レイプから始まる異世界生活 私は「犯られ戻り」で異世界を生きていく 作:みなぽん
天童昴(てんどう・すばる)
十八歳。黒髪のショートカット。小柄で細身だが、弓道の有段者で、神社の境内を走り回り、祭りの準備や薪割り、掃除などを手伝って育ったため、体幹が強く運動神経もいい。性格は快活、行動的、好奇心旺盛。異世界に転生時に権能を特殊な授かる。それは「犯られ戻り」男に犯されると一定のタイミングで過去の時間に戻ることができる。
アルキュオネー=ヴァル=ルシリオン 種族 人間
二つ名 傲慢(プライド)のアル
ドルガルド連邦に滅ぼされたルシリオン王国の第三王女
金色の髪とサフィアの瞳を持つ、美貌の聖騎士。お嬢様言葉が堅苦しい印象を与えるが、高貴な誇りゆえ。昴からアル姉と慕われ懐かれるお姉様
•武器:光翼剣《ルクス・レギナ》
「聖騎士の力は心の中に宿るもの、気高い心で自らに誇りが持てる生き方をするのです。」
「私は昴のお姉ちゃんでナイトですから❤️」
アリステラ・エーレクトラー 聖導女
大陸で大きな勢力をもつリーキスト教団の聖導女。心優しい彼女は、自らの意思で孤児たちをあつめ
孤児院で世話をしている。子供たちのためであれば、どんな犠牲も厭わない彼女周囲の汚れた男たちから
時に利用され、時に虐げられる。しかし彼女の清い心はくじける事は無い。
アルキュオネー様、昴様と相手には尊称をつけて話す。
「可愛い子供達のためなら私はどんな屈辱や痛みにも絶えてみせます」
「慈悲深き地母神よ!傷つきしものに癒しの光を」
メローペ・ヴァイス 魔剣士
ドルガルド連邦軍特殊執行部隊で白銀の処刑人と呼ばれていたクールな少女。
アルキュオネー暗殺に参加するが、l郷里の村をドルガルド連邦に虐殺された事を知りドルガルドを脱して
昴達の味方になる。ことに、自分の命と妹のペリーヌの命を助けてくれたアリステラには恩義を感じており彼女に個人的に剣を捧げている。アリステラの教会に住んでおりクールで塩対応のシスターとして名物になっている。愛刀は魔剣 絶刀 雪月花
「アリステラ、私は命に換えてもも貴女を守る。」
「何かしらその目は、身の程を知りなさい。
」
マイア・アルトリア
月の光を宿した金色の長い髪、超絶美人エルフで月の勇者と呼ばれた弓の名手 精霊魔法も得意。
勇者の重責に耐えかねて酒浸りからヤク中毒になり売人の男達と荒んだ生活を送っていたが昴やアリステラに助けられ冒険者として復活した。人前では高潔な月に勇者の外面だが、緩むと酒カスでだらしないポンコツエルフ 127歳 月の紋章のアルテミスの弓を使う。
「月に代わって制裁です。」「カリュプソー いいじゃんか なぁ❤️」
カリュプソー・オーギュギアー ホビット
黒い長髪に、澄んだ青い瞳。頭には、古い時代の魔術師が愛用したという、金糸の刺繍を施した大きな黒紫色の三角帽子。身体を包む漆黒のマント、古びた杖を片手に立つその姿は愛らしいが213歳。青の魔導士と呼ばれる大魔法使いである。
真面目な性格だが渋いおじさまとスイーツが大好きでおじさんには幼い振りをして甘えるあざとい側面を持つ。だらしない月の勇者、マイアとは親友で元 勇者パーティ仲間
「マイア!あなたは無駄に良い見た目と弓を抜いたら、どうしようもないポンコツです!l」
大陸の地図
第一章 かつての親友は、辺境の伯爵邸に囚われている
冒険者ギルドの酒場は、昼下がりだというのに賑わっていた。依頼を終えた冒険者たちが報酬を手に酒を飲み、次の仕事について相談し、時にはくだらない賭けで銅貨を奪い合う。そんな、いつもと変わらない光景である。
その一角で、マイア・アルトリアは難しい顔をしていた。
月光を宿した金色の長髪。透き通るような肌に、長い耳。見る者すべてを魅了するほどの美貌を持つエルフの女性は、かつて月の勇者と呼ばれた伝説の弓使いである。手にしているのは、月の紋章を宿す神器アルテミスの弓。精霊魔法にも秀で、かつては魔王軍との戦いで幾度となく人類を救った英雄だった。
もっとも、現在の彼女を知る者が、かつての勇者の威厳をどこまで感じ取れるかは疑問である。
「……問題です」
マイアは卓上に広げた依頼書を指先で叩いた。
「我々のパーティーには、重大な欠陥があります」
「欠陥、ですか?」
向かいに座るアリステラが、小首を傾げた。
リーキスト教の聖導女である彼女は、穏やかな物腰と慈愛に満ちた眼差しを持つ女性だ。小さな教会と孤児院を運営している。かつて孤児院の維持のため強欲な商人と貴族に慰み者にされていたところを昴たちに救われた経験があり、今ではパーティーに加わっている。
その隣では、アルキュオネーが腕を組んでいた。
滅亡したルシリオン王国の第三王女にして聖騎士。高貴な生まれに相応しい気品と、戦場で磨き上げた剣技を兼ね備えた女性である。祖国を失った彼女にとって、今の仲間たちは新たな家族にも等しかった。
「戦力の不足でしょうか。確かに、最近は強力な魔物の討伐依頼も増えていますが」
「違います。私たちには前衛がいる。アルキュオネーがいる。メローぺもいる。アリステラの治癒と神聖魔法もある。そして、昴の和弓、なんと言っって私には最強のアルテミスの弓と美しい精霊魔法があります」
「自分の説明だけずるくない」
天童昴が呟いた。
黒髪の少女は椅子に浅く腰掛け、湯気の立つ紅茶を飲んでいる。異世界に転生した彼女は、おかされ戻りの権能という特異な力を持っていた。男に犯されれば時間を遡ってやり直すことができる。ただし、犯された屈辱も恐怖もなくなるわけではない。犯される事を前提にした戦いなど、彼女だって好きではなかった。
「私たちには戦士も聖職者も弓使いもいる。だが、専門の魔法使いがいません」
マイアは厳かに宣言した。
「つまり、魔法使いを仲間に加える必要があります」
「……今さら?」
昴が目を細めた。
「今さらとはなんですか、昴。物事とは常にニ手、三手先を読んで行うものです。ご利用は計画的にです。」
「その台詞、さっき受付嬢に借金の返済を迫られたときに言われてなかった?」
「それとこれとは話が別です!」
マイアは胸を張った。
そして、次の瞬間には小さく咳払いをして、上品に微笑んだ。
「……まあ、要するにですね。魔法使いが必要なのです。特に、古代魔法や大規模な結界術、広域攻撃魔法に精通した人物がいれば、今後の冒険が格段に安全になります」
「そんな都合のいい魔法使い、すぐに見つかるものなのか?」
メローぺが問いかけた。
元ドルガルド連邦の魔剣士である彼女は、卓上に置いた魔剣 雪月花の柄を指で軽く叩いていた。魔剣を扱う技量は一流だが、魔術師としての専門教育を受けているわけではない。剣に宿る魔力を引き出すことと、戦場全体を支配する魔法を操ることは、似ているようでまったく異なる技術だった。
マイアは、待っていましたとばかりに顔を輝かせた。
「います」
「いるのかよ」
「私の知り合いに、とんでもない魔法使いがいます。青の魔導士、カリュプソー・オーギュギアー。ホビット族の大魔法使いで、年齢は二百十三歳。古代魔法の研究者であり、結界術と水属性魔法に関しては、現代最高峰のひとりといっても過言ではありません」
アルキュオネーが、わずかに目を見開いた。
「青の魔導士……。その名なら、私も聞いたことがあります。王宮の魔術師たちが、伝説の人物として語っていました」
「当然です。あの子は天才ですから」
マイアの表情が、ふっと柔らかくなった。
「昔、一緒に旅をしたことがあるんですよ。私が勇者パーティーにいたころの仲間です。頭が良くて、真面目で、魔法のことになると何日でも寝ずに研究してしまう子で……」
