「さあ、次はユウヤよぉ」
魔女ミリアが危機一発ゲームの続行を促す。
ユウヤはコクンと頷いて、奈緒から樽を奪い取った。
そして無表情のまま、剣を穴に刺す。
カチッという作動音。
シュッ!
同じく足元の穴から人形が発射され、下から突き上げるようにおきんたまにぶつかる。
ガンッ!
「ぐ…」
声を押し殺して、痛みに耐えるユウヤ。
奈緒は人形がおきんたまにぶつかる場面を、目の前で見てしまった。
しかも人形は、奈緒を模した顔をしていた。つまり奈緒がユウヤのおきんたまを攻撃したという図式になっているのだ。
人形は床に落ちると、ゴンッと音を立てて転がり、ステージの外へ消えていった。
「フー、フー…」
声を殺し、表情を殺しているが、呼吸音だけは大きくなっている。
「優也くん…だいじょうぶ?」
「…………」
無言で樽を奈緒に差し出すユウヤ。奈緒は樽を受け取る。
剣が2本だけ刺さっているが、まだ穴は30個近く残っている。つまりそれだけの数を刺すという事である。
たった一度攻撃されただけで、おきんたまはズキズキと悲鳴を上げており、あと何発耐えられるか分からない。
「さあ、早く剣を刺しなさぁい」
「うう………」
震える手でオモチャの剣先が穴に入る。
カチッ
オモチャの剣が奥まで刺さり、作動音がした。
ドガッ!
ユウヤを模した人形が、奈緒のおきんたまにぶつけられる。
「うっ…が…ああああああああ……」
先程までよりも大きな音がした。かなり強いレベルを引いたのだ。
ゴロンッ
人形が大きな音を立てて落ち、そして消えていく。
「あああ………あぐあああああ……いたい…いたい………」
その場で蹲りたい、転げ回りたいのに、身体が固定されていてできない。
逃がす事ができない苦しみがプラスされ、奈緒に襲い掛かる。
「うふふ……、まだ始まったばかりなのに、イイ声で鳴いてくれるのねぇ」
ミリアが奈緒のすぐ後ろで聞き惚れていた。
「ぐうううううう……あああああああ………」
奈緒の口から、呻き声が途切れる事なく漏れ続けた。
次はユウヤの番だ。樽がユウヤの手に移される。
ユウヤは躊躇いもなく、剣を樽に刺す。
ガッ
ユウヤのおきんたまに人形がヒットした。
「んっ………」
一番弱いレベルを引いたらしく、大したダメージは無い。
かなりのラッキーだったと言える。
「さあ、ミルキーナオの番のよぉ」
奈緒に樽が返される。拒否したくても、身体が勝手に受け取ってしまう。
「あああ……」
樽を持ったまま固まってしまう奈緒。
自分で引き金を引いてしまうのが怖い。
相手を攻撃するのではなく、自分で自分を攻撃するという行為が、想像以上の恐怖を引き起こす。
「早くしないと時間切れになるわよぉ」
ミリアに急かされるが、どうしても自分で剣を刺す事ができなかった。だが、それすら魔女の狙い通りだった。
「はーい、時間切れー」
ミリアが宣言すると、奈緒の手が意思とは関係なく動き出し、勝手に剣を突き刺した。
「あっ!」
ガンッ!
覚悟も出来ていないまま仕掛けが作動し、ユウヤに似せた人形が、奈緒のおきんたまを強打する。
「あぐあああああああぁぁぁ………!」
悶絶級の痛みが襲い掛かる。
「さらに! 時間がかかったから、ペナルティよぉ!」
ガンッ!
