ちょっとユメちゃんについての情報開示が少ない気がしたので、補完と追加を行いました(独自解釈モリモリ)
2年前、私は人生のどん底に居ました。
それと我が一族のルーツの一つである、『芸能』、とりわけ『アイドル』という華やかな世界に憧れがありました。だから、お父様に懇願してヤリモンバトルの武者修行という名目でギガシティを出て、実家のコネに頼らず、アイドルとして生きていくことを許してもらいました。幸い、家には私より優秀で周囲の期待を一身に背負う後継者がいましたから、私一人が抜けたところで何の問題もありませんでした。
当時の愚かな私は、これで自分の道が開けたと本気で信じ切っていたのです。
―――そんな夢見がちな少女の期待は一瞬にして打ち砕かれました。
ヤリモンバトルの腕を見込まれてヤリスターガールズのユニットに入ったはいいものの、ハードな巡業とヤリモン修行の両立は思った以上に大変で、思うように格上から勝ち星を挙げられず、憧れだったアイドル稼業は、枕営業が当たり前の夢も希望もない職場で……。
ユニット内の環境も居心地の良い空間とは言えませんでした。とりわけ同僚のカナタちゃんは、外面こそクールキャラで通ってものの、裏では人を家柄や肩書きだけで露骨に見下し、ファンを小馬鹿にして罵詈雑言を吐き散らすような最低最悪のアイドル
理想とかけ離れた悪意の充満する楽屋は、私にとって息をするのさえ苦しい空間でした。
――それでも、こんな温室育ちの私でもファンができたのは嬉しかった。彼らが応援してくれる限り、どんな過酷なトレーニングだって、どんな過密なファンサービスだってこなして見せる。そう、思っていました。いや、だからこそーーー
――――何より私を打ちのめしたのは、彼らファンの期待にすら応えられない、どうしようもない私自身の「弱さ」でした。
とあるイベントのエキシビジョンマッチで、私は事務所主導の不正の片棒を担ぐ羽目になったのです。
その対戦相手こそ、私と似た境遇でありながら、実力一本でスタートレーナーの座まで駆け上がったマキさんでした。
結果は惨敗。試合後、彼女から不正の事実を冷ややかに指摘された瞬間、私は全身の血が引くのを感じました。
結局のところ、全ては私が運営から正規の試合では勝てないと見切りをつけられた、私の不甲斐なさの所為でした。
情けなさと恥ずかしさで視界が歪み、すべてを放り出して死んでしまいたいとさえ思ってしまいました。
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そんな折です。彼と、――太郎先生と出会ったのは。
最初に彼とお会いしたのは、アイドル茶屋のVIPルームでした。
第一印象はVIPルームに酷く場違いな、普通の男の子。
服装も着古したTシャツ、短パン、スニーカーとあまりにも場違いで、最初は見間違いかと思いました
(でも管理人さんは裏会員証持ち以外は絶対通さないだろうし……)
あの几帳面な管理人の入念なチェックを不正ありきでパスするのは不可能だろう。それに少なくとも、カナタちゃんの様に外見だけで、人を判断したくない。そんな反面教師じみた考えもあり、接客に臨ませていただいたのを覚えています。
最初は、年長である私がリードしようと考えていました。まずは緊張をほぐすように、スキンシップから始めようと——。
僅か数秒で、それがとんだ杞憂、見当違いだと思い知らされることになりました。
彼のボディタッチはあまりに的確でした。左手で乳房の外縁を柔らかく包み込み、焦らす。太ももの外縁を優しく撫でて、私の高揚を見計らい、少しずつお尻側に範囲を広げて愛撫する。
性感どころか、呼吸も、体温さえ支配されているように感じ、その混乱を覆い隠そうと、慌てて自ら接吻を懇願してしまいました。
