鋼鉄のグリプス ~悪党貴族の孕ませハーレム日記~【パイロット版】 作:種をまく者
「そらそら! 攻めが単調になってますぞ!」
昼下がりの練兵場に、金属がぶつかる乾いた音が響いていた。
「はァッ!」
目の前の大男の顔面めがけて、渾身の突きを放つ。
「ぬんッ!」
大男が片手剣で俺の突きを薙ぎ払う。
俺の手から剣が弾き飛ばされた。
動く間もなく、俺の首元に大男の片手剣が突きつけられる。
降参の意を示すように両手を軽く上げると、大男が剣を引っ込めて恭しく一礼した。
「若様、今日は二十合も儂の攻撃を耐えましたな。お見事です」
俺の武芸指南役を務めるその大男は、愉快そうな顔で汗をぬぐった。
「今日こそは勝てると思ったんだがな」
「なんの、若様は筋がいいですぞ。大人でも普通、儂相手に十合ともちませんからな!」
武芸指南役が大きく口を開けて笑う。
俺もつられてつい笑ってしまう。
「世辞はよせ。少し休憩する」
下男から手ぬぐいと水の入った革袋を受け取り、日陰に腰を下ろした。
今は昼食後の日課である武芸鍛錬の時間だった。
城のすぐ外にある練兵場では、グリプス家に仕える中小貴族の子弟たちが剣や槍をぶつけ合ったり、木と藁で作った的に向けて矢を射ったりしている。
貴族の男子は戦場に立つ戦士としての役割を求められるが、ただ魔力が強ければそれでいいというわけではない。剣や弓矢などの武器も一通り扱えないと馬鹿にされてしまうのだ。
この世界の貴族社会では「男らしさ」が非常に重視されている。
と言っても武芸鍛錬は形式的な意味しかないわけではなく、実用的な一面もある。
実際の魔力持ち同士の戦闘では、特別な武器に魔力をまとわせて戦うことも多いと聞く。もし同レベルの魔力の持ち主が戦えば技量が上の人間が勝つことになるだろう。武器の扱いに慣れておいて損はないのだ。
それに、俺を指南するのは超一流の技術を持つ勇士だ。
シーハンというこの男は教え方も上手く、座学同様に何かと褒めてくれる。
前世ではそこまで運動が好きではなかったが、着実に上達を感じられる今は鍛錬も楽しむことができた。
シーハンはまだ40代後半の下級貴族だが、祖父に従って数々の戦場で異教徒たちと戦ってきた歴戦の猛者であり、昔から知っている男でもあった。腕力も衰えておらず、魔力抜きの純粋武芸では12歳の俺では到底敵わない。
しかし俺はまだ育ち盛りなので、年々身体が大きくなり筋肉もついていくはずだ。彼が衰えてしまう前に一度ぐらい勝ちたいと考えている。
それが師匠への恩返しというものだろう。
休憩を終えて、藁人形相手に剣を振るい始める。刃のついていない訓練用の剣だ。
藁人形に斬りつけていると、昨夜の情事のことが脳裏に蘇ってきた。
甘い一夜だった。
あれからドロシィをもう一度抱き、その後は二人でぐっすり眠った。
朝早く城に戻り、それからはいつも通りの一日を過ごしている。
午前中は座学の時間が続いたが、キーラとの<初火入れ>翌日のように上の空になることはなかった。
ふとした時にドロシィとの情事の余韻に浸りはするが、前より落ち着いている。
なお、ドロシィの宮廷作法の授業はしばらくお休みとなった。
例によってドロシィは身体のあちこちを調べられるのだろう。
俺の方はすこぶる快調だった。
出すものを出して腰が軽い感じがあるし、今も剣を振るっているのが心地良い。
キーラにもドロシィにもしばらく会わせてもらえなさそうなのがもどかしかったが、今後の種付け計画については今晩プルティータと話し合うことになっていた。
なるべく早く二人を再び抱かせてもらえるよう訴えるつもりだった。
「若様、少しよろしいか」
剣を振るう手を止めて振り返ると、シーハンが一人の若い騎士を連れていた。
胸当てとブーツ、手甲をつけている以外は軽装だったが、帯剣している。
その騎士は女だった。
「覚えておられますかな? 不肖の娘にございます」
「お久しゅうございます、若様」
