葭葉真司
2079年10月10日に四葉本家に生まれ落ちた赤子。
その血筋は地球のどの人種にも属さない未知の血統だった。その不気味さゆえに当初、殺そうという意見もあった。
しかし四葉英作の魔法によって、赤子の持つ類稀な魔法資質が分かり四葉にとって都合の良い駒として育てることが決まった。
現在は四葉真夜の義理の息子の立場を持ち、小学2年生の7歳から司波深雪のガーディアン兼付き人として、葭葉真司の名を与えられ司波家に派遣された。
深雪は最初自分の二人目のガーディアンとして派遣されてきた真司には良いとは言えない感情しか持っていなかった。
戸籍上兄であるがほとんど他人としてしか見れない達也と同じように、戸籍上は従兄弟でも血の繋がりが微塵もない真司に対しても興味はなかった。
しかし真司は常に深雪のことを思い動く。深雪のことを大切に思う気持ちは深雪自身にも伝わっていた。そして次第に深雪は自分の気持ちを吐露するようになる。家庭の中で唯一頼りになる相手が真司だけだったからだ。
真司は深雪の気持ちを全て受け入れてくれる。それでいてそれを誰にも漏らさないのだ。深雪の母親である深夜にも何も言わない。真司の心の中にしまってくれる。そしてどんなことを言っても真司が受け入れてくれる。何を言っても真司の態度は変わらない。常に自分を第一にして友人達との付き合いすら深雪を優先する。
深雪からすれば唯一心の拠り所だった存在である真司に惹かれるのは必然だった。自分の心をすべて明らかにしてもそれを誰にも漏らさない。深雪の母親である深夜にも漏らさない。それは深雪を第一の主として定めるがゆえに、例え四葉本家の派遣主である真夜の姉であり主である深雪の母親であっても、仕える主の深雪の秘密は絶対に漏らさないという意思である。
それを示され続けたのだから、深雪は真司だけを唯一の味方だと思うようになるのは当然だった。
2092年8月
深雪は沖縄旅行の間に自身の真司への恋心を自覚した。
そのキッカケを兄である達也から背中を押してもらったことで兄に対する見え方が大きく変わる。
恋心を自覚したあと、自分の気持ちに対して答えを先延ばしにした。真司へ自分の気持ちを伝えるのはまだ先でいい、そう考えて沖縄旅行を楽しもうとした。
しかし深雪の想いとは裏腹に状況は待ってくれなかった。
2092年8月11日
真司が自分に向かって放たれた凶弾を庇い身代わりに受けたことで、真司が死にかける。
深雪の腕の中で自分が好きな男の子が死んでいくのを黙って見送るしかない。自分はまだその男の子に想いを伝えていない。気持ちすら伝える前に愛する異性を失ってしまう恐怖に深雪は身を焦がされた。
そして、駆けつけた達也に一縷の望みをかけて助けてほしいと懇願した。達也の魔法によって、その奇跡によって真司は死の淵から舞い戻った。
真司が助かったことに涙を流して喜んだ深雪はもう自分の気持ちに嘘を付かない。後悔しない選択をする決意を固めた。同時に自分の愛する男性を救ってくれた達也に対して、兄への最大限の敬愛を持つに至った。
目を覚ました真司に対して
「真司さん、私司波深雪はあなたのことをお慕い申し上げております。私をあなたの恋人にしてください。今はまだあなたが私のことを好きでなくとも構いません。いつまでもあなたからの答えを待ち続けます。そして振り向いて頂けるようにアプローチし続けます。覚悟してくださいね」と宣言した。
深雪は真司を自分の恋人として、将来には伴侶として手に入れることを決めた。
真司が死にかけて失いかけたことで、自分の心を支える柱が崩れ心が壊れる寸前だった。
深雪にとって真司は切っても切り離せないものになって何よりも大切な存在だと気付かされたからこそ、真司しか自身の伴侶となるパートナーはいないと考えたのだ。