重なった唇は、さらに容赦のないものでした。私が息を継ぐタイミングを完全に読まれ、窒息寸前のところで解放されては、再び貪られる。生殺与奪の権を握られたまま蹂躙され、私の理性は蕩けていきました。
私は完全に気が動転してしまって、彼にコンドームをつけるように促すことも忘れ、トロリとした意識のまま彼に抱き寄せられました。
そして促されるまま彼の強直に貫かれた瞬間、私の肉体は完全に彼に屈してしまいました。絶妙な角度と速度で刻まれるストローク。膣口の締め付けも、疼くGスポットも、最奥の子宮口も——私が満たしてほしいと願う急所を、まるで見透かしているかのようにピンポイントで突いてくる。
「もうお腹一杯、許してほしい」と叫びたくなるほどの快楽の奔流に曝されながら、子宮の奥底からは「もっと欲しい」と底なしの飢餓感が湧き上がってくる。私はみっともなく腰を浮かせ、彼を求めて媚び啼き続けました。
心も体も、丁寧に、完膚なきまでに征服されてしまったわけです。
……間違いなく、私の人生で最高のセックスでした。
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彼に蹂躙されてから再び意識を取り戻した時、彼の姿はなく、ベッドの隣はすでに冷え切っていました。
私は体が疼いて居ても立ってもいられなくなり、管理人さんに彼の行方を問い詰めてしまいました。しかし、該当する男の子の手掛かりは得られませんでした。
元々会員証には、徹底的な秘密保持のため会員情報は紐づけされていません。会員証の真贋だけが入場可能の是非につながるというシステムが完全に裏目に出たという形でした。
雲を掴むような喪失感と渇望を抱えたまま、私は悶々とした日々を送っていました。
そんなある日のことでした。何気なく点けた劇場の控室のテレビ画面に、あのTシャツ姿の彼が映し出されたのです。
ヤリモンバトルトーナメント本選——最高峰の舞台に、彼は立っていました。
そして私は、信じられない光景を目撃することになります。
彼のヤリモンたちが、
自らの、そしてマキさんのヤリモン、そしてのマキさんのコンディションと呼吸さえコンマ一秒単位で正確に把握する洞察眼。マキさんのやりたい事を一切やらせない、どころかやりたいことをやらせた上で全て掌の上でコントロールする、驚異の戦術眼。まるで3匹のヤリモンとトレーナーが一つの生き物にさえ思えるような圧倒的指揮能力。そして地形すらも変える桁違いの実力を持つヤリモンを何匹も育て上げた育成能力。そして、時折彼のヤリモンから向けられる圧倒的で揺るぎない信頼と、ヤリモンに向ける彼の優し気な瞳。
――――私の、トレーナーとして思い描く理想像が其処にはあった。
アイドル稼業に限界を感じていた私は直ぐ様、お父様に彼を私の専属の教育係にしてほしいと、連絡をしました。
意外にもお父様からは好印象の様でしたが、西園寺グループのトップとして一存では決定できないと返されました。西園寺グループはあくまで、複数の有力企業が手を取り合ってできた集合組織。遠坂グループと比較しても、一トップの鶴の一声では通りにくかったのでしょう。
その後大会中に大規模地震が起こり、セントラルで停電などの事故が起こり各所が対応に追われ、しばらく期間が空いたのち、太郎様とのスポンサー契約の是非について幹部会議がありました。
結果は過半数を取れず、落選となりました。
その一因は、カナタちゃんの御父上で、大手芸能プロダクション経営者の「彼にはビジュアル面で華がない」という一言。曰く、アテナさんを、或いは他のスタートレーナーをさらにプッシュして、彼には表舞台から消えてもらうべきだ、と、巫山戯たことを宣いました。
―――あの圧倒的な実力を見せた彼がチャンピオンが降りる日が来るとでも?
