴が響いた。城下の民たちが逃げ惑いましたが、逃げ場はなかった」
「…」
「城下に入った兵たちは、最初に男を殺しました。抵抗する者は即座に斬られ、跪いて降伏する者も槍で突かれた。ドルガルド8世の命令でした。『抵抗する者は皆殺し。女は確保せよ。』と。魔族の兵士たちはさらに残虐でした。オークは人間の男を殺すだけでなく、体を引き裂き、内臓を撒き散らした。それは戦争ではなく、虐殺でした」
「ひどい…」
「女たちは確保されました。集められ、分類され、将校の天幕に送られました。そして——犯されました」
アルキュオネーの声が震えた。だが止まらなかった。
「わたくしは城壁の上から見ていました。城下が燃え、人々が逃げ、兵が追いかけ、女が捕まるのを。見ながら何もできなかった。城壁の上の守兵は少数で、城下を救う兵力はなかった。父は『城を守れ。城が落ちれば全てが終わる』と言いました。正しい判断でした。ですが——正しい判断が、こんなにも苦しいものだとは」
「誰が犯されたの」
「知っている人から、知らない人まで。城下の女たちが。わたくしが知っていた人たちも」
アルキュオネーは、一人ずつ、名前を語り始めた。
⭐️城下の女たち
「アリサ。貴族の娘でした。わたくしより二つ下で、宮廷で何度か会ったことがある。明るくて、活発で、馬が好きな子でした。城が落ちた夜、屋敷に隠れていたところを兵に見つかりました。三人の兵に押さえつけられ、テーブルの上で犯されました。アリサは抵抗しました。爪を立て、歯を立て、一人の兵の目を引っ掻いた。それで——兵はアリサの指を一本ずつ、折りました。折るたびに、『もう暴れないだろ』と笑いました。指が折れてもアリサは暴れました。舌を噛み切ろうとした。それで口を塞がれ、犯され続けました」
昴は息を止めた。
「ロザンヌ。パン屋の娘でした。十六歳。市場でいつも笑っていた子。母のアイナと二人で隠れていたところが見つかりました。兵は母のアイナを先に犯しました。ロザンヌの目の前で。ロザンヌに『見ろ。これがお前の母だ。次はお前だ』と言いながら。アイナは『ロザンヌ、目を閉じて』と叫びました。だが兵がアイナの髪を掴み、ロザンヌの目の前で犯し続けました。そして次にロザンヌが犯されるとき、母のアイナは横で泣きながら見せられていました。母娘が並んで犯されました。何度も」
「やめて、もう」
「いいえ。聞いてください。わたくしが見た人たちのことを。あなたに知ってほしいのです」
アルキュオネーの目が、怒りでも哀しみでもない、別の光を帯びていた。証言の光だ。
「チェルシー。新婚の花嫁でした。結婚して三日目だった。夫は城門を守って討ち死にしました。チェルシーは夫の死を知らされず、家で待っていた。兵が入ってきて、白いドレスを引き裂いた。チェルシーは『夫が帰ります。夫が帰ります。お願い、待ってください』と言い続けた。兵は笑って『夫はもう死んだよ』と言った。チェルシーは泣き崩れた。その上に乗って、犯した。白いドレスが赤と白で染まった。花嫁の白が、血と体液で汚された」
「…」
「ケイト。見習い職人の娘でした。十五歳。父の工房で木工を学んでいた。小さくて、細くて、器用な子だった。兵に捕まり、工房の作業台の上で犯された。木屑の上に押し付けられ、背中に木屑が食い込んだ。ケイトは小さかった。体が小さすぎて、兵の体に耐えられなかった。骨が折れたと聞きました。肋骨が。それでも犯され続けた。小さな体が、作業台の上で揺さぶられた」
アルキュオネーの声が、最後は囁きのようになった。
「他にも、何人も。市場の商人の妻。宿屋の女将。洗濯屋の娘。教会の修道女。老若男女問わず。ドルガルドの兵たちは、城下の女たちを次々に犯していった。それは戦争の付随行為ではなかった。ドルガルド8世の命令だった。『降伏した街の女は、兵士の褒美だ。』と。士気を維持するために、女を武器として使ったのです」
「狂ってる」
「戦争とは、そういうものです。昴。わたくしたちが忘れているだけで」
アルキュオネーは唇を噛んだ。
「わたくしは城壁の上から、全てを見ていました。見せ付けられた。城壁の上の守兵たちも見た。城下で何が起きているか、声が聞こえた。悲鳴が。泣き声が。笑い声が。それを聞きながら、城壁を守った。降りることは許されなかった」
