※この作品はR-18です。

Guild Knight -World of Monster Hunter-   作:ルノワール・ヴァスカビル

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※本作は暴力、センシティブな表現に加え、モンスターハンターの世界観や設定を壊さない程度の自己解釈設定が施されています。原作へのリスペクトを込めての作品ゆえ、ご了承くださいませ※


Opening

黒い雲の上で浮かぶ月が、仄暗い大地を照らす夜。

 

とある森の中に佇むのは、かつて人がいたであろう石造りの遺跡。大自然の中であるが故に誰一人として近付くこともない無人の遺跡だが、この日はその中央に焚き火が照らされていた。

 

 

「ふぅ…くそっ、重すぎんだろ」

 

 

焚き火に照らされたのは人だった。搔鳥クルルヤックの素材をふんだんに使った防具・クルルシリーズを身にまとった男は両手で持っていたものを木箱の上に置くとひとつため息を付いた。

 

手にしていたのは飛竜種と呼ばれる、比較的に危険とされるモンスターの卵。大きさはもちろんだが、味も濃厚らしく、食べたいがために卵運搬を依頼する村長もいるとかいないとか。

 

 

「おぉ、リオレウスの卵か。よく持ってこれたな」

 

 

そんな卵を見て声を上げるもう一人の男。こちらはクルルの男とは異なり、毒妖鳥プケプケの素材を使った防具・プケプケシリーズを身にまとっている。

 

やや雑に置かれた卵を見るなり労いの言葉をかけながら、傍にあった簡易的な木箱に手をかける。

 

木と木が擦れ合う音と共に開かれた箱の中には同じような卵がいくつも並べられている。それも丁寧に干し草を敷いてだ。

 

 

「いやぁ、苦労したぜ。一個だけでも重いってのに」

 

「加えてリオレイアも居たんだろ?どうしたんだよ」

 

「どうしたもなにも、んなもん殺したに決まってる。こいつを使ってな」

 

 

クルルの男がそう言うと申し合わせたかのように仄暗い闇から数匹のメラルーが何かを持ち上げながらやってくる。

 

パチパチと鳴る焚き火に照らされたその何か。それはマカライト鉱石のように綺麗な青色をしている超巨大な大剣。

 

だがどう考えても人が扱えるような品物ではなかった。確かに大剣と呼ばれる武器種はあるものの、この剣は大剣と呼ぶには些か巨大すぎる。

 

刃の部分に関しては成人男性が二人並んでようやく同等、いやそれでもやや足りないほどにデカい。

 

 

「ディノバルドの尻尾。よくそんなの持ってこれたな」

 

 

その武器の正体は斬竜と呼ばれる獣竜種が持つ、尻尾の一部分。一部分とは言え、人からすれば超巨大な武器に変わりない。

 

 

「闇市場で流れてたんだよ。威力は絶大だが、運搬と使用が大変なのが欠点。そのための下僕どもさ」

 

 

疲れ果てて座り込むメラルーたちを見ながらクルルの男は鼻で笑う。

 

彼の言う下僕、というのはこのメラルーたちのことだろう。よく見てみると首輪が付けられている。

 

当然、メラルーたちも本心でこんなことをしてる訳じゃない。何か逆らえない理由があっての行為。その結果、リオレイアを両断してしまった。

 

有り余る罪悪感に震えるメラルーもいた。返り血がベッタリと着いた肉球を見るなり、吐き気を催してる。

 

 

「おい、何勝手に休んでるんだ?次はこいつを運べ。殺すぞ」

 

 

やつれたメラルーたちを見て、クルルの男は容赦なく指示を飛ばす。

 

重圧によるものなのか、それとも今までやられた仕打ちがトラウマなのか。メラルーたちは文句ひとつ言わずに木箱に手を掛け、待機させていた荷台にせっせと運んだ。

 

 

「終わったか?」

 

 

よろよろと木箱を運ぶメラルーたちが遺跡を通り過ぎた頃、奥で休息を取っていた男が歩み寄る。その身には黒狼鳥イャンガルルガの防具・ガルルガシリーズをまとっている。

 

