※この作品はR-18です。

ヤリステメスブター短編集   作:肩首バキバ

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 今月中旬ヤリステナイメスブターが15日に出ると聞いて、居ても立っても居られなくなりました。
 1話目、特にエロ無しです。
 もしかしたら今後もエロは書かないかも、原作者さんからの供給も多いし。
(書かないとは言ってない)
 どちらかと言えば、世界観とか考察したり深めていきたいですね。


白神歴2072年度、ヤリモンバトルトーナメント編
フッ太、二度目の王座防衛戦、決勝


 ヤリモンバトルトーナメント第15試合、決勝戦。

 スタジアムは満員の観客で埋め尽くされ、熱狂と興奮に包まれていた。

 巨大なスクリーンには、相対する両トレーナーの姿と、スタジアムで死闘を繰り広げる 2匹のヤリモンが映し出されている。

 フィールド西で息を荒げるのは、赤毛長髪の美女。3期前の元チャンピオン、アテナだ。

 それに相対するのは、固太り中背のモブ顔青年、フッ太(通称)。2年前アテナから チャンピオンの座を奪取し、2期連続でその座に君臨している。

 

「キャ~‼アテナ様‼愛してます♡」「ヴレイジン頑張れ~!」

「モブ顔なんかに負けないで~!」「今日も逞しく、美しい…!」

 

「もう1回チケフレア出してくれ!俺はあの娘を見に来てるんだ!」

「やっぱチャンピオン強すぎない?」

「えげつないの間違いだろ、ちゃんと真っ向勝負で戦えって!」

「いくらアテナ様でも手負いのヴレイジン一匹で残り3体の相手は…」

「ちっとは盛り上げも考えろや、チャンピオン‼」

 

 試合は佳境。既にアテナの3体の手持ちのうち、2体は戦闘不能だ。

 一方、フッ太陣営は、相棒のチケフレアを含め2体は繰り出したものの、チケフレアはほぼ無傷のまま交代している。

 ステージ中央では、フッ太が繰り出した中堅のクロトロフが、アテナのエースヤリモン:ヴレイジン相手に食い下がっている、

 

ーーーー否、得意の遅滞戦術であしらっているというべきか。

 

「ヴレイジンッ‼、『フレアインパクト』!!!」

「いなすよ、クロトロフ」

 

 鈍足かつ手負いのヴレイジンでは、空中を滑るように移動するクロトロフには追い付く可能性は低いと判断したフッ太は一先ず回避を指示する。

「諦めるな!」

「ッ!?」

が、手負いのヴレイジンは、アテナの檄に呼応するように、この日一番のバネを見せ、追いついて見せた。

 

(まぁ、アテナさんならそれくらいはできるよな)

「『完全ガード』」

 特に慌てる様子もなく、防御の指示を飛ばす。先程「躱せ」ではなく、「いなせ」と指示したのは、万が一追いつかれる可能性も考慮してのことだ。

 表情が乏しい故にコミュニケーションが取りにくいとされるクロトロフも、フッ太との強固な魂のコネクションを介して正確に指示を汲み取り、速やかに余裕を以て防御態勢に移る。

 

「あああああアッ‼」

 筋骨隆々なヴレイジンの剛腕が炎を纏い、クロトロフの不可視のガードに衝突する。

 クロトロフは元々耐久寄りのヤリモンだ。増してやガードを固めた状態では、どんなヤリモンの攻撃でも貫くのは不可能。そう、言われていたが。

「…ッ!?」

(これは…!)

 アテナの勝利への嗅覚が、執念が、連戦で消耗したクロトロフの針の穴のような、隙ともいえぬ隙を見抜いた。

 

 殊、武道あるいはスポーツの達人同士の戦いにおいては、攻撃速度が反応速度を超えることも珍しくはない。

 では彼らはどのように致命傷を避けて、或いは防いで死合を続けるのか?

