第34話 仮説
魔法の研究や覗きに明け暮れ、剣の稽古で何度も地面に転がり、家庭教師から貴族としての心得を叩き込まれていた日々も、今ではずいぶん昔のことのように感じられる。
もちろん、俺の生活が楽になったわけではない。
むしろ、年を重ねるごとに忙しくなっている気さえする。
そんな俺も、今年で十二歳になった。
この世界に生まれてから十二年。前世の記憶を持つ俺にとっては精神年齢は実質四十代だ。
なので、自分が十二歳だという事実には、いまだに妙な違和感があった。
鏡を見るたびに思う。
……小さい。
いや、本当に小さい。
同年代の女の子たちと比べても、俺はかなり小柄な部類に入る。肩幅も狭く、手足も細い。顔立ちだけなら母や姉たちに似て整っているらしいが、体つきはまだまだ子供そのものだった。
整っているというのは侍女の雑談を盗み聞ぎしたときに聞いた評価だ。決して自惚れではない。そう信じたい。
もちろん、成長には個人差がある。十二歳なら、これから急に伸びる可能性だって十分にあるはずだ。
……あるはずだ。
大事なことなので、二度考えておいた。
頼むから、せめて平均くらいには育ってほしい。
この世界では男が少ない。だからこそ男児は大切にされるし、周囲からの扱いも特別だ。しかし、いくら大切に扱われようと、身体が小さいままでいいというわけではない。
いざというときに自分の身を守れる程度には、体力も筋力も欲しい。
もっとも、身長については、今すぐどうにかできる問題ではない。
諦めて別のことを考えよう。
たとえば、俺の生活を忙しくしている勉強の話だ。
◇
十二歳になった現在、貴族として必要な基礎教育は一通り終えている。
読み書きや計算はもちろん、アウレリア王国の歴史、貴族社会の仕組み、領地経営の基礎、税制、地理、礼儀作法など、一通りの知識は身につけた。
もちろん、すべてを完璧に理解したわけではない。特に領地経営や税制などは、実際の現場を知らなければ理解できないことも多い。
それでも、以前のように家庭教師から教科書の内容を教わるだけの段階は終わった。
最近は、母から領地の報告書を見せてもらったり、セレナに資料を用意してもらったりしながら、実際の数字を使って勉強することが増えている。
そして、魔法と剣の授業もまだ続いている。
剣術のほうは……正直に言えば、あまり進歩していない。
「ルシー、構えが甘いわよ!」
「うわっ!」
あれから何年も稽古を続けているが、俺の剣術は相変わらずである。
もちろん、最初のころと比べれば、剣の握り方も足運びも、重心の移動も理解できるようになった。体力だって多少はついた。
だが、グレーテやエリザベートのような相手と打ち合えば、あっという間に負ける。
そもそも、あの二人とまともに剣で勝負しようと考えること自体が間違いなのだ。
グレーテは言わずもがな、エリザベートも将来は騎士になるつもりで鍛錬を積んでいる。女性の身体能力が高いこの世界で、十二歳の小柄な男児が彼女たちに敵うはずもない。
……いや、前世の身体能力を持ち込んだところで、結果は大して変わらなかっただろう。
剣術は、身体能力だけで決まるものではない。経験や判断力、技術だって重要だ。
その点、俺にはまだ足りないものが多すぎる。
だからといって、騎士を目指すつもりはなかった。
剣術は自分の身を守るための手段。そう割り切って、今日も地道に稽古を続けている。
一方で、魔法のほうはというと。
こちらは、自分で言うのもなんだが、かなり順調だった。
師匠であるマルティナの指導のもと、魔素の感知から制御、魔法の構築、身体強化、実際の戦闘を想定した応用まで、幅広く学んでいる。
特に魔法の制御と構築については、師匠からも高く評価されていた。
ただ魔法を使うだけなら、結果をイメージして魔素を動かせばいい。
だが、どういう過程でその結果が生じるのかを理解し、必要な部分に魔素を適切に作用させれば、より少ない魔素で、より精密な現象を起こせる。
そうした工夫を積み重ねていくうちに、俺の魔法は少しずつ独自の発展を遂げていた。
最近では、研究だけでなく実戦を想定した訓練も行っている。
師匠からの提案だった。
魔法を研究するだけなら、実験室にこもっていればいい。しかし、実際に魔法を使う場面では、相手の動きや周囲の状況が刻々と変わる。
落ち着いて構造を考えている時間がないこともある。
だからこそ、考える前に身体を動かす練習や、限られた時間で魔法を組み立てる練習も必要だという。
ただし、あくまでも基礎的な訓練に限っている。
戦場に出るつもりはない。
◇