もう一度おきんたまに攻撃がかかる。
「ぐぎっっ!? ぎゅああおぉぉぉぉぉぉぅぅ……! うぐうううううぅぅぅ……」
予想していなかった追撃に、奈緒は悶絶する。
「何よそれ!?」
ティーナがミリアに突っかかる。
「剣を刺さずに時間稼ぎをするのを禁止するために、ペナルティとしてダメージ2倍になるルールなのよぉ」
ミリアの提唱するゲームは、どうあっても地獄の蓋を開けさせる、徹底的に『男の子』を苦しめる、えげつないゲームだった。
「ええ………」
ティーナはドン引きしてしまう。
「うふふふ……、グズグズしてると、逆に早くおきんたまが潰れちゃうわよぉ」
ミリアが面白そうに笑っていた。
それから何度も手番が進んだ。
奈緒のおきんたまは、何度も攻撃を受けて腫れ上がり、2倍の大きさになっていた。
それはユウヤも同じだった。ユウヤもすでに無表情を貫く事ができず、顔を歪めて涙を流していた。
互いにおきんたまを責められるところを目撃し、悲鳴を聞くという事は、精神的にもかなり来るものがある。
自分自身の苦痛だけでなく、相手の苦痛も共感してしまうという、恐ろしいゲームだった。
「おめでとう、手番が10まで進んだわぁ。これ以降、人形の威力が1段階分アップされるのよぉ。頑張ってねぇ~」
「!?」
ミリアが無慈悲な宣言をした。
「奈緒、気張りなさい。なんとしても1勝するのよ!」
ティーナが何の参考にもならない声援を送り続ける。
「うううう…、優也くんを……助けなきゃ……、助けるんだ……」
奈緒はもはや、何かに意識を集中させなければ、耐える事ができなくなっていた。
ボロボロになったおきんたまが、激痛に呻き続けている。
「ううう……あああああああああ………」
その激痛に合わせて、奈緒の鳴き声は続いていた。
それからさらに手番が進んだ。
奈緒のおきんたまは何度も何度も打撃を受けてボコボコになり、もはや玉の形を成していなくなっていた。
すでに9割以上潰れている状況であり、男の子の機能をほぼ失っていると言ってもよい状態だ。
「さあ、ミルキーナオの番よぉ」
「う…………ああ…………うううう……」
ミリアが奈緒を急き立てるが、奈緒はうまく返事をする事ができない。
「早くしないとまたペナルティよぉ」
ビクンッと奈緒が反応する。
あの後も、奈緒は2度ペナルティを受けていたのだ。それほどまでに、自分で剣を刺す事は辛いのだ。
しかし、これ以上ペナルティを受けるわけにはいかない。
「ああああああ……………」
奈緒は震える手で、剣を刺す。
ガッ
「ぐうううっっ!!」
運良く弱めの攻撃であったため、おきんたまは潰れずに済んだ。とはいえ、これまでの蓄積からの痛みはそのまま奈緒を苦しめる。
「うううううううううぅぅぅぅ……ああああああ……はあ……はあ……」
もう呼吸すら困難だった。こんな状態でも、ステージの上で立ち続けなければならない。
本来ならば、亀のように固く丸まって、気を失っていてもおかしくない。
続いてユウヤの番になる。
ユウヤもまた、目を瞑って祈るように剣をゆっくり刺す。
「………」
カチッ
そして運悪く、ここで最大のレベルを引いてしまったのだった。
ズドーーンッ! メキッメキッ!
物凄い音がして、人形がユウヤのおきんたまを押し潰していく。
人形は勢いを失わずにおきんたまに減り込み、おきんたまの形を変えてしまう。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
ユウヤが絶叫する。
ドスンッ
重い音がして人形が落下し、消えていく。
「ぐううううううううぅ…くうううううううぅぅぐううううううううぅぅ……」
ユウヤのおきんたまは、潰れる半歩手前で残されていた。あと一撃でおきんたまは潰されてしまうだろう。
「あああああああああああああぁぁぁぁ……!」
ユウヤの悲痛な鳴き声が響き渡る。
その声は目の前の奈緒にも聞こえてくる。
他者の鳴き声は、奈緒を肉体的ではなく精神的に責めてくる。そしておきんたまの苦しみを倍にして感じさせてくる。
「くうぅぅぅぅぐうううううううぅぅぅ………」
「ああああああああぁぁぁぁくああぁぁぁ……」
2人の魔法少年の鳴き声がコーラスとなって響く。
「ああああああ……本当にいい鳴き声……」
ミリアが恍惚の表情でコーラスを聞き惚れていた。
そして手番が奈緒に移った。
すでにユウヤは次の攻撃に耐えられそうにない。
ここが勝負の分かれ目となるだろう。
奈緒が次の攻撃を耐え切れば奈緒の勝ち、耐えられずに潰れてしまえば奈緒の負けだ。
「はあ……はあ……」
奈緒の手が震えて狙いが定まらない。
奈緒とて、おきんたまがほぼ潰された状態なのだ。
「奈緒……」
ティーナは必死に祈っている。
「奈緒くん……」
ユウヤがか細く呟く。
「さあ、早く刺しなさぁい」
ミリアが意地悪そうに急かしてくる。
「お願い……」
祈りを込めて刺した、勝負を決める最後の一刺し。
ここで奈緒の強運が発動する。
この最終局面で……奈緒は見事に………
『当たり』を引いてしまったのだった。