※この作品はR-18です。

貞操逆転世界の傾国記   作:熟睡枕

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第8話 いたずら

俺がハイハイを覚えて行動範囲を広げたことで、侍女たちに思わぬ苦労が増えていた。

特に、俺の身の回りの世話を担当する侍女たちは大変だった。

何しろ、俺は前世の記憶を持っている。

見た目は赤ん坊でも、中身は三十代の男だ。

当然ながら、周囲の女性たちに興味がないわけではなかった。

というか暇すぎるので構ってほしくていたずらをちょくちょくするようになった。

 

……いや、誤解しないでほしい。

俺は別に、常日頃から女性にいたずらをしようと考えているわけではない。

ただ、赤ん坊という立場には、恐ろしいほどの特権があるのだ。

少々の失敗をしても、笑って許してもらえる。

多少の悪戯をしても、「かわいいですね」と言われて終わる。

そして、俺が無邪気な笑顔を浮かべれば、大抵のことは有耶無耶になる。

……これは、ある意味で最強の身分ではないだろうか。

 

そんなことを考えながら、俺はある日、若い侍女に抱き上げられていた。

彼女は俺の着替えを済ませたあと、髪を整え、服の皺を直している。

俺はその顔をじっと見つめた。

そして、にこりと笑う。

 

「あら、どうしたのですか?」

 

侍女が笑顔を返してくる。

俺は小さな手を伸ばし、彼女の頬に触れた。

 

「まあ、かわいい」

 

彼女は嬉しそうに頬を緩めた。

よし。

俺はそのまま、彼女の頬をむにむにと触り続けた。

柔らかい。

……いや、これは純粋な好奇心である。

赤ん坊の手で触れると、どのような感触なのか。

ただそれを確かめているだけだ。

決して、下心などない。

 

「ふふっ、くすぐったいですよ」

 

侍女は笑いながら、俺の手を優しく握った。

そこでやめておけばよかったのだ。

しかし、俺は調子に乗った。

彼女が近づいた瞬間、俺は小さな手を伸ばし、彼女のおっぱいを触った。

おっぱいを触った

 

「きゃっ!」

 

侍女が驚いた声を上げる。

なるほど。

ナイスなおっぱいだ

実においしそうである。

 

「もう、いたずらっ子ですね」

 

侍女は困ったように笑ったが、本気で怒る様子はなかった。

それどころか、俺の頭を撫でてくる。

 

「こんなに元気なら、安心ですね」

 

そう言って、俺を抱きしめた。

……許された。

赤ん坊というだけで、これほどまでに許されるとは。

俺は赤ん坊の立場に、改めて感心した。

ただし、当然ながら、何でも許されるわけではない。

俺が別の日に、侍女の服を引っ張って離さなかったときは、さすがに困った顔をされた。

 

「ルシアニウス様、そちらは引っ張ってはいけませんよ」

優しく手を外される。

俺は不満げに声を上げた。

 

「うー!」

「だめです」

 

……むう。

どうやら、赤ん坊特権にも限度があるらしい。

しかも、その一部始終をセレナに見られていた。

 

「ルシアニウス様」

落ち着いた声が、頭上から降ってくる。

俺はゆっくりと顔を上げた。

そこには、いつものように冷静な表情を浮かべたセレナが立っていた。

彼女は俺と侍女を見比べると、淡々と告げた。

 

「いたずらはほどほどになさってくださいませ」

 

……はい。

この侍女には、赤ん坊だからといって誤魔化すのは難しそうだ。

セレナは俺を抱き上げると、乱れた服を直し、顔を覗き込んだ。

 

「元気なのはよいことですが、皆様を困らせてはいけませんよ」

 

その声は優しかった。

だが、どこか有無を言わせない響きがあった。

俺は彼女の顔を見つめたあと、素直に頷くように頭を動かした。

もちろん、言葉の意味を完全に理解していると思われない程度である。

セレナは小さく微笑んだ。

 

「よろしいですね」

 

……この人、絶対に頭がいい。

俺は以前からそう思っていたが、こういうときに特に実感する。

彼女は俺の世話をするだけでなく、俺の行動をよく観察している。

俺が何に興味を持ち、どのようなときに機嫌がよくなり、何をするといたずらを始めるのか。

おそらく、俺自身が気づいていない癖まで把握しているのだろう。

 

◇

 

そんな日々を送るうちに、俺は言葉をだいぶ覚え始めていた。

最初は意味のわからない音の連なりだったものが、繰り返し聞くことで、徐々に意味を持つようになってきたのだ。

母が俺を呼ぶ声。

姉たちが遊びに誘う声。

侍女たちが食事や着替えの準備をする際の言葉。

もちろん、まだ完全に理解できるわけではない。

だが、日常的に使われる単語なら、少しずつ意味を推測できるようになっていた。

俺の名前が「ルシアニウス」であることも、今では確信している。

そして、姉たちの名前も。

長女がエレオノーラ。

次女がエリザベート。

母がアンネリーゼ。

侍女のセレナ。

少しずつ、この世界の人々が俺にとって意味のある存在になっていく。

ちなみにこの家はヴァレンシュタイン家という貴族の家らしい。

予想は当たっていた。

爵位は男爵という一番下の爵位だった。

がっかりなんてしてないんだからね!

 

言葉がわかるようになると、彼女たちの会話から学べることも増えた。

母が領地の仕事について話していること。

姉たちが家庭教師から勉強を教わっていること。

使用人たちが、俺の成長を毎日のように喜んでいること。

そして、俺が何かをすると、皆が驚くほど嬉しそうにすること。

俺が笑えば、母が笑う。

俺が姉たちのもとへ向かえば、二人とも嬉しそうに手を広げる。

俺が侍女にいたずらをすれば、困った顔をされながらも、最後には頭を撫でられる。

……どうやら、俺は相当にかわいがられているらしい。

ありがたいことだ。

 

もちろん、いつまでも赤ん坊のままでいるつもりはない。

いずれ自由に歩けるようになり、言葉を話せるようになれば、魔法についても本格的に研究を始めたい。

この世界には、前世では空想の産物だった魔法が存在する。

それを知ってしまった以上、試してみたいことはいくらでもあった。

どのような仕組みで、火や水を生み出しているのか。

どうすれば、もっと精密に、効率よく魔法を扱えるのか。

そして、いつかは大切に育ててくれているみんなに恩返しがしたい。

そのためにも、まずは健康に成長しなければならない。

俺はアンネリーゼの膝の上で、そんなことを考えていた。

 

「ルシー?」

 

母が俺の顔を覗き込む。

俺は考え事を中断し、母を見上げた。

 

「ふふっ。何を考えているのかしら」

 

アンネリーゼは俺の頬を優しく撫でた。

その向こうでは、エレオノーラが本を読み、エリザベートが積み木を並べている。

少し離れた場所では、侍女たちが静かに仕事をしていた。

窓から差し込む陽光が、部屋の中を柔らかく照らしている。

穏やかな午後だった。

俺は小さく欠伸をした。

……まあ、のんびりやろう。

今はまだ、赤ん坊なのだから。

そう自分に言い聞かせ、俺は母の腕の中で目を閉じた。

その日も、ヴァレンシュタイン家には、笑い声が絶えなかった。

今の俺にとっては、母と姉たちと遊び、侍女たちに世話をされ、ときどきいたずらをして叱られる毎日がすべてだった。

それで十分だった。

少なくとも、今はまだ。

俺の第二の人生は、こうして少しずつ進んでいくのだった。




いたずらは(`・ω・´)σ メッ!
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