 それは、経験と洞察眼に裏打ちされた正確な攻撃予測と、ガードによる攻撃方向の誘導。

 アテナの無我の指示は、結果的にそれを逆手に取った。

 

 クロトロフはガードの薄い部位に攻撃が来ることを警戒した。

 ヴレイジンは剛腕を、最もガードの「分厚い」場所に敢えて叩きつけた。

 ……そう、完璧な防御姿勢を取った部位に生じる警戒の虚を、アテナは無意識のうちに突いていたのだ。

 いわば、究極の力押し(・・・)。

 相手が最も防御を固めている砦、いわば孤塁を穿つ一撃、『孤塁抜き』。

 

 無論、これを成功させるにはガードを固めた相手を崩せる圧倒的な地力が必要だ。

 しかし、アテナは信頼していた。ヴレイジンの腕力を、打たれ強さを、そして類まれなる根性を。

 そしてその信頼に、ヴレイジンは今日、この時この場において応えて見せた。

 

 ふわり、とガードの上から、クロトロフの体が僅かに浮かび上がる。

「クロトロフ!」

 刹那、ヴレイジンの剛腕が届き、クロトロフは爆炎を撒き散らしながら後方の壁へ叩きつけられた。

 

 スタジアムに流れる沈黙。

 片や膝をつきつつも対戦相手から目を離さないヴレイジン。

 片や、壁にめり込み、ぷすぷすと黒煙を上げるクロトロフ。

 クロトロフは明らかに戦闘不能、だ。

 状態異常に苦しむヴレイジンが、諸悪の根源たるフッ太のクロトロフを渾身の一撃で沈めた。それによって生じるカタルシスは如何ほどのものか。

 突如、客席中から爆発したような歓声が沸き上がった。

 

『クロトロフ、戦闘不能‼』

『アテナ選手の相棒、ヴレイジンがフッ太選手のクロトロフを見事打ち破りました!』

『いや~、アテナ選手。序盤からチャンピオン相手に苦しい展開が続きましたが、なんとか1体仕留められましたね。これで流れが変わるといいのですが…』

 実況席も試合終盤のハイライト(見せ場)が出来て、ホッとしている様子だ。

 

 割れんような歓声が続く間に、フッ太は壁にめり込むクロトロフに歩み寄った。

「……縺?d?槭?∬憶縺?ク?逋コ雋ー縺」縺。繧?>縺セ縺励◆縲」

「やられたね…、僕の方でもう少し警戒するべきだった。ごめんね」

「縺ゅ?∵怙蠕後↓縺。繧?s縺ィ荳?謦??繧後i繧後◆縺ョ縺ァ蠕後♀鬘倥>縺励∪縺吶?」

「ありがとう。…今日も本当にいい仕事をしてくれた。今度とっておきのパフェを御馳走するよ」

「繧上?縺!」

 そうして、何かを話してから、労わるようにクロトロフを収納した。

 そして、あくまで穏やかな表情で自然体に、しかし表情には似つかわしくない威圧感を放って、アテナの方に振り替える。

 

「…?、ッッ‼。フフッ、私も相棒もまだまだ元気いっぱいだぞ。」

「君の相棒でも、もう一体のパートナーでもどちらでもどんとこい、だ!」

 ほんの一瞬、フッ太から漏れ出た圧倒的な威圧感に気圧されながらも、アテナはまだまだ余裕そうに腰に両腕をあててポーズを取る。

 ヴレイジンもそれに倣ってファイティングポーズを取った。

 ……が、フッ太の冷静な、ともすれば冷徹な双眸は、アテナとヴレイジンのコンディションの、気丈ともいえる強がりを残酷なまでに見抜いていた。

 

 先のクロトロフはデバフと遅滞戦術のプロフェッショナルだ。

 先の戦闘でも、ヴレイジンの攻撃をのらりくらりといなしながら、最悪最恐の状態異常技「幽愁暗恨」を浴びせている。その上で遅滞戦術を行ったのだ。

 加えて、先ほどクロトロフを沈めた『フレアインパクト』の反動もいただけない。

 ヴレイジンもタフなヤリモンであるがクロトロフの回避に追いつき、更にはガードを貫くために、咄嗟にギアを跳ね上げたツケが肉体を蝕んでいるのは間違いないだろう。

 

 遠目からでも注意して見ると、ヴレイジンの顔色そのものもかなりよろしくない。

 全身の切創から流れ出る出血は止まらず、熱傷も相まって循環が著しく低下しており、 ショック寸前なのだろう。これに加え、全身を蝕む呪いに至ってはヴレイジンと深くシンクロするアテナにさえ精神的にダメージを与えている。

