※この作品はR-18です。

雷竜のシル   作:mss

2 / 5
第二話『妖精の尻尾にようこそ』

マグノリアの街並みは、遠くに見える山々を背景に、のどかに広がっていた。

 

ルーシィは、その道を、ナツとハッピーと共に歩いていた。

 

彼女の心は、高鳴っていた。

 

やがて、目の前に現れたのは、巨大な建物だった。

 

そこには、大きな看板が掲げられていた。

 

『妖精の尻尾』

 

「……ここが……」

 

ルーシィの声は、震えていた。

 

彼女の夢が、ついに、その形を現した瞬間だった。

 

「よーし、行くぞ!」

 

ナツが、そう叫ぶと、グイッと、その扉を開けた。

 

「……!」

 

その中は、想像を絶するほど、騒がしかった。

 

魔導士たちが、酒を飲み、喧嘩をし、笑い合っていた。

 

それは、まるで、一つの大きな家族のようだった。

 

「よう、ナツ!」

 

「お、おかえりー!」

 

ギルドメンバーたちが、彼を気さくに迎える。

 

「……すごい……」

 

ルーシィは、その光景に、圧倒されていた。

 

「おい、ルーシィ。ここが、俺たちのギルドだ」

 

ナツが、彼女の肩を叩く。

 

「う、うん……!」

 

ギルドマスターであるマカロフは、すぐにルーシィの加入を認めた。

 

彼女は、右手に、妖精の尻尾の紋章を刻まれた。

 

「……ありがとう……!」

 

ルーシィは、その紋章を、嬉しそうに撫でる。

 

「よし、これで仲間だな!」

 

ナツが、嬉しそうに言う。

 

「……うん!」

 

「じゃあ、早速、仕事に行ってくるぞ!」

 

ナツは、そう言って、ルーシィの手を引く。

 

「えっ、もう、行くの?」

 

「ああ!」

 

彼は、何の疑いもなく、クエストの板に向かう。

 

そして、そこから、一枚の紙を剥がす。

 

「『ビックスロー村の魔物退治』! これだな!」

 

「……」

 

ルーシィは、その行動力に、呆れつつも、ついていくことにした。

 

ビックスロー村に到着した二人は、すぐに魔物退治に成功した。

 

ルーシィは、ナツの炎の魔法の力に、改めて驚嘆した。

 

ギルドに戻ると、そこは、いつものように、騒がしかった。

 

「おかえり!」

 

「やっと帰ってきたか!」

 

メンバーたちが、二人を迎える。

 

「おーい、じっちゃん! 仕事終わったぞ!」

 

ナツが、マカロフに声をかける。

 

「おお、よくやったな、ナツ」

 

マカロフが、満足げに頷く。

 

その時だった。

 

ギィ、と、重い音を立てて、ギルドの扉が開いた。

 

「……?」

 

誰もが、その音に、視線を向ける。

 

そこに立っていたのは、見知らぬ青年だった。

 

ラフな服を着こなし、その体格は、しなやかで、そして、強靭そうだった。

 

黒髪が、少し長めに伸びて、その顔の一部を、影に落としている。

 

その瞳は、冷静に、このギルドの空気を、観察している。

 

「……誰だあいつは?」

 

カナが、隣のレビィに、小声で尋ねる。

 

「知らない……」

 

レビィが、首を振る。

 

青年は、誰とも挨拶せず、ただ、黙って、ギルドの中へと、足を踏み入れた。

 

「おい、お前は誰だ!」

 

あるメンバーが、彼に声をかける。

 

「……」

 

青年は、その声には、応えず、ただ、ギルドの中を見回す。

 

その視線が、やがて、一人の少女に、留まった。

 

「……」

ルーシィは、その視線を感じて、ふと、顔を上げる。

 

そして、彼女の瞳が、大きく見開いた。

 

「……あ……」

 

そこに立っているのは、間違いなく、彼だった。

 

「……!」

 

青年は、その少女を見つめて、にやりと、笑った。

 

「……シルさん……?」

 

ルーシィの、か細い声が、騒がしいギルドの空気に、溶けていく。

 

「おお、ルーシィ! あいつと知り合いなのか?」

 

ナツが、驚いて尋ねる。

 

「うん……!」

 

「俺はシル。雷の滅竜魔導士だ」

 

その言葉に、ギルドの空気が、一瞬、凍りつく。

 

「……滅竜?」

 

マカロフの声が、低く響く。

 

その小さな体からは、想像を絶する威圧感が溢れ出ていた。

 

「ああ」

 