そして達也のマテリアルバーストで敵艦隊を撃滅した余波として発生した大津波を全て凍りつかせた真司の姿を見て、深雪の脳は焼かれた。愛する男性は自分が目指すべき理想の魔法師でもあるという認識へと変わる。
真司は沖縄までは四葉に生まれたこと以外普通の子供だったと思っていた。しかし時々自分はどこか遠い世界の存在のように感じるときがあった。
沖縄で深雪に向かって放たれた凶弾を庇うことですべてが変わった。身代わりになって死にかけたときに真司は異世界の自分の半身と意識の闇の中で出会う。
そして真司は異世界の記憶と経験、力を取り戻した。
沖縄の事件以降
真司は義理の母親である四葉真夜に報告したいこと、相談したいことがあるから時間を取ってほしいと願い出て、時間を作ってもらった。
そこで沖縄で死にかけたときに、前世の記憶を思い出したこと。前世では人間の王族で王子だったこと。この世界とは異なる魔法が存在したこと。魔物と呼ばれる存在がいて、魔王と呼ばれる存在がいた世界であること。自分は人間種族を脅かしていた魔王を討伐した過去を持つことなどを話した。これらは真夜に報告すべきことだと思い報告する。
そして相談したいこととして、前世から慕ってついてきている者達がいることとその者達がこの世界で活動するための隠れ蓑となり組織を作りたい。そのために会社を設立したいから後ろ盾と初期資金を出すスポンサーになってほしいことを伝えた。その会社の利益の一部を真夜を通して四葉に還元することを条件として。
真夜がしばらく考えた後、会社設立に関するお願いは承諾してもらえた。
真司は一安心した。これで最低限配下や家臣達の暴走を制御、監視できると思ったからだ。奴らは真司が生まれ落ちてから記憶を取り戻すまでの十二年間好き勝手にやらかしている。
深雪の告白より先に処理しなければならないのが真司の身内の問題だった。
この時起業された会社が『リッチャーズ・カンパニー』だ。
リッチャーズ・カンパニーは真司の異世界からこの世界へとついてきている配下達がこの世界で活動できるようにするための隠れ蓑としての会社である。
真司は真夜に対して嘘はついていないが、本当のことを全て話したわけではない。真夜に対して、自分の前世は人間だった。人間に敵対していた魔王と呼ばれる存在を討伐した側の存在だと伝えた。だから真夜に自分の前世からの配下は人間だと思わせた。
実際は真司の配下や家臣には純粋な人間族は一人もいない。真司は異世界の魔王である。魔族や魔物を束ねる魔王に人間はいない。正確にはエルフやドワーフなどのような人型の種族はいるが純粋な人間の種族は一人もいない。真司含めて。
だから真夜は真司には人間の配下や家臣が十数人多くても数十人しかいないと考えていた。人間は一枚岩にいかない。四葉ですら一枚岩ではないのだから、転生してまで世界を越える物好きで真司に仕える忠臣となる人間は多くないと判断した。
真司でも付き従っているのが人間だったら、その程度の人数だと考えるだろう。地球には文明を築くほどの種族は大きく見て人間しかいない。人間以外に文明を築く種族が他にいると考えない。その先入観を利用して真司が人間だったという印象を強く与えて、他の可能性に思い至る余地を無くしたのだ。
真司に従ってこの世界に来ているのは、魔王の配下、家臣つまり魔王国民および魔王軍である。その規模は真夜の予想を遥かに超えて数十万に及ぶ。
人間の数十万と考えると、日本の人口は一億を超えているのだから少ないように感じるかもしれない。しかし例えばオーク、オーガ、ライカンスロープのような人間の膂力の数十倍の力を持ち人間よりはるかに多いスタミナを持つ種族がいると考えるとどうだろうか。それらの種族は一人で人間の何十倍もの働きをする。重機などを必要としない。当然戦闘能力も人間を遥かに上回る。だとすれば数十万の魔王の配下や家臣というのは数値上で見えるより遥かに上回る力を持つのだ。