「その説明だけ聞くと、かなりまともな人に思えるけど」
「ええ、まともです。私と違って」
「自覚はあるんだな」
「失礼ですね、昴。私は由緒正しき月の勇者ですよ?」
「その由緒正しき月の勇者は、昨日、酒場のツケを踏み倒そうとして店主に怒られてたけど」
酒場の片隅で、アリステラが小さく笑った。
しかし、マイアはすぐに真剣な表情に戻った。
「……でも、カリュプソーは少し心配です」
その声の調子が変わったことで、仲間たちも静かになった。
「心配?」
アルキュオネーが尋ねた。
「ええ。最後に会ったのは、もう何年も前です。あの子は研究に没頭すると、食事も忘れてしまうことがある。私が無理やり連れ出して、甘いものを食べさせたりしていたんですよ」
「お前が保護者だったのか?どうせ面倒見られてたんだろう?」
「失礼な。あのころの私は、今よりずっと立派な勇者でした!」
「今よりずっと酒を飲んでいなかった、の間違いじゃない?」
「昴。あとで少しお話ししましょうか」
マイアは笑顔で言った。
その笑顔には、月の勇者として数々の魔物を葬ってきた者の凄みがあった。
昴は黙って紅茶を飲んだ。
「ともかく、まずは彼女に会いに行きましょう。事情を話せば、きっと力を貸してくれます。カリュプソーは少々融通が利かないところがありますが、根は優しい子ですから」
そう言ってマイアは立ち上がった。
このときの彼女は、まだ知らなかった。
かつての親友が、今どこで、どんな境遇に置かれているのかを。
そして、その再会が単なる仲間集めでは済まないことを。
カリュプソー・オーギュギアーは、辺境の伯爵領にある古い館に幽閉されていた。
王都から遠く離れた山間部。街道からも外れた森の奥に、その館は建っている。周囲には高い石壁が巡らされ、門には武装した私兵が立ち、敷地内には侵入者を感知する魔術結界が幾重にも張り巡らされていた。
館の主人は、カリオストロ伯爵。
王立魔術院から追放された錬金術師であり、各地の貴族社会では変わり者として知られる男だった。錬金術の研究に人生を捧げ、常識も倫理も、研究の邪魔になるものは片端から切り捨てる。人体を使った実験や、禁じられた魔術器具の開発に手を出したという噂も絶えない。
その一方で、財産と知識だけは途方もなく豊かだった。
彼が所有する館には、古代文明の遺物や貴重な魔術書、王国の研究機関ですら保管できない危険な呪具が集められている。
そして、その館の最上階。
陽当たりのよい南向きの部屋に、カリュプソーはいた。
「……また、お茶の時間が遅れています」
小さな魔法使いは、窓辺の椅子に腰掛けて頬を膨らませた。
黒い長髪。澄んだ青い瞳。金糸の刺繍が施された黒紫色の三角帽子。漆黒のマントは丁寧に手入れされ、古びた杖も傍らに置かれている。
年齢は二百十三歳。
見た目だけなら、まだ少女と呼ばれても不思議ではない。
けれど、その可憐な外見の下には、歴史に名を残す大魔法使いの知性と魔力が眠っている。
……本来ならば、だ。
カリュプソーの左手首には、黒い金属製の腕輪が嵌められていた。
腕輪の表面には、細かな呪文がびっしりと刻み込まれている。そこから伸びる細い鎖は、彼女の魔力の流れを絶えず乱し、膨大な魔力を体内に封じ込めていた。
彼女が魔法を使おうとすると、腕輪の刻印が赤黒く光り、全身を激しい痛みが駆け抜ける。
単純な魔力封じではない。
彼女の魔力の流れを解析し、最も効率よく能力を奪うよう設計された、極めて悪質な呪具だった。
この腕輪を作ったのは、カリオストロ伯爵本人である。
そして彼は、この呪具をカリュプソーに装着させたことを、少しも悪いとは思っていなかった。
「カリュプソー様。カリオストロ伯爵がお見えになりました」
侍女が扉の外から声をかけた。
「……どうぞ」
扉が開き、仕立てのよい衣服を着た中年の男が入ってきた。
豊かな髭。整えられた髪。知的な顔立ち。柔らかな微笑み。
社交界に出れば、教養ある紳士として振る舞うことのできる男だった。
「おお、カリュプソー。今日も美しいね」
「ありがとうございます、伯爵。でも、お茶の時間が遅れています」
「それはいけない。君を待たせるとは、今日はとっておきのりんごが入ったのでね。アップルパイを作らせているんだよ。厨房の者たちも困ったものだ。急がせよう」
「あと、昨日お願いした魔術書ですが」
「ああ、あれか。もちろん用意してあるとも。君が興味を持ちそうな古代ルシリオンの文献を三冊、取り寄せておいた」
カリュプソーの顔がぱっと明るくなった。
「本当ですか?」
「もちろんだとも。君のためなら、どんな希少本でも手に入れてみせよう」
伯爵は満足げに笑った。
彼がカリュプソーを初めて見たのは、数年前のことだった。
とある魔術師の研究会に招かれた彼は、そこで古代魔法について講演する彼女の姿を目にした。小柄で愛らしいホビットの魔法使いが、並み居る高名な魔術師たちを相手に、誰も解明できなかった古代術式の欠陥を次々と指摘していく。
その知性に、彼は魅了された。
そして、休憩時間に甘い焼き菓子を頬張りながら、渋い顔立ちの年配の魔術師を相手に、いかにも無邪気な少女のように振る舞っている彼女を見て、完全に心を奪われた。
彼女は優れた魔術師だった。
それ以上に、彼の目には、誰よりも愛らしい存在として映った。
彼は考えた。
こんな素晴らしい才能を持った女性が、危険な冒険に身を投じる必要などあるのだろうか。
野蛮な冒険者たちと行動を共にし、魔物に襲われ、傷つき、命を落とす危険を冒す必要などあるのだろうか。
彼女ほどの才能なら、研究室で安全に暮らしながら、好きなだけ研究を続ければいい。
彼女が望む本も、食事も、衣服も、何でも与えよう。
外の世界の危険から、彼が守ってあげればいい。
そうすれば、彼女は永遠に自分の手の中で、愛らしい笑顔を浮かべてくれる。
それは彼にとって、疑いようのない愛情だった。
だからこそ、カリュプソーが自由を求めたとき、彼は理解できなかった。
『伯爵、私は冒険者です。仲間たちのところへ帰らせてください』
彼女は何度もそう訴えた。
そのたびに伯爵は、穏やかな声で答えた。
『危険だよ、カリュプソー。君は自分の価値を理解していない。君のような才能ある魔術師が、くだらない依頼で傷つく必要はないんだ』
『私がどんな仕事をするかは、私が決めます』
『君は賢い。だからこそ、私の言うことが分かるはずだ』
話し合いは平行線だった。
やがて伯爵は、彼女の魔力を封じる呪具を完成させた。
彼はカリュプソーを殺すつもりなどなかった。傷つけるつもりさえ、本人の認識ではなかった。
ただ、逃げられないようにする。
自分の魔法で抵抗できないようにする。
そして、危険な外の世界へ戻れないようにする。
彼にとって、それは保護の一環だった。
歪んでいるという自覚はない。
むしろ彼は、自分ほど彼女を大切にしている人間はいないと信じていた。
「カリュプソー。君はここで、何も心配せずに暮らせばいいんだ。研究に必要なものは、すべて私が用意する。君が望むなら、専用の研究棟だって建てよう」
「……伯爵」
「何かな?」
「私は、お菓子と本だけあれば幸せというわけではありません」
カリュプソーは静かに告げた。
「私は、自分の足で歩きたいんです。自分の意志で、行きたい場所へ行きたい。会いたい人に会いたいんです」
伯爵の微笑みが、わずかに固まった。
「……また、その話か」
「何度でも言います。私はここを出ます」
「君は、外の世界の恐ろしさを知らない」
「知っています」