シルは、恐れることなく、マカロフの目を見つめる。

 

「ナツがいるんだろ? 火の滅竜魔導士が。俺と同じやつが」

 

「……」

 

マカロフは、ナツの方向に、一瞬、視線を向ける。

 

そして、再び、シルを見つめる。

 

「雷竜に育てられた。その名もヴォルガ」

 

シルは、そう告げる。

 

「……」

 

マカロフは、その名を聞いて、さらに深く、眉をひそめる。

 

「……滅竜魔導士は、稀少だ。だが、その力は計り知れない……」

 

「ああ」

 

「だが、それも、実力次第だ」

 

マカロフは、そう言って、シルの全身を、見つめる。

 

「……入れたくば、実力を見せろ」

 

「ああ。当然だ」

 

シルは、そう言って、その場に、立ちはだかる。

 

その時だ。

 

「よっしゃ! 俺と勝負だ!」

 

ナツが、それを聞きつけて、飛び出してきた。

 

その瞳は、闘志に燃えていた。

 

「ああ。やってやるぜ」

 

シルは、ナツを迎え撃つ。

 

「火竜の鉄拳!」

 

ナツの拳が、赤々と燃え上がる。

 

「雷竜の鉄拳!」

 

シルの拳に、青白い雷が、渦巻く。

 

「いくぞ!」

 

ナツが、そう叫ぶと、その拳を、シルの顔面に、振り下ろす。

 

「……」

 

シルは、その拳を、受け止める。

 

ガシッ、と、乾いた音が響く。

 

「……!」

 

ナツの拳から、激しい炎が吹き出す。

 

だが、シルの拳からも、それに負けないほどの、凄まじい雷が、迸る。

 

「うおおお!」

 

ナツは、さらに力を込める。

 

「くそっ……!」

 

シルも、全身の力を、その拳に込める。

 

二人の拳の間から、炎と雷が、ぶつかり合い、火花を散らす。

 

「……」

 

マカロフは、その光景を、静かに見つめていた。

 

「……よい」

 

そう呟くと、マカロフは、その小さな体から、途方もない魔力を、解放する。

 

「……!」

 

その魔力に、シルとナツは、同時に、吹き飛ばされる。

 

「……そこまでだ」

 

マカロフの声が、二人の間に、響き渡る。

 

「……」

 

シルは、吹き飛ばされた先で、床に膝をつく。

 

「……くそっ……」

 

ナツも、同じように、床に倒れ込んでいた。

 

「……」

 

二人は、顔を上げ、互いを見つめる。

 

どちらも、決して、相手に、完膚なきまでに、打ち負かされたわけでは、なかった。

 

だが、マカロフの力の前では、無力だった。

 

「……見事だ」

 

マカロフは、そう言って、満足げに頷く。

 

「……シル。お前を、妖精の尻尾の一員として、認める」

 

「……よし」

 

シルは、そう言って、床から立ち上がる。

 

「おめでとう、シル」

 

ルーシィが、純粋な笑顔で、そう言った。

 

「……ああ」

 

シルは、その笑顔を見て、にやりと、笑った。

 

シルは、その日、妖精の尻尾の紋章を、左の胸に刻まれた。

 

「……これで、仲間だな」

 

ナツが、彼の肩を叩く。

 

「ああ」

 

シルは、そう頷く。

 

ギルドの騒ぎは、夜になっても、収まる気配がなかった。

 

新しい仲間を迎えた興奮が、酒を飲むことで、さらに増幅されていた。

 

シルは、その隅の、静かな席で、黙って、その光景を見つめていた。

 

彼の胸には、新たしく刻まれた妖精の尻尾の紋章が、静かに輝いていた。

 

「……」

 

彼の視線が、ゆっくりと、このギルドに集う、一人一人の女を、なぞっていく。

 

カウンターの裏で、気さくにメンバーと談笑している銀髪の女ミラジェーン。

 

その笑顔は、まるで太陽のように明るかったが、その眼差しには、どこか深い闇が、秘められているように思えた。

 

一つの席で、本を読み込んでいる青髪の女レビィ。

 

その真剣な横顔が、どこか、神聖で、触れてはいけないものを感じさせた。

 

カウンターの前に座り、酒を飲みながら、メンバーと談笑している、褐色の肌の女カナ。

 

その大胆な仕草と、魅力的な笑顔が、男たちの視線を、惹きつけていた。

 

そして、少し離れた席で、銃の手入れをしている、緑髪の女ビスカ。

 

その真剣な眼差しが、どこか、悲壮感を、帯びていた。

 

「……」

 