子が子なら、親も親。まるで人を見る目がない。
調べれば調べる程、太郎様と関係のある、ひいては気のある
中には、和の里のトップ、有力神社の実質的最高権力者、さらには遠坂グループトップのマキさんまで既にアプローチを仕掛けている始末。
もはや手段を選ぶ時間なんてありません。
所詮、カナタさんの御父上は一プロダクションのトップ。組織としては替えの利く末端に過ぎません。そして幸いなことに、私が籍を置いていたVIPルームは、財界や芸能界の醜聞が日常的に転がり込んでくる情報の中枢でした。
――私は手に入れたカードを即座に切りました。カナタちゃんの父親には、娘が事務所内で西園寺の令嬢である私に対して行ってきた悪質な嫌がらせや不正の証拠を突きつけました。失脚を恐れた男は顔面を蒼白にし、即座に私の忠実な「飼い犬」へと成り下がりました。
その他の強硬な反対派幹部たちも、長年にわたる脱税、裏金、愛人問題といったスキャンダルを盾に脅迫し、あるいは精神的な弱みにつけ込んで完全に懐柔し、私の意のままに動く「お人形」へと仕立て上げました。
並行して、彼とスポンサー契約を結ぼうとした「目敏い」中小企業の皆様には、漏れなく傘下に入っていただきました。
お父様が遠坂グループ側に送っていた「スパイ」にも、彼のスポンサー契約の会議をまとめられないように「仕事」をしてもらいました。
かくして当方の二度目の会議では、太郎様とのスポンサー契約案は恙なく通過し、私は晴れて一企業として彼とのスポンサー契約を結ぶことになりました。
再会した時の嬉しさたるや、もう言葉で言い表せない程でした。
その頃には、とっくに彼のファンになっていましたから。
彼がチャンピオンとして多忙な日々を過ごしていることは把握していました。
故に最初は1回2時間の週2回のレッスンで、時給50万円、しめて週給手取りで200万円(別途、補助や物品を支給)ほどを提示したところ、彼は快く受けてくださいました。
金銭感覚を徐々に麻痺させて、彼の時間をさらに買い取ってあわよくば……と思っていた矢先、予想外の誤算が……あ、いえ、嬉しい誤算があったのです。
ーーそう、彼は、勝ち方を知っていた。指導者としても超一流だったのです。
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指導が始まって二週目のことでした。
「もう一本、お願いします…!」
太郎様とのヤリモンバトルで、軽々3タテをかまされるも、私にとっては格上と戦える貴重な機会。直ぐ様再戦を申し込みました。
「……ユメちゃんはさ、頑張り屋さんだよね。実力差のある相手にも何度も挑戦して乗り越えようとする。」
「……はい///」
努力家、頑張り屋は言われ慣れた言葉です。
でも、その時の私は憧れの人に言われて、少し嬉しくなってしまいました。
「でもはっきり言って、今自分が足踏みしている自覚、あるよね。……何でかは、分かる?」
浮かれていた私は、不意の問いに顔面に冷や水を浴びせられた気分になりました。
「……それは、私の地力が、努力が足りないから…」
「なるほど、ユメちゃんはそう考えているんだね」
太郎先生は顎に手を当て、淡々と続けました。
「ユメちゃんの努力が足りていない、ということは無い。
「……それなら、どうすればいいのでしょうか。足りない地力を埋めるには、死ぬ気で特訓を重ねるしか……」
地力を上げるには努力するしかない、それが当たり前の話だ。
壁を破るには、壁に当たり続けるしかない、少なくとも当時の私はそう思っていました。
「ユメちゃんの当面の目標はヤリモンバトルトーナメント本選に出場することだよね」
「はい。そのためには、予選枠を争う格上のスタートレーナーに勝利することが絶対条件です」
「うん、選考基準から見ればその通りだ。そしてね、さっき地力が足りないと言ったけれど、ユメちゃんは客観的に見て相当強いよ。各地のジム師範クラスはとっくに超越している。君より明確に格上と呼べるのは、それこそスタートレーナーくらいのものだ」
(先生も私の現状を正確に把握されている。それならどうしてーーーー)
「でもね……」
「強くなるためには、必ずしも実力差のある相手、というより格上と戦う必要はない。というか、はっきり言って少し格下あたりを相手にした方が確実に、早く強くなると思う」
「……!?」
「実際に
「さっきの僕との試合、どのくらい改善点が浮かんだかい?個数だけでいいよ」
「交代の判断ミス、状態異常察知の遅れ、とか、15くらいは浮かびました」