 今はアドレナリンが出て、痛みもショック症状も多少マシになったろうが、時間経過でどうなるか。

 

(あと多くても2発、なんなら攻撃しなくても3、4分で堕ち(・・)る)

 それが、限界まで厳しく見た上でのフッ太の見立てであった。

加えてヤリモンが命の危機に瀕すれば、その収納容器たるスターディスクが自動的に有無を言わさずヤリモンを収納し、応急処置を行い命をつなぐ。

 十中八九、もっと早く決着がつく可能性の方が高い。

 

 アテナもそれを分かっているのだろう。

 故に、らしくもなくフッ太を挑発した。せめて、ヴレイジンが少しでも良いコンディションで戦えるように。

 

 次のヤリモンを出すまでの時間までの猶予は1分ほど設けられている。

 勝負に徹するなら、挑発を無視して時間いっぱいまで待ち、ヴレイジンを状態異常で弱らせるというのも手ではある。

 

(ま、クロトロフのやられた借りを返す方が先かな)

 かつての恩人と恩ヤリモンをこれ以上苦しめるのも、あまり良い方法ではない。

 2連覇チャンピオンのプライド、とかは割とどうでもいい。

 

 ひとつ息を吐いて、フッ太は可及的速やかに、スターディスクから3体目を繰り出した。

「頼むよ、ジェイリアン」

『ついにチャンピオンの3体目がベールを脱いだ!これは…!『白い悪魔』の降臨だ!』

『ついに出てきましたか…!』

『いつもは先陣を切ることが多いのに、今日は3体目なの、珍しいですね!』

『まぁ相性自体はヴレイジンに刺さっていますからね。チケフレアを出しても悪くはない盤面でしたが…』

 

 空中に浮遊する6つの触手を持つクリオネ型水属性ヤリモン、ジェイリアン。

 2年前の大会からの、チケフレアと双璧を成す、フッ太パーティーの2大エースの一匹だ。

 愛らしい見た目とは裏腹に、ヴレイジンをも上回る圧倒的なタフネスと、4つの視覚受容器(目)による回避性能、凶悪な性能の専用技を併せ持つ彼女(・・)は、主に先鋒として相手の盤面を破壊し、3タテすることも珍しくない。

 ファイティングポーズを取るヴレイジンとは対照的に、触手で器用にハートマークを作り、観客に愛想を振りまいている。

 正直、チャンピオン自身よりよっぽどファンサービスしているといっても過言ではないだろう。

 

「今日は、シンクロしないのかい?」

「彼女、気分屋なんで…」

アテナの問いにフッ太は端的に答えた。

 

 ――――――『シンクロ現象』。

 固い絆で結ばれた高レベルのトレーナー・ヤリモン同士が極稀に見せる超能力的現象のことだ;

 魂の接続を介し、連携精度が桁違いに高まり、互いの五感・思考さえ共有する。

それは時にそのヤリモンの姿形さえ変えてしまう。

 

 彼女はチケフレア以外のフッ太とシンクロできるヤリモンのうちの一匹だ。

 が、今日はなぜか気分が乗らないらしい。

 チケフレア再登場を望む野次にムカついているからもしれないし、久々のラストバッターとしての選出に張り切っているのからかもしれない。

 

 おそらくその両方なのだろう。

 

「まぁ、必要(・・)になったら僕が合わせますよ」

「…言ってくれるね‼」

 言外に今の時点では必要無いと言われたアテナとヴレイジン。

 

 ならば、そうせざる負えない状況まで追い込んで見せると、奮起したアテナとヴレイジンはジェイリアンに奇襲を仕掛けた。

 

 『気炎万丈』、熱い闘志をそのまま炎に変えて突撃する、炎属性の奥義。

 相性不利とは言え、まともに喰らえばただでは済まない。

 更に滾った闘志は更なる攻撃力増強をもたらす。正しく、勝負の流れを引き寄せる技だ。

 先の、宙に浮くクロトロフに追いついた神速の踏み込みを再現し、ジェイリアンとの間合いを詰め…

 

(奥義が…発動しない…!?)