真司の配下、家臣達は認識誘導や精神操作の魔法を使って既にリッチャーズ・カンパニーのもとになる土地を合法的に取得していた。手段は圧倒的に違法だが。
魔王軍が脱法取得した土地は表向き何も問題ないので、そこにリッチャーズ・カンパニーの表向きの建屋を建設する。
当然先ほど述べたオーク、オーガ、ライカンスロープやドワーフのような手先が器用で金属の扱いに長け技術力の優れた種族、さらに魔法を使える種族まで動員されれば、外部の建設会社などに頼ることなく一夜城の勢いで建物が出来上がる。当然手抜きなどされていないので、行政や国が検査しても耐震強度など何も問題はない。
沖縄以降の中学1年生2年生時代
夏休み明けの真司と深雪は周りから見て明確に変わった。
真司は一気に大人びたのだ。夏休み前までは同年代と比べれば落ち着いていたがまだまだ中学1年生らしさを残していた。
だが夏休み明けになるとガラリと変わる。一気に大人になったように感じる。深雪を見つめる目に優しさが混じり、時々憂いのある表情をするようになる。
葭葉真司は昔の言葉で言うところのイケメンである。入学当時から同級生や上級生から絶大な人気を誇っていた。しかし誰もアプローチはしなかった。それは深雪が理由である。
同性から見ても、見惚れる絶世の美少女というべき深雪が常に真司の側にいた。正確に言うなら真司が深雪の側にずっといたのだが、それは周りから見ればわからない。だが深雪が真司の側にずっといる以上、深雪の美貌に勝てないと悟り真司を諦めるしかない。
これは男子にも言える。真司は男子から見ても、整った見た目であるし成績優秀運動神経抜群無尽蔵の体力を持つ完璧な男子だった。そして深雪を立てて深雪を第一に行動する精神でありそれと比較したら勝てないと思う男子は多い。そして一部の男女は深雪が真司を想っていることを見抜いていたこともあり深雪を諦める男子は多かった。
一部の自意識過剰で周りのことが見えない男子がたまに深雪へアタックするが、そんな男子を深雪が相手するわけもなく玉砕するのが通例だった。
深雪の変化は誰の目にも分かる変化だった。
真司への想いを自覚して、真司に積極的にアプローチし始めたのだ。これには一部の深雪の気持ちに気付いていなかった男女も全員深雪が真司を好きだということを理解した。
深雪は真司に一途に献身している。真司の側に横にいることが何よりも幸せだと誰の目に見ても顔に表れていた。これまでは真司が深雪の側を離れない存在だったが、夏休み以降深雪が絶対に真司の側を離れなくなった。
二人がまだ付き合っていないことを皆が知るが、それは深雪には関係ない。深雪は真司を誰にも渡さない、そして自分は真司のものだから真司以外の男性には興味がないと行動で主張し続けていた。
深雪は真司からの答えを何年でも待つつもりだったが、周りの方が待てなくなった。深雪の一途な献身的な想いは、逆にそれを見ていた周囲を焦らせ二人の恋路を応援することになる。
中学3年生
3年生になって、すぐに四葉深夜が亡くなった。
深夜の心の支えだった穂波がいたとはいえ長年の闘病生活と魔法の後遺症による寿命の低下は深夜を生き永らえさせることにはならなかった。
寿命の終わりが見えていた真司は深夜が亡くなる前に、前世の自身の反省から深夜の背中を押すことにした。
前世の真司は十三歳で祖国を失った。当時の魔王によって祖国が滅ぼされて、両親が殺された。その時前世の真司は両親と仲違いしたまま死に別れしたのだ。
死の間際に言い残すことがあったと後悔しても遅いのを実感していた。だからもし深夜が達也と深雪に言い残したことがあったら、と想って深夜を説得した。穂波にも協力してもらって深夜を説得したのだ。
その結果として、亡くなる前に深夜や達也と深雪に謝罪することになる。例え二人が許さなくても、二人にとって母親が謝罪したことが何か残すと思ったから、真司は深夜を動かした。
