ハルジオンの港は、昼下がりの日差しを浴びてきらきらと輝いていた。
ルーシィは、夢と希望に胸を膨らませ、この港町に降り立ったばかりだった。
「ふぅ……まずは、仕事を探さなくちゃね」
彼女がそう呟いた瞬間、背後から陽気な声が響いた。
「やあ、お姉さん! 一緒にボウリングに行かない?」
ルーシィが振り返ると、そこに一人の男が立っていた。
派手なスーツを着た、ボラという名の魔導士。
その目は、油断なく輝いていた。
「えっ? ごめんなさい、今は……」
「ほら、見ての通り、一人なんだよ。寂しいんだよね、俺も」
ボラの唇が、滑らかに弧を描く。
その先から、まばゆい光の粉が、じわりとルーシィの周りに広がっていく。
「……」
ルーシィの瞳が、瞬きもせずに、ボラを捉える。
その鮮やかな金髪も、港の眩しい日差しも、彼女の意識からはすっと遠のいていく。
世界に存在するのは、目の前のこの男だけ。
彼の声が、まるで神の宣告のように、脳裏に響き渡る。
「……いいですよ。一緒に、行きます」
ルーシィの声は、自分のもののように思えなかった。
まるで、どこか遠くから聞こいてくる、他人の声だった。
その時だ。
「おい、お前。その娘に魔法かけただろ」
冷たい男の声が、二人の間に割って入った。振り返ると、そこに黒髪の青年が立っていた。
ラフな服を着こなし、その瞳には、少し遊び心と、冷徹な光が宿っていた。
「なっ! おまえは!」
ボラは、怒りに顔を歪ませるが、青年の放つオーラに圧倒され、一瞬、言葉を失う。
青年は、ボラには目もくれず、金髪の娘を見つめていた。
その青い瞳は、まるで品定めをする獣のように、彼女の全身をなぞっていた。
「……巨乳だな」
青年は、そう呟き、ボラとの間に一歩、踏み出す。
「シ、シル……!」
ボラの声が、震えている。
青年の名を知っているらしい。
「ああ、俺がシルだ。そして、こいつは、俺がもらう」
シルは、そう言って、ルーシィの前に立ちはだかる。
「……あなたは、誰?」
ルーシィは、魅了された瞳で、シルを問う。
その声には、感情の色がなかった。
「……」
シルは、答えなかった。
彼は、ただ、その手を、ルーシィの胸元に、そっと伸ばした。
「ちくしょう……!」
ボラは、呪いの言葉を吐き捨て、踵を返す。
その姿は、まるで、尻尾を巻いた鼠のようだった。
シルは、そんな彼の後ろ姿に、目もくれず、目の前の金髪の娘に、全集中を捧げていた。
「……」
彼の手が、ルーシィの胸に、しっかりと触れた。
「おいおい、すげぇな、これ」
シルは、その感触に、満足げに呟く。
その指先が、ルーシィの胸を、優しく、しかし確実に、揉みしだいていく。
「ん……」
ルーシィの口から、か細い声が漏れる。
その声には、まだ、快楽の色はなかった。
だが、シルの手は、その色を、引き出そうと、執拗に、彼女の胸を愛撫した。
抵抗しようとする意志も、次第に溶けていく。
その体は、もう、自分のものではない。
シルの指先が与える感覚に、ただ、身を任せるだけだった。
「……」
シルは、そんな彼女を見て、にやりと笑う。
「だめだな。服の上からじゃ、物足りない」
シルは、そう呟き、ルーシィの服の襟元から、その指を、滑り込ませた。
生地と肌の間の、僅かな隙間。
「ひゃあっ!?」
指先が、温かく、柔らかい肌に触れた瞬間、ルーシィの体が、びくりと跳ねる。
それは、生の感触だった。シルは、その感触に、酔いしれ、さらに奥へと指を進める。
やがて、その指先は、ふっくらと膨らんだ柔らかさに、触れる。
「……これだ」
シルは、ルーシィの乳房の、側面を、ゆっくりと撫でる。
そして、その指を滑らせ、乳輪の、少しだけ色の濃い、敏感な肌へと移動する。
「あ、ああっ……!」
ルーシィの口から、今までとは違う、はっきりとした、感情の籠った声が漏れる。
それは、もはや、魅了された声ではなかった。
快楽と、戸惑いと、そして、徐々に芽生え始める抵抗の声だった。
「……まだ、だめだ」
シルは、さらに指を進める。
そして、その指先で、硬くなった乳首を、優しく、しかし確実に、摘む。
「ひゃあああッ!!」
ルーシィの体が、激しく痙攣する。
その背中が、弓なりに反り返る。
その時だった。
彼女の瞳が、急に、煌めいた。
「……はぁ……はぁ……」
ルーシィの肩が、懸命に震える。
先ほどの激しい絶頂の余韻に、まだ彼女の体は支配されていた。
目の前の黒髪の青年、シルは、満足げに唇を舐めている。
そして、ルーシィの体からそっと手を離した。
「……おい、大丈夫か?」
シルの声に、ルーシィは、ふと我に返る。
彼女は自分の体を見下ろす。
服は乱れ、胸のあたりは熱を帯びている。
そして、何より、先ほどまでの自分の行動、その激しい喘ぎ声が、耳元にこびりついて離れない。
「……あ……あれ……? こ、ここは……?」
ルーシィの瞳が、混乱を浮かべている。
さっきまで、彼女は港の入り口にいたはずだ。
ボラという男に誘われて、抵抗しようとして……。
その後の記憶が、霧のように霞んでいる。
ただ、激しい快感だけが、全身に染みついている。
「……どうしたんだ、急に。気でも失ったか?」
シルが、呆れたように眉をひそめる。
「あ、あの……さっきの、男の人は……?」
「ボラのことか? あいつならとっくにどこかへ行ったぜ。」
シルが言う。
ルーシィは、自分の体に不信感を抱く。
なぜここにいるのか、そして、この体に残る熱い記憶は、何だ?