 

「へ、へい!兄貴!ただいま!」

 

「誰も見られてやいません!帰るなら今かと!」

 

 

ガルルガの男を見るなり、クルルとプケプケの男は腰を下ろして一礼。どうもガルルガの男はこの連中を纏める親分らしい。

 

 

「ならとっとと帰るぞ。上の連中にドヤされるのなんざごめんだ」

 

「わかりやした!おい、帰るぞ!」

 

 

ノルマは既に達成してるのだろう、男たちはそそくさに荷台へ向かい、帰宅準備を開始した。

 

その際、プケプケの男は見張り担当をしていたのであろう別の男に向かって声を掛けるが、虚しいことに仄暗い森の中へ吸い込まれるように響くだけに終わった。

 

 

「あぁ?聞こえなかったのか!?帰るっつってんだろ!!」

 

「お、おいバカ!よせ!モンスターが来たらどうするんだ!?」

 

 

あまりの大声にクルルの男が焦った様子で止めに入る。

 

遺跡があるとは言え、ここは大自然の中。朝だろうが夜だろうが変に刺激を与えたら何が出てきてもおかしくない。それを知っての行動だろう。

 

 

_ザザッ…ザザッ…

 

 

だが程なくして、焚き火の向こうから草を踏み潰す音が聞こえてきた。

 

風の揺れによるものではなく、誰かが意図的に踏む音。それも大きさからして人間と考えるのが自然。

 

 

「ようやく来たか…テメェ、まさかサボって寝てたんじゃ_」

 

「待て、なにかおかしい」

 

 

プケプケの男が拳を構えてゲンコツのひとつでもカマしてやろうと身構えてたものの、ガルルガの男が遮るように口を開いた。

 

彼の感じていた違和感、それは音の数。見張りは一人しか置いてないはずだが、聞こえてきたその足音が明らかにひとつ多かった。

 

 

「あーあーあー…バーレちったか」

 

 

答え合わせをするかのように、足音の元から声が上がる。だがその声は連中にとって聞き慣れないもので、一斉に身構えた。

 

焚き火に照らされ見えたのは二つの人影。ひとつはゲリョスシリーズをまとった男、そしてもうひとつはその背後に立つ一人の男。

 

身に纏うのは深紅の赤をベースに目立つ金色の装飾。羽根が立った鍔広の帽子が印象に残る制服だった。

 

その制服の男は前を歩くゲリョスの男の首元に''何か''を突きつけながら一緒に歩み寄る。

 

 

「よぉ、若ぇの。こんな夜遅くに作業たぁお疲れなこったな」

 

 

ようやく見えたその姿に、三人はヘルム越しで大きく目を見開く。暗くてよく見えなかったその''何か''とはナイフ。

 

それもハンターの常備品である剥ぎ取りナイフのため、一般的に使う肉切り包丁より大きくてごついものだ。

 

 

「す、すまねぇ兄貴!!こいつが急に_」

 

「おっと、喋るんじゃねぇ。手が滑っちまう」

 

 

怯えた声をあげるゲリョスの男へさらに刃を突きつける制服の男。

 

モンスターの死体を剥ぎ取る為だけに想定された作り故、一般的な武器と比べて殺傷能力は低いものの、対人としてみるなら十分な凶器になりうる。

 

 

「ちっ…テメェ、ギルドナイトか。都市伝説じゃなかったのか」

 

 

動けない手下を見つつ、愚痴を吐くようにガルルガの男は呟く。

 

ギルドナイト。この世界における治安維持を目的とする裏方の組織。その行動は密猟・違法行為の取り締まりを主とし、世界各地に点在するギルドで暗躍するという、言わば懐刀のような存在。

 

 

「しかしまぁ、お前さんらも大変だねぇ。そんなクソ重い卵を集めて何をするのやら。卵パーティでもおっぱじめるつもりか?」

 

 