滾る闘志は炎に変換されず、剛腕は虚しく空を切った。

 

―――――――――――――――

(やっぱり気づいてなかったか)

 奥義の不発は偶然ではない。

 先の戦い、フッ太とクロトロフは自らのガードとヴレイジンの剛腕がかち合った刹那に、防御ごと貫かれる未来を正確に予測した。試合の流れが変わる可能性を感じた。

 

 が、フッ太はその実、それに対してすら備えがあった。

 完全ガードをこのまま維持すれば、防御の甲斐あってクロトロフは即座に戦闘不能にはならないだろう。しかしその後の追撃は鈍った足では避けられないだろう。

 特に得意の『気炎万丈』などで追撃を受ければ、更に相手の闘志と戦意は滾り、いよいよ手が付けられなくなる、可能性があった。

 可能性は可能性だ。

 起こりえないかもしれない。

 例え、そうなっても相性有利のジェイリアンで耐久戦に徹すれば、或いはチケフレアのあの技(・・・)を使えば確実に勝てるだろう。

 しかし、あの勝負勘の長けたアテナが、勝利につながる道筋を見逃す筈はない。

ならば、どうするか。

 

 答えは単純、「追撃させなければいい」。

 クロトロフが一撃で戦闘不能になるように完全ガードを解除し、カウンター気味に一撃入れる。

 

『サンダージャマー』、電撃で相手の反応を鈍らせ、技の発動を遅らせる。クロトロフの技の一つだ。

 決まれば、少なくとも溜めの長い大技の発動は暫く抑えられる。

それは、後のジェイリアンの有利に繋がる鬼手。

 

 が、しかし、ガードを解除すればクロトロフの戦闘不能は確実なものになってしまう。

 

 それはいいのか?自分のヤリモンに痛い思いはしてほしくない。

 

 ……何を今更、こんな大会に3年も出ておいて今更何を…!

 

 いざ、指示しようとしたフッ太の一瞬の逡巡、苦悩。

 その甘さと二律背反(ジレンマ)に寄り添うように、赦すように、クロトロフは魂の繋がりを以て、彼の狙いに応えた。

 

 ガードを解除し、拳の当たる僅かな瞬間、クロトロフはゼロ距離で放電した。

 クロトロフの攻撃力は低い、加えて得意な属性の技でもない。

 大した痛痒にはならない。

 

 それでも、普段の、正常なコンディションな彼女(アテナ)達であればその僅かな違和感にも気づいただろう。

 しかし、殊この一戦においては、状態異常によるデバフと体力消耗、出血の持続、シンクロに伴うダメージ共有、連戦に伴う疲労、数的不利による焦燥感、様々な要因が絡み合うことで、彼女たちの優れた感覚を麻痺させた。苦痛を抑えるために分泌されたエンドルフィン、滾る闘志に裏打ちされたアドレナリンさえも、彼女らの判断力の低下に貢献したのだろう。

 

 もし、気づいてさえいれば、少し(1ターン)待って試合を再開しただろう。

 それはそれで、その間、火傷と切創と呪いが彼女達を蝕んだわけだが。

――――――――――――――

 かくして、クロトロフの置き土産(電撃に伴う痺れの持続)が奥義の発動を遅らせ、ヴレイジンの剛腕は空を切った。

そして、それはジェイリアンの間合いに踏み込み、あまつさえ隙を晒したことを意味する。

 

「『エンジェルキッス』」

 いつの間にか戦闘モードに移ったジェイリアンが、フッ太の指示の下、6本の触手を以て四方八方に展開した。

 そして、10倍以上の体重差をものともせず、ヴレイジンに絡みつき捕らえた。

 

「…!ッなんとか剥がすんだ!」

 ヴレイジンもなんとか拘束を外そうとするが、疲弊した状態異常まみれの肉体では剥がしきることは適わない。

 絡みつく触手の先端が更に6本に分岐し、切創の奥へと喰いこみ、肉をほじる。

声にならないヴレイジンの絶叫がスタジアムに木霊する。

 

『ヒィッ…』

『これが、ジェイリアンの専用技、『エンジェルキッス』…!』

『これ、放送しても大丈夫なんですか…?』

 

 相手を6本の触手(バッカルコーン)で拘束し、そのまま捕食(吸血)する。

 ヴレイジンが比較的人型に近いヤリモンであるのも相まって、あまりの絵面のグロテスクさに、観客も司会者も絶句している。

 

