※この作品はR-18です。

貞操逆転世界の傾国記   作:熟睡枕

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第15話 幽霊事件1

秘密の特訓は、俺の日課になっていた。

昼間は家族と過ごし、読み書きを覚え、侍女たちに世話をしてもらう。

夜になれば、寝台の上でこっそり魔法の練習をする。

最初は小さな水滴を作るだけでも苦労していたが、繰り返し練習するうちに、できることは少しずつ増えていった。

 

水球は大きくなった。

浮かせられる物体も、毛布からおもちゃ、おもちゃから本へ、そして少しずつ重いものへと変わっていった。

もちろん、何でも自由に浮かせられるわけではない。

重い物体を浮かせるには、それだけ多くの魔素を操作する必要があるようだった。無理をすると集中力が続かなくなり、頭がぼんやりしてくる。

本で得た知識だが、どうやら魔法を使いすぎると、魔素酔いという症状が起こるらしい。

まだ軽い疲労程度しか経験していないが、無茶は禁物だ。

俺は毎回、練習する時間と内容を決め、できるだけ同じ条件で試すようにしていた。

何を試したのか。

何が起きたのか。

何を変えれば、うまくいくのか。

それを繰り返していくうちに、魔法の制御は目に見えて上達した。

 

◇

 

自分自身も、浮かせられるのではないか。

ある日突然思いついた

物体を浮かせられるなら、自分の身体も対象にできるはずだ。

理屈の上ではそうなる。

しかし、実際に試すとなると話は別だった。

人間の身体は、木のおもちゃよりずっと重い。

さらに、自分自身を対象にすると、身体のどこを基準に力を加えるのかという問題も出てくる。

それでも、好奇心には勝てなかった。

俺はまず、寝台の上で試した。

落ちても大きな怪我をしないよう、周囲に柔らかいクッションを置く。

そして、自分の身体全体を対象として認識し、重力を弱めるようなイメージを組み立てた。

 

魔素を操作する。

集中する。

少しずつ、力を調整する。

身体が重い。

だが、ある瞬間、その感覚が変わった。

寝台に押しつけられていた身体が、ほんの少し軽くなる。

さらに集中すると、背中と寝具の間に隙間ができた。

浮いている。

俺自身が。

俺は息を呑んだ。

高さはほんの数センチ。それでも、自分の身体を浮かせることに成功したのだ。

調子に乗って少し高く浮かぼうとすると、姿勢が崩れて横に傾いた。

 

「うわっ!」

 

慌てて魔法を調整したものの、今度は力が弱くなり、ぼすん、とクッションの上へ落ちた。

痛くはない。

むしろ、笑いそうになった。

やはり、簡単ではない。

ただ浮かせるだけならできる。だが、姿勢を保ち、好きな方向へ移動するには、身体全体への力を細かく調整しなければならない。

俺は何度も失敗しながら練習を続けた。

そして、さらに時間が経つ頃には、寝台から少し浮くだけでなく、部屋の中をゆっくり移動できるようになっていた。

 

◇

 

自分の身体を浮かせられるようになった頃、俺は新しいことをやっていた

特訓ついでに屋敷の中を探索するのだ。

この屋敷は広い。

俺の寝室だけでも、前世の一般的な住宅の一室よりずっと広い。廊下には絵画や調度品が並び、客間や応接室、書庫、食堂など、見たことのない部屋がいくつもある。

だが、俺は自由に屋敷の中を歩き回ることを許されていなかった。

まだ幼いから、というのが主な理由だ。

階段から落ちたら危ない。

知らない部屋に入り込んだら危ない。

屋敷の外へ出たら、もっと危ない。

母さんも姉さんたちも、俺が心配で仕方がないらしい。侍女たちは交代で俺のそばにつき、少しでも姿が見えなくなると、すぐに探し始める。

失踪事件の一件以来、その監視は特に厳しくなっていた。

 

