異宗派のクソ女に村を焼かれ監禁された俺は、彼女に恋と復讐をする 作:飲むヨーグルト
今日はいい夢を見た。昔の夢だ。
父さんが仕事で少し遠くに出かけたから、俺の家に友達を呼んで一緒に遊んだ夢だ。
友達が俺の家に泊まるのは初めてだったもんだから、みんなで結構馬鹿騒ぎした。本当は他の人を入れちゃいけない部屋に入れてみたり、告解室の小窓の向こう側がどうなっているかを見せたりした。友達は、「司祭の息子っていいなあ。こんな綺麗な家があるなんて、羨ましいよ」と話していた。
俺は別に、それを聞いて悪い気はしなかった。実際、夜になると窓にはめ込まれたステンドグラスが月明かりを受けてぼんやりと滲むように光っていて、俺はそれを見るのが好きだった。
この部屋の小窓にも、小さなステンドグラスがはめ込まれている。だけど、北向きにあるせいか外の光はあまり入ってこなかった。
部屋は薄暗いけど、多分今は朝だ。あの女が帰ってくるのはだいたい日が沈む頃で、その後すぐに相手をして眠ったから、朝のはずだ。
ベッドから起き上がり、簡易的に設置された洗面台へと行き、今日も鏡を見た。色白で、目元に青黒い隈が滲んだ男が映っている。自分で言うのもなんだが、睫毛が長いからそれがまた影になって、隈の色をさらに濃くしているような気がした。
昔の俺は、起きても自分の姿すら見ず、髪の毛を適当に手櫛で整えるだけだった。そうして飛び出すみたいに家を出て学校へ向かっていた。あの時の俺はまだ、外の世界が希望だと思っていたからだ。
十五歳を過ぎた頃になって、やっと毎朝鏡を見る習慣がついた。目から口まで、俺が俺であることを確かめるために、じっと顔を見つめていた。そして、鏡の中に映る人間が入れ替わっていないことに安心してから、家を出るようになった。
今の俺は、黒い髪の毛が少し伸びていて、そろそろ結べそうだ。多分、あの女はそっちの方が気に入るだろう。
本音を言うと嫌だった。顔が母さんに近付く気がしたからだ。元々、父さんからはずっと「お前は母さんとそっくりだね」と言われていた。
ずっと。
「虫眼鏡くん、おっはよ〜!」
鏡を見つめ考え事をしていたら、あいつが階段を降りてくる音が聞こえなかった。
クソ女が扉を開けてきたところで、ようやく我に返った。急いで振り向くと、いつも通りニタニタと笑ってこっちを見ていた。そして、短い金髪のくせ毛を揺らしながら、ずんずんと近付いてきて、俺に抱きついた。
「どうしたの〜? あっはは! まさかだけど、おセンチな感じ? やめてよ〜私ったら、そういうの苦手なんだからさ! さあほら、元気元気!」
クソ女が、俺の顔に触った。ヒールで無理やり底上げされた背丈で、俺と目線を合わせてくる。
俺は、約束通りの返事をした。
「……ワン」
そう鳴いた途端、クソ女は小さく吹き出したあと、堪えきれないように大声で笑い出した。俺から離れて部屋の中をひとしきり歩き回ると、さっきまで俺が横になっていたベッドに背中から倒れ込んだ。
ここ最近の俺は、犬だった。そう指示をされたからだ。
いや、ここ最近と言ったが、この場所に来てから俺は犬じゃなかったことがあっただろうか? 部屋の中を歩き回れはするが、外には出られない。自殺を防ぐためか、刃物類は全て取り上げられた。逃げられないよう、身体の一部を紐で結んでおいたら俺がそれで首を吊ると思ったのか、代わりにぴったりと張り付くような首輪を嵌められている。俺がこの部屋から脱出しようとしたら、死なないギリギリのところまで締め付けられる。そういう風にできている。
「ね、
クソ女が、気持ちの悪い笑顔を浮かべながら鞄からひとつの小瓶を取り出した。
それをわざとらしく揺らすと、中の液体がちゃぽんと音を立てた。黒に近い深い紫色が艶やかだ。無駄な色のないその液体を背景に、瓶の表面には俺の顔が小さく映っていた。まるで、鏡みたいに。
「はい、飲んで」
クソ女は、上体だけをベッドから起こした。ロングスカートの裾をたくし上げて脚を広げると、小瓶の液体を自分の腿に垂らした。
俺はこの液体がなんなのかわかっていた。ぶどう酒だ。
暗い液体が白い脚の曲線を伝い、構造通りに物理法則通りに。やがて落ちるべき場所へと落ちた。
こいつは下着を履いていなかった。