カリュプソーの青い瞳が、まっすぐに彼を見つめた。
「私は二百十三年、生きてきました。魔物にも、戦争にも、裏切りにも、死にも、何度も向き合ってきました。危険だからという理由で、誰かに人生を決められるつもりはありません」
伯爵は黙り込んだ。
彼の表情から笑みが消え、代わりに、深い悲しみのようなものが浮かんだ。
「……君は、どうして私の気持ちを分かってくれないんだろうね」
「伯爵の気持ちは、分かります」
彼女は、少しだけ声を和らげた。
「でも、伯爵の望みを叶えることと、私が幸せになることは、同じではありません」
その言葉に、伯爵はしばらく動かなかった。
第二章 歪んだ鳥籠の夜
沈黙が部屋を満たした。
窓の外は夕暮れ。山間の空は濃い紫に染まり始め、館の周囲の森が黒い影を落としている。
伯爵の表情から笑みが消えたままだった。深い悲しみのようなものが浮かんでいたが、それは瞬く間に別の感情へと変貌した。執着。焦燥。そして、どうしようもない独占欲。
「…私の気持ちが分かると言ったね、カリュプソー」
伯爵の声は低かった。
穏やかだった響きが、どこか擦れた音を含んでいる。
「分かっているのなら、なぜ私をこれほど苦しめるんだ?」
「っ……」
カリュプソーは一歩退こうとした。しかし、椅子の背もたれがそれを許さない。
伯爵の腕が伸びた。
小さな彼女の体を、力強く抱きしめた。
「伯爵っ……!」
「君は、自分がどれほど危うい存在か分かっていない。外の世界には、君の力を利用しようとする者ばかりだ。私だけが、君を本当に大切に思っているのに」
耳元で囁かれる声は熱を帯びていた。ワインの香りと共に吐息が肌にかかる。
「カリュプソー……また君は私の愛がわかっていないね」
彼の唇が、彼女の唇を塞いだ。
「んっ……!」
今度の口づけは、昼間のものとは違っていた。
丁寧さは残しつつも、どこか飢えたような激しさがある。伯爵の舌が強引に彼女の口腔を侵食し、歯列をなぞり、逃げる彼女の舌を追い詰める。
カリュプソーは抵抗しようと両手を伯爵の胸に押し当てた。しかし、魔力を封じられた体は力が入らず、むしろその抵抗さえも彼を煽る結果になった。
長い長い口づけが終わると、カリュプソーは息を切らしていた。視界がわずかに潤む。
「……っは……」
「顔が赤いよ、カリュプソー」
伯爵は彼女の濡れた唇を親指で拭った。その指先は震えていた。
「私の愛が、言葉だけでは伝わらないのなら……体で伝えるしかないだろう?」
伯爵の指先が、彼女の黒紫色の三角帽子を外した。
黒髪がふわりと肩に落ちる。
次にマントの留め金。
上着のボタン。
一つずつ、丁寧に。
焦らすように。
布地が滑り落ちる音だけが、静かな部屋に響いた。
薄明かりの中に晒されたカリュプソーの肌は、雪のように白かった。
ホビット族特有の小柄で華奢な体。未成熟な曲線は少女のまま時を止めたかのようで、淡い桜色の乳首だけが、彼女の羞恥と怯えを物語るように硬く尖っていた。
伯爵の視線が彼女の全裸を舐めるように這う。
その眼差しには明らかな情欲があったが、同時にガラス細工を扱うような慎重さも宿っていた。
「……美しい」
伯爵の大きな手のひらが、彼女の肩に触れた。
滑らかな肌の感触を楽しむように、ゆっくりと下滑りしていく。
「っ……やめ……」
カリュプソーは身をよじって逃れようとした。しかし伯爵の手は彼女の腰を抱き寄せ、逃げ場を奪う。
「君は何も心配しなくていい。私がすべて教えるから」
伯爵の唇が、彼女の首筋に落ちた。
耳の裏。鎖骨。そして小さな乳房の頂へ。
「あっ……!」
乳首を舌先で転がされた瞬間、カリュプソーの背筋に電流のような快感が走った。
拒絶しようとする理性とは裏腹に、体がビクンと大きく跳ねる。
伯爵の愛撫は極めて繊細だった。
長年の研究で培った指先の感覚は、彼女の体のどこが弱いかを正確に探り当てる。乳首を唇で挟み、舌の腹で押し潰すように刺激する。空いた手はもう片方の乳房を優しく揉みしだき、指先で乳首をつまんで転がす。
「んっ……あっ……や……っ」
カリュプソーの口から甘い喘ぎが漏れた。
自分の声ではないかのような。どこか遠くから聞こえるような。
いけない。
頭の片隅で警告音が鳴る。
これは犯罪だ。凌辱だ。許してはいけない。
なのに。
体の奥が熱い。
伯爵の手が触れるたびに、芯が溶かされていくようだ。
熟練した男のテクニック。愛撫の順番。力加減。すべてが計算され尽くされている。彼女の体が快楽に慣れていないことを知り尽くした上で、少しずつ、確実に性感を高めていく。
伯爵の手がさらに下へ滑った。
下腹部。そして秘所へ。
「いやっ……!」
カリュプソーは反射的に足を閉じようとした。だが伯爵の膝が割り込んできて、それを許さない。
「濡れているね」
伯爵の指が割れ目に触れた。
秘裂は既に蜜を溢れさせている。
「ちが……これは……っ」
「嘘をついても無駄だよ。君の体は正直だ」
伯爵の指が秘唇を割り開き、濡れた秘所をゆっくりと撫で上げる。
上下に。左右に。時折硬くなったクリトリスを避けるように焦らしながら。
「あっ……んっ……くっ……」
カリュプソーの腰が無意識に揺れた。
指に追いかけるように動いてしまう。
伯爵は満足げに微笑み、今度はクリトリスに指を這わせた。
指先で優しく撫でながら、時折軽く弾く。
「ひっ……!ああっ……!」
過敏な部分への刺激に、カリュプソーの体が反り返った。
細い指先がシーツを掴む。
「感じるだろう?カリュプソー。これが愛だよ」
伯爵は耳元で囁きながら、中指を秘所にゆっくりと挿し入れた。
「あぐっ……!」
異物感にカリュプソーが息を呑む。
しかしすでに潤んでいた秘所は抵抗なく彼を受け入れた。
伯爵の指が内部を探るように動き始める。
前壁の僅かに隆起した部分を見つけ出し、そこを重点的に刺激する。
「あっ……ああっ……そこ……っ!」
カリュプソーの喘ぎ声が高くなった。
頭が真っ白になる。
思考が溶けていく。
拒絶しなければならないのに。
逃げなければならないのに。
体だけが快楽に溺れていく。
「どうだい?気持ちいいだろう?」
伯爵は指の動きを速めた。
同時に親指でクリトリスを擦り上げる。
「あっ!ああっ!いやっ……!あああっ!」
カリュプソーの体が激しく痙攣した。
爪先が伸びきり、背中が弓なりになる。
絶頂だった。
拒絶の言葉は喘ぎに変わっていた。
体は裏切っていた。
伯爵は絶頂に震える彼女を抱きしめ、耳元で愛を囁き続けた。
「カリュプソー……愛しているよ」
そしてカリュプソーは気づいた。
体の奥深くが、空っぽではなくなっていることに。
もっと欲しいと渇望していることに。
伯爵の熱を。
彼の猛りを。
「……お……ねが……い……」
掠れた声が口から漏れた。
「ん?なんだい?」
伯爵は優しく問いかけた。
「……入れて……ください……」
カリュプソーの青い瞳が潤みながら伯爵を見上げた。
理性の光は消え失せていた。
あるのはただ、快楽に歪んだ顔と、渇望だけ。
伯爵は微笑んだ。
歪んだ勝利の笑みだった。
「いいよ。カリュプソー」
彼は自身を解放し、彼女の足を大きく開かせた。
「私の愛を受け取ってくれ」
そして一気に貫いた。
「ああああっ!!!」
カリュプソーの悲鳴と喘ぎが重なり鳥籠の中に響き渡った。
「ああっ…!あ…ああっ…!」
伯爵の質量がカリュプソーの内部を押し広げていく感覚に、彼女の背筋が反り返った。
小柄なホビット族の体には大きすぎるほどの異物が、彼女の最も深い場所を侵食していく。
伯爵は一度奥まで達すると、すぐに動き始めなかった。