髪をショートボブに切り揃えたその女が、俺の前で片膝をついて恭しく胸に手を当てた。
その青い目を見て思い出した。
「……もしかしてクルルか?」
「覚えていて下さり恐悦至極にございます」
「懐かしいな。5年ぶりぐらい?」
「5年と8ヶ月になります」
シーハンの娘、クルル。
昔から物静かで優しいお姉さんで、小さい頃よく遊んでもらった記憶がある。
「娘も16になりましてな! 先ごろ大殿から騎士叙任も受け、公都務めが決まりましてございます」
大殿とは、大公の地位にある俺の祖父のことだ。この武芸指南役の男は祖父の直臣であり、距離の近い人間は祖父をそう呼ぶ者が多い。祖父は現在、異教徒との戦争に明け暮れており俺もしばらく会っていない。
公都とは今俺がいる街、アガドのことだ。グリプス家の現在の本拠地でもある。
そして、この世界には女騎士が普通に存在する。
同条件の男に比べれば腕力は及ばないが、魔力を持って生まれた女ならば資質次第で充分戦力になる。
「そうか、おめでとう。ずっと騎士になりたいって言ってたもんね」
「ありがとうございます。私のような者の願いを叶えてくださった大殿、殿、そして若様。グリプス家の御為、身命を尽くす所存でございます」
クルルは胸に手を当て地面を見つめたまま、抑揚のない声で言った。
シーハンが俺に近付いて耳打ちをしてくる。
「若様も近く裏邸をお持ちになるでしょう?」
そう言いながらぐふっと笑った。
裏邸とは、大貴族男子が持つミニハーレム全般を指す言葉だ。
俺が年頃になったこともあり、そうした場所をどこかに作るんでしょ? と聞いてきているわけだ。生真面目な娘と違って、父親の方はかなり砕けた男だ。
ちなみに「花の城」というのは父の裏邸を指す固有の通称である。庭園がある例のハーレム御殿のことだ。
「……多分、いずれそうなるんじゃないかな」
「娘はその時お役に立つかと」
シーハンが、今度は真面目に言った。
この男は、娘を俺の愛妾として差し出そうとしているわけではない。
俺に限らず、裏邸に立ち入れる男は所有者である貴族男性ただ一人。
周囲は厳重な警備がなされるものだが、滞在目的が子作りなこともあり、貴族男性は中にいる時は無防備な状態になってしまう。
強大な魔力を持つ大貴族を暗殺できる者などそうそういないのだが、よその貴族家の中には裏邸で当主が暗殺された例があると聞く。
そして施設の性格上、中で警護可能な人間は女に限られる。小さい頃出入りしていた父の「花の城」でも、甲冑をまとった女性を何人か見たことがあった。
女騎士が貴族男性の警護役を務めるのはごく当たり前のことなのだ。
つまり、この男は娘を裏邸での警護役として使ってくれと言っているのである。
「……なるほど。それで領地から呼んだのか」
「はい。大殿に許可は頂いております。無粋な娘ではありますが、どうぞお引き立てください」
シーハンが娘に並んで胸に手を当て、軽く頭を下げた。
改めてクルルを観察する。
長い睫毛と青い目。小さめの唇は真っ直ぐ結ばれており、無駄に開かれることがない。
昔と変わらずクールな雰囲気で感情の動きが感じられないが、顔立ち自体は数年会わないうちにかなり女っぽくなっている。
一方、肉体は武門の家にふさわしく引き締まっていた。
胸には金属製の部分装甲が当てられていて、乳房の大きさはわからない。
太ももはみっちりと肉が詰まっているが、贅肉ではない。張りのある肌の下に、しなやかな筋肉が詰まっているのが感じられる。
「この命、若様をお守りするためにどうぞお使い下さい」
クルルは俺を直視せず、目を伏せたまま言った。はっきりした声だった。
「クルルのその思い、嬉しく思う。これからよろしく頼む」
貴族としての礼儀に適う返事をしたが、俺は内心白けた気分だった。
いくら裏邸の中と言えど、俺を傷つけられる者なんて領内にいるわけがない。どうせ差し出してくれるならカラダの方でお願いしたいんだがなあ……。
この女も所望すれば抱いてよいのだろうか?
