2094年10月10日
真司は真夜に自身の誕生日に直接会いたいと言って、四葉本家で会う約束を事前に取り付けていた。
四葉本家に深雪と共に向かう。
今日この日までに真司は深雪との話し合いを繰り返した。
深雪が四葉当主になれば自分の意思で、真司を婚約者として指名できる。誰かに指名されたり認められたりしなくても、自分の手で選ぶことができる。そのメリットを示した。
そして四葉から逃げ出しても、深雪の体に流れる四葉の血は変わらない。どこまで行っても四葉の人間として見られ続ける。だから真の意味で四葉から逃げられたと思うときは来ないかもしれないと言った。
だが深雪はおそらく四葉次期当主の筆頭候補。ならば深雪自身の手で四葉を変えることができる。暗い闇の陰から同じ陰でも大樹の陰に変えることができる。もし自分と深雪との間に子供を作り、子孫に四葉が逃げ続ける生活を残すのか、それとも四葉を変えて大樹の陰に守られた未来を残すのか。それを深雪に問うた。
もし深雪が四葉を変えたいと願うなら、自分の持つ全てを持ってそれを助けると伝えた。
深雪は真司と四葉を変えたい、四葉を子孫にとっての良い陰に変えたいと願った。協力して欲しいと懇願する。
深雪にとって、この人生が終わった後も真司と共に生きる未来がある。だからこの人生は子孫のために四葉を変えることに身を捧げる覚悟を決めた。真司が横にいてくれるなら、安心できることも決断を下した理由だった。
そして10月10日に戻る。
真司はリッチャーズカンパニー含めた魔王国魔王軍全体で四葉に対して工作を仕掛け、四葉家全家の関係者全員をそれぞれの拠点や自宅に滞在するように予定を外部から調整し、全員の所在を確定させた。
魔王軍直属直下の主戦力から15000を出し、さらにメイドオートマタ25000体とメイドオートマタの戦闘能力特化仕様であるバトルオートマタ100000体を主戦力として投入する。
直属戦力は緊急時の後詰め戦力、メイドオートマタは後方支援、戦闘支援である。
外部との通信を全て遮断するための結界を展開する。
領域干渉を応用した、魔法改変を発動しにくくする広域干渉
を展開し相手の魔法を封じる広域魔法干渉妨害領域を使う。さらに汎用体系化された分解魔法を使い相手のデバイス(CAD)を破壊する。バトルオートマタの装着するゴーグルにはデバイスに使われる感応石を透過探知する機能を持ちそれで隠されたデバイスを全て分解魔法で破壊する。
汎用体系化した分解魔法とは達也の先天技能である構造解析能力に頼らず、異世界由来の解析魔法の亜種で達也の能力を再現した構造解析魔法を分解魔法を前に接続して、解析した情報を分解魔法に伝達することで分解魔法を発動させる汎用化分解魔法である。
分解魔法を部品やパーツ、原子分子レベル、それよりもっと細かい電子中性子陽子など分解のレベルに応じて、それぞれ別の分解魔法を用意して接続する必要があること、解析魔法と分解魔法が一体化された一つの魔法であるため起動式が巨大化されているというデメリットを持つ。
メイドオートマタは女性型のみであり、いくつかの仕様別に分かれている。今回の作戦に投入されるのは、量産仕様である。
作戦にあたって全長300メートルを越える航空浮遊戦艦を複数隻運用するため、それらの運転運航に特化した個体などが主である。広域魔法妨害、初手の汎用分解魔法はメイドオートマタが担当する。外部から観測できる範囲での四葉家のデバイスの分解は全てメイドオートマタによって行われる。
バトルオートマタは男性型のみで、メイドオートマタの多目的仕様に対して、バトルオートマタは戦闘特化、隠密作戦特化のモデルである。
特殊リアクティブ硬化アーマー、特殊ゴーグル、複合多目的突撃銃、光学迷彩、レーダー妨害機能、魔法探査探知阻害などの隠密作戦モデルが投入される。隠密作戦特化仕様は達也でも認識できない。魔法探査探知阻害機能を有効化した状態ではエイドス上で何もそこに存在しないという情報があるので、エレメンタルサイトを用いたエイドスの情報を読み取るだけではこれらの個体を認識できない。