彼の熱が彼女の内部に馴染むのを待つように、じっと抱きしめている。
「…全部入ったよ、カリュプソー」
耳元で囁かれた声に、カリュプソーは小さく震えた。
「私の愛のすべてが、君の中にある」
「っ…う…」
返す言葉はない。
ただ内部が満たされる感覚だけが、彼女の思考を白濁させていく。
伯爵がゆっくりと腰を引いた。
粘膜が擦れ合い、熱い塊が引き抜かれていく感覚に、カリュプソーの体が無意識に彼を求めて収縮する。
「んっ…!」
そして再び、深く突き上げられる。
「あぐっ…!」
最初の数回はゆっくりとしたストロークだった。
カリュプソーの小さな体を壊さないように。彼女の未熟な秘所が彼を受け入れる練習をするように。
伯爵は彼女の反応を一つ一つ確かめながら、ピストンの深さと角度を調整していく。
「ここかい?」
「ひっ…!ああっ…!」
ある角度で突かれた瞬間、カリュプソーの体が大きく跳ねた。
彼女の一番敏感な場所を見つけ出した伯爵は、満足げに微笑んだ。
「見つけたよ」
そこからは執拗だった。
伯爵はその一点を狙い撃ちするように腰を打ち付ける。
決して激しくはない。むしろ丁寧で、じっくりとしたストローク。
しかし確実に彼女を追い詰めていく。
「あっ…あっ…そこ…っ!や…ああっ!」
カリュプソーの喘ぎ声が高くなっていく。
伯爵の肩にしがみつく指先が白くなる。
伯爵はピストンを続けながら、片手で彼女の乳首を弄った。
指先でつまみ、転がし、時折強く摘んで引っ張る。
「んくっ…!ああっ…!」
上下からの同時攻めに、カリュプソーの思考がさらに溶けていく。
拒絶する理性の残骸が快楽の波にさらわれていく。
「カリュプソー…君の中は熱いね。私をこんなに締め付けて」
耳元で囁かれる言葉が、さらに彼女を追い詰める。
「いや…ちが…っ!ああっ!」
否定しようとする言葉は喘ぎに変わる。
体は正直だった。伯爵を受け入れ、彼を求めて収縮を繰り返す。
「素直になりなさい。君は私を求めているだろう?」
「っ…!ああっ!あっ!あっ!」
限界が近かった。
下腹部に熱い塊が凝縮されていく感覚。痺れるような快感が全身を駆け巡る。
「いっ…いくっ…!あああっ!!」
カリュプソーの体が弓なりに反り返り、激しく痙攣した。
絶頂だった。
視界が白く弾ける。
頭の中が真っ白になる。
しかし伯爵は止まらなかった。
「終わりじゃないよ、カリュプソー」
絶頂に震える彼女の内部で、伯爵はさらに腰を動かし続けた。
絶頂で収縮した内壁を無理やりこじ開け、敏感になった粘膜を擦り上げる。
「ひっ…!いやっ…!あぐっ…!」
過敏になった体への刺激は強烈だった。
快感と痛みが入り混じった感覚に、カリュプソーの目から生理的な涙が溢れる。
「ああっ!やめっ…!ああっ!ああっ!」
伯爵のピストンは止まらない。
むしろ速度を増していく。
絶頂後の敏感な体を容赦なく追い立てる。
「まだまだ足りないだろう?私の愛はこんなものじゃない」
「いやっ…!もうっ…!ああっ!あああっ!!」
二度目の絶頂が押し寄せた。
体が痙攣し、意識が飛びそうになる。
しかし伯爵は許さなかった。
絶頂の波が去る前に再びピストンを再開する。
「カリュプソー…もっと感じてくれ。私の愛をもっと受け取ってくれ」
「ああっ!イク❤️ああっ!あああっ!!」
三度目の絶頂。
「も、、もうら、ぇええ、、いっ!えぐぅ、、❤️」
四度目の絶頂。
「もう、いくのやらぁ いぐぅ、いっじゃうううううっ!」
カリュプソーはもう何が何だかわからなくなっていた。
思考は完全に焼き切れている。
ただ快楽の波に翻弄されるだけの存在。
伯爵のものが出入りする感覚。
耳元で囁かれる愛の言葉。
乳首を弄られる刺激。
それらすべてが混ざり合い、彼女を壊していく。
「あっ…あっ…ああっ…!」
カリュプソーの口からは意味をなさない喘ぎだけが漏れ続けていた。
青い瞳は虚ろに天井を見上げている。
涙で濡れた頬。
汗で張り付く黒髪。
伯爵はそんな彼女を見下ろしながら、満足げに微笑んだ。
「美しいよ、カリュプソー。君は私のものだ」
そして彼もまた限界が近かった。
長時間の愛撫とピストンで蓄積された欲求が臨界点に達する。
「一緒にいこう、カリュプソー」
伯爵は腰を深く打ち付けた。
「イクッーーーーーーーーーー!ああああっ!!」
カリュプソーの体が再び大きく痙攣した。
同時に伯爵も彼女の最奥に欲望を吐き出した。
熱い飛沫が子宮を叩く感覚に、カリュプソーの意識は完全に闇に沈んでいった。
終わらない快楽の檻の中で。
彼女はただ溺れていくしかなかった。
やがてカリオストロ伯爵は、いつもの柔らかな笑顔を取り戻した。
「カリュプソー❤️可愛かったよ❤️今日はゆっくり休むといい」
「伯爵!」
「また明日、話そう」
そう言って、彼は部屋を出ていった。
扉が閉じる直前、彼は侍女に指示を出した。
「カリュプソー様が外へ出ることのないよう、十分に気を配りなさい。彼女が不自由を感じないよう、欲しいものはすべて与えるように」
「かしこまりました」
鍵が回る音がした。
カリュプソーは、窓の外に広がる森を見つめた。
「……マイア」
小さな声で、かつての親友の名を呼ぶ。
「あなたなら、こういうとき、どうするんでしょうね」
返事はない。
彼女の魔力は封じられている。
転移魔法も、結界を破る術も、得意だった水の魔法さえ、今は使えない。
窓から飛び降りることもできるだろう。
だが、ここは高い塔の最上階であり、敷地の周囲には監視の魔術が張り巡らされている。仮に館から脱出できたとしても、森を越え、辺境の街道に出るまでに捕まる可能性が高かった。
それでも、カリュプソーは諦めていなかった。
伯爵がどれほどの呪具を用意しようと、彼女の知性まで封じられたわけではない。
呪具の構造は、少しずつ理解し始めている。
ただし、ひとつだけ問題があった。
呪具を解除するには、封じられた魔力をほんの一瞬だけ解放しなければならない。
その瞬間、呪具は彼女の生命力を削り取るほどの反動を引き起こす。
失敗すれば、命を落としかねない。
「……困りましたね」
カリュプソーは、ため息をついた。
「こんなところで死んだら、マイアに一生笑われます」
そして、窓辺の机に置かれた菓子皿に目を向けた。
伯爵が用意させた、上等な焼き菓子だった。
「……でも、このお菓子は美味しいんですよねえ」
ひとつ手に取り、口に運ぶ。
甘い香りが広がった。
カリュプソーは、少しだけ泣きそうな顔で笑った。
「マイア。早く来てくださいね」
一方、そのころ。
マイア・アルトリアは、街道を進む馬車の中で、豪快にエールを飲んでいた。
「マイアさん、馬車が揺れていますから、もう少しゆっくり飲んでください」
アリステラが困ったように注意する。
「大丈夫、大丈夫。私は月の勇者ですよ? この程度の揺れで酔うものですか」
「お酒に酔うことと、馬車に酔うことは別だと思うぞ」
昴が冷静に指摘した。
「……昴。あなたは、どうしていつも私の威厳を損なおうとするんですか?」
「威厳が自分で酒瓶を抱えて寝落ちしなければ、こんなことにはならないと思う」
「うぐっ……」
マイアは言葉に詰まった。
そのとき、アルキュオネーが地図を広げた。
「カリオストロ伯爵の館までは、あと半日ほどです。ですが、気になることがあります」
「何ですか?」
「この伯爵の領地、どうも情報が少なすぎます。館の所在地は分かるのに、領内の町や村についての記録がほとんどない。しかも、周辺の冒険者ギルドには、伯爵邸への立ち入りを禁じる通達が出ているようです」
「立ち入り禁止?」