「なるほどね。それで、ユメちゃんは仮に次に僕と試合をした時には、全部改善できそう?」
「いえ、2個か、多くて3個くらいが限界だと思います。」
「いい見立てだね、僕もそのくらいだと思う。ちなみに何回かに分けて全部改善したとして、僕に勝てると思う?」
「いえ…分からないです」
「だろうね。おそらくそれは現状、
確かに勝ち筋は見えなかった、それでも試合数を重ねていけさえすればいつか……。
「ちなみにね、僕はさっきの試合で、僕自身の改善点を二つ見つけた」
「先生が……ですか?」
完璧に見えたあの試合運びの中に、修正点などあったのかと私は活きを飲みました。
「そう。交代のタイミングがコンマ五秒ほどズレて、ビルドーマが万全の戦闘態勢に入るのが一瞬遅れたこと。それから、中盤の指示をもっと簡潔に伝えるべきだったことの二点だ。」
「そしてこの二点なら、僕は次の試合で一発で直せる」
「……!」
「その一方で、僕はさっきの試合だけで、ユメちゃんに対する勝ち筋を四十通り以上見つけた。そして試合を重ねるたびに、その数は加速度的に増えていくだろうね」
「四十通り……」
「地力に圧倒的な差があるからだよ。僕の側には精神的にも戦術的にも余裕があるから、自分の微細なズレを修正しつつ、ユメちゃんの弱点を隅々まで観察し、いくらでも攻略ルートを構築できるのさ。」
「……これが何を意味するか分かるかい? 地力が明確に上の相手に挑み続ければ続けるほど、相手の修正スピードと対策の深さに引き離され、君の勝率は挑むたびに下がっていくんだ」
「ッ……!」
理屈としては理解できてしまった。
私は強くなろうとして格上に挑んでいたつもりで、その実、相手に安全な成長の機会と、自分を確実に処理するためのデータを無償で献上し続けていただけだったのです。
冷たい戦慄が背筋を駆け抜けました。
「逆に言えば、少し格下相手と戦えば、君は今の僕と同じ立場になる。」
「………!」
「試合に余裕が生まれるから、冷静に自分の弱点を分析できる。」
「格下に突かれる弱点なんて最高の反省材料だ。同格以上の相手からしたら
「そういう改善目標の順位付けという点でも、少し格下相手との戦闘はタイパがいいのさ」
「……ちょっと失望しちゃった?」
自嘲するように、先生は少しだけ笑った。
「……正直、チャンピオンはそういった事前の勝率は度外視で戦ってきた、と思っていました。…ヒカリ選手との試合成績とかの話を聞いていたら……」
「あぁ、99回負けた話ね……。うん、はっきり言って99回負けたことについては実力の向上という点では、何の意味もなかったと思うよ。得たものといえば、ヤリモン図鑑と、世の中の理不尽への耐性ぐらい、かな……」
(……ヤリモン図鑑?)
どこか哀しい目をしてそう呟く先生。
「まぁ、そもそも実際に実力差がある状態でのジャイアントキリングなんて、余程特殊な条件がいくつも重ならない限り成立しないんだよ」
「特殊な、条件……?」
「そう。例えば、自分のヤリモンがたまたま
妙に実感のこもった声でつぶやく先生。
「……仮にそれで首尾よく勝てたとして肝心の再現性が無い。次は無難に対策されて終わりだろうね。ま、事故みたいなもんだよ。(まぁ僕は特別ルールがあったからそれでも良かったんだけど……)」
少し含みのある言い方で続ける先生。
「ま、そんな例外を除けば、世の中で持て囃されている『ジャイアントキリング」ってやつは、下馬評は兎も角、大抵は地力に差なんてなかったか、むしろこっちの方が実質的な地力は上だった場合がほとんどなんだ。」
「まぁ言ってしまえば、勝負は9割がた戦う前から決まっている、とも言える。」
先生の言葉は、熱情や根性論に逃げようとしていた私の甘えを、容赦なく、けれど極めて論理的に解体していきました。
かつてマキさんとの戦いで結果的に不正の片棒を担ぎ、無残に砕け散ったあの日の記憶が胸を刺します。あれもまさに、実力差を埋めようと小細工に縋っただけの、無様な足掻きだったのだと、改めて思い知らされました。
「ところで、人工知能の学習モデルの研究で『85%ルール』って呼ばれる面白い理論があるのを知ってるかい?」
「85%ルール?」
「うん。人口知能が最も効率よく新しい知識や技能を習得するのは、成功率がだいたい85%——つまり、失敗する確率が15%前後の難易度を与えられた時なんだって。」
「簡単すぎると改善点が見つからず進化が明後日の方向になりかねないし、難しすぎて失敗ばかりだと、何が悪かったのか、どこから直せばいいのかデータが散らかりすぎて学習が止まってしまう」