穂波は深夜が達也と深雪に謝罪した場に居合わせたが真司はあえて居合わせなかった。だから達也と深雪がどのような答えを出したのか分からない。そして達也も深雪も母親の深夜の謝罪に真司が関わっていたことを知らない。
深雪は母親の深夜が亡くなったことに思うところがあったのだろう、葬儀の夜、真司に縋って泣いていた。
真司は葬儀の夜と数日の間深雪に添い寝したがそこで、深雪に対する考え方が変わり深雪の告白を受けて恋人になることを決意する。
真司は前世含めて数百年、深い眠りにつけた感覚がなかった。だが深雪のために添い寝したときに自分が久しく忘れていた深い眠りにつけた感覚を覚えた。数百年で唯一安眠できる相手であり、自分の命を預けることができる相手というのは真司にとっては何事にも代えがたい存在なのだ。
だから真司は深雪を本気で自分の伴侶として迎えたいと考えるようになり、深雪の告白の答えを返すことを決めた。
後日
「深雪。1年9ヶ月待たせてすまなかった。俺をお前の恋人にしてほしい。そしてお前を俺の伴侶として迎えたい」
深雪は真司の答えに嬉し涙を流す。
「はい……ありがとうございます。よろしいのですか?私を伴侶にしていただいても?」
深雪の問いへの答えは決まっている。
「もちろんだ。だがその前に俺のことを話しておかないといけない」
深雪は最初怪訝そうな顔をしたが、真司の話を聞くうちに神妙な面持ちになる。
真司には前世の記憶、経験、知識、力があって、精神年齢などが高くすでに数百年生きてきた前世があることを伝える。
深雪の答えは、「それについて私は気にいたしません。だって真司さんは前世の記憶を思い出した前後で変わっていませんから。私が愛している男性は私から見て変わってません。だから私の愛も変わりません」というものだった。
真司が作ったリッチャーズ・カンパニーのこととなぜこの世界に転生してきたのかという話をする。
リッチャーズ・カンパニーは最初に生まれた人生の後、今この世界に生まれ落ちる前の間に魔族と呼ばれる種族を主にまとめ上げる魔王として活動していたと伝える。そしてその魔王として国を治めていたときの前世魔王時代の真司を慕って、転生について来た配下や家臣達がこの世界で活動していたために、今後その活動を纏めるたま起業した隠れ蓑の会社だと伝える。
それら魔王時代の配下や家臣などの魔王国や魔王軍のことを伝えたのは、もし深雪が真司の伴侶となってくれるなら、深雪は魔王妃つまり魔王国の王妃の立場になるからだった。
さらに真司自身も純粋な人間ではない。体に流れる半分の血は魔族、そのなかでも魔法に極めて高い適性を持つ魔王の血族だと伝えた。
転生の話とは、真司は異世界の神を複数殺したことがある存在で、その神を殺したときに仲間の身代わりとなって、転生の呪いを受けた話をした。永遠に世界を時間を越えてあらゆる時を生きなければならない呪いのことであった。
真司はこの世界の人生が終わっても、また次の世界に渡って生きていく。その先の世界に、また次の世界、次の次、と永遠に繰り返していく終わりの見えない終わらない転生の旅路についてきて欲しいと伝えた。
深雪の回答はあっさりしたものだ。
「つまりこの世界で100年も一緒に過ごせなかったのが、死後もずっと真司さんと繰り返し新しい世界で一緒にいられるということですよね?なら私としては真司さんについていきます。真司さんといつまでもどこまでもご一緒させていただきますね。それに真司さんを一人にしたくありませんから」
真司は嬉しさのあまり深雪を強く抱きしめた。それだけ深雪の答えが嬉しかったからだ。そして深雪になぜ自分が深雪の告白の答えを返したのか、突然心変わりしたのか、その理由も伝える。
深雪は喜んでくれる。真司にとって自分が特別であると分かったからだった。愛する人がこの先永遠に安心して眠れるなら、尚更深雪は真司と何千何万何億年と一生一緒生きていくことに何の躊躇いもなかった。