※この作品はR-18です。

勇者の淫魔化トラップ譚   作:匿名希望

10 / 10
後日談:その後の触手トラップ

魔王討伐から長い歳月が流れ、アリアが『黒銀の樹海』の最奥でシエラや仲間たちと共に新たな日常を謳歌している頃――すべての元凶であり、アリアの運命を狂わせた「あの場所」にもまた、小さくない変化が訪れていた。

 

かつて勇者アルスが足を踏み入れ、性別と肉体を無理やり造り変えられた忌まわしき古代遺跡の最奥。

そこには、今なお魔力を湛えたまま蠢く、伝説の「触手トラップ」が静かに鎮座していた。

 

世間では「勇者受難と覚醒の地」として観光地化され、記念館として整備されたエリアのさらに地下、一般の観光客が決して足を踏み入れない封印区画。

そこは、ある種の物好きや、あるいは「魔王亡き後の世界で刺激を求める者たち」にとって、知る人ぞ知る秘密のスポットと化していた。

 

「ねえ、本当にこんなところに噂の『運命を変える罠』があるのかよ?」

「おい、静かにしろよ。管理者に見つかったらどうすんだ」

 

暗い石造りの通路を忍び足で進んできたのは、平和ボケした世の中に退屈し、スリルを求めて潜り込んだ若い冒険者たちのグループだった。

彼らは古文書の断片からこの地下遺跡の秘密を嗅ぎつけ、面白半分で禁忌の区画へと足を踏み入れたのだ。

 

やがて彼らがたどり着いたのは、紫色の怪しげな光を放つ魔方陣に囲まれた巨大な間隙だった。

その中央には、ぬめりとした光沢を放つ無数の触手が、うねうねと不気味な胎動を繰り返している。

 

「うわっ……なんだこれ、気色悪っ……!」

「でも、なんか妙に甘い香りがしないか……?」

 

男たちが気味悪がりながらも興味本位で近づいたその瞬間、触手が一斉に鋭い風を切って飛び出した。

 

「なっ……! 動け……っ!?」

 

回避する間もなく、触手は彼らの四肢を絡め取り、地面へと組み伏せた。

かつてアリアが味わったのと同じ、魔力を直接注ぎ込まれるような痺れるような感覚が、彼らの全身を駆け抜ける。

 

「ぐっ……あぁっ、なんだこれ、体が……熱く……っ!」

「やめろ、離せ……! おっ、おい、服が……体が勝手に……っ!」

 

触手から分泌される特殊な魔素は、絡め取った者の肉体構造をその者の深層心理や魔力の波長に合わせて強制的に再構築していく。

数分前の恐怖はどこへやら、男たちの顔は次第にとろけるような快感に染まり、喉の奥から甘ったるい嬌声が漏れ出し始めた。

 

「ひゃあ……っ♪ なんか、頭が……おかしく……っ、体が、女の子に……っ♪」

 

頑丈だったはずの筋肉がしなやかに細くなり、骨格が組み替えられ、衣服の下で次々と肉体の性別や形が書き換わっていく。

かつてアルスがそうであったように、彼らもまた「強さの代償」あるいは「未知の好奇心の代償」として、抗いがたき肉体変化の渦へと飲み込まれていった。

 

地上階の記念館の閉館間際、観光客の姿がまばらになった頃。

その地下の禁忌区画から、見慣れない新しい「住人」たちが、フラフラとした足取りで這い出してきた。

 

「ふふっ……私、なんだかすごく……可愛いかもしれない……っ♪」

「おい、触るなよ……って、あ、そこ、弱い……かも……っ♪」

 

見事に全員が元の屈強な冒険者から、麗しい姿へと変貌を遂げていた。

かつてアリアが絶望し、一人で涙を流したその場所は、今や意図せず(あるいは物好きによって)新たな犠牲者――もとい、新しい「同類」を生み出す秘密の温床として、ひそかに機能し続けていたのである。

 

そして、その様子を古代の魔導モニターを通じて遠隔で覗き見ながら、樹海の奥の洞穴でシエラはクスリと笑った。

 

「ねえアルス、また下層で新しい子が生まれたみたいよ。見に行ってみる?」

「……やめてよ、黒歴史を思い出させる趣味はないわよ!」

 

寝台の上で頭を抱えるアリアの尻尾がバタバタと揺れる中、平和になった世界のエンドレスな珍道中は、今日もどこか別の場所で賑やかに続いていくのだった。

 

 

かつての勇者受難の地、その地下深くにある禁忌の触手トラップによって、突如として男から麗しき存在へと造り変えられてしまった若い冒険者たち。

元の屈強な肉体を失い、全身を駆け抜ける魔素と甘やかな発情の周期に戸惑いながらも、彼らはそれぞれのやり方でその運命を受け入れ、新たな人生を歩み始めていた。

 

 

第一の転換:魔王領の分校と「新米淫魔の集い」

 

