ラブコメの鈍感系主人公すぎる幼馴染♂の頼れる友人ポジである俺の日常がエロゲーすぎるんだが 作:三越利範
そうして迎えた週末。自宅の最寄り駅で、俺は椎奈を待っている。ここから電車に乗ってライブ会場のある隣県の駅まで遠出するのだ。
今日はよく晴れて絶好のデート日和といった感じだ。考えてみたらこれが人生初デートなんだな。でも緊張はしていない。相手は気心のしれた幼馴染だからな。
俺はスマホで時刻を確認する。待ち合わせ時間より30分前に着いたからだいぶ余裕があるな。俺は人に待たされるのは嫌いだが、待ち合わせには早めに着いていないと落ち着かないタイプでもある。待ち時間はどうやって潰そうかと考えていると――
「あ……っ。おかゆー?」
聞き慣れた幼馴染の声。俺が振り返ると、そこにはいつもよりだいぶめかし込んだ椎奈が立っていた。
「おう。早いじゃん」
「だ、だって。デートだし。待たせたらイヤじゃん」
急いで来たのか、椎奈は乱れた髪を手ぐしで整える。俺は椎奈のつま先から頭のてっぺんまでを順繰りに見る。いつもより髪の編み込みが丁寧だし、こいつがオフショルダーの服を着ているところなんて初めて見た。うっすらと化粧もしているし、ばっちり決め込んでいるな。
「可愛いじゃん。気合い入りまくってるな」
「はあっ!? うるさいなー!」
俺がからかうと、椎奈は頬を染めて、俺の脇腹を肘で小突いてくる。そして、うつむきがちにちらちらとこちらを見て、ぼそっと呟く。
「あんたこそ……かっこいいじゃん」
「俺はいつだってカッコいいんだよ」
「うわ、引くんだけど」
言葉は辛辣だが、口調は柔らかい。緊張はほぐれたみたいだな。
「ちょっと早いけど、もう行くか」
「え……っ」
椎奈の肩がびくっと跳ねる。俺がナチュラルに手を繋いだからだ。椎奈はおろおろしている。
「ちょっ……手を繋ぐなんて聞いてないよ」
「デートなんだからこれぐらいするだろ」
「そう……なのかな」
椎奈もおずおずと手を握り返してくる。指を絡めて恋人繋ぎにすると、椎奈は真っ赤な顔で俯いた。
「はず……こんなのもう恋人じゃん」
「今日ぐらいはいいだろ。デートなんだし」
「ん……もう」
椎奈は手を握ったままつかつかと歩き出す。耳まで真っ赤じゃん。俺は笑いを噛み殺しながら彼女に着いていった。
今日は良い日になりそうだな。
◯
「良いライブだったね……泣いちゃった。尊い……」
「ああ。特にアンコールで「大きなイチモツ」のカバーがきたのは熱かったな」
2時間半にも及ぶライブは幕を閉じた。海外の知らんアイドルの曲なんて楽しめるのか?と心配していたが、歌詞は日本語だったし、普通に楽しめたな。
椎奈は満足げに鼻歌をうたっていたが、急に腹をさすり始めた。
「お腹空いちゃった。なにか食べようよ」
「近くにマックあるけど?」
「アイス食べたいなー」
「はいはい」
わがままなお姫様のご要望通り、俺は近場のアイス屋に彼女を案内した。
「おいひ♡ おいひ♡」
3段重ねのアイスクリームをうまそうに食う椎奈。俺はチョコのソフトクリームを頼んだが、まだ時期的にアイスは早かったなと思った。
椎奈は物欲しそうに俺のチョコソフトを見る。
「チョコも……おいしそうだね?」
「一口食う?」
「でも間接キスになっちゃうし」
今更何を言ってんだか。俺は笑いながらアイスを差し出す。
「つべこべ言わずに食えよ」
「もー。強引すぎ」
椎奈は顔を赤らめながらアイスをかじる。そして、幸せそうに頬を緩めた。
「おいしー! チョコも良いね」
「カラダ冷やすぞ」
「ライブの熱がすごかったからちょうど良いよ」
よくわからん理屈だなと思った。俺はまたソフトクリームを口に運ぶが、やっぱり冷てえ。舌の感覚がもうないな。
アイスを食い終わった俺達は、知らん街を適当にぶらついた。俺達は学生で、普段は学校と自宅を往復するばかりだからな。こうして遠出して小旅行気分に浸るのも悪くないなと思った。
「おかゆー! 次はあっちいこ!」
「はいはい」
いつの間にか椎奈は当たり前のように手を繋いでくるし。自然にデートを楽しめているようだ。
いつもは公男に振り回されてばかりの椎奈が、眩しい笑顔ではしゃいでいるのを見ると、俺も童心にかえるというか、素直に楽しいなと思った。
やがて日が傾いてきた。オレンジ色に染まったビル街で椎奈は立ち止まり、上目遣いに俺を見る。
「ねえ。おかゆーはどうしてそんなに優しくしてくれるの?」
俺は鼻で笑った。
「俺は優しくねーよ。ていうか、男が女に優しくするのは下心があるからに決まってるだろ」
「下心……」
椎奈は頬を染め、もじもじと指先を擦り合わせる。
「ほんとおかゆーって……あたしのこと、好きだよね」
「悪いか?」
「ううん。嬉しいなって思った」
椎奈は俺の手を握り、瞳を潤ませる。そして、申し訳なさそうにまなじりを下げる。
「でも、やっぱりわたし……公男のことが好きなの」
「知ってるよ」
「知ってるのに、諦められないんだ?」
「おまえだってそうじゃん」
「…………」
俺がそう返すと、椎奈は虚をつかれたように黙り込んだ。俺は椎奈の柔らかな手をぎゅっと両手で握る。
「辛かったんだろ?」
「――――」
椎奈は驚いたように俺を見上げ、やがてぽろぽろと涙をこぼした。自分が泣いていることに驚いたのか、椎奈は慌てて指でぐしぐしと、目尻からこぼれ落ちる雫を拭う。
「やだ。なに……わたし、どうして」
「椎奈」
俺は椎奈を抱きしめる。彼女はびくっとカラダを震わせたが、やがて俺の背中に両腕を回すと、胸に顔をうずめてすんすんと鼻を鳴らした。
「うー。なんか、とまんない」
「そうか」
俺はぽんぽんと椎奈の頭を撫でる。特に気の利いた言葉は言えないが、まあ俺ってそういう男だしな。公男だったら特に意識することもなく、女の心にクリティカルヒットする言葉が出てくるんだろうが。俺に主人公補正はないしな。
しばらく俺の胸で泣いてから、椎奈は顔を離した。ずびっと洟をすすると、恥ずかしそうに目をそらす。
「……ごめん。鼻水ついちゃった」
「別に気にしねーよ」
「……ごめん」
何について謝っているのか、もうわかんないな。俺は椎奈の肩を抱くと、耳元で囁いた。
「休憩してくか?」
ちょうど俺達の目の前にホテル街があった。妖しげなピンクのネオンが誘蛾灯のように瞬いている。
これは賭けだった。拒絶されるなら潔く諦めるつもりだった。けれども椎奈は小さくうなずき、俺の腕をそっと抱く。
「…………うん」
俺は心の中でガッツポーズした。
椎奈の腰にそっと腕を回し、俺はネオンの海に足を踏み入れるのだった――。