メローぺが眉をひそめた。
「貴族の屋敷なら、私有地への侵入を禁じるのは普通だろう。だが、わざわざ冒険者ギルドに通達するのは妙だな」
「ええ。さらに、数年前から伯爵邸に出入りしていた魔術師や錬金術師が、次々と姿を消しているという話もあります」
馬車の中に、沈黙が落ちた。
マイアの手から、エールの杯がゆっくりと下ろされた。
「……カリュプソー」
彼女の声から、酔いの気配が消えていた。
かつての親友は、危険な研究に身を投じることを恐れない。
しかし、他人の自由を奪うような行為を、決して許さない女性だった。
そんな彼女が、何年も姿を見せていない。
そして、魔術師の出入りが途絶えた館。
マイアの胸の奥に、嫌な予感が広がった。
「……急ぎましょう」
彼女はアルテミスの弓を手に取った。
「何があっても、カリュプソーを連れ帰ります」
その眼差しには、かつて月の勇者として戦場に立ったころの光が戻っていた。
「月に代わって制裁です」
昴は、小さく笑った。
「やっと勇者らしくなったな」
「当然です。私は月の勇者、マイア・アルトリアですから」
そう言い切った彼女は、次の瞬間、御者に向かって声を張り上げた。
「ところで、馬車を一体止めてください。さっきからなんだか気持ち悪くて、うげぇ、、おぇえええええええええっ!」七色の滝がエルフの口から迸る。
「マイアさん!」
「……やっぱり、いつものマイアさんだな」
昴は深いため息をついた。
こうして、伝説の魔導士を救い出すための旅が始まった。
だが、彼女たちが向かう伯爵邸では、すでにカリオストロ伯爵が来訪者の情報を手にしていた。
「月の勇者、マイア・アルトリア……」
執務室で報告書を読んだ伯爵は、静かに眼鏡を外した。
「カリュプソーの旧友か。なるほど、彼女を連れ戻しに来たというわけだね」
机の上には、館を囲む結界の配置図が広げられていた。
その隣には、カリュプソーの魔力を封じる呪具の設計図。
伯爵は、しばらく考え込んだあと、穏やかな声で命じた。
「客人として迎えなさい。丁重にね」
「しかし、伯爵。相手は月の勇者です。抵抗される可能性が……」
「構わない。私は彼女たちと話をしたいだけだ」
伯爵は微笑んだ。
「ただし、カリュプソーには会わせないように。あの子を外の世界へ連れ戻すなど、絶対に認められない」
彼は窓の外を見た。
森の向こうには、遠くから訪れる者たちの姿がある。
「私は、あの子を守っているだけなのだから」
その声には、嘘をついている者の自覚はなかった。
彼は本気で、そう信じていた。
だからこそ、この男は危険だった。
悪意を自覚する悪党なら、交渉もできる。利益を求める人間なら、条件次第で妥協もする。
だが、自分の歪んだ欲望を愛情だと信じ、それを相手の幸福よりも優先する人間は、どこまでも残酷になれる。
伯爵は彼自身の秘密の発明品を眺める。彼が私財を傾けて作った最高傑作だ。
「心配しなくていいよ、カリュプソー」
伯爵は誰もいない部屋で、優しく囁いた。
「君は何も知らなくていい。何も心配しなくていい。君を危険な世界へ戻そうとする者たちは、私がすべて追い払ってあげるから」
そして、彼は再び眼鏡をかけた。
その顔には、愛する者を守ろうとする紳士の微笑みが浮かんでいた。
辺境の館の窓辺では、青の魔導士が、遠い空を見つめていた。
彼女はまだ知らない。
かつての親友が、仲間たちを率いて、自分を迎えに来ようとしていることを。
彼女の知識を手に入れようと暗躍する者たちがいることを
そして、その再会が、二百十三年の人生の中でも、とりわけ厄介な事件の始まりになることを。
カリュプソー・オーギュギアーは、焼き菓子をもうひとつ手に取った。
「……マイア、あのポンコツ元気にしているかしら?」
小さな魔導士は、そう呟いて笑った。
「あなたは無駄に良い見た目と弓を抜いたら、どうしようもないポンコツなんですから!」
その声は、誰にも届かなかった。
けれど、彼女の胸には、ほんのわずかな希望が灯っていた。
⭐️歪んだ愛の砦
夜の帳が下りた山間に、異様な唸り声が響き渡った。
森の木々を揺らすほどの地響きと共に現れたのは、歪な肉体を持つ巨獣たちだった。獅子と山羊と蛇が不自然に融合したような姿。暗黒魔導団が魔導で生成した合成獣キュマイラである。その背には黒い法衣に身を包んだ魔導士たちが跨り、手には禍々しい呪符を掲げている。
「カリュプソー・オーギュギアーの知識と魔力を我らに寄越せ! さもなくば、この館もろとも灰燼に帰すぞ!」
先頭に立つ魔導士の叫びが夜空を切り裂く。彼らは百名ほどの狂信者からなる一団。古の禁忌に触れた知識を求め、手段を選ばぬ者たちだった。
館の正門前。
その脅威に立ち塞がったのは、カリオストロ伯爵に心酔する三人の戦闘メイドたちだった。
「伯爵様の静寂を乱す不届き者め!」
デネブと呼ばれた長身のメイドが、長槍を構えて吼える。栗色の髪を高高に結い上げ、その瞳には主への絶対的な忠誠が宿っている。
「おやめなさい。伯爵様のお心を煩わせるようなことはさせません」
アルタイルが双剣を抜き放ちながら冷静に告げる。銀糸のような髪が夜風に揺れ、その表情には冷徹な戦意が張り詰めていた。
「あたちのスイーツの時間を邪魔するなんて、許さないんだから!」
ベガが巨大なハンマーを軽々と振り回しながら飛び出す。小柄な体に似合わぬ怪力。三人は館の守護者として、日々鍛錬を積んできた精鋭中の精鋭だった。
「行きます!」
デネブの槍閃が闇を切り裂き、先頭のキュマイラの首を狙う。しかし、巨獣の皮膚は鋼鉄よりも硬く、槍の穂先は火花を散らすだけで弾かれた。
「硬いっ…!」
「アルタイル、ベガ! 連携で行くわよ!」
アルタイルの双剣がキュマイラの足元を薙ぎ、バランスを崩させようとする。その隙にベガのハンマーが叩き込まれる。重量級の一撃は地面を陥没させ、キュマイラの一頭をよろめかせた。
だが、敵の数は多すぎた。
「甘いな」
後方から冷笑が飛んだ。暗黒魔導士の一人が呪符を掲げると、キュマイラの傷口から黒い霧が噴き出し、瞬く間に修復されていく。
「再生魔法まで!?」
「我らが求めるは青の魔導士の知識。そのための生贄としては、お前たちで十分だ」
魔導士たちの手から黒い光が放たれた。それは鞭のようにしなやかに伸び、メイドたちの手足を絡め取る。
「くっ…離して!」
デネブが槍で光の鞭を断ち切ろうとするが、切断面からさらに蔦のように伸びていく。アルタイルも双剣で応戦するが、多勢に無勢。魔法の拘束は次第に三人を追い詰めていった。
「ああっ…!」
ベガがハンマーを取り落とし、地に押し倒された。黒い光の蔦が彼女のメイド服を切り裂き、白い肌を露わにする。
「やめて…何をするの!」
デネブもまた背後から羽交い絞めにされ、槍を奪われた。魔導士の荒い息遣いが耳元にかかる。
「いい体だ。青の魔導士への手土産として楽しむ前に、少しばかり楽しませてもらおうか」
「伯爵様に…不敬な口を…!」
アルタイルが必死に抵抗するが、数人の魔導士に四肢を押さえつけられ為す術がない。メイド服がまくり上げられ、男たちの手が彼女たちの最も隠された部分へと伸びていく。
「いやっ…!伯爵様!」
デネブの悲鳴が夜気に溶けた。下着が乱暴に引き裂かれ、粗野な指先が秘所を蹂躙する。
「くうっ…!」
アルタイルも唇を噛み締めながら屈辱に耐える。男たちの欲望が彼女たちの尊厳を傷つけようとしていた。
館の最上階。
その惨劇はカリュプソーの部屋からも見下ろせた。
「あれは…」
窓辺のカリュプソーは青ざめた。庭園で繰り広げられているのは明らかな暴力と凌辱。そしてその先頭集団は、まっすぐにこの館へと向かっている。