「……いいか、教えてやる」
シルは、その混乱した顔を見て、少し呆れたように言った。
「さっき、あのスーツ野郎がお前にかけたのは、『魅惑』という魔法だ。相手の意志を奪って、言いなりにする、下劣なヤツだ」
「えっ……?」
「お前がボラの後に付いていこうとしたのは、そのせいだ」
「……」
ルーシィの顔から、血の気が引いていく。
自分の意思でなかったとはいえ、見知らぬ男に付いて行こうとしていた、その事実が、彼女を震えさせる。
「……で、俺がその魔法を、ぶっ壊してやった」
「あなたが……?」
「ああ」
シルは、そう言って、少し嫌そうに頷く。
その口元には、どこか、自負のようなものが浮かんでいた。
「そ、それなら……」
ルーシィは、勇気を振り絞って、シルを見上げる。
「お礼を、させてください!」
「礼だと?」
「はい! なんでもしますから! だから、ご飯、おごらせてください!」
ルーシィは、そう言って、真っ直ぐに彼の目を見つめた。
その瞳には、もう、混乱や恐怖はなく、純粋な感謝の光だけが輝いていた。
「……」
シルは、その純粋な瞳を見て、少し呆れたようにため息をついた。
「……まあ、いいか。」
「本当ですか? やったー!」
ルーシィは、嬉しそうに飛び上がった。
その姿は、あの激しい快感に溺れた娘とは、思えないほど、無邪気だった。
港の賑やかなレストランに座り、ルーシィは、シルの前で、まだ少し緊張した面持ちで皿に目を落としていた。
シルは、もうとっくにステーキを平らげ、ビールを飲んでいる。
その様子は、どこか、自然だった。
「……それで、自己紹介はしといた方がいいだろ。俺はシル。雷を操る魔導士だ」
「わたしは、ルーシィ・ハートフィリア。星霊魔導士です!」
「星霊か。まあ、いい腕に見えるぜ」
「ありがとうございます!」
「……なあ、ルーシィ」
「はい!」
「何しに、この町へ来たんだ?」
「その……!」
ルーシィは、一瞬、言葉に詰まる。
だが、彼女は、決意を固めたように、顔を上げる。
「私は、魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りたいんです!」
その瞳は、輝いている。
それは、彼女の長年の夢だった。
「妖精の尻尾、か」
シルは、その言葉を反芻するように、呟いた。
「……知ってるんですか?」
「ああ。少しはな」
「そ、それなら……! あのギルド、私みたいな者でも入れますか!?」
ルーシィは、身を乗り出して尋ねる。
「……まあ、なんとかなるだろ」
シルは、そう言って、ビールのジョッキを傾ける。
その口元には、少し笑みが浮かんでいた。
「ほ、本当に……!?」
「あーこの街を抜けた先のマグノリアって街にあるらしいぜ。行ってみろよ」
「マグノリア……!」
ルーシィの目が、さらに輝きを増した。
それは、夢への具体的な地図だった。
「そこへ行けば、妖精の尻尾に入れる……!」
「ああ。大体、そうだ」
シルは、あっけらかんと頷く。
「ありがとうございます! シルさん!」
ルーシィは、深々と頭を下げる。
その姿は、純粋な感謝に満ちていた。
「まあ、いいさ」
シルは、そう言って、席を立つ。
「じゃあな」
「あ、あの!」
ルーシィは、彼の背中に呼びかける。
だが、シルは、振り返らずに、レストランの扉をくぐっていった。
「……」
ルーシィは、彼の去り際を見送る。
その背中は、どこか、頼もしく見えた。
「……シルさん」
彼女は、その名を、小さく呟いた。