⭐️桟橋の死守
「五日間、城は持ちました。城壁の上で戦い、城下の惨劇を見ながら。五日目の夜、父が決断を下しました」
アルキュオネーの声が、再び強さを取り戻した。
「『今夜、脱出する』。父はそう言いました。港に船を用意させました。大小十五隻。民を乗せ、海へ出る。ルシリオンの港は城の北にあり、城壁の外だ。城門から港までの道を確保しなければならない。その道を——血路を開く者がいる」
「誰が」
「長兄のアベル兄様が志願しました。第一王子として。親衛隊三百を率いて、城門から港までの道を開く。父も共に」
「お父様も」
「はい。父は王として、最後まで戦うつもりでした。アベル兄様と父は、三百の親衛隊と共に城門を開け、突撃しました。夜の闇の中で。ドルガルド軍の包囲線を突破し、港への道を開くために」
アルキュオネーの目が潤んだ。
「わたくしは、城門の上から見ていました。三百の親衛隊が突撃するのを。兄様の白い鎧が、父の金の鎧が、松明の光に照らされて輝くのを。彼らは城門から出た瞬間、敵の波に呑まれた。三百で三千に突っ込んだ。無謀でした。だが——道は開けた」
「開いたの」
「開けた。兄様と父は、三百の親衛隊と共に、城門から港までの道を切り開いた。一里の道を。三百が百になり、百が三十になり、三十が十になった。それでも突き進んだ。兄様の白い鎧が血に染まり、父の左腕が斬り落とされ、それでも進んだ。港の桟橋に辿り着いたとき、生き残ったのは十二人でした」
「十二人…」
「兄様は桟橋の上で、膝をついていました。剣を杖にして。父は片腕で剣を持ち、立っていました。十二人の親衛隊が、桟橋の周りに壁を作った。その背後で、民が船に乗り込んだ。わたくしも乗りました。母様と、ナウシカー姉様と、カサンドラ姉様も」
「みんな逃げられたの」
「わたくしは乗りました。ですが——振り返りました。桟橋の上で、兄様が微笑んでいました。血に染まった顔で。父が言いました。『アル、行け。生きろ。それが父の最後の命令だ』。わたくしは叫びました。『お父様! お兄様! 来てください! 船に乗って!』。父は首を横に振りました。『船に乗れば、追手が来る。桟橋を守らねばならない。行け、アル』と」
「桟橋を守るために」
「はい。兄様と父は、桟橋を死守するために残りました。十二人の親衛隊と共に。追ってくるドルガルド兵を、桟橋で止める。その間に船を出す。それが彼らの選択でした」
アルキュオネーの涙が、頬を伝って落ちた。
「船が出たとき、振り返りました。桟橋の上で、父が片腕で剣を振っていた。兄様が倒れた父の前に立っていた。ドルガルドの兵が波のように押し寄せていた。十二人の親衛隊が次々に倒れた。父が斬られ、兄様が斬られ——槍の先に父と兄の体が突き刺され、壊れた人形のように揺さぶられていました。桟橋が血の海になりました」
「お父様…」
「それが、わたくしの父と兄の最後の姿です」
アルキュオネーは泣いた。声を殺して。体を丸めて。昴は、ただ抱きしめた。
⭐️王妃と王女たち
「船は出ました。五隻の船に、民とわたくしたちを乗せて。ですが——」
「だけど」
「ドルガルドの海軍が待っていました。沖に。ルシリオンの船が出た瞬間、包囲していたのです。五隻のうち四隻が捕らえられました。わたくしの乗った船だけが、闇に紛れて逃げ延びた。なぜわたくしの船だけが逃げられたのか。他の船が囮になってくれたからです」
「他の船」
「捕らえられた四隻の船には、母様とナウシカー姉様とカサンドラ姉様が乗っていました」
アルキュオネーの声が、壊れた。ガラスが割れるように。
「母様。マルグリット王妃。ルシリオンの王妃。父の妻。わたくしの母。ナウシカー姉様。第一王女。二十二歳。歌が好きで花が好きで、誰にでも優しい人。カサンドラ姉様。第二王女。十九歳。絵が得意で、子供好きで、いつも孤児院に通っていた人。三人とも、捕らえられました」
「アル姉…」
「三人はドルガルド軍に捕らえられ、ドルガルド8世の前に引き出されました。戦勝の宴に。ドルガルド8世は、ルシリオンの王妃と王女を戦勝の飾りにしたかったのです」
「戦勝の宴」