彼女を狙っている。
デネブたちが必死に食い止めているが、いずれ限界が来るだろう。そうなれば彼女のもとへ敵が押し寄せる。
「私のせいで…」
左手首の呪具が冷たく光る。この中に閉じ込められた魔力があれば。いや、今はそれを考える場合ではない。彼女の命と知識を狙う者たちがそこまで来ているのだ。
廊下を急ぐ足音がした。
扉が開くと、カリオストロ伯爵が立っていた。その顔にはいつもの穏やかな笑みはなく、深い憤りと焦燥が刻まれていた。
「カリュプソー。ここにいてくれてよかった」
「伯爵…外は…」
「見てはいけない」
伯爵は強い口調で言い、彼女の手を取って窓から遠ざけた。
「彼女たちが…デネブたちが…!」
「知っている。だが君はここにいるんだ。絶対に外へは出さない」
伯爵は彼女を背後に庇うように立った。その背中は小刻みに震えていた。怒りか、恐怖か。あるいはその両方か。
「君を危険な目に遭わせるわけにはいかない。絶対にだ」
伯爵は呟くように言った。その声には狂気にも似た執着が滲んでいた。
廊下から侍女の悲鳴が聞こえた。館の内部にも敵の侵入者が迫っているらしい。
伯爵はカリュプソーの方を向き直った。そして彼女の手を取り、恭しく口づけた。
「待っていてくれ、カリュプソー。私がすべて片付ける」
伯爵は部屋を出ようとした。
「伯爵!」
カリュプソーが呼び止めた。
「…何だい?」
伯爵は振り返らずに答えた。
「無茶です!ただの錬金術師でしょう?」
伯爵の背中で小さな笑い声が漏れた。
「ただの錬金術師さ。ただし…君のためなら神をも殺せる錬金術師だ」
廊下に面した壁際に置かれていた巨大な木箱。伯爵はその前に立つと、両手をかざした。
「装填(ロード)」
木箱の表面に描かれた魔方陣が赤黒く輝き始める。箱が自ら開き、中から蒸気のような霧と共に何かが飛び出してきた。
それは鎧だった。
いや、鎧というにはあまりに異形だった。
白銀と黄金で彩られた外骨格。背中には翼のように展開する魔力放出器官。両腕には圧縮された魔力を撃ち出す砲門。そして全身には古代神話に語られる守護獣の意匠が施されている。
神装外骨格《アイギス》
カリオストロ伯爵が私財を傾け、禁忌の技術をもって完成させた対魔導兵装。魔力を動力源とし、装着者の筋力・耐久力・反射神経を神話級へと強化する究極の外骨格システムだった。
「来い、《アイギス》」
外骨格が空中で分解し、伯爵の身体に次々と装着されていく。金属と金属が噛み合う重厚な音が廊下に響き渡った。
最後に顔面を覆うバイザーが下りた瞬間、伯爵の気配が一変した。
ただの知的好奇心に満ちた中年男から、戦場を統べる鋼鉄の魔神へと。
「行くぞ」
鋼鉄の巨人は廊下を蹴り、一気に階段を駆け下りた。
館の玄関ホール。
そこには数名の暗黒魔導士と二体のキュマイラが侵入していた。犯された侍女たちの姿が見える。そして床には引きずられた痕跡。デネブたちが連れ去られたのは間違いなかった。
「貴様ら…」
鋼鉄の声が響いた。《アイギス》の音声変換機能により伯爵の声は低く歪んでいた。
魔導士たちが振り返る。
「なんだその奇妙な鎧は?」
「カリオストロか? 大人しく青の魔導士を渡せば命だけは助けてやるぞ」
「渡す? カリュプソーを?」
バイザーの奥で伯爵の目が据わった。
「私のカリュプソーを? この私だけが触れていい彼女を? 貴様らごとき下等な生物がその名を口にすることすら許さん!」
伯爵は右腕を掲げた。砲門に圧縮された魔力が充填され高周波の音が鳴り響く。
「消えろ」
閃光が走った。
放たれた魔力弾は一直線に伸びキュマイラの一頭を直撃した。巨獣の胴体には風穴が開き再生する暇さえ与えずに消し飛ぶ。
「なっ…!」
残った魔導士たちが狼狽える。《アイギス》の出力は彼らの想定を遥かに超えていた。
「化け物め!」
魔導士たちが一斉に攻撃魔法を放つ。炎と雷と氷の嵐が《アイギス》を包み込む。
しかし伯爵は動じなかった。外骨格の表面に展開された結界がすべての魔法を無効化する。
「無駄だ。《アイギス》の結界は古代神話における神域の守りを再現したもの。貴様らの程度の魔術など蚊程にも感じん」
伯爵はゆっくりと歩み寄った。圧倒的な質量を持つ足音一つ一つが魔導士たちの恐怖を煽る。
「やめろ! 来るな!」
叫びながら後退する魔導士に伯爵は左腕を伸ばした。外骨格の手甲から鋭い爪が展開し魔導士の首を掴み上げる。
「デネブたちはどこだ? 私のメイドたちに何をした?」
「し…知らん! 他の者たちが…」
「そうか」
伯爵は握りしめた。鈍い音と共に魔導士の首が歪み事切れた。
死体を無造作に投げ捨て伯爵は残る敵を見据えた。
残るキュマイラ一体と魔導士数名。
「逃げろ!」
魔導士たちが散り散りに逃げ出そうとする。しかし《アイギス》の機動力は彼らより遥かに勝っていた。
背中の翼状器官から魔力が噴出し伯爵は一瞬で彼らの頭上へ跃った。
「逃がすとでも?」
空中からの一撃。拳に込められた衝撃波が地面ごと魔導士たちを砕いた。
最後に残ったキュマイラが咆哮を上げ伯爵に突進する。
伯爵はそれを正面から受け止めた。
巨獣の突進を受け止めたまま数メートル後退しただけで足は止まった。
「私のカリュプソーを怖がらせた罪は重いぞ」
両手でキュマイラの牙を掴み無理やりこじ開ける。金属音と共に巨獣の顎が限界を超えて引き裂かれた。
断末魔の叫びと共にキュマイラが崩れ落ちる。
館の中は静まり返った。
倒れた敵の中からうめき声が聞こえるだけだった。
伯爵は《アイギス》を解除した。疲労で膝をつきそうになるのを必死に堪える。出力に対する反動は大きかった。だが今は休んでいる場合ではない。
庭園へ出た。
そこには惨憺たる光景が広がっていた。
デネブとアルタイルとベガは庭木の下で倒れていた。衣服は裂かれ体には陵辱の痕跡が生々しく残っている。彼女たちは意識を失っていたが息はあった。
伯爵は一人一人に近づき上着を掛け丁寧に抱き上げた。
「すまない…私のせいだ…」
彼の頬を涙が伝った。
戦闘メイドたちはただ主を守ろうとしただけだった。それなのにこの仕打ち。
自分の弱さと非力さを呪った。もっと早く出ていれば。もっと強力な結界を張っていれば。
だが同時に胸の奥で何かが燃え上がっていた。
カリュプソーを守れたという事実。
自分だけが彼女を守れるという確信。
歪んでいると分かっていてもそれが彼にとって唯一無二の歓びだった。
部屋へ戻るとカリュプソーは窓辺で震えていた。
「伯爵…!」
彼女は駆け寄り伯爵のコートに縋りついた。血と泥と硝煙の匂いがした。だが彼女は気にせず抱きついた。
「無事だったか…カリュプソー…」
伯爵は彼女の小さな体を強く抱きしめた。
「怖かった…あなたが行ってしまったらもう会えないような気がして…」
カリュプソーの言葉に伯爵の心臓が跳ねた。
「…私もだよ」
伯爵は震える声で答えた。
「君を失うことが一番怖いんだ」
彼は彼女を見つめた。その目には狂気と愛情がない交ぜになっていた。
「これからも私が君を守る。何からも。誰からも。たとえ世界全部を敵に回そうと君だけは守り抜く」
それは甘い囁きであり同時に恐ろしい宣言だった。
カリュプソーにはその言葉の危うさが分かっていた。彼は自分のためなら何でもする男だと。それが正しいことかどうかなんて関係なしに。
⭐️月下の決闘、そして愛の檻
昴達がカリオストロの館に着いたのは、まさに暗黒魔道師たちが襲撃を開始してしばらくのことだった。
結果的に彼らの襲撃が昴たちが館に侵入できる露払いになった。
