【ミリタリー】×【ダークファンタジー】は、お好きですか⁉ 呪力を交えて、一緒に戦争しませんか⁉ 作:BIBI
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風呂から出た後、髪を乾かして黒いワンピースを着直したシュナンは、迎えの車に乗って帰って行った。そして――。
「――ふぅ……」
僕は麦茶を飲んでいた。因みに僕は朝と昼しかカフェインは摂らない主義。しかも麦茶はシュウ酸など、余計なモノが入っていない最強の飲み物。
だから僕は一日に推奨される飲料による水分補給量は、殆どを麦茶で摂取している。水でも良いけど、麦茶の方が美味しいからね。
「それにしても……」
ピルを断って貰えてラッキーだったな。
西暦2000年だと、アフターピルすら入手が難しい。病院で処方されることは、禁止されているし、一応、海外輸入で入手自体は出来るけど、直ぐに届かない。
だから僕が今すぐ手に入れようとするなら、少しリスクを取るしかない。しかもピルを他人に譲渡すること自体、明確な犯罪だ。
正直、どうせ近々死ぬ女の為に、僕が手を汚すなんて考えられない。悪いがシュナンにそこまでの価値は無い。
だからゲーム知識を駆使して、有益な仮説論文を書く。それを母親に譲渡して、引き換えにアフターピルを得るという、割に合わない取引を持ちかけるしかなかった。
……結果、そうならず済んで良かった。
「今から料理作るつもりですか?」
いつの間にか外出していたらしい妹が帰って来た。黒髪を肩まで伸ばした美少女――モトカは、いつもの様に不機嫌そうな表情を浮かべている。
双子というだけあって、今は僕と身長が殆ど同じ。まだまだ可愛い印象が強い時期のはずなのだが、柔和な印象のシュナンと違い、僕と同じくモトカの目つきは鋭い。
だから年齢そぐわないほど冷たい印象が強かった。
「……そのつもりだったけど、先に作る?」
既にテーブルの上に豚こまの入ったパックと人参が用意されていた。
「今からお風呂に入るんで、私が髪を乾かす前に料理を済ませておいてください」
「了解」
モトカの言葉に、僕は素直に従う返事をした。その態度を見て、妹は「…………」と少し間を置く。そして――。
「私の料理が……、そんなに嫌でした……? 何か嫌いな物があったなら、兄さんの舌に合わせますけど」
前々から思っていたことなのかも知れない。転生してからは自分で料理を作ると言い、別々に食事を摂っていた。
それを自分の料理に不満があったのではないかと、気にしていたらしい。
「いや、別に嫌いとかじゃない。最近、健康志向に目覚めてね。これから毎年、四ヵ月間だけ米やブレッドを含めて、糖質が多い食べ物を禁止するつもりなんだ。〈短期的ケトジェニック〉って奴だよ。そんな健康食に、妹を付き合わせる訳にはいかないでしょ?」
僕は長期的ケトジェニックには反対な立場だが、短期的ケトジェニックなら効果と安全性の観点から最適だと判断している。
でもだからといって他人に押し付ける様なことはしない。多くの人はその国の食文化を重んじて、その国らしい普通の食事をしたいというのが正直な所だろう。
だから僕は前世でも、他人に健康食を押し付けたことはない。
「……それ、ホントに健康に良いんですか?」
「そりゃ、体には良いよ。いきなり食習慣を変えると、最初は体が慣れるのに時間が掛かるだろうけど、慣れてしまえば凄く健康的に過ごせる」
「…………じゃあ、私の分も作れますか? 兄妹ですし、同じ食事がしたいです。勿論、食費は出しますよ」
どうやら年頃なのか、意外にもモトカは健康食に興味を抱いていた。ゲームでの印象とは違い、少し戸惑いを感じてしまう。
しかし、健康食に興味を持つことは良い事だし、同志が出来るのは素直に嬉しかった。
「あぁ、分かった。食事を二人分作っておくよ。でも食費は要らない。最近は金に余裕が有るからね。妹を食わせる分くらい、何の問題もないよ」
快く僕は受け入れ、妹の分も料理を作ることにした。
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企業グループの会長――シンジロウは、豪胆な男だった。40歳を超えても若々しく、生まれながらの白髪が良く似合い、表情からは野性味を感じらせる。
着ている茶系の高級スーツがはち切れんばかりの筋骨隆々。だが意外とスーツ姿も似合うのは、彼の顔がそれなりに整っているからだろうか。
「シュナンちゃんが父親の体を心配しているーって話聞いただけで、あんな資料を用意してくるなんて、重くね? ヤバくね? そのトモヤってクソガキ」
立場に相応しくない軽い口調だが、野性味あふれる顔には似合ってる。両袖机に脚を置いて、行儀悪く席に着いている。
顔には刺青に見える、呪いが刻まれており、会長といよりヤクザに見える。
「御父さん! そんな言い方しないでっていつも言ってるでしょ! トモヤ君はホントは凄い人なんだよ! あの時だって――」