後でプルティータに聞いてみよう。
「もちろんよいですとも」
ダークエルフ女の研究室は薄暗く、蝋燭の柔らかな光が揺らめいている。いかにも密談に向いた雰囲気の漂う場所だ。
夜の魔術の個人指導が終わってから、今後の俺の愛妾獲得計画について話し合うことになった。
気になっていたクルルの件をプルティータに尋ねると、あっさりOKをもらえた。
「ただ、それは若様が子作りをする相手として不足はないという意味でございます。先方の家はグリプス家の正式なご臣下ですから、本人だけでなくお家の方もきちんと説得する必要はあるでしょう」
「説得、か」
先日のドロシィへの
「ああいう手口がクルルに通用するとは思えないな」
クルルに限らず、武門の貴族というのはプライドが高い。
いくらこちらが主君側といえど、力で無理やり服従させようとすると反発する習性がある。彼ら封建臣下たちはグリプス家の武威と厳密な契約によって忠誠を誓っているのであり、封建契約に含まれていない命令を下す場合は主君としての威光で自然に従ってもらうことを期待するか、あるいは領地なり褒賞なりといった現実的な利益によって納得させねばならないのだ。
「ええ、クルル様用に話し方を考える必要がございます。若様が本気であればこのプルティータいくらでも骨を折りますが、いかがしますか?」
少し考える。
「俺の裏邸はいつ作る予定?」
「人数が揃い次第、すぐにでも」
「……なら、今はやめておこう。もしクルルが愛妾となったらまた別の女騎士を探す必要が出てくる。護衛が頻繁に代わったら周囲もやりにくいだろうし、今は個人を超えた家レベルの話にしたくない」
「賢明なご判断だと思います。落胆なさる必要はございません。若様のお相手を務めるよきご婦人やご令嬢はすぐに沢山見つかりますよ」
プルティータがにっこり笑って言った。
それから居住まいを正し、厳粛な表情で俺の顔を見た。
「改めまして、若様に大事なことを申し上げます」
「聞こう」
「若様はこれより、女の腹の中でしか子種を放ってはいけません」
「……詳しく話してもらおうか」
「言葉通りの意味でございます」
プルティータが部屋の奥から大きな
すぐにぴんと来た。
先日、俺の専用浴場でキーラに搾精された時に使ったものだ。
「その甕……プルが用意したものだったのか」
「はい。キーラ様にご協力頂きまして、若様の貴重な子種を鑑定させて頂きました。特殊な調合薬を混ぜることで、光の強さから子種の持つ生命力を測ることができるのです」
「……それで、どうだった?」
「生命力あふれる、大変元気なお種でございました。若様は何の問題もなく女性を孕ませることができるでしょう」
安堵した俺は、深く息を吐き出した。
一瞬のことだったが、自分の精子の鑑定結果を聞くのはなかなかに緊張する。
もし種無しだとか、活きが悪いとか言われたら一大事だった。
「今回はお種を調べさせて頂くため特別に頂戴しましたが、本来であれば若様の子種は液体の形をした黄金のように貴重なもの。いいえ、それ以上です。一滴も無駄にしてはなりません」
「だから女の中に放てと?」
「左様。ご自分でお慰みになるのはもってのほか。女性に口や肛門で奉仕させるのも推奨致しません。もしどうしてもそのような奉仕をさせたくなった場合でも、ごく軽くに留めてください。果てる時は必ず女の腹の中に種を放って頂くよう強くお願い申し上げます」
「……心得た」
要するに妊娠可能性のない無駄打ちはせず、どんなプレイをしようとも最後は必ず腟内で射精しろ、ということだ。
道理はわかるが、女の口からはっきり言われると、こう、なんというか……股間に来るものがある。
「俺の相手はすぐ見つかると言ったね」
「ええ。若様が種をつけたくなるような女性を教えてくだされば、このプルティータがきっと寝所にお連れ致しましょう」
孕ませたくなるような、俺好みの女。
それなら、一人いる。
「プルティータ。君を抱きたいと言ったら、どうする?」