先生は指を二本立てて、私の目を真っ直ぐに見つめました。
「これはヤリモンバトルにおいてもある程度応用できる。」
「実戦において、自分がだいたい8割から7割勝てる相手——勝率で言えば8対2、あるいは7対3くらいの相手と戦うのが、最も成長効率が高いんだ。その2割から3割の負けや、ヒヤリとさせられた場面にこそ、今すぐ直すべき『本物の弱点』が浮き彫りになる」
「……格下に突かれる弱点、ですね」
「そう。同格や格上に突かれた隙なんて、正直どこから手をつけていいか整理するだけでも億劫でしょ? でも、さっき言った通り、格下に突かれた弱点なんて、言い訳の利かない剥き出しの欠陥だ。そんなものは最優先で直さなきゃいけない。」
「それにね、ユメちゃん。トーナメント本選を目指すなら、ラッキーパンチが出るまで格上に挑むより、まずは『格下に絶対に負けない安定感』を身につけることの方が何倍も重要なのさ。格上に一回勝つよりも、格下に2回負ける方が
目から鱗が落ちる、とはまさにこのことでした。
私はずっと、スタートレーナーという高すぎる頂ばかりを見上げて、自分の足元にある無数の落とし穴を放置したまま駆け上がろうとしていたのです。
転んで泥だらけになって、それを「努力の証」だと勘違いして——。
「だからね、今のユメちゃんに必要なのは、格上に砕かれることじゃない。自分の弱点をあぶり出してくれる、質の高い格下との対戦なんだ。そしてね……」
「そういう意味で言えば、ユメちゃんは今、中々に
「実家……のことですか?」
実家の太さや影響力を鑑みれば自分は、間違いなく恵まれている方でしょう。太郎先生も実家の力なくしては雇えなかった……そういう自覚はありました。
「あー、そういう意味じゃなくて……今やっているアイドル業のことだよ。イベントバトルとか出てるでしょ?」
「え……?」
確かにイベントの際、ファンからの挑戦バトルは受けている。
勿論、ファンサービスの一環なので手加減もする。首尾よく私たちに勝利した挑戦者には握手延長券や最前列シート券をプレゼントする。中には、ステージ衣装とか、使用済みタオルを要求する人たちも居たが……。
その催しが、本選出場に一体どう関係するのだろう?
「あそこで手を挙げるファンは、君のファンであると同時に、ある程度腕に自信があるトレーナーでもあるはずだ。」
「……しかも彼らは、君と戦いたい一心で、君のバトルスタイルや癖、使うヤリモンの特徴を血眼になって研究してきている。そうしてある程度勝ち筋を作って挑んでくるわけだ。」
「………!! 」
「……分かるかい? 『自分を徹底的に研究して、勝ちに来ようとする少し格下の相手の列』なんて、簡単に用意できる環境じゃない。最高の練習台が、向こうから列をなして会いに来てくれているんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中で、これまで「ただのファンサービス」でしかなかったアイドルイベントの景色が、180度塗り替えられました。
カナタちゃんがファンを虫ケラのように見下し、悪態をついていたあの握手会やイベント。
私自身も、営業と修行の両立にすり減り、ただただプレッシャーに耐えるだけの苦行だと思い詰めていたあのステージ。
それらすべてが、先生の視点を通した途端、私を急成長させるための「最高峰の育成話境」へと変貌を遂げたのです。
「ファンとのバトルをただのファンサービスで終わらせるか、それとも自分の弱点を炙り出すための研ぎ石にするか。それを選ぶのはユメちゃん次第だよ。」
「……どうかな、これでもまだ、格上相手に玉砕し続けたい?」
先生の言葉は優しく、けれどどこまでも怜悧でした。
指導者としてこれ以上ないほど的確で、残酷なまでに実践的な道標。
——ああ、やっぱりこの人は素晴らしい。
私の体を極上の快楽で支配したあの夜と同じように、私のトレーナーとしての矜持もも、この人は口先ひとつであっさりと塗り替えてしまう。
私の胸の奥で、ドロドロとした暗い執着が、甘く熱い歓喜へと塗りつぶされていきました。
「……いいえ、先生。私、ファンの方々と全力で戦ってきます」
私は溢れそうになる笑みを淑やかな淑女の仮面で隠しながら、深く、恭しく頭を下げました。
「私の弱点を暴いてくれる愛しいファンの皆様を踏み台にして……私、絶対にスタートレーナーを引きずり下ろせる本物の強さを手に入れてみせます。」
(アレ、なんか変なスイッチ押しちゃった……?)
