透視魔法の研究を始めてから、しばらくの時間が過ぎた。
俺の毎日は、相変わらず平穏だった。
朝は侍女に起こされ、身支度を整えてもらい、母や姉たちと食事をする。空いた時間には本を読み、ときには姉たちに遊びに誘われ、母に甘やかされる。
そして、誰もいない時間を見つけては、こっそり魔法の練習をする。
家族から見れば、本が好きで少し恥ずかしがり屋な男の子。
その評価は、今も変わっていない。
ただし、俺の頭の中では、ある一つの問題がずっと居座り続けていた。
透視魔法。
これが、どうしても成功しない。
「……やっぱり、無理か」
自室の机に向かいながら、俺は小さく呟いた。
目の前には、厚い表紙の本が一冊置かれている。
この本の表紙を透かし、内部のページを見ようとする。それが、ここ最近ずっと繰り返している実験だった。
しかし、何度試しても失敗する。
魔素を操作し、本の向こう側を見ようとする。
だが、何も見えない。
魔素の消費量を増やしても駄目。操作を細かくしても駄目。目を閉じて想像に集中してみても、やはり何も起こらない。
水を作る魔法や物を浮かせる魔法なら、ある程度は感覚で扱えるようになった。
けれど、透視魔法は違う。
何をすればよいのか、その入り口すら見つからなかった。
「そもそも、見えるってどういうことなんだ……」
俺は椅子の背もたれに寄りかかった。
よくわからない疑問がでてくるほど迷走していた
こんなときは散歩に限る
近くにいた侍女に声をかけて屋敷内を散策することにした
◇
屋敷の庭を散策しながら思考を巡らせる
前世の知識を使うにしても、限界がある。
というかそもそも前世でも透視とかできたっけ
超能力者とかいうたまにTVに出てくる怪しい人物を鼻で笑っていた記憶しかない
シュレディンガーの猫というものがあることから考えると前世でも透視なんてできていないのだろう
せいぜいX線を使って検問をしたり、医療に応用したりするくr……………
…
……
………
…………X線?
「…………………あっっっっっっっ!!!!!!!」
「!!!!っ。…どうかされましたか?ルシアニウス様」
「……何でもない。…読みたい本があったから部屋に戻るよ。」
普段絶対に出さない大きな声をあげてしまった
ついてきた侍女もびくっと肩を震わせ少し動揺していた
……申し訳ない
しかし、とにかく今は部屋に戻ろう
◇
X線は物質を透過する性質があり、物質によって透過しやすさが異なる。その違いを検出することで、内部の構造を画像として得ることができる。
ならば、魔法でも同じようなことができるのではないか。
魔素を何らかの透過性を持つものに変換し、対象を通過させる。そして、通過したものを受け取って、その情報を視覚に変換する。
魔素を火や水に変換できることはわかった。物体に力を加えることもできる。ならば、目に見えない何かへ変換することもできるのではないか。
魔法とは、イメージを通じて魔素を操作する技術なのだから。
俺は自分の目を指で軽く触った。
「……これなら、いけるか?」
もちろん、実際のX線カメラと同じ構造を完全に再現できるわけではない。検出器の細かな仕組みなど、覚えていないことも多い。
だが、魔法ならば、必ずしも装置をそのまま再現する必要はない。
重要なのは、どのような情報を取得し、それをどう認識するかだ。
魔素を使って、その機能だけを実現すればいい。
「……やってみよう」
俺は本を机の中央に置いた。
そして、目を閉じる。
まず、魔素を操作する。
空気中に漂う魔素を集め、その性質を変化させる。目には見えないが、これまでの訓練で身につけた感覚を頼りに、X線に相当するものを作り出す。
それを本に向けて放つ。
同時に、目の周囲へ魔素を流した。
受け取る。
読み取る。
見える形にする。
頭の中で、仕組みを何度も繰り返す。
魔素の操作が、これまでにないほど複雑になっていく。
少しでも集中が途切れれば、全体のイメージが崩れそうだった。
俺は息を止めるようにして、意識を集中させた。
そして――。
「……っ!」
目の前に、何かが浮かび上がった。
最初は、ぼんやりとした白と黒の濃淡だった。
机の輪郭。
本の表紙。
その奥に重なる、薄い影。
いつもなら表紙しか見えないはずの場所に、別の形が存在している。