だからこそ、気になっていたのだ。

普段、近づけない場所には何があるのだろう。

屋敷はどのような構造になっているのだろう。

書庫で見つけた本には、この国の歴史や地理、魔法について書かれているものもあった。しかし、文章だけではわからないことも多い。

実際に自分の目で見てみたい。

そんな好奇心が、日に日に大きくなっていた。

そこで俺は、魔法を使って屋敷を探索することにした。

もちろん、ただ飛び回るわけではない。

侍女たちは優秀だ。俺が少しでも不自然な行動をすれば、すぐに気づくだろう。

 

そこで考えたのが、ダミー人形だった。

俺は魔法で人形を作り、それを寝台に寝かせておくことにした。

布団をかぶせれば、遠目には眠っている俺と区別がつかない。

もっとも、近くで見られれば簡単にばれてしまう。呼吸や体温まで再現しているわけではないからだ。

だから、これはあくまで短時間の探索に限った方法だった。

侍女が少し離れた隙に、俺は人形を寝台へ置く。

自分の身体を浮かせる。

あとは、誰にも見つからないように移動するだけだ。

最初のうちは、寝室の外へ出るだけでも緊張した。

廊下の角から侍女が現れないか、扉の向こうに誰かいないか。

周囲を確認しながら、ゆっくりと進む。

 

しかし、一度成功してしまえば、好奇心が恐怖を上回るようになった。

何より、空中を移動するのは思った以上に快適だった。

歩く必要がない。

階段も、段差も、少し浮いてしまえば問題にならない。

もちろん、速く動こうとすれば制御が難しくなる。今の俺にできるのは、ゆっくりと進み、止まりたいところで止まる程度だ。

それでも、幼児の身体で屋敷を探索する手段としては十分だった。

俺は本を浮かせ、その横を自分の身体がふよふよと漂うように移動した。

時には廊下の高い位置から壁に掛けられた絵を眺め、時には普段なら侍女に止められる扉の前で立ち止まる。

 

客間。

応接室。

倉庫。

書類が保管されているらしい部屋。

厨房へ続く廊下。

普段は遠くから眺めるだけだった場所も、近づいてみれば印象が違う。

屋敷の壁には、ところどころに装飾が施されていた。窓の配置や廊下の幅にも一定の規則性がある。使用人たちが使う通路は、客人が通る廊下とは別に設けられている場所もあった。

こうして見て回ると、屋敷の構造にも合理性があることがわかる。

ついでに、この世界の生活についても知ることができた。

厨房では何を使って料理をしているのか。

食材はどこに保管されているのか。

書類を管理する部屋にはどのような棚があるのか。

こうしたことは、本を読むだけではわからない。

 

俺は空中から屋敷を眺めながら、頭の中に情報を蓄えていった。

もちろん、罪悪感がなかったわけではない。

勝手に寝室を抜け出しているのだ。母さんや姉さんたちが知れば、きっと心配するだろう。

侍女たちだって、俺を見失えば責任を問われるかもしれない。

そのことは理解していた。

それでも、知りたいという気持ちを抑えられなかった。

幸い、今のところは誰にも見つかっていない。

ダミー人形のおかげで、侍女たちも俺が寝ていると思っているらしい。

――うん。これは、なかなかいい方法なのではないだろうか。

俺はそんなことを考えながら、今日も屋敷の中を漂っていた。

このときまでは。

 

◇

 

事件が起きたのは、ある日の夜中だった。

その日の夜も俺は、いつものように特訓という名の空中散歩を楽しんでいた。

俺は本を自分の目の前に浮かせ、読みながら廊下をゆっくり進んでいた。

そして、ある角を曲がったとき。

向こうから侍女が歩いてくるのが見えた。

おそらくトイレにでも行くのだろう

まずい。

俺は反射的に壁際へ寄った。

幸い、侍女はまだこちらに気づいていない。

このまま静かに引き返せば問題ないだろう。

そう考え、俺は身体を反転させようとした。

しかし、その瞬間だった。

 

「あ……」

 

侍女がこちらを向いた。

目が合った気がした。

時間が止まったような気がした。

侍女は瞬きをした。

俺も動けなかった。

数秒後。

 