「ですから……これからもずっとずっと、私を導いてくださいね? 太郎先生?」
「……アッハイ(汗)」
西園寺の権力も、裏工作も、金も、そしてアイドルという立場すらも。
この男を永遠に独占するためなら、何だって利用してやる。
先生の合理的な教えを噛み締めながら、私の心はどこまでも深く、暗く、彼への陶酔に沈んでいくのでした。
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その後も太郎先生からの指導は続きました。
「ユメちゃん、せっかくだし、リゾート島で発見された新種のヤリモン育成してみない?」
「え?……私は…急に新しいヤリモンを育成できる程器用ではない、と思います。それに、今育てている子たちもまだ十分には……」
「うーん?、ユメちゃんなら多分できると思うよ。というか寧ろ、ユメちゃんの場合、固定メンバーを徹底的に育てきるよりかは、複数のヤリモンを同時並行で育てて、相手によってパーティーを編成しなおすスタイルの方が向いている、と思う」
「そう、なんでしょうか?」
「恐らくね。前あったリゾート島のレンタルヤリモン大会でも良い順位だったし、幅広くヤリモンを扱う才能があるんじゃないかな。まぁ何よりも……」
「ーーー強力なヤリモンの対策をするには、そのヤリモンを育成するのが一番いいよ」
「……‼、分かりました。やってみます‼」
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――たまに、私の『役作り』を手伝ってもらったり……
「え、ユメちゃん……何。この物件?」
「『新築ボロアパート』です!」
「新築?ボロ……?なにゆえこんな建物作ったの?」
「今度自分が出演するドラマが、アパートで新婚夫婦二人暮らしという設定で……」
「もし良かったら『役作り』のため、先生も一緒に住んでいただけませんか…?」
「別にいいけど……。」
「結構年期入っているな…。うお、隙間風入ってくる…!」
「エアコンで再現していますわ♪」
(Wifi完備で自動給湯もあるのか……!、普通に住みやすい…)
「それで肝心の台本なのですが……」
―――――――――――――――――――
ユメ(妻役)「あなたやめて!それは明日払う家賃で……!」
フッ太(夫役)「うるせぇ!倍にして返せばいいんだろ!」
ユメ(妻役)「あっ!? (ゾクゾクゾクッ‼)」
(頬をぶたれて蹲るユメ、そんな様子意も介さずに出ていくフッ太。)
――――――――――――――――――――――
フッ太(大家)「おいおい、奥さんよ…これっぽっちじゃ利息分にも足りねぇな……」
ユメ(妻役)「も、申し訳ございません……!」
フッ太(大家)「こりゃ、『身体』で払ってもらいしかねぇな…(ニヤリ、ボロンッ)」
ユメ(妻役)「あっ……!?(ゾクゾクゾクッ!)」
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「えぇ……(困惑)」
「あ、普通に夫婦一緒にお風呂に夫仲良く入るシーンもありますよ♪」
その後、困惑する太郎先生一緒に、なんだかんだ凄く愉しみました♡
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先生の絶対的相棒であり、同時にセントラルの虎の子でもあるチケフレアさんの懐柔にも腐心しました。
(……コイツ、最近やたら相棒に馴れ馴れしいな……。何か企んでいるじゃ……)
「…なぁ相棒、今日は一旦ハジメムラに戻……」
「太郎先生、チケフレアさんも!良いお菓子が手に入りましたの。お時間良ければお茶にしませんか?」
「お、有難くいただこうかな。せっかくだしフレアも一緒に食べようよ」
(いや、私お菓子で釣られるほどチョロくないし……)
「やっぱりユメちゃんの用意するお菓子は美味しいね」
「お褒めに預かり光栄ですわ♪」
「なに…これ、滅茶苦茶ウマッ……!こんなの西暦時代には……!」(ぐぁつぐぁつ)
「……チケフレアさん、ケーキは逃げませんわ。お代わりもありますしゆっくり味わってくださいまし…」
「相棒、コイツいいやつだな!」
「………」
ーーーあまりにもチョロ過ぎて、彼女の行く末が少し心配になったりもしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「先生には、どうしても格上に勝たなければならない時って、ありましたか?」
