鋼鉄のグリプス ~悪党貴族の孕ませハーレム日記~【パイロット版】 作:種をまく者
「プルティータ。君を抱きたいと言ったら、どうする?」
ダークエルフの女が、何も言わずに金色の瞳でじっと俺を見つめている。
心の内は読めない。
このダークエルフの女が考えていることは、今まで一度だって読めた試しがなかった。
答えを待っていると、プルティータがさらさらした銀色の髪をかきあげ、ぺろりと自らの唇を舐めた。
微笑みながら試すように俺を見るだけで、何も言おうとしなかった。
「……何故黙っている?」
「若様は、わたくしが欲しいのですか?」
「……俺の気持ちは昔から変わらない。わかってるはずだ」
おもむろにプルティータが立ち上がった。
棚に置かれた実験器具や魔導書などを確かめるように触れながら、部屋の中をゆっくりと歩いている。
「6年前、若様はよくこの部屋に遊びにいらっしゃいましたね」
俺がまだほんの子供だった頃、度々この部屋を訪れては彼女の研究を眺めていた。
プルは賓客としてこの地を訪れ、祖父や父に世界各地の情勢や異国の魔術について情報提供し、その代わりにこの研究部屋を使わせてもらっていたのだ。
帝国の中には亜人族を忌み嫌う地域もあるようで、そうした場所ではあらゆる亜人族が迫害を受ける。ダークエルフは無論のこと、より穏健な種族とされるハイエルフすら立ち入りを許されない地域も多い。
一方でグリプス家は領内にいくつかの鉱山を持っており、各地から数多くの出稼ぎ鉱夫がやってくる。
そうした背景もあって流れ者や移民に比較的寛容な土地柄だった。
外部の学識ある人間を積極的に招いては領地経営の糧とする方針を取っており、俺も時折訪れる客人から外の世界のことを聞くのが好きだった。
中には俺の教育係として雇われる者もおり、プルもその一人だ。
「この部屋も、あの頃からあまり変わってないように感じるよ」
「大公閣下と公子さまのご厚意で、私がいた頃のままにしてありました」
この部屋には代々集められてきた魔導書や魔術に使用する各種薬品、魔術道具などが沢山あり、俺にとってはおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがある。
中身が転生者である俺は、小さな時から魔術研究をするプルを観察し、それによっていち早くこの世界における魔法がどんなものか学ぼうとしていたのだ。
当時この部屋に遊びに来ていた目的は他にもあった。
プルは俺が遊びに行くと、いつも「内緒ですよ」と言っては異国の砂糖菓子や干したプラムの蜂蜜漬けなどをくれた。
異国の文字を教えてくれたり、簡単な火術で手品の真似事をしてくれることもあった。
どれも楽しい思い出だった。
しかし、魔術書もお菓子も手品も、この部屋を訪れる本当の目的ではなかった。
「あんなに可愛らしかった若様が、短い間でこんなに立派になられて…本当に人間族の成長には驚かされるばかりでございます」
プルがまぶしいものを見るような目で微笑んだ。
「ダークエルフは、永き時を生きる種族だものね」
眼の前にいる女が何歳なのか知る由もないが、見た目通りの年齢でないことは確実だろう。
魔術の家庭教師となった今でも、プルとはその頃のように「近所の年上のお姉さん」のように砕けた口調と態度で接している。
プルの方から望んだことでもあった。
「プルはあの時から少しも変わっていない」
「そうでしょうか。ここ数年で少し太った気がします」
そう言ってまとっているローブを広げて見せた。
ローブの下は特殊な仕立ての服を着ており、胸元やお腹が大きく露出している。
俺は思わず生唾を飲んだ。
「そんなことないよ。プルは、昔も今も……すごく綺麗だ」
勇気を出して言ってみると、プルが目を丸くして「まあ」と声を漏らして微笑んだ。
「ドロシィ先生からお世辞の言い方を習ったんですか?」
「違うよ……さっきからどうして俺の質問に答えない? 嫌ならちゃんと言ってくれ」
要するに俺は「ヤラせてくれるの? くれないの?」と確認しているに等しいわけで、我ながらかなり間抜けな問いかけだった。
だが、答えを聞かずにはいられない。
気がつくと、プルが俺のそばに来てそっと手を握ってきた。
「プル……?」
突然の接触に戸惑いつつ、自然と胸が高鳴った。
「若様のお気持ち、このプルティータ震えるほど嬉しく思っております。今すぐにでもお相手させて頂きたいところですが……あいにくわたくしは異種族であるため、若様のお子を孕みにくいのです。それゆえ、今の段階では不適格かと」
プルは俺の目を見ながら、少し寂しそうに笑った。
俺の手をさすりながら囁くように言う。
「若様にはこれからたくさんの
ああ、これは最大限丁寧な言葉で断られているのだな……。
プルの言葉を聞きながら、どんどん自分の気持ちが沈んでいくのがわかった。