「はい。ドルガルド8世の天幕で、将軍たちを集めて宴が開かれました。その宴に、母様とナウシカー姉様とカサンドラ姉様が引き出されました。全裸で。首に鎖をかけられて」
アルキュオネーの手が震えた。昴はその手を握り続けた。
「最初はドルガルド8世が、母様を犯しました。王が王妃を犯す。それは征服の儀式でした。母様は——抵抗しなかったそうです。娘たちの前で犯されると知って、抵抗すれば娘たちが酷い目に遭うと思ったから。母様はただ、娘たちの方を見ないように、目を閉じていた」
「母様…」
「次に、将軍たちが犯しました。五人の将軍が、母様を順番に。その後、ナウシカー姉様とカサンドラ姉様が、同時に犯されました。二人は手を握り合っていたそうです。互いの手を握り、名前を呼び合いながら。姉様たちは、『大丈夫よ』『大丈夫』と繰り返し合っていた。それが——互いを支える唯一の方法だった」
アルキュオネーの声が、囁きになった。
「宴は一晩中続きました。ドルガルド8世と将軍たち、それに有功の兵士たちが、王妃と王女たちを犯し続けた。朝になって、三人の体は動かなくなっていた。だが——まだ息があった。それで、兵士たちに放り出されました。陣幕の外に。兵士たちの好きにさせると。一般の兵士たちが、三人を犯し始めた」
「もうやめてアル姉。聞きたくない」
「聞いてください。わたくしが見ていないから。伝聞で聞いたから。それでも、わたくしは知らなければならなかった。わたくしだけ逃げ延びたのです。母様も姉様も、わたくしのために残ってくれた。わたくしを逃がすために。それなのに、わたくしは——」
「アル姉のせいじゃない」
「わかっています。でも——知っているだけで苦しいのです」
アルキュオネーは、長い間泣いた。昴は抱きしめ続けた。何も言わずに。ただ抱きしめた。
⭐️告解の果て
やがて、アルキュオネーは顔を上げた。目は腫れていた。だが、サファイアの瞳は、まだ光っていた。壊れてはいなかった。
「母様と姉様たちは、その後どうなったか。わたくしは知りません。死んだと聞きました。ですが、どのように死んだかは知らない。それが——わたくしにとって、最後の救いであり、最後の拷問です」
「知らなくてよかったのかも」
「ええ。知らなくてよかった。でも知りたい。知るべきなのかもしれない。わたくしにはわかりません」
アルキュオネーは昴を見た。真っ直ぐに。
「昴。わたくしは逃げました。国も父も母も姉も親友も民も見捨てて。聖騎士でありながら、戦わずに逃げた。それは裏切りです。どんな理由があっても、裏切りは裏切りです。市場の難民たちがわたくしを罵ったのは正しいのです。わたくしは裏切り者です」
「違う」
「違わない。わたくしは逃げた。生き延びた。ですが生き延びたことは、誇りではありません。ただの生存です。それに意味があるかどうかは——まだわかりません」
「意味はある」
昴は言った。強く。
「アル姉が生きていたから、私は助かった。ダンジョンで私を救ってくれた。市場で私を守ってくれた。アル姉が生きていてくれなかったら、私は今ここにいない。アル姉の生存には意味がある。私にとって」
アルキュオネーの目が大きく見開かれた。
「昴…」
「アル姉は裏切り者じゃない。生き延びた人だ。生き延びて、また戦える人だ。また誰かを守れる人だ。アル姉の剣はまだ誰かを守れる。アル姉の命はまだ意味がある。私が証明する」
「あなたが」
「私が。アル姉が生きていてよかったって思える人を、これからいっぱい見つける。アル姉の剣で守れる人をいっぱい見つける。だからアル姉は生きてていい。生きててほしい」
アルキュオネーの目から涙がまた溢れた。だが今度は哀しみの涙ではなかった。別の涙だった。
「昴…あなたは…」
「アル姉大好き。アル姉が生きててくれてよかった。アル姉に会えてよかった。私のアル姉でいてくれてありがとう」
アルキュオネーは昴を抱きしめた。強く。痛いほどに。
「ありがとう…ありがとう…あなたに会えてよかった…」
二人はベッドの上で抱き合った。夜はまだ長い。悪夢はまた来るかもしれない。だが今夜はもう一人ではない。
朝が来る。傷は残る。でも二人でなら明日も生きていける。
天童昴十八歳。アルキュオネー=ヴァル=ルシリオン。二つの星は傷ついてもまだ輝いていた。寄り添い合って。離れないように。