「ーーーーあったよ。」
「どのように対策されましたか?」
「残念ながら、準備する時間はなかったよ。ぶっつけ本番さ」
「ーーー勝てましたか?」
「……勝てたよ。でも」
「僕一人じゃ絶対に勝てなかった。」
「でも、
「………」
「月並みな答えしかできなくて、ごめんね」
「…いいえ、ありがとうございます。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――――かくして、私はいつの間にかスランプを抜け出していました。
念願のスタートレーナーの仲間入りを果たしました。
そして、今年のヤリモンバトルトーナメント予選の最終選考試合にて、マキさんにリベンジする機会を得ました。
結果的に言えば、私が勝ちました。
その日までに得た戦闘経験値、太郎先生直伝のサイクル戦術、マキさん相手に特化したパーティー編成…そのすべてをぶつけて得た、薄氷の上の勝利でした。
決してマキさんより自分の実力が上だった、とは思っていません。彼女は私と比較しても、準備のための時間が圧倒的に不足していたと理解しています。
それでも、
戦いの後、マキさんとの戦いがしっかり自分の血肉になったことが実感できました。
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そのままの勢いで、本選でも準決勝まで勝ち上がりました。
1回戦の桃姫様は炎属性のヤリモンを主体に育てられており、風属性を主軸とする私は苦戦を強いられました。しかし、強力なリゾート島産ヤリモンや水属性のヤリモンの育成にも着手した甲斐もあり、なんとか盤面を制することができました。
2回戦のタイガさんは対照的に土属性を主軸としたパーティーで比較的与しやすいと考えていました。しかし彼女は、ワイルドな戦闘スタイルと同時に、冷静な戦術眼を併せ持っていました。際どいタイミングで交代してきたヤリモンに状態異常攻撃を跳ね返されたり、逆に交代のタイミングを読まれて何度も強烈な攻撃を浴びたりもしました。
それでも、枚数をかけて、何度も何度も彼女のトーグリスに弱点属性の風属性攻撃を積み重ねるうちに、ようやく倒すことができました。試合終了のブザーが鳴った時には、どっちが勝ったのかさえ自分では分からなかった、まさに「辛勝」だったと思います。
準決勝戦ではアテナさんに、3位決定戦ではタマさんに敗れました。
アテナさんは重量級ヤリモンを使いこなし、
タマさんは、リゾート島産のヤリモンとまるで家族の様にコミュニケーションを交わす野生児。戦術面では粗さはありましたが、そのヤリモンの膂力と技の威力たるやアテナさんやタイガさんをも凌ぐパワーファイターでした。
その時出せる力は全て出し尽くしてなお、勝てませんでした。
でも、確かに「勝ち筋」は見えました。
次戦う時までに、更なる編成を試し、自分の戦闘スタイルと相手の研究を研ぎに研いで研ぎまくり、その間成長したお二人をも必ずや仕留めてみせます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして同大会では、予想通り太郎先生が優勝されました。
あのアテナさんに一度も試合の主導権を握らせない、まさに圧勝でした。
私は喜びで舞い上がりそうになるのを必死に抑えて、スポンサーとして彼をお祝いしました。
そうして差し当たり、西園寺グループ主催のテーマパーク「Utopian Saionji Joytopia」のプレオープンペアチケットをお送りしたわけです。
もしその遊園地のペアとして、彼が私を選んでくれたなら……
ーーーーそんな淡い、浅ましい期待が無かったわけではありません。
しかし、現実的には難しいでしょう。
なにせ、1週間の限られた時間の内、既に4時間以上を私のために割いてくれているのですから。
これ以上の時間を、現段階ではいち雇用関係兼セックスフレンドに過ぎない私に割く道理はないと考えるのが自然です。すくなくとも、
チケフレアさんが病院で検査を受ける予約情報もセントラルからの
ヒカリさんやレオさんとは直近で遠坂ドリームランドに行っていたということも把握しておりました。