俺は情けないことだとわかっていたが、広げた脚の奥を見て熱くなり汗が滲んだ。呼吸がぐっ、と詰まるような感覚がして、ぶどう酒が垂れていく先をただずっと見つめていた。
「飲めって言ってんの」
やがて低い声が聞こえた。
俺は「ワン」と言った。そして、ベッドの前へと行き、床に座り込んだ。クソ女は脚を広げたままだ。ぶどう酒落ちている先をゆっくりと舐めた。
アルコールの匂いとむせ返る女の味で頭の中がいっぱいだった。酒のせいで、また思考がぼやけるような感覚がする。
俺が初めてここに来たとき、今日と同じようにぶどう酒を飲まされた。クソ女は、「今日はパーティだからね」と言って喜んでいた。
だが、その言葉には悪意があるとわかっていた。
俺の村が所属していたミザヤ派は、二十五歳になるまで酒を禁じていた。酒を飲めば、欲に堕ちてしまうからとよく言い聞かされていた。
俺はこの時初めて、ぶどう酒に口をつけた。話には聞いていたが、甘さは全くない。ただ苦味が舌を汚染したあと、喉を通り過ぎて俺の胃の中までひっくり返した。これもまた、情けない話だが俺は相当酒に弱いらしい。二口ほど飲んだ途端、俺の体の中にある、腹へと繋がる道筋が信じられないくらいに熱くなった。顔まで真っ赤になっていたらしく、クソ女は大笑いしていた。
こうして俺は、その日のうちに童貞を失った。それまでは、未経験でこそないが、確かに童貞だった。
他者の肉体を介して射精するのは初めてだった。ミザヤ派には「婚前交渉をしてはならない」という決まりがあった。だからこの女は、俺にそれをさせたのだろうとわかっていた。
まだ穢れていないと思っていた俺の身体は、この女の中に全てを注ぎ込んだ瞬間に、快楽と屈辱で塗り替えられた。元々真っ白であるキャンバスにも、よく見ると埃や黒い粒やらが付いているため、最初から綺麗なものなんてないのだろうが、俺は穢れた。初めて見る女の胸、初めて見る女の脚、そしてその先。全てが真新しい冒涜だった。
俺は酔っ払っていた。全てが不明瞭になった世界の中で、クソ女の中に自分自身の肉欲を挿入した。あいつが上手いのか、俺が案外器用なのかは分からないが、腰を打ち付けることはスムーズにできた。擦れる度に頭がおかしくなりそうだったのに、クソ女が俺の腰に足を絡めて「出しちゃえ」なんて言ってきて、そうして全部がおかしくなった。
「あ〜〜♡♡気持ちいい!♡♡ 上手上手!♡♡」
そんなことを考えていたら、クソ女がわざとらしく言いながら俺の頭を撫でてきた。もうすっかり酒の味がしなくなった女の器を俺は舐め続けた。アルコールの匂いが微かに残っている中で、今溢れているのはとろりと粘り気のある甘い液のみだ。
「ワンちゃんにご褒美あげよっかな! ほら立って立って!」
そして、また三度目の情けない話をするが、俺はこの時間とこの瞬間、目の前にいる女を可愛いと思っていた。深い二重の目を縁取る長いまつ毛は白くて、金色の髪にもよく似合っていた。肌は真っ白で、手指が長い。それなのに爪は少しだけ丸い。そして何より──
「早く立てよ」
言われた通りに立ち上がる。すぐに勢いよくズボンを脱がせてきた。多分、これもわざとだ。俺の肉欲が詰まった棒が、脱がせた勢いで強めに揺れた。それを見て、「可愛い〜〜!!」とまた子供みたいに笑っていた。
「君はこれが大好きだもんね〜! はい、おっきいおっきい!」
「うっ……」
すぐにそれを口に含んできた。
にゅる、と暖かい舌に包まれて下品な音が響く。じゅぶ、じゅぶと溢れるような音が、また俺の頭を変にさせた。気持ち良い。気持ち良いから、苛立つ。
「こっちも舐めてたら汗かいてきちゃった……一回脱ぐねー」
一度上目遣いでこちらを見たあと、口から俺のものを離して服を脱いだ。
白い肌が息苦しそうな宗教服から解放されて、クソ女の胸は自由になった。僅かに揺れたその塊のせいで、俺は自分自身の先からじわりと汁が滲んだ。興奮していた。
クソ女が後ろを向いて、服をベッドの一箇所にまとめた。「いっつもパンツがどっか行くんだよねー」と笑いながら。
この女は可愛い。可愛いが、今この瞬間、俺がこの女を最も愛らしいと思った理由は、目の前に見えているものにあった。
この女の背中には、皮が伸びて広がったような傷跡がある。
多分、昔つけられたものだろう。
