※この作品はR-18です。

貞操逆転世界の傾国記   作:熟睡枕

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第27話 暴発事件1

その日も、いつもと変わらない一日だった。

午前中はマルグリット先生の授業を受け、午後は歴史や地理の勉強。合間にはセレナと一緒に学んだ内容を整理し、夕食の席では母や姉たちと今日あったことを話した。

最近は貴族教育にも慣れてきた。覚えることは多いものの、前世の知識が役立つ場面もあり、学ぶこと自体は嫌いではない。

ただし、一つだけ困ったことがあった。

――自分の時間が、どんどん減っている。

俺には、誰にも知られていない秘密がある。

それは、魔法の特訓だ。

幼い頃に魔素の存在を知って以来、俺はこっそりと魔法の練習を続けてきた。最初は水を生み出したり、本を浮かせたりする程度だったが、今では魔法の仕組みを考えながら、より少ない魔素で同じ現象を起こす方法を探っている。

最近は、生成する水の量や勢いを細かく調整する練習をしていた。

魔法を使うこと自体は、それほど難しくない。

問題は、どこまで正確に制御できるかだ。

入力と出力の関係を考え、無駄を減らし、再現性を高める作業は性に合っていた。

もっとも、機械と違って、魔法には目に見えない要素が多い。感覚に頼る部分もあり、まだまだ改善の余地はある。

だからこそ、練習を続けていたのだが……。

 

その日は、少し疲れていた。

昼間の授業が長引き、夕食の後には母様から領地の税についても教わった。さらに、寝る前にはセレナが翌日の予定を確認してくれたため、いつもより遅い時間になっていた。

それでも、少しだけなら問題ないだろう。

俺は寝室の扉を確認し、周囲に人の気配がないことを確かめた。

そして、いつものように魔素を感じ取る。

空気中に漂う、目には見えない力。

それを集め、形を与え、現象へと変える。

まずは少量の水を生み出す。

問題ない。

次に、その水を空中に浮かせる。

これも問題ない。

続いて、一定量の水を生成し、決められた方向へ押し出す練習に移る。

水を作るだけなら簡単だ。しかし、作った水をどれほどの速度で動かすか、どの方向に力を加えるか。その調整を誤れば、思わぬ結果につながる。

だからこそ、慎重に行う必要があった。

……はずだった。

 

◇

 

「……あれ?」

 

違和感を覚えたのは、水を生成し始めてからだった。

いつもより魔素の流れが滑らかではない。

疲労のせいだろうか。集中しているつもりなのに、出力の感覚が妙に曖昧だった。

いったん中止するべきだった。

今なら、そう思える。

しかし、そのときの俺は、あと少しだけなら大丈夫だと考えてしまった。

生成する水の量を調整し、前方へ押し出す。

その瞬間だった。

 

「――っ!」

 

水が止まらなかった。

想定していた量を大きく超える水が、一気に生み出された。

しかも、押し出すための力まで過剰になっている。

膨大な水が、狭い部屋の中で猛烈な勢いを持ち始めた。

まずい。

このままでは、部屋の中が水浸しになるどころではない。

とっさに魔法を解除しようとしたが、制御を失いかけた水は、俺の操作に素直に従わなかった。

前方には壁。

横には家具。

どちらに向けても、被害が出る。

残された選択肢は、一つしかなかった。

 

「上っ!」

 

俺は両手を天井へ向けた。

水の進行方向を、無理やり上方へ変更する。

次の瞬間。

 

――轟音。

ズドォォォォォンッ!!

