平凡、ときどき不幸 作:本田一郎
今更思い出す意味はあったのか
ウチがなんでこんなに大人びてるかというと…
毒薬を投与されて身体が縮んじゃった…わけではなく、
なぜか
前世…といってもあまり思い出したくはないんやけど、
まず、性別は今と違って
何でそんな言い方するか…って言われると、
大学を中退したせいで正社員になれなかったから。
これでまだ腕っぷしが強かったらよかったんやけど、
肉体でも言語でも、喧嘩はからっきし弱かった。
それこそ、全力を出しても甘噛みにすらならんくらい。
そして、相手の全力で数十倍…でも足りないくらいに
ボコボコにされて全てを奪われる、そんな毎日やった。
そんなわけで、社会的には男を名乗れなかったけど、
だからと言って家庭的なことが出来たかと言われると、
正直、学ぶ機会すら与えられなかったせいで、
ギリギリ卵焼きが巻ける程度の腕前しか持ってない。
掃除…は拭いた窓が元々よりも汚くなるし、
部屋の片付けも、まともに出来た試しがない。
…という感じで社会的に何の役にも立たないウチは、
男でも女でもない「無」として扱われとった。
正社員はおろか、アルバイトすらまともに続かなくて、
親に頼んで買ってもらったバイクを乗り回して、
ウーバーの配達員をしてギリギリ生きていた。
そして、ある日突然力尽きて、気づいたらこの身体。
…なんてことを、
なんで突然そんなことを思い出したか…と言われると、
どうやらウチ、今崩れた家の下敷きになってるらしい。
前世の記憶を思い出した瞬間、死にそうになっとる…
というのは、実はよくある話なのかもしれないけど、
流石に、もう少し大きくなってからにしてほしかった…
とりあえず、この状況で出来ることもないし、
身体のあちこちが痛くて仕方がないし、
何より、疲れ果てたからか眠くてしょうがない。
来世…なんてものがそう都合よくあるかは知らんけど、
次に生まれ変わった時には、人間でなくてもいいから、
せめて子どもを作ることに携われないかしら…
そう思いながら、ウチは意識を手放した。
次に目を覚ました時、ウチはどこかの研究室にいた。
手術か何かされたのかもしれないが、
とりあえず、今のところ身体に違和感はない。
しばらくすると、いきなり
早口過ぎて、何を言っているのかは聞き取れないが、
どうやら、彼女がウチの命の恩人らしい。
…何か役に立てたらいいんだけど。