俺は目を見開いた。
見えている。
いや、正確には、目から入ってくる情報がいつもと違う。
そこには、表紙の向こう側にあるページの重なりが、白黒の影として映っていた。
「うそ……だろ……」
思わず声が漏れた。
魔法を解除すると、見慣れた本の表紙だけが目に映った。
もう一度、発動させる。
白黒の影が戻ってくる。
解除する。
消える。
再び発動する。
見える。
「できた……!」
俺は小さく拳を握りしめた。
やった。
ついに、透視魔法が完成したのだ。
もちろん、まだ完璧とはいえない。
画像は粗く、色もない。どこまで見えているのかも、はっきりとはわからない。
それでも、成功したことに変わりはなかった。
「……すごいな、これ」
俺は再び魔法を発動させ、本を観察した。
表紙の向こうにあるページの重なりが見える。
紙の厚みや、内部の構造らしきものも、ぼんやりと認識できた。
これまでの努力が、一気に報われたような気がした。
ただし、一つだけ問題があった。
ふと、机の端に置いてあった小さな鏡が目に入った。
俺は何気なく、その鏡を手に取った。
そして、片目だけ透視魔法を発動させたまま、自分の顔を映してみた。
「…………」
目が淡く光っていた。
正確には、目の周囲に流している魔素が、わずかに光を放っているようだった。
暗い場所なら、もっと目立つかもしれない。
幸い、強い光ではない。
普通に部屋で過ごしている分には、気づかれない可能性もある。
だが、誰かと顔を合わせているときに使えば、さすがに怪しまれるだろう。
特に、セレナは観察力が鋭い。
もし彼女に気づかれたら、何かしら質問されるに違いない。
「……これは、改善しないとな」
俺は透視魔法を解除した。
魔法そのものは完成した。
しかし、実用化するには、まだ課題が残っている。
それでも、今は成功の喜びを味わいたかった。
ようやく夢の覗きライフに一歩近づいたのだから
◇
透視魔法を習得してから、俺の研究は急速に進んだ。
一度、基本となる仕組みを作り上げてしまえば、あとはその仕組みを利用してイメージで補助してやればいい
最初に取り組んだのは、画像の見え方の改善だった。
白黒でしか見えないのは、X線に相当する情報の強弱だけを視覚に変換していたからだと考えられる。
ならば、色の情報を別の形で取得できればどうだろう。
対象に当てる魔素の性質や、取得する情報を少しずつ変えながら、試行錯誤を繰り返した。
すると、少しずつ見え方が変わっていった。
最初は白黒の影しか見えなかったものが、やがて色の違いを持つようになった。
次に、透視する範囲を調整する方法を試した。
最初の魔法は、目の前にあるものをまとめて透視してしまう。見たいもの以外の情報まで大量に入ってくるため、かえってわかりにくいことがあった。
そこで、魔素を放つ方向と範囲を制御する。
目の前にある本だけを見る。
木の内部だけを見る。
壁の向こう側にある一部分だけを見る。
そうした指定ができるようになると、魔法の使い勝手は大きく向上した。
さらに、透視する深さも調整できるようになった。
例えば、目の前に人が立っていたとする。
その人の服だけを透かして見る。
服の下にある皮膚まで見る。
さらに、その内側にある筋肉や骨格を観察する。
取得する情報の範囲を調整することで、どこまで透視するかを切り替えられるようになったのだ。
ただし、最初から思いどおりにできたわけではない。
深さの調整を誤ると、見たいものよりも奥の情報まで重なってしまう。範囲を広げすぎると、複数の物体が重なって何が何だかわからなくなる。
そのたびに、俺は魔素の操作を見直した。
どの情報を取得するのか。
どの範囲から取得するのか。
どの深さまで取得するのか。
そして、取得した情報をどのように視覚へ変換するのか。
基本となる仕組みを理解できたことで、改良の方向性が見えるようになった。
◇
「ルシーは、本当に勉強熱心ね」
黒だ
ある日、アンネリーゼがそう言ってこっそり片目だけ魔法を発動している俺を抱きしめた。
「……そうかな?」
「ええ。まだ小さいのに、こんなに本が好きだなんて」
母は嬉しそうに笑う。
「……ところで左目をずっと手で触ってどうしたの?」
「…!!!、……ちょっとかゆくて」
さすがに不自然だったか?
