「やぁんっ、もっと、ああぁっ♪ゴリゴリしちゃダメ、あっ、ああぁん♪」
アキの切なげな声が響く。
先程までの余裕が、消し飛んでいた。
ただ、快楽に踊らされるだけの雌。
立場が逆転していた。
アキは俯せに組み敷かれている。
予想外の反撃で、何一つ出来なかった。
上から覆い被さられ、貫かれていた。
男は、本能だけで動いていた。
意識はぼやけたままなのに、身体は力強く動く。
暴走した性欲だけが、全身を制御していた。
寝バックだ。
力任せに腰を叩き付ければ、アキの臀部が受け止める。
この臀部が、男の全てを狂わせた。
ダンスから始まり、セックスの手管に至るまで、鮮烈に焼き付けられた。
だから、味わい尽くしたい。
本能のママに動く男は、力強いピストンを叩き込む。
腰への負担も無視した突き込み。
後先も考えられず、ただ欲情に従うばかりだった。
「それ、それ、良いよぉ♪もっと、もっと♪」
アキもまた、快楽の坩堝に放り込まれていた。
ダンスから始まり、ずっと捕らえ続けたはずなのに、立場が逆転した。
力任せの暴挙で、全てがひっくり返されたのだ。
しかし、それが良かった。
何一つ出来ないスリルが、身体を焦がしていた。
加えて、今の体位。
膣内でも、特に感じやすいところを強く擦られる。
快楽を『貪らされ』、アキは更に狂った。
一方、男の意識は更に歪んでいる。
愛撫なんて考えはない。
ただ、アキを味わいたいだけだった。
背後から手を伸ばし、乱暴に乳房を揉む。
指先が食い込もうとも、お構いなしだ。
アキが刺激で仰け反る。
こうなれば、呼吸も苦しくなるのに、それすらも気に留めない。
乳首に指が引っ掛かれば、力任せに押し潰す。
痛いほどなのに、それでもアキは喘いだ。
腰を何度も叩き付ける。
この、尻だ。
この尻が、狂わせたんだ。
虜にしてしまったんだ。
だから、味わい尽くす。
この女尻は、理想だった。
雄を誘惑するためのものであり。
子を産むにも、理想の大きさだ。
快楽と、繁殖と、どちらにも適している。
だから、本能を鷲掴みにする。
こんなのを見せられ、反応しないはずがない。
性の本能は燃え盛り、男は欲望を叩き付けた。
その下でアキは喘ぎ、仰け反る。
散々に踊った身が求めたのは、組み敷かれることなのか。
アキ自身にも分からないほどに、よがり狂う。
今までの経験の中で、一番の夜となっていた。
「来ちゃう、クル、あっ、っ、あっ、ああああぁぁぁぁぁぁぁん♪」
コントロールできないのは、アキも同じだった。
ストロークに身を任せ、燃え盛った心地良い一時。
それはあっという間に終焉を迎えてしまったのだ。
強く、強く、締め付ける。
性を絞りだし、子宮へと導く。
本能を剥き出しにされた一時は、心地良かった。
◆ ◆ ◆
汗まみれになった二人は、ベッドに横たわっていた。
男は寝息を立てている。
放った後、気絶してしまったのだ。
最後の方など、後先考えられなくなっていた。
故に、体力面の負担が限界を超えてしまったのだ。
アキは、男を抱きしめ、優しく撫でた。
慈愛の笑みを浮かべている。
全てが満たされた一時だったのだ。
「今までで、一番良かった。ありがとう」
すぐに、その笑顔に陰りが浮かぶ。
男には帰る場所がある。
朝を迎えれば、全ては元に戻る。
これは、その程度でしかないのだ。
続かないが故に、一時に全てを託せる。
これはこれで、良いのか。
大きな溜息が零れる。
胸の内は、不思議と満たされていた。
「お休みなさい、良い夢を……」
かき抱いた男の額に、口付けた。
アキも意識を手放した。
幕が下りるように、視界は一気に暗くなっていった。
――――――――
朝日を背に、男は歩きだしていた。
アキに見送られ、家を後にすれば、しっかりとした道があった。
案内されたときは、獣道を辿っていったはずだった。
首を傾げつつも歩み続ける男は、周囲を見回す。
そして、感嘆の声が零れた。
見慣れた植生だったのだ。
昨日見た植物は、どこにもなかった。
全てが男の記憶の中にある物ばかりだった。
遠くを見やれば、見慣れた山嶺だった。
元の世界に戻ってきたという事なのか。
それでも、登山道に合流するにはまだ長いようだった。
ただひたすら道なりに歩き続けた。
どれくらいの時間が経ったのか。
不思議と、疲れはない。
昨夜はあれだけ派手に交わり、今は山道を歩き。
それなのに全く疲れていないのだ。
ふと見上げる。
太陽は高い位置にある。
かなりの時間、歩いたのか。
そして、見慣れた場所に出た。
あと少しだ。
もう少しで、登山道に戻れる。
駆け足気味に、男は突き進んだ。
◆ ◆ ◆
ようやく、戻って来れた。
木の根に腰を下ろす。
真夏の暑さも、鬱陶しい草いきれも、今は心地良かった。
スマホに手を伸ばす。
起動画面が表示され、男は歓喜の溜息をついた。
しかし、次の瞬間、瞠目した。
ぎょろり、と目を見開き、画面を注視した。
表示された時間は、迷い込んだときとほとんど変わらない。
あれから、一時間も経っていなかったのだ。
男は、辺りを見回した。
アキの家から辿ってきた道は、なかった。
獣道すらない。
あったのは、鬱蒼と生い茂る茂みだけだった。
男は、もう一度溜息をついた。
こういう物なのだろう。
不思議と、納得できた。
白昼夢だったのか。
理解の範疇を超えていた、が。
大きな溜息が零れる。
それでも胸の内は、不思議と満たされていた。
アキの踊りは目に焼き付いている。
柔肌の触感は身体の奥まで刻まれた。
心地良い香りは今も鼻腔に残っていて。
唇の味は、舌が覚えていた。
耳を澄ませる。
微風の中に、何か聞こえてきた。
ずぅっと遠くから聞こえてきたのは、人の声だ。
大気の粒子を揺さぶる、とても心地良い歌声。
世界を越え、アキの声が聞こえているのか。
しばし男は耳を傾けていた。
アキとの関係は、一夜で終わった。
そもそも一時間ですらない。
これで、良いんだ。
彼女が少しでも満たされたなら、それで良かった。
微風が、微風になった頃。
男は歩き出していた。
帰る場所がある。
夢の時間は、終わりを告げていた。