ガルルガの男の質問に答えず、代わりに追求する制服の男もとい、ギルドナイトの男。心做しか、剥ぎ取りナイフを握った手に力がさらに込められているように見える。

 

 

「る、るせぇ!!関係ねぇだろ!!」

 

「上に尻尾を振ることしか出来ねぇ駄犬が!!すっこんでろ!!」

 

「おい、静かにしろ。俺が話を付ける」

 

 

態度が気に食わないのか、それとも見られたくなかったのか。プケプケの男とクルルの男が眉間を寄せてイキりたつも、奥で突っ立っていたガルルガの男だけは冷静に事のあらましを話そうとした。

 

逆らえないのか二人も戸惑いながら引っ込み、ガルルガの男の後ろへ隠れるように身を下げた。

 

 

「俺たちはしょうがなく依頼主に頼まれた。これが証拠だ」

 

 

証拠、と言いながら取り出したのは一枚の羊皮紙…依頼書だった。

 

依頼主の名前と依頼内容、その詳細等…事細かに書かれたそれにデカデカと受注サインであるスタンプが押されている。

 

 

「ほぉ、よく見せてみろ」

 

 

突き出された依頼書をギルドナイトの男は奪い取るように掴み、間近でそれを見つめる。

 

当然警戒は解かない。片腕一本だけでゲリョスの男の首元を肘で締め上げ拘束する。

 

 

(なんつー…馬鹿力だよ……!)

 

 

これを機にゲリョスの男は抜け出そうと試みるも、ギルドナイトの男の信じられない腕力にどうすることも出来ずに終わった。

 

ジタバタと暴れるゲリョスの男を他所に、ギルドナイトの男は事細かく書いてる依頼書を端から端まで隅々まで目で読み上げる。

 

 

「ほー…なるほど。で、武具の承認印は?」

 

「は…?武具の承認…なに?」

 

 

全部読み終えた頃、ギルドナイトの男は依頼書を投げ捨てるとさらにもうひとつ要求する。

 

要求内容は彼らのまとう武具に印された、クエスト承認用の印。元来ハンターはクエストを受注する際、必ずしも装備している武器や防具に承認印と呼ばれるドッグタグを付ける義務が施されている。

 

過去は一度登録してしまうと受注したクエストをキャンセルしてからでないと武具の変更が出来なかったが、時代が流れるにつれ、受注した状態でもスムーズに変えられるようドッグタグへと変更された。

 

これを武器や防具につけてない場合で狩猟や採取を行うと密猟とみなされ、刑罰を受けるようになっている。

 

 

「だから承認印だよ。まさか持ってないわけねぇよな?」

 

 

聞き慣れないワードに男たちは戸惑うが、ギルドナイトの男は気にせず問いを投げる。

 

戸惑うのも当然だ。何しろ承認印はハンターズギルドに登録した者にしか渡されないもの。人とモンスターによる命のやり取りにとって重大なものであるが故、厳重に保管されている。

 

裏社会で暗躍する彼らにとって馴染みない言葉でしかない。

 

 

「…クソがっ、おい!!殺れ!!」

 

 

言葉が詰まりに詰まった結果、ガルルガの男は怒声を上げる。すると待ってましたと言わんばかりにクルルの男とプケプケの男は背負っていた獲物に手を掛け、それらをギルドナイトに向けて構えた。

 

 

「…卵の密猟に加え、違法武器の取り扱い。更には依頼書の偽造にメラルーの違法重労働。やりたい放題だねぇ」

 

 

だが、この時を待っていたのは何も二人だけではない。未だに暴れるゲリョスの男を抱えているギルドナイトの男もそうだった。

 

 

「規律に則り、お前さんらを抹消する。異論は認めねぇぜ?」

 

 

武器を構えたのを合図に、ギルドナイトの男は突き付けていた剥ぎ取りナイフの刃をゲリョスの男の首筋目掛けて横へ一閃した。

 

ヘルムとメイルのちょうど境目、人の頸動脈に当たる部分をスライドするとその隙間からおびただしい鮮血が流れ、ゲリョスの男は一瞬にして物言わない死体へと変わった。

 

