※この作品はR-18です。

勇者の淫魔化トラップ譚   作:匿名希望

6 / 10
隠遁生活

魔王城の崩壊とともに「英雄」としての表舞台から永遠に姿を消したアルス――かつて気高き男であり、後に悲運の女勇者アリアとして世界を救った存在は、大陸の最東端に位置する未開の『黒銀の樹海』の最奥、古代の廃墟が静かに眠る洞穴へと辿り着いていた。

 

そこは人類の足が決して届かず、強力な魔物すら近づこうとしない絶対の隔離領域。

自分という存在が人間社会に害を及ぼさず、また誰からも追われないための、哀しくも完璧な隠遁の地であった。

 

勇者としての栄光と甲冑を完全に脱ぎ捨てた彼女の日常は、淫魔としての肉体がもたらす「発情の周期」との絶え間ない闘い、そして折れかける精神の平穏を保つための静かな営みで満たされていた。

 

普段の彼女は、薄暗い洞穴の奥で静かに暮らしている。

『擬態』の魔力を無理に維持する必要がなくなったため、その姿は完全な淫魔そのものだ。

妖艶な薄紫色のロングヘアが膝のあたりまで伸び、頭部からは滑らかな黒い角が描かれ、背中にはしなやかな蝙蝠の翼が休んでいる。

引き締まったお腹の表面には、まるで生き物のようにかすかな光を放つ紫色の「淫紋」が深く刻まれ、腰からはハート型の尾が地面を滑るように揺れていた。

 

「あぁ……っ♪ んんっ……また、来たのね……っ」

 

数日に一度、体内に蓄積された淫魔の魔力が飽和に達すると、逃れられない猛烈な発情の波が彼女を襲う。

お腹の淫紋が眩い紫光を放ち、全身の温度が跳ね上がる。

胸の先端は硬く突っ張り、子宮の奥から甘い毒素のような疼きが全身の神経へと拡散していく。

 

人間を襲い精気を喰らうことを拒んだ彼女は、洞穴の壁に生い茂る特殊な生体魔力を含んだ自生植物や、魔力を帯びた湧き水を摂取することで、最低限の「欲望の飢餓」を誤魔化していた。

しかし、それは喉の渇きを海水で潤そうとするようなものであり、完全な快楽の解放には程遠い。

 

「はぁっ……はぁっ……熱い……! 誰か……ううん、ダメ……っ! 私が耐えなきゃ……っ♪」

 

自らの華奢な指で胸を抱きしめ、太ももを固く擦り合わせ、甘い蜜を滴らせながら、彼女は一人ベッド代わりの苔の上で狂おしい夜を明かす。

翼を震わせ、尾を虚しく空中に遊ばせながら、満足のいかない甘美な拷問に耐え続けるのだ。

 

そして、発情の波が去り、体内の熱が収まると必ず訪れるのが、恐ろしいほどの冷徹さを伴う「賢者モード」だった。

 

「……また、こんな破廉恥な声を上げて……」

 

発情期のピークが過ぎると、アルスの中に残るかつての「男の勇者」としてのプライドと理性が完璧に目を覚ます。

洞穴の天井を見つめ、自分が発情の渦中で漏らした淫らな喘ぎ声や、無意識のうちに己の体を弄っていた不快な記憶が鮮明に蘇り、彼女は顔を覆って絶叫したくなるほどの激しい屈屈と自責の念に苛まれる。

 

「私は……かつて世界を救った勇者なんだぞ……? なのに、どうしてこんな場所で、毎日毎日……自分の体に振り回されて……っ!」

 

冷めた頭で自らの姿を見つめ直すたび、お腹の淫紋が憎らしく思えた。

自給自足の生活を営むため、洞穴の近くで木の実を採ったり、湧き水を汲んだりする最中でも、ふとした拍子に背中の翼やお尻の尾が揺れ、自分が完全に「怪物」であることを突きつけてくる。

 

「アリア」として共に戦った仲間たちの顔が脳裏をよぎる。

「彼女は魔王と相打ちになって誇り高く散った」と信じ、街に銅像まで建てて自分を悼んでいるであろう人々。

もし彼らが、神聖な英雄の真の姿が、暗い洞窟で自らの性衝動に悶々としている一匹の淫魔だと知ったら、どれほどの失望と蔑みを向けるだろうか。

 

「死にたい……いや、死ぬことすら許されないのか、この体は……」

 

淫魔の肉体は強力な再生能力と不老に近い寿命を備えており、衰弱死することすら容易ではない。

冷め切った頭で自らの愚かさを呪い、静かに涙をこぼすのが、彼女の日常の半分を占める時間であった。

 

 

数年の月日が流れ、かつて世界を揺るがした「勇者アルス」と「女勇者アリア」の伝説は、人々の間で美しい物語として定着していった。

 

森の奥で暮らす彼女のもとには、時折、道を失った迷い人や、凶悪な魔物に追われた旅人が足を踏み入れることがあった。

そんな時、彼女はかつて培った『擬態』の術を使い、一瞬だけかつての「女勇者アリア」の姿を取り戻す。

 

「ここは危険な領域です。すぐにお帰りなさい」

 

圧倒的な剣技と魔力で密林の魔物を払い、怯える人々の前に凛とした姿で降臨する。

人々は驚喜し、「死んだはずのアリア様が生きておられた!」と膝をつこうとするが、彼女は冷たく背を向ける。

 

「私はただの亡霊。人の世に関わるつもりはありません。……行きなさい」

 

人々が去り、一人になった瞬間、気張っていた魔力が弾け飛び、元の淫魔の姿へと戻ってしまう。

その場に崩れ落ち、荒い息をつきながら、彼女は小さく微笑むのだ。

 

どれほど体が淫らに作り替えられようと、どれほど不条理な欲望に苛まれようとも、自分の根底にある「誰かを救いたい」という勇者の魂だけは、触手の毒も、淫魔の本能も、決して奪い去ることはできなかった。

 

「ふふ……少しは、勇者らしくいられたかしら……っ♪」

 

発情の予兆であるお腹の淫紋が再び熱を帯び始め、彼女は苦笑いを浮かべながら、自らの定位置である暗い洞穴へと足を向けた。

 

満たされることのない淫魔としての甘い呪いと、永遠に消えない勇者としての誇り。

その二つを可憐で魅惑的な肢体に抱えたまま、元勇者の美しき淫魔は、人知れず世界の片隅で、終わりのない淫らで切ない日々を刻み続けていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。