 

耳をつんざくような音とともに、天井が吹き飛んだ。

いや、正確には、天井の一部が粉々に砕け、屋根までまとめて破壊されたらしい。

大量の水が夜空へ向かって噴き上がり、瓦礫と木片が四方へ飛び散る。

窓が激しく震え、部屋に置かれていた本や椅子が倒れた。

あまりの衝撃に、俺はその場で固まってしまった。

やがて、水の勢いが弱まり、最後の飛沫が夜空へ消えていく。

静寂が戻った。

俺はゆっくりと顔を上げた。

そこには――。

ぽっかりと穴の開いた天井。

そして、その向こうに広がる、満天の星空。

 

「…………」

 

きれいだった。

雲一つない夜空に、無数の星が瞬いている。

普段なら、思わず見とれてしまうような光景だろう。

だが、今の俺には、そんな余裕はなかった。

なぜなら。

――俺の部屋の天井が、なくなっているからだ。

 

「……どうしよう」

 

思わず呟いた声は、誰もいない部屋に虚しく響いた。

いや、誰もいないというのは、正確ではない。

屋敷のどこかにいる人々は、今の轟音を聞いているはずだ。

それどころか、屋敷の外にまで響き渡ったに違いない。

俺は恐る恐る窓の外を見た。

その瞬間、ぽつり、と頬に冷たいものが当たった。

 

「……雨?」

 

ぽつり、ぽつり。

やがて、領都の夜空から水が降り注ぎ始めた。

先ほど空へ吹き上げた水が、落ちてきたのだ。

それも、尋常な量ではない。

屋敷の庭も、街路も、広場も、短時間で雨に打たれていく。

数十秒ほどで雨は止んだものの、後には濡れた地面と、雨に驚いた人々の声が残された。

――明日の朝、領都では謎の夜雨が話題になるだろう。

そんなことを考えていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「ルシアニウス様っ!」

 

勢いよく扉が開いた。

飛び込んできたのは、寝巻姿のセレナだった。

普段は冷静沈着な彼女が、顔色を変えて室内を見回している。

 

「ご無事ですか!? お怪我は――」

 

そこで、彼女の動きが止まった。

視線が俺に向き、次に倒れた家具へ。

そして最後に、天井へと移動する。

数秒間、セレナは何も言わなかった。

ただ、穴の開いた天井を見上げていた。

 

「…………ルシアニウス様」

「は、はい」

「これは……いったい、何があったのでしょうか?」

「ええと……」

 

俺は引きつった笑みを浮かべた。

 

「ちょっと、失敗して……」

「失敗?」

「……はい」

 

セレナの表情が、すっと変わった。

その瞬間、俺は悟った。

――あ、これ、絶対に怒られるやつだ。

 

◇

 

セレナに続いて、何人もの侍女が部屋へ駆け込んできた。

 

「何事ですか!?」

「爆発音が聞こえたのですが!」

「ルシアニウス様、ご無事ですか!?」

 

侍女たちは俺の無事を確認すると、すぐに部屋の惨状に気づき、そろって絶句した。

その後、アンネリーゼがやってきた。

 

「ルシーっ!」

 

アンネリーゼは俺を見るなり駆け寄り、頭から足先まで念入りに確認した。

 

「怪我はない? どこか痛いところは? 火傷は?」

「だ、大丈夫です、母様。どこも怪我していません」

「本当に?」

「はい……」

 

アンネリーゼは俺を強く抱きしめた。

いつもの優しい抱擁だったが、今は少し苦しい。

 

「よかった……本当に、よかったわ……」

 

声が震えている。

俺は、自分がとんでもないことをしてしまったのだと改めて実感した。

続いて、エレオノーラとエリザベートも駆けつけてきた。

 

「ルシー! いったい何があったの!?」

 

エリザベートは、俺が無事だとわかると、ほっと息を吐いた。

一方、エレオノーラは部屋の状況を冷静に確認していた。

 

「……天井が、なくなっているわね」

「うん……」

「屋根も?」

「……たぶん」

「たぶん?」

 

エレオノーラの笑顔が、少しだけ怖かった。

俺は思わず視線を逸らした。

アンネリーゼは俺を抱きしめたまま、ゆっくりと顔を上げた。

そして天井を見上げた

顔が引きつっている

ゆっくりと顔をおろして俺を見た

 

「ルシー」

「は、はい」

「何がどうなっているのか、説明してちょうだい」

 

優しい声だった。

こうして俺は3度目の事件を起こしたのだった

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