「ヴレイジン、『プロミネンス』‼」

「『怪音波』」

このまま嬲られる位なら、とリスク覚悟でアテナは、『プロミネンス(自爆)』を指示した。

 しかし、無慈悲にもフッ太は、その指示を至近距離からの『怪音波』で掻き消した。

シンクロ状態にあるアテナとヴレイジンであれば、指示自体は声が聞こえずとも伝えられるだろう。

しかし蝸牛を直接引っ掻かれるような高周波相手に集中力を維持できるかは別問題。

 

 やがて、ヴレイジンは触手で拘束されたまま力なく倒れた。

 ヴレイジンの呼吸と、拍動も触手伝いに感じられなくなった。

『ヒエッ…』

『ちょっ、ハルカさん大丈夫ですか!?』

 

 ジェイリアンがヴレイジンを締め殺したと思ったのか、司会者の一人も失神した。

 観客席も少し騒ぎになり始めている。

「ヤリモン殺しィ‼」と野次る声も聞こえ始めた。

 …まぁ強ち間違っていない。

 

「まだだ、ジェイリアン。」

 それでも、拘束は解除しない。

 なぜなら、まだヴレイジンの身に纏う炎が消えていないからだ。加えて、スターディスクにも収まっていない。

 今の状態は仮死状態にあって、瀕死ではない。

 吸える血も減ってきたのか、退屈そうにするジェイリアンに釘を刺しておく。

 

 アテナさんの方に目を遣ると、全身を襲う激痛に脂汗を流しながらも両目を閉じている。

(視線で悟られないようにするためか…)

 シンクロに伴うフィードバックダメージで立つことすら辛いだろうに、諦めずその時(・・・)まで耐えているのだ。

 

「姉ちゃん、フッ太…」

 観客席に移った彼女の妹(レオ君)は、心配そうに姉を見つめている。

 

「念には念を入れて……」

 ジェイリアンに触手を使ってヴレイジンの巨体を持ち上げさせた。

 その周囲に、湯気が、冷気が漂っててくる。

 空気中の水蒸気が水滴に変わっているのだ。

 溜めが必要な、すなわち、強力な水技の前兆。

 動揺、恐怖、混乱が会場を支配する。

 

「『ブリザード「いけ、ヴレイジン」ッ!!』」

 ヴレイジンの体に霜が生えた、その瞬間、その霜は瞬時に蒸発した。

 そして、呼吸・拍動が消えたはずのヴレイジンの体が、ジェイリアンの触手をむんずとつかみ上げ、暴れ出した。

 

 ヴレイジンの固有特性、『転生の炎』。

 一度肉体が力尽きたとしても、彼の纏う炎がその傷を癒し、復活を果たす。

 使えるのは1戦闘に1回程度だが…

 それにしても…

 

(相当血を失ったはずだろうに、よく暴れてくれる…!)

 幾らか回復したとはいえ、完全回復には程遠い。

 切創も火傷も呪いも健在だ。なんなら、『エンジェルキッス』(吸血)によって相当ジェイリアンに力を奪われている筈だというのに。

 

「引き剥がせ!」

 決死の抵抗が身を結び、ヴレイジンの右腕の拘束が解けた。

 その隙を見逃す彼女(アテナ)ではない。

「ヴレイジン‼『グランドナックル』‼」

 わずかにジェイリアンとの間にできたスペースを利用し、大地のパワーを込めた強烈な拳を頭上に振りかぶった。

 ジェイリアンの顔面は傘の隙間から僅かに覗くのみ。

 周囲の傘は打撃を吸収し、胴体は宙に浮いてろくにダメージを望めない。

 唯一の急所ともいえる顔面。その的は極めて小さい。

 しかし今のアテネとヴレイジンの集中力なら当ててくるだろう。

 

 ヴレイジンにとって不一致属性とはいえ、ジェイリアンにとっては弱点たる土属性攻撃。

 そんな攻撃が、まともに頭部に打ち込まれれば、さしものジェイリアンも触手のコントロールを失う。

加えて、この距離の近さでは避けきるのは難しい。

 

―――――尤も、その仮定は、

「ここだ、ジェイリアン」

 

まともに(・・・・)打ち込めれれば、の話だが。

 

 ヴレイジンの剛腕がジェイリアンの体に迫る、その刹那、ジェイリアンの体が眩く発光した。

(――ッ、此処で!?)