館の最上階。カリオストロ伯爵がカリュプソーを抱きしめ、歪んだ愛を囁いたその時だった。
窓ガラスが轟音と共に粉砕された。
硝煙と夜風が舞い込む中、月光を浴びて輝く金髪のエルフが舞い降りる。
「カリュプソー!」
マイア・アルトリアだった。アルテミスの弓を構え、その美貌に怒りの色を滲ませている。
「マイア…!」
カリュプソーが伯爵の腕の中で息を呑む。
続いて窓からアルキュオネーとメローペが飛び込み、扉が蹴破られてアリステラとスバルが突入した。
「カリオストロ伯爵!カリュプソーを返してもらうぞ!」
アルキュオネーが光翼剣《ルクス・レギナ》を突きつけ宣告する。
「…やはり来たか、月の勇者」
伯爵はカリュプソーを背に庇いながらゆっくりと振り返った。その瞳には狂気と殺意が渦巻いている。
「君たちは理解していない。私がどれほど彼女を愛しているかを。外の危険な世界から守り抜いているかを」
「守る?魔力を封じ、自由を奪うことを守ると言うの!?」
マイアが叫ぶ。
「お前こそ分かっていない!あの子は冒険者なのよ!自分の足で歩き、自分の意志で生きることを選んだ人間なの!」
「黙れ!」
伯爵が吼えた。その声と共に床に置かれていた《アイギス》のパーツが浮遊し、再び彼の身体へ装着されていく。
「私の愛は絶対だ。それを否定する者には死を与えるのみ!」
白銀と黄金の魔神が再び顕現した。
「行くぞ!」
アルキュオネーが真っ先に斬りかかる。聖騎士の剣撃は速く重い。しかし《アイギス》の結界は火花を散らすだけで傷一つ付かない。
「通用しないか!ならば!」
メローペが横から魔剣・雪月花を叩き込む。三刃の剣技が結界を削ろうとするが、伯爵は片手でそれを掴み軽々と投げ飛ばした。
「小賢しい!」
伯爵の反撃は苛烈だった。右腕の砲門から放たれた衝撃波がメローペを壁まで吹き飛ばす。
「メローペさん!」
アリステラが治癒魔法を唱えようとするが、《アイギス》の干渉により魔力的な阻害を受け詠唱が阻まれる。
「神聖魔法ごときで私の結界を破れると思うな!」
伯爵はアリステラに向かって跳躍した。その一撃は彼女を庇ったスバルへと向けられる。
「昴!」
スバルはとっさに和弓で受け止めたが、圧倒的な質量差に骨が軋む。弾き飛ばされた彼女は床を転がり呻いた。
「くっ…なんてパワー…!」
圧倒的だった。《アイギス》の性能は彼女たちの想定を遥かに超えていた。
そして伯爵は勝負を決しに来た。
「お前たち全員、私のカリュプソーを汚す不浄な存在だ。その身に刻み込んでやろう。誰が彼女を守るに相応しいかを!」
伯爵の姿が消えた。加速しすぎて視認できない。
次の瞬間、アルキュオネーの身体が宙に浮いた。
「きゃあっ!」
彼女の剣を奪い取り結界ごと拘束する。装甲の手甲から伸びる魔力の触手が彼女の聖騎士の鎧を易々と引き裂いていく。
「やめろ!何をする!」
「お前のような傲慢な騎士には必要ない!屈服させねばならないのだ!」
触手が彼女の太腿をまさぐり秘所へ侵入する。
「ああっ!いやっ!やめろぉっ!」
アルキュオネーの口から悲鳴と共に甘い喘ぎが漏れる。プライドの高い聖騎士が触手に貫かれ翻弄される姿は凄惨だった。
「アルキュオネー様!」
アリステラが助けようと走るが別の触手に足を掬われ転倒する。すぐさま触手が彼女にも襲いかかり聖導女の法衣を剥ぎ取っていく。
「いやっ…お願い…やめて…ああんっ!」
慈愛に満ちた彼女の口からも快楽の声が溢れ出す。二つの聖なる存在が同時に穢されていく光景は悪夢のようだった。
メローペも復帰できず床を這う彼女に触手が絡みつき動きを封じる。
「くっ…離せ…!」
スバルもまた壁際へ追い詰められていた。目の前で仲間たちが犯されている光景に震えることしかできない。
そして伯爵はスバルの目の前に立ち塞がった。
「お前もだ、私の邪魔をする者には相応しい報いを受けてもらう」
バイザーの奥から冷たい視線が突き刺さる。触手がスバルの服を引き裂き幼い肢体を露わにする。
「いや…来るな…!」
抵抗も虚しくスバルは触手に貫かれた。
「あぐっ…!ああっ…!」
異物感と共に押し寄せる快楽。男に犯されるという行為。それが引き金となり彼女の中で異質な力が目覚めようとしていた。
(犯られ…戻り…)
意識が遠のきかけるその時だった。
「やめなさいっ!!」
絶叫と共に一本の矢が放たれた。
それは正確無比な軌道で《アイギス》の結界の綻びを縫いカリオストロ伯爵の方へ飛ぶ……のではなく彼が背後に庇っているカリュプソーの左腕へ向かったのだ。
正確にはその腕に嵌められた呪具の腕輪へ。
マイアは満身創痍でありながらも弓を構えていた。体中に傷を負い息も絶え絶えだがその瞳だけは燃えていた。
「外すわけにはいかないんだからぁぁぁぁ!」
放たれた矢は風切り音さえ立てず一直線に飛んだ。
カリンッ!
澄んだ音が響いた。
矢は砕け散ったがその矢尖は確かに腕輪の中心にある宝石を打ち砕いていた。
亀裂が走り黒い霧が噴き出す。
「あっ…!」
カリュプソーの身体から爆発的な魔力が解放された。
伝説の魔道士の大魔力だ。部屋全体が揺れ壁の装飾品が震え窓枠がきしむ。
「カリュプソー!魔力が戻ったのね!今よ!やっつけて!」
マイアが叫ぶ。
しかしカリュプソーは動かなかった。
目の前には仲間たちが触手に貫かれ喘ぎ声を上げている姿がある。そして伯爵が立っている。
彼女は迷っていた。この魔力を使えば伯爵を殺すことはできるかもしれない。しかし殺したくない。彼は歪んでいるけれど自分を愛してくれた人だ。
(どうすれば…)
カリュプソーは決断した。
彼女は両手を掲げた。その指先から溢れ出す魔力は攻撃的なものではなかった。それは彼女自身の命そのものだ。
「古代ガトランティス秘伝・存在消失(エクリプス)」
詠唱が始まった瞬間部屋の空気が凍りついた。
それは自殺魔法だ。自らの存在をこの世界から完全に消滅させる禁忌中の禁忌。魂ごと砕け散る。
「やめろ!カリュプソー!それは自殺魔法だぞ!」
伯爵が叫ぶ。《アイギス》の出力を最大にして彼女へ手を伸ばす。
しかしカリュプソーの周囲には絶対的な結界が張られていた。彼女自身の命を燃やして作り出した結界だ。どんな攻撃も触れることさえできない。
「カリュプソー!何をする気!?自殺なんてダメぇ!」
マイアも叫ぶ。
カリュプソーは静かに微笑んだ。その顔にはもう迷いはなかった。
「伯爵」
彼女は真っ直ぐに伯爵を見つめた。
「私は冒険者です。自分の足で歩いて自分の目で見て自分の手で触れる。それが私の生き方です」
詠唱は進んでいく。彼女の身体が半透明になり始めていた。
「お願いです伯爵。私を自由にしてください。私が行きたいところへ行かせてください」
伯爵の手が震えた。《アイギス》の手甲がきしむ音がする。
「そんな…私を置いていくというのか? 私だけが君を守れるのに…」
「守ってくれましたね。ずっと。私が気づかないところで」
カリュプソーの目から涙がこぼれた。
「でも檻の中の愛は私には重すぎます。私は空を飛ぶ鳥でいたいんです」
彼女は一歩踏み出した。半透明な一歩だ。
「いつか必ず帰ってきます。あなたの元へ。私が本当に見たいものを見て本当にしたいことをして、その時にまだあなたがまだ私を必要だと思えたら」
その言葉は約束だった。
伯爵は絶句した。彼女は自分を殺してでも自由になろうとしている。それほどまでに強い意志を持っているのだと初めて理解した。
そして彼女は「帰ってくる」と言った。
それは彼にとってどのような攻撃魔法よりも強烈でどのような結界よりも脆い言葉だった。