あまりの物言いに対し、隣でキャンキャンと怒るシュナンだった。
しかしシンジロウは彼女の言葉を遮り――。
「はいはい。もういーから。それは只の勘違い。あんな強いモノノケを、子供が倒しただなんて有り得ないの! シュナンちゃんは子供だから分からないだろうけど! もしもそれが出来るなら、アーサー=ドレイクに匹敵するポテンシャルだって、前にも言ったでしょ!」
適当に大切な娘の話を、聞き流して妄想だと切り捨てた。実際、彼に思い浮かぶのは、それなりに強いモノノケが、息絶えた姿だった。
確かにその場には小さなシュナンと、トモヤが居た。しかしだからといって、トモヤという小さな子供に、そのモノノケを倒す程の力が有るとは思えなかった。
「……ほ、本当なのに」
しゅんと肩を落として、シュナンは落ち込む。
「どうせその論文だって! シュナンちゃんの気を引く為に適当に書いただけ! どこの誰が他人の親の為に、熱心に勉強してきちんとした論文を書くんだって話!」
「べ、別にトモヤ君は、そんな気持ちなさそうだったけど……。私が遊ぼうって連絡してもずっと断ってたよ? 好きだったら、会おうとするはずじゃない? それに、部屋に凄い資料の山が有ったから、きっとホントに御父さんの為に努力してくれてたんだよ」
「はぁ……。シュナンちゃん。それは好きだからこそ、照れ隠しで断ってんの。もう少し裏に潜んだ気持ちを察せないと、会長の座を継げないよ? どうするの? パパ、そろそろ死んじゃうんですけど? 死んだら行く行くは、シュナンちゃんが後を継がないといけないんだよ?」
「縁起の悪いこと、言わないでよ……。きっと何か方法が有るはずだよ」
嫉妬丸出しの父親に、シュナンは肩を竦めて落ち込んだ。目がうるうるとして、本当に父親の体が心配なのだろう。
しかし当の本人であるシンジロウは、既に自分の死を覚悟しており、クヨクヨした様子は決して見せない。
「パパが掛かった呪いは不治の病なの。いい加減に夢見るのも止めなさい。パパの心配してくれるのは良いけど、もう少し現実を見ないと。あんなクソガキが考えたしょうもない論文なんて、何の役に――」
「そんな言い方――」
父親の言葉を遮る、シュナン。
だがその彼女の言葉すらも医者は遮り――「いや。そうとも言い切れません。あくまで仮説の段階ですが、一応筋が通っています。これは検証する価値が有る……、間違いなく」と、声を上げた。
ソファから腰を上げ、スタスタと歩くと資料を眺めながら告げる。
「「…………」」
シンジロウとシュナンは同時に黙り、そして同時に「「へ……?」」と間抜けな声を上げるのであった。
一見すると正反対な二人に見えるが、意外と根っこは似た者親子らしい。似た様な表情で似た様に反応していた。
「私も頭が固かったと認めざるを得ません。トモヤ君という少年は厄介な呪いを、あえて〈分解〉する方法を諦め、〈排出〉という別のアプローチに目を向けている。そしてこの仮説は、根拠とする論文のエビデンスレベルが全て高い。まだ検証しなければ分かりませんが、立証させる可能性は決して低くありません」
眼鏡を掛けた小太り医者――モモヤマの目から見ても、見事としか言いようがない素晴らしい推察だった。
王道で丁寧な、お手本通りの仮説論文だった。
何より、奇抜さが感じられない。それはつまり、突飛に感じる箇所を、丁寧に理論立てて補完できている証拠である。
読めば読む程に、考えて見れば普通に有り得ることだと、読み手に思わせる。
通常の論文と違い、所々読み手を馬鹿にしているのかというくらい、まるで離乳食に等しい程に、嚙み砕いて分かりやすく書かれているのが、少し引っ掛かるが――。
その仮説論文は子供の絵空事だと、笑い飛ばせる様な品質じゃなかった。
「…………。うそーん……」
シンジロウはポカーンと呆気に取られていた。
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ゲームではある程度、死亡フラグが立つ日時と場所が決まっていた。だからトモヤはシュナンと死亡フラグが立つ日時と場所に、自分が立ち会わなければ死なずに済むと思っている。
しかし、その想定は実に浅はかである。
そもそも、この世界はゲームと同じ様に進行するとは限らない。
敵がゲーム通りの日時や場所でなければ、シュナンを狙わない。そんな保証なんて、何処にもないのだ。
その上、このゲームはシナリオ担当がミリオタ作家。当然だが表に出さない、制作陣しか知らない裏設定も綿密に存在する。
作中では敵の狙いが、あたかもシュナンだけ。多くの人には、そう見えたのだろう。
しかし――実際は、シュナンだけじゃなく、トモヤも最初から狙われていたのだ。
ただ〈モトカ・ルート〉に突入すると、ミライが日本軍に二人を引き入れることで、刺客がトモヤを殺せなくなったというだけ。
別にシュナンと仲を深めたから、トモヤまで巻き込まれたとか、そんな話じゃない。
つまり――〈シュナン・ルート〉は、既に始まっていたのだ。