 

「ほ、本当に人を殺りやがった!!」

 

「死ねぇ!!」

 

 

目の前で人が人を殺す光景に動揺するも、プケプケの男は手にした鉄弓に矢を番い張られた弦を離す。

 

矢の本数は三本。それを横いっぱいに広がる形で放たれる。言わば拡散と呼ばれるものだ。

 

 

「あっぶね!」

 

 

だがギルドナイトの男は物言わぬ死体を片手で持ち上げると盾の要領で前に突き出し、飛んできた矢を防ぎ切る。

 

数本はゲリョスのゴム質な皮で弾かれ、虚しく地面に落ちるだけに終わった。

 

 

「お友達返すわ」

 

 

盾として役割を終えた死体を蹴り抜く。飛んで行った先は攻撃を仕掛けたプケプケの男。

 

 

「がはぁ!?」

 

「お、おい!!」

 

 

一ミリともピクリと動かないかつての仲間だったものを当てられたプケプケの男は大きく転倒し、ボーンホルンを担いだクルルの男が声を張り上げる。

 

 

「余所見してる余裕あんのか?坊主」

 

 

たったその一瞬でギルドナイトの男との距離は詰められ、気が付くともう既に目の前にいた。腰にあった鞘に収めていたサーベルも既に抜き取られている。

 

 

「はや……っ!!」

 

 

反射的に持っていたボーンホルンで叩き潰そうと振り上げるも時既に遅し。ギルドナイトの男が持つサーベルは既に振り抜かれていた。

 

狙いはゲリョスの男と同じく首筋の頸動脈。そこを丁寧に削ぎ落とすと辺りに血を撒き散らしながら力無く倒れた。

 

 

「さて……」

 

 

赤に染まったサーベルを振り抜き、血を拭うと死体が邪魔で動けないプケプケの男にゆっくりと歩み寄る。

 

その姿はさぞかし歩み寄るモンスターに変わりない。そう見えたプケプケの男は声を張り上げる。

 

 

「あ、兄貴!!助け_」

 

 

だがその声も言い切る前に途切れてしまった。

 

代わりに聞こえたのはドスッと刺さる生々しく、重たい音。サーベルの切っ先は既にプケプケの男の喉元に突き刺さっていた。

 

 

「……なんなんだよ…」

 

 

あっという間に死体が三つ転がり、血に染まる凄惨な光景にガルルガの男は何も口喋らず、呆然としていた。

 

闇社会でよく耳にするギルドナイト。その存在は証明されてない組織。そもそも本当にあるのかどうかすら分からない、都市伝説レベルのもの。

 

組織構造、構成員、戦闘データすら皆無に等しいものの、数多くの密猟者や無法者は人知れず抹消されているため存在はしてるらしい、というところまではわかっている。

 

ただガルルガの男は想定してなかった。いくら対人特化の組織であっても、ここまでの戦闘能力があることを。

 

その光景は人というより、さながら一体のモンスターに変わりない。

 

 

「なんなんだよ……テメェはあああああぁぁぁ!?」

 

 

脳内で警鐘が響く中、ガルルガの男はイャンクックのライトボウガン・クックアンガーを抜き取り、銃口をギルドナイトの男に向けた_

 

 

_ドスッ!

 

 

と、同時に何かが突き刺さった。

 

 

「うぎゃああああぁぁぁ!!!」

 

 

遅れてやってきた灼熱感のような痛みにガルルガの男は膝を抑えて喚き散らす。

 

刺さったのは血が染み付いた剥ぎ取りナイフ。それをギルドナイトの男が投げて突き刺したのだろう。

 

クックアンガーを手放し、痛みを紛らわせようと歯を食いしばって傷口を押さえつけても血が歯止めの効かない噴水のように吹き出る。

 

瞬く間に遺跡は人の鮮血に染まってしまった。阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことを言うのだろう。

 

 

「おい、猫ちゃん」

 

 