メイドオートマタ、バトルオートマタに共通している点として、ほとんどの個体が地球側の系統魔法を使える。特に移動系、加速系、加重系、振動系に特化している。さらに魔法師としての能力は量産型でも十師族の平均値、統括個体などの高級仕様に至っては、十師族の上澄みに相当する。それでも魔王軍の魔法技能では平均以下でしかない。真司やリッチなどのような魔法に特化した種族のような外れ値は除外した上での平均値である。
航空浮遊戦艦は光学迷彩、レーダー妨害などの機能があるため、航空管制レーダーなどにも一切探知できないし目視による発見も困難である。さらに認識阻害系術式によって、見えないように気付けないように思考が誘導されているので、最初から探そうとしない限り見つからない。偶然気付くなどは起こらない。
これだけの数を四葉だけのためだけに割いているわけではない。
軍や警察の監視、他国や他国の組織の監視と警戒、FLTや青葉病院のように四葉の息がかかっているが制圧作戦ができない組織などへの監視など、四葉本家分家関係者以外にも注意を割かないといけないところは多い。情報漏洩した場合の情報操作を含めた電子戦などの用意も含めて今作戦に関わった全戦力が140000である。四葉そのものを武力制圧するために突入投入されたのは主にバトルオートマタ約20000、想定外緊急戦力対策と後詰め、作戦指揮などに魔王軍直属主戦力約10000、情報封鎖など四葉制圧戦力支援にメイドオートマタ約5000である。
四葉本家に到着した真司と深雪は応接室に通される。
そして真夜が来て話を始める。最初は真司と深雪は真夜に近況を話していたが、しばらく話したところで真司は真夜を訪ねた本題を切り出す。
「母さん。深雪と俺の婚約を認めてほしい」
真夜は真司の提案に対して口を開こうとした瞬間、電気が走ったようなビリビリビリという音と鈍い音がした。
扉の付近にいた執事の葉山が全身黒いボデイアーマーの男に腹を殴られて気絶させられたところだった。
その姿を見た真夜が声を出そうとした瞬間、床に組み伏せられる。さらに真夜の持つデバイスが全て破壊された。
しかし真司も深雪も表情が変わらない。そして真夜と違って取り押さえられない姿を見て、真司と深雪が主導したことだと気付いた。
真司と深雪が話し始めて、真夜が取り押さえられるまでわずか30分。それが四葉本家分家関係者の家全てが制圧されるまでにかかった時間である。真司が真夜と話し始めるのが作戦開始の合図であった。
「真司!あなた一体何をしたの!?」
真夜は床に組み伏せられ、両手を背中で繋がれ拘束される。その状態から背中を仰け反らせて真司を見上げて問いただす。だが真司の顔を見て絶句する。それまで和気藹々と会話していたときのような人の良い笑顔は消え、無表情で真夜を見下している。
その冷酷なまでに冷たい視線に二の句を告げない。
「母さん。ごめん。今この時を持って四葉の実権全てを俺に渡してほしい。これはお願いじゃなくて命令」
真司は真夜にそう言ってから、部屋にいた黒尽くめの兵士に応接室のモニターに何かを繋ぐように伝える。
モニターの画面が何分割もされた状態で様々な映像が映し出される。真夜にはその映像に映る人間すべてに見覚えがあった。
それは当然である。四葉の分家当主やその直系血筋の姿であったからだ。全員真夜と同じように床に組み伏せられ、両手を後ろ手に拘束され、顔だけをカメラに映るように上げさせられている。
真司は四葉という華々しい一族に生まれた者たちを全て床に組み伏せ、後ろ手に拘束し、無理やり顔を上げさせられるという屈辱的な仕打ちをさせる作戦だった。
否が応でも、四葉が負けたと実感させるためである。
「もしかしてここだけだと思った?残念。四葉の本家も分家も全て同時に制圧した。モニターには映ってないけど、本家の使用人も分家の使用人も写ってなくても、ここの会話は聞こえてる」
ここの会話が聞こえてないのは、俺たちの自宅にいる達也と穂波さんぐらいだろうね。そう付け加える。
真夜は理解できない。目の前に映るのは四葉の全てだ。それをわずかな時間だけで、しかも自分に伝わることなく制圧されたと信じられなかった。
真司の言葉から察するに達也の力すら使っていない。深雪にはそんな力はないことは分かる。つまりこんなことができるのは真司の異世界の配下しかいない。だが自分の想定の遥か上をいく事実を認識できない。