もう一つ、十二歳になった俺には、以前と比べて大きく変わったところがあった。
目と耳が、異様なほどよくなったのである。
遠くにある小さなものを見分けたり、薄暗い場所にある物体の形を把握したりする能力が、かなり優れている。
聴力も同様だった。
廊下の向こうから聞こえる足音だけで、誰が歩いているのか、おおよその見当がつくことがある。扉越しの会話も、意識を集中すれば、普通の人間よりずっと明瞭に聞き取れる。
もちろん、常に何もかも聞こえているわけではない。遠くの音を拾うには集中が必要だし、雑音が多い場所では聞き分けるのも難しい。
それでも、明らかに普通ではなかった。
原因については、心当たりがある。
透視魔法と盗聴魔法だ。
四歳ごろから研究を始め、長い時間をかけて改良してきた二つの魔法。目や耳を通して得られる情報を、魔素によって拡張するという発想で作り上げたものだ。
その研究を続けているうちに、俺の目と耳そのものが発達したのではないか。
そんな仮説を立てている。
師匠の話では、魔法についてはまだわかっていない部分が多いそうだ。
ならば、長期間にわたって目や耳に魔素を流し続けたことで、それらの器官に何らかの変化が起きたとしても不思議ではない。
もちろん、現時点では仮説にすぎない。
透視魔法や盗聴魔法を使ったことが直接の原因なのか。それとも、魔法の研究を続けた結果として、身体の使い方そのものが変わったのか。
比較実験を行うことも難しい。
何しろ、俺は一人しかいないのだ。
自分の身体を二つに分け、片方だけ魔法を使わせるわけにもいかない。
そしてこの仮説に至ったもう一つの要素があった
それはちんこだ
俺は透視魔法や盗聴魔法を基本的に覗きに使ってる
……ほめられたことではないが好奇心を抑えられなかった
そうするとエロいことも考えるわけで、そのときちんこにも魔素が集まっていることが分かっていた
しかし、害はなさそうだったので放置していた
すると幼少期の時と比較してちんこが一番成長した
身長や筋肉よりもだ
これがこの世界の男性のデフォルトの可能性もあったが第2回性教育が行われた際に消滅した
ま、まあ悪いことではない
小さくて悩むよりも全然いい
さて、そう考えたとき、俺は以前から気になっていた問題を思い出した。
なぜ、この世界では男がこれほど少ないのだろうか。
男女比は、およそ1:10。
単純に考えれば、何かしらの生物学的な理由があるはずだ。
生まれる段階で男女の比率が偏っているのか。それとも、出生後の生存率に大きな差があるのか。あるいは、もっと別の仕組みが働いているのか。
この世界では、女性のほうが魔法の扱いに長けている場合が多く、魔素の容量も大きい傾向にある。
さらに、身体能力も女性のほうが高い。
成人女性の兵士が、男性の兵士数人を相手にしても優位に立てることは珍しくない。グレーテに至っては、男性が何人集まろうと相手にならないと豪語していた。
もちろん、個人差はあるし、魔法や訓練の影響も大きいだろう。
しかし、種としての傾向に明確な違いがあるのは確かだった。
そこで俺は、ふと一つの仮説を思いついた。
もしかすると、男が魔法を使わなくなったことが、男の身体能力の低下につながったのではないだろうか。
あるいは、魔法を使わなくなったことで生存競争における不利が生じ、結果として男の数が減っていったのではないか。
そして、男性は保護されるようになる。
幼いころから危険を遠ざけられ、身体を鍛える機会も少なく、魔法を本格的に学ぶこともあまりない。
それが社会の仕組みとして定着した結果、男性はますます弱くなり、女性はますます強くなっていった。
……そんな可能性はないだろうか。
もちろん、これはかなり大胆な仮説だ。
そもそも、男性の数が減ったことが先なのか、男性が魔法を使わなくなったことが先なのかもわからない。
男が少なくなったために保護されるようになり、その結果として鍛えられなくなったのかもしれない。
逆に、魔法を使わず、身体能力も低下したために、男が少なくなったのかもしれない。
あるいは、両者が互いに影響し合い、現在の社会を形作ったのかもしれない。
現時点では、どれも推測の域を出ない。
ただ、俺自身が魔法を使い続けることで目や耳に変化を感じている以上、魔法と身体の関係については、もっと調べる価値があると思っていた。
……まあ、今すぐ研究を始められるわけではないのだが。
俺には、ほかにもやるべきことが山ほどある。
魔法の研究。剣術の訓練。魔法学校への入学準備。そして、面倒な社交。
そう、社交である。