遠くで「痛い」と叫ぶ男を他所に、ギルドナイトの男は尻目を茂みへ向けながら呟く。その茂みの中に一部始終を見ていたメラルーたちが怯えた様子で隠れていた。

 

 

「下僕卒業祝いだが、指示されたとはいえ罪の加担をしたことに変わりない。俺のツレが間もなくやってくるからそいつが紹介する仕事で罪の精算をしてもらおうか」

 

 

警戒を解かないメラルーに一言そう述べた後、踵をガルルガの男に向き直って続け様言う。

 

 

「だが、お前さん流行りすぎだ。見逃す訳にも行かねぇなぁ」

 

「だ、だからって何も殺す必要は_」

 

「悪いねぇ。上からの指示なんでな。刃向かったらギャーギャーとうるせぇわけよ。それにさっきの言葉、そっくりそのまま返させてもらう」

 

 

動けないガルルガの男の前に立つと、懐からあるものを取り出した。それはひとつの小さなカゴで、中には白い体毛が特徴的なイタチのような小動物が入っていた。

 

 

「俺はしょうがなく上司に頼まれた。こいつが執行人だ」

 

 

カゴを外してやると、中にいたその小動物は動けないでいるガルルガの男へと向かっていった。

 

 

「お、おい!なんなんだよこいつ!!」

 

「安心しろよぉ、そいつぁ別に噛み付いたりしねぇさ」

 

 

ガルルガの男は何も出来ないまま、その白い小動物にまとわりつかれ、モフモフの体毛をこれでもかと言わんばかりに擦り付けられる。

 

ギルドナイトの男の言うとおり、この白い小動物はまとわりつくだけであって直接的な危害を咥えるようなものではない。ただその使い方によっては命を落としかねないだけであって正しく使えば狩りの役立てになる優れもの。

 

程なくして、その白い小動物から…主に尻尾の付け根あたりから分泌物に似た強い匂いが発生し、それで塗りつぶすようにガルルガの男にまとわりつかせた。

 

 

「あとは頼んだぜ、エンエンクちゃんよぉ」

 

 

そう言うとギルドナイトの男はサーベルを腰に仕舞い、そのまま仄暗い森の中へと溶けるように消えていった。

 

 

「くそ…舐めやがって……!!」

 

 

瞬く間に可愛い子分を三人殺られた上、自分に対しては痛めつけるだけで殺しすらしない彼の態度にイラついたガルルガの男は、投げ出されたクックアンガーを無理な体勢のまま構えた。

 

狙いはまだ見えるギルドナイトの男の背中。距離、照準…装填された貫通弾であれば多少ズレてても心臓部を撃ち抜くには十分だった。

 

 

「死ね……!!」

 

 

_ドスッ…ドスッ…

 

 

そう言い残し、引き金を引こうとした矢先…。別の方向から重々しい足音が聞こえてきた。

 

最早地響きに似たその足音に、ガルルガの男は硬直。氷を直接背中に突っ込まれたような嫌な予感に襲われつつ、音のした方向へ視線を向ける。

 

 

『ゴルルルル……』

 

 

そこに居たのは片翼を失い、体の大半が血に濡れ、大きな切り傷の目立つ雌火竜・リオレイアがいた。

 

恐らく、というより十中八九、彼らの持つディノバルドの尻尾(違法武器)の斬撃を受けた個体。かつて陸の女王と名を馳せてた彼女が、その大地を這ってでも卵を取り返しに来たのだろう。

 

 

「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」

 

 

品定めをするかのようにベッタリと視線を向ける怒れる女王に対し、ガルルガの男は目を逸らして深呼吸を繰り返す。

 

地鳴りのような足音が近付くにつれ、その呼吸は荒くなり、心臓が張り裂けそうなほどに鼓動を打つ。

 

 

「はぁ……!はぁ……!はぁ……!」

 

『ゴルルルル……!』

 

 

耳元で喉を鳴らす深い音が聞こえる。見なくとも既に距離が目と鼻の先だということが嫌でもわかる。

 