シルは、その四人の姿を見て、そっと、唇を噛んだ。

 

『……これからが、楽しみだな……』

 

彼は、そう呟き、にやりと、笑った。

 

その時だ。

 

「シルさん!」

 

ルーシィの声が、彼の隣で響いた。

 

「なに、ニヤニヤしてんのよ!」

 

ルーシィは、彼の隣に座り、呆れたように言った。

 

「……ああ、いや」

 

シルは、急に笑顔を消した。

 

「なによ、その顔。何か考え事でもあったの?」

 

「……いや、なんでもない」

 

「ふーん」

 

ルーシィは、疑いそうな顔をしたが、それ以上は、何も言わなかった。

 

「……それで、シルさんも、これから、ずっと、ここにいるの?」

 

「ああ。そうするつもりだ」

 

「そっか! よかった!」

 

ルーシィは、嬉しそうに笑った。

 

「これから、いっぱい、一緒にクエストに行こうね!」

 

「ああ」

 

シルは、そう頷き、再び、ギルドの女たちを、見つめた。

 

『……そうだな。いっぱい、楽しむことにしよう』

 

彼は、そう呟き、ジョッキのビールを、飲み干した。

 

「なあ、ルーシィ」

 

シルは、ジョッキを置くと、ふいに、彼女に尋ねた。

 

「なに、シルさん」

 

「シルさん、じゃねえよ。シルでいい」

 

「えっ?」

 

「俺たち、もう同じギルドの家族なんだから」

 

「そ、そっか……」

 

ルーシィは、少し、戸惑いながらも、シルの名前をつぶやいた。

 

「……シル、か」

 

彼女は、そう呟いて、少し顔を赤らめた。

 

「そういえば、シル……。住むところ、もう決めた?」

 

ルーシィは、そう尋ねた。

 

彼女は、なんとなく、彼のプライベートな部分が、知りたくなっていた。

 

「ああ、決めたよ。街の端っこだけど、結構いいところだ」

 

「そっか。よかったね!」

 

ルーシィは、純粋に、彼を喜ばせた。

 

「で、ルーシィはどこに住んでるんだ?」

 

「あ、私は……」

 

ルーシィは、少し、照れくさそうに、自分のアパートの場所を、教える。

 

「街の中心から少し離れた、静かなところの、二階建ての家です」

 

「ほう」

 

シルは、その言葉に、興味をそそられた様子だった。

 

「一人で住んでるのか?」

 

「はい」

 

「いいな、その家。遊びに行ってもいいか?」

 

「えっ!? ま、まあ……いいけど……」

 

ルーシィは、急に、彼の誘いに、戸惑いを隠せなかった。

 

彼の目には、少し、危険な光が、宿っているように、彼女には感じられた。

 

「……」

 

シルは、その反応を見て、にやりと、笑った。

 

『……いいね。狙い目だ』

 

彼は、そう呟き、また、ジョッキを手に取った。

 

シルは、ゆっくりと、周りを見回した。

 

メンバーたちは、酒に酔って、互いに騒いでいる。

 

誰も、ここの二人に、注意を払っている様子はない。

 

「……」

 

彼は、その確信を得ると、そっと、その手を、テーブルの下へと、滑らせた。

 

「……」

 

そして、ルーシーの太ももに、その手を、置く。

 

「ひゃっ!?」

 

ルーシィは、その突然の感触に、ビクッと、肩をすくめる。

 

「……」

 

シルは、その太ももを、ゆっくりと、撫でる。

 

その指先が、彼女の肌の暖かさを、確かめていた。

 

「……」

 

ルーシィは、顔を真っ赤にして、彼を見る。

 

だが、シルは、平然な顔で、ジョッキのビールを、飲んでいる。

 

「……」

 

そして、彼は、ルーシーに、しか聞こえない声で、ささやいた。

 

「……じゃあ、今夜、遊びに行くな」

 

その声は、低く、そして、甘く、彼女の耳に、こびりついた。

 

「えっ!? き、今日、ですか!?」

 

ルーシィは、驚いて、彼を見返した。

 

「ああ」

 

シルは、そう頷くと、すっと、席を立つ。

 

「じゃあな」

 

「あ、あの……」

 

ルーシィは、彼の後を追おうとするが、彼は、すでに、ギルドの扉を、くぐってしまっていた。

 

「……」

 

ルーシィは、彼の去り際を見送り、自分の太ももに、まだ残る彼の指の感触に、身を震わせた。

 

『今夜、来る……?』

 

彼女の心臓が、高鳴りを、始めていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。