「カリュプソー、帰って来てくれるのか?」
伯爵は絞り出すように言った。
「私が安心し羽を休める場所はあなたの手の中です。」
カリュプソーは少しだけ悪戯っぽく笑った。
その笑顔を見た瞬間伯爵の中で何かが崩れた。
彼は《アイギス》を解除した。鎧が音もなく床に落ちる。
そして彼は跪いた。目の前で消えようとしている小さな魔法使いに向かって。
「自由になりなさい、行っておいで、我が最愛の魔女 カリュプソー」
その声は震えていた。
カリュプソーは詠唱を止めた。
半透明だった身体がゆっくりと元に戻っていく。命を燃やした反動で膝から崩れ落ちそうになった彼女をマイアが抱きとめた。
「マイア…」
「バカ!心配させないでよ!」
マイアは泣いていた。
カリュプソーは弱々しく微笑み伯爵の方を見た。
「ありがとうございます伯爵」
伯爵は答えなかった。ただ床に落ちた《アイギス》の手甲を見つめていた。
夜明け前。
館の前には馬車が停まっていた。
カリオストロ伯爵はカリュプソーのために発明品の蒸気馬車を用意してくれた。
カリュプソーは黒紫色の三角帽子を被り直し杖を手に取った。
マイアと腕を組みアルキュオネーやアリステラメローペそしてスバルに囲まれて馬車へ向かう。
デネブたちも手当を受け休んでいる。伯爵は彼女たちへの詫びとして最高の治療を約束していた。
カリュプソーは馬車に乗る前に一度だけ振り返った。
館の最上階の窓辺に伯爵の姿が見えた。
彼女は小さく手を振った。
伯爵もまた手を振り返したのかどうかは分からない。ただその窓辺の人影はずっとそこに立っていたようだった。
「行きましょうかみんな」
カリュプソーは言った。
「新しい冒険へ」
馬車が動き出す。
辺境の館は朝霧の中に消えていった。
しかしカリュプソーの胸には一つの約束が刻まれていた。
いつの日か再びこの館を訪れる日を。
その日まで彼女は自由な冒険者として生きるのだ。
自分の足で歩き自分の意志で選び自分の手で未来を掴むために。
出立は静かだった。
だがその静寂の中には新たな物語の幕開けとなる確かな足音が響いていた。
⭐️エピローグ おかえりなさい、マイア
冒険者ギルドの酒場は、昼下がりの平和な時刻を迎えていた。
窓から差し込む陽光が卓上のグラスを琥珀色に染め、どこか心地よい喧騒が広がりの中を漂う。依頼を終えた冒険者たちが報酬を数え、次の計画を練り合い、時に馬鹿げた賭けで銅貨を奪い合う。いつもと変わらない光景。
その一角で、マイア・アルトリアは卓に突っ伏していた。
「……死にました」
「死んでません。生きてます。起きてください、マイア」
カリュプソー・オーギュギアーが、困ったような顔で隣に座っている。黒紫色の三角帽子を小さく傾け、杖を膝に抱え、空になったグラスを卓の端に下げながら、ぐいっとマイアの肩を引っ張り起こした。
マイアの金色の長髪が卓に広がり、長いエルフの耳がぴくりと動く。昨夜のエールの空き瓶が三本、卓の下で転がった。
「カリュプソー……私はもうだめです……月の勇者としての威厳も、体面も、なにもかも……」
「最初からなかったでしょう、威厳なんて」
カリュプソーはきっぱりと言い放った。
「ひどい!親友に向かってひどいよカリュプソー!」
「事実を申しているだけです」
カリュプソーは悪びれもせず、侍女に紅茶を二つ注文した。それから懐から小さな包みを取り出し、卓の上に開いた。
アップルパイだった。
館から持ち出した伯爵の料理長が焼いた、極上の菓子。
「ほら、甘いものでも食べて少しはまともになってください」
「……カリュプソー」
マイアが涙目でアップルパイにかじりついた。咀嚼する間も涙がこぼれる。
「おいしい」
「当然です。伯爵の料理長の腕は確かですから」
その名が出た瞬間、カリュプソーの指が一瞬だけ止まった。だがすぐに何事もなかったかのように自分の分を口に運ぶ。
「……カリュプソー」
「何ですか」
「帰ってきてくれて、よかった」
マイアの声が、少しだけ素に戻った。
酒臭い、だらしない、だらだらした声。けれどその奥にあるのは、紛れもなく本心からの安堵だった。
カリュプソーは自分のアップルパイを噛みながら、窓の外に目をやった。冒険者ギルドの通りには、様々な種族の行き交う姿が見える。人間にエルフにドワーフにホビット。それぞれがそれぞれの目的を抱え、それぞれの足で歩いている。
自由な世界。
「……マイア」
「ん?」
「あなたが迎えに来てくれたから、帰ってこられたんですよ」
マイアはパイを飲み込んで、にへらっと笑った。
「当然です。私は月の勇者、マイア・アルトリアですから」
「その月の勇者が今、卓に顔をつけて寝落ちしていたのは内緒にしておきましょうね」
「カリュプソオオオ!」
カリュプソーは小さく笑った。
二百十三歳の大魔法使いが浮かべた笑顔は、どこかあの窓辺で焼き菓子をかじっていた少女のそれと同じだった。ただ一つ違うのは、その瞳の奥に微かな光が灯っていること。
希望のような、約束のような、淡い光。
「ねえ、マイア」
「何?」
「次の冒険はどこへ行きますか?」
マイアは空になったグラスを置き、大きく伸びをした。長い金髪が揺れ、陽光を受けて輝く。
「そうねえ……」彼女は悪戯っぽく目を細めた。「とりあえず、この街の酒場をはしごしましょう」
「却下です」
「えー!」
「まずは冒険者ギルドでカリュプソー・オーギュギアーの再登録を済ませます。それから装備の整備、魔術書の補充、そして依頼の選定。計画的に行きましょう」
「カリュプソー、堅い!もっとこう、こう、冒険者らしくさあ」
「冒険者らしいとは、酒を飲んでだらだらするということですか」
「違う!……違くないけど、違う!」
二人の掛け合いに、酒場の客たちがくつくつと笑い始める。
その奥の席で、アルキュオネーが紅茶を飲みながら微笑んでいた。
「仲がいいですねえ、あの二人」
「仲がいいというか、カリュプソーさんがいないとマイアさんが完全に機能しないので、必要不可欠な存在というか、、でも、私にとってはアル姉がそんな感じかな❤️」
「アルキュオネーお姉ちゃん、嬉しいわ❤️」
アリステラが微笑みながら、二人のテーブルに新しい紅茶を運んできた。
「マイアさん、カリュプソーさん、お茶が淹れ直せましたよ。今日はアールグレイにしました」
「ありがとう、アリステラ」
カリュプソーが礼を言い、マイアは新しい紅茶に顔を埋めた。
「ああ……生き返る……」
「お酒じゃないんですか」
「……お茶も好き」
「じゃあお酒はやめますか?」
「……やめない」
「このポンコツ!」
カリュプソーが卓を叩いた。マイアはにへらと笑い、カリュプソーは深いため息をついた。
けれどそのため息の口元は、ほんのりと緩んでいた。
メローペが壁に寄りかかり、その様子を眺めている。腕を組み、表情は無愛想だが、その瞳だけは穏やかだった。
「ねぇねぇ、みんな、私たちのパーティー名、登録してきたよ❤️プレイアデスでいいんだよね」
昴がギルド登録の羊皮紙を掲げた。
「それじゃあ、改めてパーティー プレイアデス結成ということで自己紹介といきましょう」
マイアが立ち上がった。声から酔いの気配は消えていた。
「我こそは月の勇者、マイア・アルトリア。こちらは――」
「青の魔導士、カリュプソー・オーギュギアーです」
カリュプソーが被り、杖をちょこんと掲げた。
「聖騎士、アルキュオネー・ヴァル・ルシリオン」
「聖導女、アリステラ・エーレクトラーです」
「魔剣士、メローペ・ヴァイス」
「天童昴。よろしく」
六人の冒険者が並んだ。その顔には、それぞれの物語と傷と誇りが刻まれていた。