ふと視線を下に向ける。そこにあったのは握られていたクックアンガー一本。

 

獲物はある。脚はやられても引き金を引くことぐらい容易だ。最悪殺せなくとも目を潰せば時間稼ぎになる。

 

根拠もない理論を唱えると不思議と力が湧いたようで、クックアンガーを握る手も強くなった。

 

 

_行ける。間違いない。この窮地を脱してあの男を殺す。

 

 

強い思い込みで己を鼓舞し、ガルルガの男はひとつ大きく呼吸をした後…。

 

 

「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉー!!!」

 

 

上体を捻らせ、引き金を_

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

「……終わったか。赤眼」

 

「あぁ、まぁな。けどまだ現場には行かない方がいい」

 

 

ところ変わって遺跡から離れ、森を一望できる簡易キャンプ地点。先程のギルドナイトの男とアプトノスの荷台を引いてる男が会話を交わす。

 

 

「……なぜ?」

 

 

荷台の男がギルドナイトの男、赤眼に訊ねると親指でクイッと向こうを指してやった。

 

その指先の先には片翼のリオレイアが何かを捕食する姿が見えた。

 

 

「……なるほどな」

 

 

言葉足らずでも理解した荷台の男は眉ひとつ動かさず首を縦に振って頷いた。

 

 

「報酬に色を付けるから死体の回収とメラルー五匹の確保を頼む」

 

「……あぁ、承った」

 

 

 

 

…この世には三種類の人間が存在する。

 

経営や商売をして生活費を稼ぐ商業人たち。生態系の調査やモンスターの討伐、捕獲で貢献・調和を目的とするハンター。

 

そして密猟、違法行為を取り締まり、公認で人殺しという泥を被るギルドナイト。

 

この話は、モンスターハンターの世界で蠢く闇社会と戦う、人知れずに暗躍するギルドナイトらの物語。




補足


【人物】
赤眼
かつて名を馳せた三十代のハンター。とあるきっかけでハンター職を辞退し、現在はギルドナイトに所属している。

荷台の男
赤眼の友人らしい男。役割は死体処理と現場清掃と事件の隠蔽を担う。

ガルルガ装備の男
飛竜の卵の密猟を仕切っていたリーダー格の男。最期はエンエンクによるフェロモンで寄ってきたリオレイアに食い殺された。武器はクックアンガー。

クルル・プケプケ・ゲリョス装備の男
卵泥棒トリオ。クルルは運搬、プケプケは拠点整備、ゲリョスは見張り担当。赤眼にもれなく惨殺された。


【モンスター・環境生物】
掻鳥クルルヤック
発達した前脚で卵を盗む生態を持つ中型の鳥竜種。卵の他にツボや岩を持ち上げ、襲いかかる姿も目撃されている。

毒妖鳥プケプケ
食べたものを体内に分泌されてる毒をかき混ぜてブレス攻撃を仕掛ける緑色鮮やかな鳥竜種。自分より強いものには臆病な姿を見せる反面、それ以下の場合であれば強気になる性格を持つ。

毒怪鳥ゲリョス
全身にゴム質な皮を持つ大型の鳥竜種。頭についているトサカに刺激を与えることで眩い閃光を放つことができるほか、死んだフリをしてその場をやり過ごそうとする悪知恵も備わっている。

黒狼鳥イャンガルルガ
非常に凶暴で危険な鳥竜種。上位ランクとして君臨する飛竜種たちと引けを取らないレベルで極度の戦闘狂な生態。無法者として恐れられている。

雌火竜リオレイア
異名の通り、メスの飛竜種。通称・陸の女王とされ、空の王者リオレウスの番。今回は違法武器によって片翼を切断された状態で登場。

エンエンク
身に迫る危険を察知すると尻尾の付け根からモンスターを引き寄せる分泌物、言わばフェロモンを放出する環境生物の一種。とある里のハンターはこれを上手く使い、モンスター同士による縄張り争いを誘発させ、狩りを有利に駆り立てる。
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