あれこれとプルの言い訳めいた説明が続いていたが、遠くで喋っているような感じがして、全然頭に入ってこなかった。
すると、プルティータが大きくため息をついた。
「しようのない若様」
プルはおもむろに俺を抱きしめ、耳を舐めてきた。
「……ッ!」
唇で俺の耳をはむはむと何度か挟んでから、甘い声で囁いた。
「これは、ほんの“手付け”にございます」
そして俺の顔を両手ではさみ、そっと口づけをしてきた。
プルは数秒間たってから口を離し、俺の頭を胸に抱いた。
「どんな時もプルがおそばにおります。何年かして若様のお子が十人ほど生まれれば、計画の見通しもよくなるでしょう。その頃には若様も時には“変わった相手”が欲しくなる夜もおありでしょうから……そんな時は、きっと……」
濡れているような声だった。
プルは最後まで言わなかったが、心の中には甘い気持ちが広がっていた。
この豊満な肉体を持つダークエルフの女とも、いずれは……。
プルが俺の頭を撫でながら、子供に言い聞かせるように囁く。
「ね……? わかってくださいまし、若様……」
優しいプルの声。頭を撫でられながらその声を聞いていると、どんな願いでも聞き入れたくなってくる。
「……わかった。プルの気持ち、嬉しく思う」
やっとのことでそれだけ言ったが、声がかすれていた。
「ご理解頂けて何よりです」
話に区切りをつけるように、プルが身体を話して再び向かい側の椅子に腰を下ろした。
なんだか恥ずかしくてプルの顔をまともに見られなかった。
プルはそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、元通りの謎めいた微笑に戻っていた。
「時に、ドロシィ様との一夜はいかがでしたか?」
俺も姿勢を正して咳払いをする。
「とてもよかったよ」
ドロシィの心を手に入れるため、少し踏み込んだ会話に挑戦したことを手短に報告した。
プルティータは俺の試みを称賛し、今後のドロシィの扱い方についていくつかのアドバイスをくれた。
「若様は女性の心を手に入れる才能がおありのようです。身体が出来上がるまでの数年間は、楽しみながら愛の営みに慣れること。そしてご自身がどんな女性を好み、どのような状況だとより子作りを楽しめるのか、理解することを優先致しましょう。若様も、お相手の女性を増やしながら、ご自身について理解を深めるようご留意くださいませ」
「確認しておきたい。女たちは、一度しか抱いてはいけないということはないよね?」
「無論でございます。気に入った女性ができた時は、是非子を産むまで愛して頂きたく思います」
「なら、どうしてあの二人を寝所に呼ばせてくれない? ドロシィは昨日の今日だからわかるとして、キーラはもう身体の確認は全部済んでるはずだろう?」
「若様にはありのままをお伝えした方がよろしいでしょう」
プルティータがティーカップに手を伸ばし、ゆっくりと茶を飲んだ。
「若様が、特定の方を愛し過ぎないため、ある程度の人数の女性を知るまで“おかわり”は慎んで頂くつもりです」
「……やっぱりそのことか」
「若様に限らず、若い男性は子作りを始めた最初期に抱いた女性を深く愛する傾向がございます。それ自体は何ら悪いことではございませんが、世の貴族男性の中には特定の個人に注ぐ愛情が大きくなり過ぎる場合もあるのです。他の女性に一切見向きもしなくなるほどに。そうなればどうなるか、おわかりですね?」
「子は年に一人しか生まれなくなるな」
プルが頷く。
「もしそんな状況が5年10年と続けば、お家が滅びます」
「俺の場合そんな心配はしなくていいと思うけど……あの二人を二度と抱けないって話じゃないなら、まあいい」
「ご安心ください。このプルも、あのお二方には必ずや若様のお子を産んで頂きたいと思っております」
近いうちに面会だけでもさせてもらうことで、二人についての話は落ち着いた。
「改めてお尋ねしたいのですが、若様はどのような女性がお好みですか?」
「好み……好みかあ……そう聞かれると答えに困るな」
いくらプルが俺の女関係の相談相手と言えど、異性の趣味について話すのはどうにも照れ臭く、俺は言葉に詰まった。
ここでまた「プル、君のような女だ」とか言ってもしつこいだけだろう。
「若様が話しにくいお気持ちはよくわかります。ですが、若様にはこれから何十年という長い時間、数多くの女性を愛してもらわねばなりません。このプルティータは夜の下僕。ご自身の欲を満たすための一種の道具としてお考え頂き、一切の遠慮を捨てて下さいますようお願い申し上げます」
夜の下僕。
欲を満たす道具。
魔導士らしい独特の言い回しに、俺は胸がむずむずするような感覚に陥った。
俺の夜の下僕なら、早くそのムチプリとした肉体で欲を満たさせて欲しいんだけどなあ……。