「じゃあみんな揃ったことだし、続きしようか。さっきも言ったけど現時点で、四葉当主四葉真夜の名をもって四葉の実権全てを、決定権を全て俺に渡してほしい。力で四葉を押さえつけたんだから文句ないでしょ?ほとんど死人出さずに制圧したんだから」
真司は真夜に四葉の実権を全て渡すように要求する。四葉の人間のほとんどを死なせずに、制圧したと話す。一部葉山を取り押さえるときに使用したスタングローブの気絶効果が薄く抵抗激しい相手とフラッシュキャストで抵抗してきた一部の人間はやむなく射殺された。それでも十人にも満たない。 分家の当主や直系血筋など全員は手足を撃ち抜かれたり、多少の怪我を負った人物は居ても命に別状ない状態だった。
達也を除いたほぼ全ての四葉という戦力を殺害せずに無力化するという形で制圧されたのだ。しかもこの作戦は四葉の誰も事前に気付かない形で実行された。
警察も軍も、十師族を初めとした国内のどの魔法師の一族も、他国や他国の組織すら、どんな組織も今行われた四葉に対する制圧作戦に気付いた勢力はいないと真司から説明される。
ようやく真夜の思考が追いつく。そして四葉という組織が真司に完全敗北したと実感が湧いた。
「ようやく実感出てきたかな。あらためて命令するけど、今この時をもって葭葉真司の持つ戦力が四葉を上回ったわけなんだけど、四葉の全てを俺に渡してくれる?それとも首を縦に振るまで一人ずつ殺していこうか?断末魔を聞けば渡してくれる?一つ言っておくと、俺も深雪も四葉を潰すつもりはない。潰す目的なら最初から全員殺してるからね」
真司は真夜に選択を迫る。真司からすれば選択ではなく命令だが、命令を聞かないなら一つずつ削っていくしかない。新しく四葉という家を深雪と立てていくしかないかなと考える。
真司の冷酷な選択に真夜は屈した。
「いいわ。真司あなたに」
真夜はそこで一度止め、一息挟んでから
「四葉家当主四葉真夜の名において、今この時点で葭葉真司に四葉の実権を全て移譲する。これでいいかしら?」
そう宣言した。
深雪は真夜の宣言を聞いて一安心した。真司と違って真夜との会話からずっと緊張していた。真夜は深雪の緊張がいつも自分を相手にしたときの緊張だと捉えて気にしてなかったが、深雪としては真司が真夜と会話し始めたら作戦開始だと決めていたから、真夜に気付かれないかずっと緊張していたし、無事に作戦が終わって、真夜から権限の移譲が終わるまで緊張が抜けなかった。
深雪が真夜が組み伏せられてから一言も話さなかったのは、ずっと慣れない状況に緊張していたからだった。
ようやく一区切り。ここでの話はまだ残っているが、次の第二段階は自分が矢面に立たないといけない。まだ先の予定とはいえさすがに緊張する。
「母さんありがとう。この作戦は俺と深雪が2人で考えて決めたもの。そこだけは伝えておく。最後に来年はじめの1月1日に慶春会開いて、そこであらためて、この場にいる全員の目の前で俺に権限を移譲してくれる?俺からも宣言したいことあるから」
真司は真夜に来年2095年1月1日に慶春会を開くように要請する。そして真司からも四葉家に対する宣言があると伝えた。
最後に真司は後2カ月弱、色々陰謀画策してもいいけど全部こっちには筒抜けだからね。下手なことしたら今度こそ潰すから。今日殺されなかったからと言って、次殺さない保証はないから。そう釘を刺す。
思い出したかのように真夜に付け加える。
「母さんが俺の異世界の戦力どう勘違いしたのか知らないけど、俺は異世界の魔王。魔物魔族異種族を束ねる魔族の王。俺の配下や家臣など魔王国民や魔王軍は全部で数十万いるからね。そして今回の鎮圧作戦で母さんや分家の人を拘束したのは魔王軍の主力ですらない、オートマタという人工の生体人形。数は全部で150万体ぐらいいるから、魔王国全体で200万ぐらいだと思っておいて。単純な数だけで見るならね」
真司は真夜や通信で見聞きしている分家の四葉関係者などに聞こえるように宣言してから、撤収指示と作業に入る。
真夜たちを拘束してる機械は、撤収が終わったら自動で解除されるからそれまで床に這いつくばっておいてと言って、真夜達を放置した。
真司達が完全撤収してから、拘束が解除されたのは拘束されてから数時間経過した後だった。