「…………」
この深い監獄では、三つの声が聞こえる。
一つ目は、信者が熱狂する声。
二つ目は、男の怒鳴り声。三つ目が、女の泣き声だ。
俺は、村のみんなを燃やして殺した、憎くて仕方ない女に恋をした。
この傷跡が、何よりも痛そうで綺麗だったから。
ローロタル聖典によると、善であろうとした人間は死後も土の中で深い眠りにつくことができ、悪をやめようとしなかった人間は足場のない空で永遠に歩かされるらしい。そして、その中間に属するものは『曇界』で罪を清算してから土へと還る。そういうふうに、教えられていた。
誰にも言いはしなかったが、俺は懐疑的だった。俺は既に、この世界そのものが曇界であるように見えていたからだ。
この世には、明るい場所と、暗い場所がある。暗い場所にいる人間たちが、同じ人間を喰らい尽くしていたとしても、明るい場所にいる者たちは知らん顔で世界を進行させて行く。そうして世界も、全ての人々が明るい場所にいるという前提で進んでいく。
だけど俺は、明るい場所……いや、明るく見えているだけの場所が嫌いではなかった。その場所にいる時、皆は俺を歓迎してくれた。俺が最初から明るい場所の住民であることを心の底から信じて、敬うことすらあった。
そこにいる皆のことは、信用ができなくとも愛していた。明るい場所にいる時は、このままずっと世界が続きますようにと願った。
そして、俺が初めてこの女を知ったのは、もう全てが手遅れになった頃だった。
大したこともない用事で村を出て、帰ってきた時には既に村は赤く崩れ落ちていた。
煙が立ち込めて村ひとつぶんの空が白く染まっている。数メートル離れていても熱風が肌を強く擦る。
いつも穏やかだった村から聞こえたのは、絶叫と家が崩れていく音だ。
「ミザヤの不届き者を好きにしていいぞー!! 神が与えてくださった欲求を否定する信仰など、冒涜も同然!! 今ここで、我々が人間として正しい道を歩んでることを証明するのだ!!」
クソ女は本当にパーティをしているみたいに、笑いながら鎧を纏った狂信者たちを扇動していた。
狂信者たちは、言葉の通りにミザヤ派の村を
その時、俺の信仰がぐらぐらと揺らいでいく感覚がした。信仰といっても、ただのローロタルの信仰ではない。曇界だと信じていたこの世は、本当は空の上だったのかもしれないと思った。俺たちはずっと、歩かされていたのかもしれないのだ。
その時、俺の信仰がぐらぐらと揺らいでいく感覚がした。信仰といっても、ただのローロタルの信仰ではない。曇界だと信じていたこの世は、本当は空の上だったのかもしれないと思った。俺たちはずっと、歩かされていたのかもしれないのだ。
「クロードくん! ぼーっとしちゃダメでしょ!」
クソ女の声で我に返った。
今、俺はこの女をベッドに押し倒すような姿勢になっている。俺がやりたいと言ったわけではなく、そうしろと指示されて従っているだけなのだが。
俺は、さっきこの女の口の中で射精した。ただでさえ刺激に慣れていないのに、しつこく先を舌で弄り回しながら腿の付け根から玉の場所をゆっくりゆっくりと撫でていた。思わずクソ女の頭を掴んで、そのまま喉の奥に俺の欲望の全てを吐き出した。この時、勝手なことをするなと言われて殴られるかと思ったが、そういう反応はなかった。それは、意外だった。
「君は一回出したくらいじゃへばるような子じゃないでしょ?」
クソ女が、笑いながら腕を広げてきた。
「おいで!」
何故か、その言葉を聞いて焼かれた村の景色を思い出した。
正座した状態で首が切られて地面に落ちたのを、蹴飛ばして遊ぶ狂信者。それは、目がくり抜かれた男友達の頭だった。
乳房をちぎられた女友達が発狂していた。それを目の当たりにして狂ったのか、女友達の父は大笑いしながら娘にトドメを刺していた。
そして、
すっかり焼かれて黒い塊になって、身体の一部を拾い上げた途端、ぼろぼろと崩れていった父親。
「クロードくん!」
────俺は、クソ女に挿入した。
何も言わず、返事もせず、ただ俺の唾液で濡れたそこに挿入した。
勢い余ったから、少し引っかかったような感触もあった。クソ女は、「乱暴だねぇ!」と言いながら笑っていた。
(死ね)
腰を動かした。
(死ね!!)
そして、笑い顔はやっぱり可愛いなとも思った。