「若様が少しでもお話ししやすくなるよう、少し世間話を致しましょう。若様のお祖父様である大公様と、お父上である公子様は、親子でありながら異なる点の多いお二方です。その一例として、女性の好みも大きく違っておられるご様子」
「お祖父様と父上の女の好みか。考えたこともなかった」
「これはかつて御本人から直接伺ったことですが、大公様は肉付きがよく気の強い女性がお好きだそうです。公子様の方は直接伺ったわけではございませんが、優しくて細身の、教養ある女性がお好みのご様子」
両方初耳だった。
祖父については、まあわかる気がする。
父の好みもさもありなんといったところだが、プルがそう推察できた理由がわからない。
「父上の好みはどうやって知ったの?」
「6年前ご当家にお邪魔させて頂いていた折に、<花の城>を案内して頂いたことがありました。その時にお見かけした女性たちが皆様そうした方ばかりでしたので」
言われてみれば、俺が出入りしていた頃もあそこにいたのは細身で優しい感じの女性が多かった気がする。
そこまで聞いて、俺はふとひとつの可能性に思い当たった。
プルティータが俺の誘いに応じられないのは、何か特別な理由があるのではないか。
このダークエルフは肉付きがよい方ではあるが、太っているわけではないし、スラっと長い手足を見ても、細身と言えなくもない。本性はどうあれ、いつも微笑んでいて優しい雰囲気を漂わせているし、そんじょそこらの女では太刀打ちできないほど幅広い知識と知恵を持っている。
「まさか、プルは父上の……?」
最後まで言う前に、プルが笑いながら首を振った。
「いいえ。昔も今も、私は公子様からのご寵愛は受けておりません。大公様からも同様です」
その答えを聞いて、俺は安堵した。
父親の愛人に下半身の管理をされるなんて、気まず過ぎるので勘弁して欲しい。
いや……俺が安堵したのは、本当はただの嫉妬心によるものか。
プルティータが色々話してくれた以上、俺も協力しなければならない。
言葉を選びながら、少しずつ自分について分析してみた。
「……俺の好みは、まず年上の女。今は、ね。同年代以下の女は身体が出来上がっていないから、興味が湧かない。今後4、5年経って同年代の女も成長してきたら変わってくるかも知れないけど。あと、どちらかと言えば細身よりも肉付きのいい女が好きかな。あまりに太っているのは嫌だけど、胸や尻は大きい方がいい」
プルティータは俺の説明にふんふん頷き、「素晴らしい」と言った。
「若様は子を孕みやすく、健康的な女性に魅力をお感じになるのでしょう。キーラ様とドロシィ様のお二人を見てそうではないかと思ってはおりましたが、若様の口からそれを聞けてプルティータは安心致しました」
「でも女の好みなんてみんな似たりよったりじゃないの?」
「確かに若様の好みは特段珍しいものではございません。ですが、世の中には様々な嗜好を持つ殿方がおります。例えば、年端のゆかぬ少女ばかりを好む貴族がおります。当然、子作りという観点ではそうした嗜好は非常に不利でございます」
重度のロリコンやペドフィリアだと、相手はまだ子供を産めない年齢ということになる。この世界での倫理的な問題は置いておくとしても、子作り観点で見れば貴族男性にとって望ましくない趣味なのは明らかだ。妊娠できない相手をいくら抱いても無駄撃ちになってしまう。
男側も、たとえ権力で幼い少女を集めて自分の欲望を満たせたとしても、家を守るために妊娠適齢期の女も抱かねばならないだろう。そうしなければ自身の権力が揺らぐ。
ストライクゾーンが広い男ならどちらも楽しめるだろうが、もし本当に少女しか愛せない男の場合、大人の女との行為は苦痛でたまらないだろう。貴族の義務としてなんとかこなしたとしても、自然と回数は減っていく。お家断絶まっしぐらである。
ロリコンの貴族は大変そうだ。まあ俺には関係ない話だが。
「女性の好みに関しては、本人ですらどうしようもない場合も多いものですが……その点、若様はご自身の楽しみがそのままお家の利益に繋がっていると言えましょう。存分にお好みの女性を愛して頂けばよろしいかと存じます」
どうやら俺がムチムチのエロいお姉さんを好きなのは大歓迎ということらしい。
まさか女の趣味で褒められるとは思わなかったが、俺のハーレム生活を支援してくれるグリプス家と利害が一致しているのは喜ばしいことだった。
「目標人数とかはあるの? 愛妾の数とか、産ませる子供の数とか」
「赤子に関して言えば……」
頭の中で軽く計算をするように、プルティータが軽く視線を漂わせた。
「とりあえず300人ほどでしょうか」
次回で一区切りつく予定です。
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