触手によって肉体を組み替えられ、元の街へ帰るに戻れなくなった元冒険者たちが行き着いたのは、奇しくもかつて魔王城があった近郊の開拓村だった。

そこには、同じように罠の犠牲者となり、流れてきた者たちがひそかにコミュニティを築き上げていた。

 

「おい、そこの荷物運ぶのを手伝えよ!……って、あー、ごめん、ちょっと腰の淫紋が疼いて力が……っ♪」

「もう、しっかりしてよね! 私たち、もう前みたいにただの力仕事自慢の男じゃないんだからさ!」

 

元戦士だった大柄な青年――今はしなやかな肢体を持つ美しい少女の姿となった彼は、かつての荒々しさをどこか残しつつも、嬌声を混じらせながら丸太を運んでいる。

かつての仲間たちからは「男としてのプライドはどうした」と笑われそうだが、本人は意外にもこの変化を悪く思っていなかった。

元々スリルを求めて面白半分で立ち入り禁止区域に潜り込むような者達だ。

むしろ、五感を通じて流れ込んでくる濃厚な魔力の快感や、周囲の視線を集める美貌に、次第に新しいアイデンティティを見出し始めていた。

 

夜になると、彼らは焚き火を囲み、それぞれの「変異の体験談」を語り合うのが日課となっていた。

「あの触手に絡め取られた瞬間、頭が真っ白になって……気づいたら胸が膨らんでたんだよね」

「わかる! 私なんて、自分の声が高くなっただけで最初の三日は泣き通しだったのに、今じゃこの尻尾を振られるのが心地よくてさ……っ♪」

 

かつては恐るべき魔物の罠だったはずのものが、今や彼らにとっての「第二の故郷」を生み出す祝福(あるいは呪い)の母胎となっていた。

 

 

第二の洗礼:先輩淫魔・アリアたちの視線

 

そんな新米淫魔たちの噂は、やがて『黒銀の樹海』で暮らすアリアやシエラの耳にも届くようになった。

 

ある日、散歩がてらその開拓村の近くを通りかかったアリアは、木陰から楽しげにじゃれ合う新米たちの姿をこっそり目撃した。

背中から生えたばかりの未熟な小悪魔の翼をパタパタと動かし、お互いの尻尾を絡め合ってキャッキャと嬌声を上げている彼らの姿は、かつて自分が味わった絶望の泥沼からはい上がり、独自の楽園を作り上げた姿そのものだった。

 

「……なんか、私たちが通ってきた道すじを、綺麗にトレースしてる子たちがいるわね」

腕を組んで面白そうに眺めるシエラの隣で、アリアは複雑な表情でため息をついた。

 

「笑い事じゃないわよ! あんな風に能天気にいられるのは最初だけなんだから。

 そのうち発情の周期が本格化して、理性と本能のせめぎ合いに泣くことになるんだから……っ!」

「あら、心配そうな顔をして、実は後輩ができてちょっと嬉しかったりするんじゃない?」

「っ! そんなわけないでしょ! 私はただ、あの罠のせいで被害者が増えている行政上の問題を……っ!」

 

図星を突かれ、アリアの耳がピクッと跳ね上がり、顔が一気に真っ赤に染まる。

その様子を隣で見ていたシエラは、クスクスと意地悪そうに笑いながら、アリアの腰にそっと腕を回した。

 

「いいじゃない。人間をやめて、違う生き物として別の幸せを見つける道があるってことの、いい証明よ。ねえ、アルス?」

「……もう、その名前で呼ぶのはやめって言ってるでしょ!」

 

樹海の木漏れ日が、恥ずかしがるアリアの黒角と、遠くで無邪気にじゃれ合う新米淫魔たちの姿を優しく照らし出していた。

 

 

エピローグ:世界に広がる「新たな生態系」

 

かつては「勇者と魔王の死闘」という一握りの英雄たちの物語で彩られていた世界は、時を経て少しずつ形を変えていった。

かつて人間だった者たちが、魔術や武術、あるいは不可思議な罠の力によって寿命の壁を突破し、次々と「人外の領域」へと足を踏み入れていく。

 

最強の武術を極めて神話の武神と化したガルド。

肉体を脱ぎ捨てて概念生命体へと昇華したエリス。

人間の枠組みを超越して自らの初恋を貫いたシエラ。

そして、かつての恐怖の罠から生まれ落ち、今や新たな仲間たちと賑やかに生きる新米淫魔たち。

 

そしてその中心には、今日も今日とて「私は普通のエルフなんだからね!」と言い張りつつ、お腹の淫紋を隠しながらドタバタと走り回る、元勇者にして現役淫魔アリアの姿があった。

 

歴史の教科書には決して載ることのない、泥臭くも愛おしい「人外たちのドタバタ劇」は、今日も世界の片隅で、温かな笑い声と共に続いていくのだった。

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