「――――っ、きゃああああああああっ!!」

 

屋敷中に響き渡るような悲鳴が上がった。

 

「――――っ!?」

 

俺も驚いてしまった。

侍女は手に持っていた布を落とし、顔を真っ青にして後ずさった。

 

「ゆ、幽霊……っ!?」

 

いや、幽霊じゃない。

生きてる。

ちゃんと生きてるから。

そう説明したかったが、今の俺は空中に浮いている。

しかも、手も足も動かさず、本まで浮かせている。

どう考えても怪しい。

いや、怪しいどころではない。

自分が第三者の立場だったら、俺だって驚くだろう。

侍女はさらに後ずさり、壁に背中をぶつけた。

 

「ひっ……! いやっ、来ないで……!」

 

その声には、明らかな恐怖がにじんでいた。

俺は慌てて逃げようとした。

ここで事情を説明すればよかったのかもしれない。

しかし、二歳児程度の身体で、前世の知識があるとはいえ、空中に浮いているところを見られたのだ。

どう説明すればいいのか、まったく思いつかなかった。

魔法の練習をしていました?

屋敷を探索していました?

こっそり自分の身体を浮かせて、本を読みながら散歩していましたか?

どれもこれも、説明すればするほど怒られそうな気がする。

何より、侍女の顔があまりにも恐ろしかった。

彼女は口を開けたまま、俺を指さしている。

そして、次の瞬間。

 

「ひゃあああああああっ!!」

 

再び悲鳴を上げた。

その拍子に、彼女は腰から崩れ落ちた。

どうやら、腰が抜けてしまったらしい。

さらに、彼女のスカートの裾に、じわりと濃い染みが広がった。

……あ。

俺は思わず目をそらした。

見なかったことにしよう。

うん。

これは見なかったことにした方がいい。

しかし、現実は俺の希望を聞いてくれなかった。

 

「どうしたの!?」

 

悲鳴を聞きつけた別の侍女が、廊下の向こうから駆けてきた。

 

「何があったの!? 大丈夫!?」

 

そして、彼女もまた、空中に浮かぶ俺を目撃した。

数秒の沈黙。

 

「……え?」

 

その侍女は、ゆっくりと首を傾げた。

俺も、どうしていいかわからず固まっていた。

そして。

 

「きゃあああああああああっ!!」

 

二人目の悲鳴が響いた。

もう駄目だ。

完全に終わった。

俺は全力で魔法を操作した。

身体を反転させ、廊下の角を曲がり、可能な限り速く移動する。

幸い顔は見られていないだろう

暗闇だったし本にも隠れていたし

……うん、きっとそうに違いない!

 

後ろから何か叫ぶ声が聞こえたが、振り返る余裕はなかった。

とにかく逃げる。

逃げて、寝室へ戻る。

それだけを考えた。

普段なら、こんな速度で移動するのは危険だ。姿勢を崩して壁にぶつかるかもしれない。

だが、今はそんなことを気にしていられない。

俺は何度か廊下の壁にぶつかりそうになりながら、どうにか自分の寝室へ戻った。

扉を閉める。

身体を寝台へ戻す。

魔法で作っていたダミー人形を解除する。

そして、布団をかぶった。

目を閉じる。

呼吸を整える。

寝たふりをする。

完璧だ。

……いや、完璧ではない。

心臓がうるさい。

今にも飛び出しそうなくらい、どきどきしている。

そもそも、さっきの侍女たちは、間違いなく俺を見ていた。

いくら寝たふりをしても、すぐに疑われるだろう。

それでも、今はこれしか思いつかなかった。

俺は布団の中で身を縮め、必死に寝たふりを続けた。




こいつは何も反省してない乁( ˙ω˙ 乁)))~


追記:読み返してみると、確かに主人公の年代設定と言動が詰め切れていない感じがします。以後精進します。
この小説では、異世界に来て浮かれたカス野郎ということにしておいてくださいm(__)m
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