大会から日程が近いだけあり、大会で好成績を残したアテナさん、タマさん、あと彼と親交があり今大会の本選に初出場を果たしたナナセさんあたりは、彼に招かれて来場する可能性は高いだろうと踏んでいました。
きっとどんな形であれ、一緒にイベントを愉しんでもらえるはず。
そう思いながら、一日千秋の思いでその日を待ち続けました。
ーーー結局、開催日まで私に誘いの連絡はありませんでした。
それでも誰をペアとして誘ったのか、気になって、気になって、名残惜しく、諦め悪く、「もしかしたら一人できていないかな」などと、私は受付のカメラからの映像を朝からずっと見ていました。
そこに、彼の横に映っていたのはーーーーーー
「マキ、さんーー?」
遠坂マキ。
私と同じくグループの社長令嬢にして、既に代表として実権を振るう傑物。
スタートレーナーの一員で、ずっと私が憧れていて、彼女の気高さこそ、私の理想でした。
「どうして、マキさんが……?」
そして同時に、私の、「太郎先生のスポンサーという立場」を脅かしうる、唯一といっても差し支えない「強敵」。
親交があるのは知っていましたが、よりにもよって、本選に出場できなかった彼女が……
「いや、だからこそですか。ーー太郎先生は本当にお優しいですね。」
先生のことだ。多忙さと失意で沈む彼女を、彼なりのやり方で労わろうとしていたのでしょう。
流石に西園寺グループ主催の遊園地内だからか、彼女の足取りはやや硬い。
ーーーーーしかし、確実に楽しんでいる、満喫している。彼女も太郎先生も、二人だけの時間を。
(当園を楽しんでくれて、私は本当に嬉しいんですよ。しかしーーーー)
ーーーーー例え他の方に出し抜かれてしまったとしても、この方だけには負けるわけにはいきません。
負ければ、私の彼にとっての
見れば、発情した彼女を先生がトイレに連れ込もうとしているではありませんかーーーーー
「ーーフフフッ、
ーーーー彼女の来訪は、奇貨だ。
もう彼女が心の底から勝てないと思えるまでに格付けを済ませてしまえば、金輪際私の立場は脅かされない。
これは心を抓む戦い。
今度は言い訳できないほど、彼と遊びに来るのが居た堪れなくなるほどに、圧倒してしまえばいい。
そう思いながら、私はいても立っても居られず、
おまけ
85%ルールの論文:
The Eighty Five Percent Rule for optimal learning
まぁ雰囲気で書いているのであまり鵜呑みにされないように……。
この世界のユメちゃんはまだまだ世間知らずお嬢様だな、と書いてて思いました。
正直原作の方の性根の方がもっとえぐいと思います。
(調教の手馴れ方から見て、カナタちゃんがペット一人目って感じでもなかったし)
西園寺ユメちゃんの秘密
①劇中でもさらっと言及したが、原作ゲームでのリゾート島のレンタルヤリモン大会(エンドラボラトリー)にて、好成績を出している。原作の大会は全50戦あるが、そのうちの39戦目前後に出てきて、一部のスタートレーナーよりも後半に出てくる、明らかに格上のキャラとして描写されている。
彼女が原作ではスタートレーナーでないことは、カナタちゃんのセリフからも明らかなのですが、レンタルヤリモンでスタートレーナー以上の成績が出せるということは、手持ちのヤリモンのレベルがあまり高くないのか、トレーナーとしてのヤリモンに対する応用力、適応力が極めて高いかのいずれか又は両方だろうと推察しております。(同様に現役を引退しているはずのルナ博士も、研究者としてヤリモンに対しての造詣が深いせいかこのルールでは娘以上の高順位(5位以内)になっています。)
②原作ではヤリモン武者修行中にアイドル活動も行っていた設定ですが、わざわざ子会社の令嬢がいるユニットに入っているのがとてもキナ臭いです。これって、ユメちゃんのお父さんが裏で手回ししてわざと一緒のユニットにしたんじゃないかな、と。子会社をさらに絶対服従させるためのダメ押しのために、カナタちゃんの近くにユメちゃんを送って無礼を働かせたのでは?と勘繰ってしまいます。
……まるで邪悪な千奈ちゃんですね(ヤリステメスブターの方がリリースは早い)
次回から本編に戻ります。
6000字くらいで終わらせようと思ったのにめっちゃ膨らんじゃった……、同じ話でも視点によってとらえ方変わるからなぁ……。
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