―――――――――シンクロ現象、それはヤリモンの姿形すら変える。

 大型のクラゲ、クリオネに近い姿から、スラリとしたアルビノ少女の姿へと形を変えた。

 

 シンクロ前後のサイズ差が、ヴレイジンの攻撃軌道から急所(顔面)を離した。

 既に鉄槌(拳)を振り下ろしつつあるヴレイジン、大きく軌道を変えることは適わない。

 

(それでも、体のどこかに当たりさえすれば…!)

 急所は捉えられずとも、的そのものは大きくなった。

 全身の筋肉を動員して、せめて攻撃を肩口に当てるように修正を掛ける。

 

 しかし、ヴレイジンのチョッピングライト(右剛腕)は空を切った。

――――否、

 ジェイリアンの、新たに生やした人間の腕によってパリング(逸ら)されたのだ。

 

 予想だにしない、人間の格闘技術によっていなされたヴレイジンの体は、前方へつんのめる形となった。

―――――そして、既に『鏡花水月』は始まっている。

 つんのめるヴレイジンに合わせて、ジェイリアンは水の如き歩法で、滑るように懐に入りこんでいた。

 同時に、左手で前方に伸びるヴレイジンの右肘を掴む。

右前腕でヴレイジンの右脇に差し込み、さらに、ブレイジンの胴体を背負い込む。

 

そう、これは、これこそが

――――――瞬間、ヴレイジンの視界の天地が反転した。

『鏡花水月』(背負い投げ)だ。

 

「ヴレイジン、受け身ッ!?」

「いえ、終わりです」

 

 ヴレイジンの右腕を除く上半身には、未だバッカルコーンが巻き付いている。

 受け身は不可能。

 

 それだけでは、ない。

 この背負い投げには、更に「3つ」のダメージ追加要素が見込まれている。

 一つは、ヴレイジン自身の攻撃の勢い。

 苦し紛れとは言え、渾身のチョッピングライト(右振り下ろし)を放ってきた。

 その前下方向のベクトルをそのまま、こちらの背負い投げに転用した。

 

 そして、ヴレイジンが仮死状態に至った際、ジェイリアンに指示したブリザード。

 ヴレイジンの熱気で消し飛ばされたように見えたそれはその実、熱気との比重差により、さらにその下の地面を凍らせていた。

 加えて、霧散した大量の湯気がステージ上空で再び凝結し、水技のコントロールを得て、ヴレイジン目掛けて滝のように降り注ぐ。

 それが、その彼の脳天落下を更に加速させた。

 

 果たして、自らが放った攻撃と降り注ぐ水流の勢いにより加速されたヴレイジンは、固く凍った地面に、受け身を取ることさえできずに、脳天から叩き落されることとなる。

 

【挿絵表示】

 

 身動きの取れないヴレイジンの頭部に、固い地面が迫る。

 

ーーーーーーしかし、悍ましい衝突音は聞こえてこなかった。

 

「参った、降参だよ」

 

 アテナさんの方を見遣れば、スターディスクをフィールド中央に向けて握りしめている。

 衝突の寸前、ヴレイジンを、最後の一体であるヤリモンをスターディスクに収納したのだ。

 

 つまり、これはーーーーー

 

『アテナ選手の降参により、フッタ選手の勝利!』

「お疲れ、ジェイリアン」

 

 その瞬間、試合終了のコングが鳴り響いた。

 

 かくして「普通野 太郎(フッ太)」は3期連続でチャンピオンの座に君臨することとなった。

 




おまけ(ある意味ほんへ)

Q.これどういう世界線?
 原作2年後の時系列です。
 原作とは微妙に違う点もありますが、ぼろ布のほつれ(切り札の相棒ヤリモンを試合で温存してたら病んだ件)の世界線で、フッ太が致命傷を負わなかったルートと考えてもらえれば。
 フッ太君がやたら強いですが、大体本編でチートタックル10回以内に収めたプレイヤーぐらいの強さを想定しています。チケフレア抜きで十二分に強い。
 はじめの一歩のリカルドみたいな、強すぎてもはや面白くないチャンピオンです。