その後も、俺は魔法の改良を続けた。
そして、透視魔法の応用先は、目で見ることだけにとどまらなかった。
ちなみにぼーぼーだった
処理する文化はないのだろうか?
◇
透視魔法の仕組みが安定してきた頃、俺は別のことを試してみた。
目で見るためには、対象から得た情報を視覚へ変換する必要がある。
だが、そもそも情報を取得する仕組みそのものは、目に限らなくてもよいのではないか。
そう考えたのだ。
俺は透視魔法で培った感覚を利用し、壁の向こう側へ意識を向けた。
目に流していた魔素の一部を、耳の周囲へ移す。
音を受け取るための仕組みを、魔素によって補助するようなイメージだ。
最初は、何も聞こえなかった。
しばらく試行錯誤したあと、壁の向こうから、かすかな音が届いた。
衣擦れの音。
足音。
そして、人の声らしきもの。
「……聞こえた」
俺は思わず、耳を澄ませた。
声の内容までは、まだはっきりしない。
音が弱すぎるのか、それとも壁を通過した音をうまく拾えていないのか。
原因はわからなかったが、確かに、壁の向こうの音を捉えることができた。
これもまた、魔法の応用なのだろう。
ただし、こちらもまだ実用には程遠い。
雑音が多く、音の方向も正確にはわからない。魔素の消費も少なくない。
俺はいったん魔法を解除した。
それでも、新しい可能性が見えたことに変わりはない。
見る。
聞く。
将来的には、もっと別の感覚にも応用できるかもしれない。
俺は変態紳士としての道を歩み始めた
◇
その夜。
俺は寝台に腰かけ、昼間の実験を振り返っていた。
透視魔法は完成した。
白黒の影しか見えなかった段階から、色を識別し、範囲や深さを指定できるところまで進歩した。
壁の向こうの音を拾うことにも成功した。
四歳の子供ができることとしては、十分すぎる成果だと思う。
……もちろん、他の魔法使いと比べてどうなのかはわからない。
だが、少なくとも俺自身の研究は、順調に進んでいる。
「さて……次はどうするか」
俺は自分の手を眺めた。
いや、正確には、手ではなく鏡に映った自分の顔を思い浮かべていた。
目が光る。
それが、現在の透視魔法に残された最大の欠点だった。
目に魔素を流している以上、ある程度の光が漏れてしまうらしい。
ちなみに音を聞いているときは耳から光は漏れてないようだが、調べてみると単純に耳の奥が光っていただけだった
これでは、人前で使うことが難しい。
今の俺には、魔法を使えることを知られるわけにはいかないのだ。
そうなれば、秘密の特訓を続けるのも難しくなるかもしれない。
「……どうにかしないとな」
目に流す魔素を減らす。
外に漏れる魔素を抑える。
あるいは、目以外の方法で情報を取得する。
方法はいくつか考えられる。
すぐに答えが出るとは限らないが、今の俺なら、何かしらの解決策を見つけられる気がした。
俺は布団に潜り込んだ。
明日も、いつもと同じ一日が始まる。
母に甘やかされ、姉たちに構われ、セレナに世話を焼かれながら、本を読んで過ごす。
周囲の誰も、俺が何を研究しているのか知らない。
その秘密を抱えたまま、俺は目を閉じた。
透視魔法は完成した。
けれど、それは終わりではない。
むしろ、俺の春はようやく始まったばかりなのだ。
ちなみに今日のセレナは白だった
完成したぜ
ヤッタ━━━ヾ(≧∀≦)ノ━━━!!!