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Q.なんかトーナメントの試合数原作より多くない?(15試合)
A.フッ太が出場した大会以降、競技レベルの上昇、新たな人気スタートレーナー(ヒカリ、レオなど)が参入したことにより、ヤリモンバトルの人気が更に加熱。
 結果、局のスポンサーからの要請もあり、以前の1日間8名のトーナメントから2日間16名のトーナメントに変更されました。
 各4人のブロックトーナメントを勝ち進んだ一人が、他のブロックで勝ち進んだ3人とトーナメント形式で争います。
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Q.トーナメントの出場選手は?
(W=勝ち、L=負け)
・Aブロック
ヤリスターガールズのユメ(W)ー桃姫(L)
タイガ(W)ーミズキ(L)

・Bブロック
アテナ(W)ーサナエ(L)
ヒカリ(W)ーアヤ(L)

・Cブロック
タマ(W)ー黒姫(L)
クエム(W)ーナナセ(L)

・Dブロック
レオ(W)ーアキラ(L)
フッ太(W)ーアオイ(L)

 試合結果は、優勝:フッ太、準優勝:アテナ、3位:タマ、4位:ユメとなります。
 フッ太は白の神戦直後のアテナとの決勝戦で勝利してから3年連続王座を防衛した形になります。
 なお原作のゲームでも触れられていましたが、試合順的にDブロック側の方が試合間のインターバルが短いので、今回の大会ではフッ太くんは結構ハンデを背負って戦ってる感じです。(二日間に分けてるのでそれほどは感じないとも思いますが)
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Q.大会のルールは?原作みたいに試合ごとにヤリモン変えていいの?
A.ポ〇モンのランクマよろしく、6匹のヤリモンを事前に登録し、その中から毎試合3匹を選出する形に変更されました。
(育成速度が出鱈目に速すぎる現チャンピオンを少しでも弱体化させ、試合の見せ場を作るために、スポンサー圧力により追加されたという裏事情があります。)
 なお、試合中の交代については「2回まで」と制限されています。
(加えて、交代の隙をついて攻撃を受ける危険性がある)
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Q.フッ太のパーティーについて
①チケフレア(人間体の姿を取り戻すまではチケープと呼ばれていた)
 フッ太の相棒にして本命ヒロイン。
 青と黄色の入り混じったスライムのような見た目のヤリモンであったが、色々あって少女の姿となった。
 詳しくは原作をプレイして確かめてください。
 この世界線では、フッ太との距離感が近すぎるジェイリアンに対し、若干のコンプレックスを抱えている。(それはあちらも同様であるが)

②クロトロフ
 2年前のエンドラボラトリ杯(レンタルヤリモン縛りのトーナメント)で、フッ太が優勝した時からパーティーに加入した。現パーティーでは割と新参者。
 カービィのクラッコ.jrか、鬼太郎のバッグベアードみたいな見た目をしている。
 闇属性ヤリモンらしく状態異常を撒き散らしながら、相手の積み技を特性で破壊するフッ太パーティーの戦術的キーマン。
 なお、フッ太はエンドラボラトリ杯についても3期連続で防衛しています。

③ジェイリアン
 フッ太がチャンピオンになる前に、ラブジェルの姿でハーバータウンの橋の下で弱っているところを保護された。
(本来の生息地ではなく、漂流してきたと考えられているが…)
フレアと同じく、フッ太とシンクロできるヤリモンの一匹で、少女の姿に変態できる。
本来ヤリモンがシンクロした姿は、ヤリモンとしての特性を更に強化した形態に収束するパターンが多いが、なぜかチケフレア同様少女の姿に変身した。
(以下、シンクロ状態のジェイリアンの挿絵)

【挿絵表示】

チケフレアに対する対抗心由来か、あるいは…

それら以外に3体のヤリモン(ゴーゴーギン、ファルックス、ビルドーマ)がエントリーしています。
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Q.アテナの方の決勝戦でのパーティーは?
ジュラマッド、ムスター、ヴレイジンの3体を繰り出しました。

・決勝戦の試合の流れとしては、
①相手の選出予想:フッ太はアテナ側の3体選出のメンツは全部的中させている。アテナもフッ太側にジェイリアンかゴーゴーギンどちらがいるかで迷ったけど、他の2体については的中。
②ファーストバッターの選出:フッ太は前試合までにジェイリアンかゴーゴーギンを1番手として出していた。アテナもそれを前提で組んでくるだろうと考えて、敢えてクロトロフを選出。(クロトロフはムスターとヴレイジンに刺さっている)アテナ側は直感的にジュラマッドを選出。速度的にはクロトロフより速い闇属性なのでジュラマッドが優勢となる。
③フッ太が交代を選択することを見越して、アテナは交代先の相手に高火力の「ドレッドエンド」を交代先の相手に浴びせようとするが、クロトロフの『完全ガード』で攻撃態勢を崩される。ジュラマッドの態勢が崩れたその瞬間、クロトロフからチケフレアに無傷で交代。
④Lvの勝るチケフレアがジュラマッドに先行し、『天衣無縫』を浴びせジュラマッドをひるませる。その僅かな隙に、チケフレアがスマッシュを叩き込んでジュラマッドをKO。
⑤アテナはムスターを選出。その直前にフッ太側はチケフレア→クロトロフに交代。(これでフッ太側は交代権を使い切った)
アテナも交代するか一瞬逡巡したが、ヴレイジンも万全のクロトロフ相手だとかなり不利なのでこのまま続行。
⑥クロトロフは特性によりムスターの回避率上昇を牽制しつつ、『幽愁暗恨』でムスターの体力を削る。ムスター側も効果抜群の『光芒一閃』でクロトロフにダメージを与えるが、肉体再生で回復される。
⑦のらりくらりとクロトロフに時間を稼がれ、ムスターがついに力尽きる。クロトロフはHP80%弱。アテナは最後のヴレイジンを繰り出す。
⑧繰り出し様、ヴレイジンは『気炎万丈』をクロトロフに命中させるも耐えきられてしまい、カウンター気味に『幽愁暗恨』を浴びせられる。その後ものらりくらりとクロトロフに攻撃を躱され、本編冒頭に至る。
みたいな感じです。

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Q.なんかジェイリアンにスポット当たりすぎじゃね?
 個人的に、原作の時点でかなり特異なヤリモンだと思います。
(設定的にも、性能的にも)

 ヤリモンの起源については、クリスター計画の副産物、西暦時代の新生物兵器の末裔、或いはロボットに他の生物の魂が宿ったものと説明されていましたが、ジェイリアンは、図鑑説明文では、「最近の研究で宇宙からやって来たヤリモンだということが判明した」とあり、地球外をルーツに持つと説明されています。
 勿論、本編が始まる白神歴2070年までの間に地球から飛び立ったヤリモンがいてそれが戻って来た、という線もありますが、もしそうでなければ、クリスターの効果範囲外であろう地球外にどうしてヤリモンが誕生したのか、或いは元々地球外にもヤリモンは別個に存在していたのか、ともすれば、地球外文明が作り出した新たな生物兵器なのか、色々考察が捗りそうな設定となっています。
 原作でのビジュアルとしても、クリオネがモデルになっていそうですが、(第一、第二形態は顕著、第三形態の6本の触手もバッカルコーンと呼ばれる現実のクリオネの捕食器官の数と一致する)、それ以外にもウォーターストーンみたいな胸飾りや、目の色が黄色であったりと、なんだか人間時代のフレアと合致する要素が散見されるんですよね……
(まぁ、モンスターデザインについては「沼から現れた」さんのFree版を使われているみたいなので、全くの偶然でしょうが)

 性能的な面を言えば、現状捕獲できるヤリモンの中で唯一、「チケフレア(チートタックルあり、戦闘中1回のみ)をサシで倒せる」存在というのも特異的です。
 無論、チケフレアは恵まれたステータスと高火力技もあいまってチートタックル無しでも十分強いですが、ゴクドロン、ファルックス、 トーグリスEXなどギリ勝てそうな面子はいます。しかし、チートタックルありなら、多分コイツしか勝てません。
 たとえ最適行動されてもされても勝てます。

 具体的な勝ち筋については、活動報告欄にて書いています。(活動報告とは)
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