色欲の悪魔 作:アスモデウス
「デンジ君デンジ君、そろそろ起きて」
「んあ〜……」
姫野がベッドで爆睡していたデンジ君を起こす。
「ん……8階から出られるようになったんすか?」
「残念ながらまだ無理っぽい。デンジ君が寝てる間に水と電気は使えることが分かったよ。食べ物は宿泊客が逃げる時置いて行った荷物に少しだけあった。正直さ〜皆参って来てるんだよ〜」
「アキ君は休憩も取らず、ずーっと悪魔探してる。荒井君は最初こそアキ君を手伝ってたんだけど、今は状況に怖がって部屋に閉じこもってる。東山ちゃんはおかしくなってトイレの水を飲もうとしたから気絶させた。パワーちゃんは暇だからノーベル賞考えてる」
「パワーだけいつも通りっすね」
隣の部屋のベッドの上でノーベル賞を考えていたパワーちゃんを引っ張り出し、四人で荒井君と東山ちゃんを見張ることにした。
姫野が最後のタバコに火を付ける。
「あーあ。最後のタバコ!」
「ウヌらは落ち着いててつまらんの」
「今アキ君が頑張ってるから私達はゆっくり休んでいーの。後ニコチンの力〜。依存できるもんがあると良いよね〜。何かに寄り掛かって生きたい人生ですよ」
「それ、アイツと同じタバコじゃん」
「そりゃ、アキ君にタバコの味教えたのは私だもん。ラスト君は吸ってくれないけど」
「ヤニ臭くなると女の子が寄って来ないからね」
「先輩は何処までも女っすね」
「俺は可愛い子に囲まれて暮らすのが夢だからね」
まあ、それ以外にも目的はあるが。
聞かれてないのに態々口に出すことでもないだろう。
そうこうしていると部屋の扉が開き、アキ君が戻って来る。
その顔には焦りが浮かんでいた。
「悪いニュースがある」
「どったの?」
「俺達が殺した悪魔がいたろ…」
「ワシが殺した奴じゃな!」
「そいつがどんどん大きくなってる……」
起きてる全員で見に行くと最初に殺した悪魔は壁を塞ぐ程に大きくなり、幾つもの顔で此方を見据えていた。
「確かにワシが殺した筈じゃ…」
「ホテルから出られない……見たこともない形状……こりゃ何の悪魔だ?」
「人間。人間達よ。愚かな人間達よ。私は契約を交渉する」
「喋った!」
「契約だと…?」
「そこのデンジという人間を私に食わせろ……そいつの死体でも良い…私に食わせろ……そうしたら他のデビルハンターは全員無事に外へ帰す。無事に帰す…契約しろ…」
何となく目的は見えて来た。
この悪魔はチェンソーマンの心臓を、その力を求めている。
チェンソーマンは悪魔から最も恐れられる悪魔だ。その力は絶大。取り込むことができれば、大幅に強化される。
そう相手の目的を考察していると、背後の扉が開く。
そこにはナイフを手にした東山ちゃんが立っていた。
「デンジ……食わせろ…きゃええええ!!」
「ふん!」
アキ君がナイフを蹴り上げて武器を取り上げ、姫野が東山ちゃんの腹に一発肘鉄を当てて行動不能にさせる。
その一連の見事な連携プレイに俺は拍手する。
悪魔は東山ちゃんの恐怖を感じて笑い始めた。
「あは。はは。あはははは」
「うっさいなぁ〜。アキ君、狐で飲み込めば終わるんじゃない?」
「此処は外と断絶されてるってラストさんが言ってたので狐は呼べません」
「狐の体は京都にあるからな。じゃ、私のゴーストでやるか」
「いたた!いた。た。あ!」
姫野がゴーストの右手で悪魔の肉体を削り取る。
すると悪魔の肉体が膨れ上がった。
「げ〜……デカくなった!」
「無駄…だ…これは私の本体ではない。此処に私の心臓はない。此処は胃の中…私の弱点は8階にはない。私と契約をする以外生きては帰れない」
「はん!ど〜せ!俺を殺しても外には出さねえ癖によ!」
「それはないよ。アイツは契約って言ったでしょ。悪魔と人間の契約には重い代償が付き纏う。契約を破れば例えどんな悪魔でも死ぬ。それは超越者と呼ばれる俺であっても同じ」
「姫野先輩……そいつは殺すべきです…一度そいつを殺して、外に出た後に対策を練れば良い…このままじゃ皆ホテルで餓死ですよ…」
「悪魔側はデンジを殺したがっている……デンジの死が悪魔の利益になるんだろう。だから契約は受けない。ラストさん、頼みます」
「漸く俺の出番か。奥の手使うから皆口外しないようにね」
俺は悪魔の元まで歩いて行き、右腕を悪魔の肉体に突っ込んだ。
右腕は悪魔の肉体を透過し、その内にあるものを掴む。
それを引き摺り出して手の中に収める。
それは相手の悪魔の力、存在そのものである。
「な、何だ!?体がおかしい!!塵になっていく!!」
「へぇー君、永遠の悪魔って言うんだ?あ、元永遠の悪魔か。君の体はね、塵になることすらできないよ。この世から完全に消え去るからね。後に残るのは君の食べた銃の肉片だけ。さようなら、名も失った者よ」
「私が奪われていく!!い、嫌だ!!死にたくない!!消えたくない!!嫌だー!!」
永遠の悪魔は塵となり、その塵すらも消え失せる。
廊下に残ったのは永遠の悪魔が取り込んだ銃の悪魔の肉片のみ。
それを拾って皆の方へ振り返る。
「さ、帰ろうか」
◇
「そうだ!先輩、ゲームの件はどうなります!?」
ホテルの外に出ると、唐突にデンジ君がゲームの件を思い出す。
俺は顎に手を当てて考え込む。
「う〜ん…悪魔は俺が殺しちゃったしなぁ……デンジ君達が殺せばゲームを買うって話だったし、今回は……」
俺は敢えて答えを渋る。
デンジ君とパワーちゃんが緊張した面持ちで俺を見る。
「今回は、四人で遊べるゲームを買おう」
「「やったー!!」」
デンジ君達が声を揃えて喜ぶ。
弟と妹ができたみたいで俺も嬉しい。
「俺はデンジ君の監視あるから、姫野とアキ君で報告行って。荒井君と東山ちゃんは精神的に疲れてるだろうから、今日はもう休んで良いよ」
「ラストさん、肉片下さい。公安に届けるので」
「おっと、忘れてた。はい、なくさないようにね」
「なくさないですよ。子供じゃないんだから」
アキ君に肉片を渡して俺はデンジ君達とゲームを買いに行くのだった。
◇
翌日、俺はデンジ君達と見回りをしていた。
見回りは平和なもので、悪魔と遭遇することは殆どない。
なので実質ただの散歩だ。
「そういえば、デンジ君。姫野から聞いたんだけど、今度新人歓迎会があるらしいよ。先輩の俺達の奢りで。行く?」
「マジすか!行きます!」
「パワーちゃんは?」
「ワシも行く!」
「分かった。伝えとくよ。デンジ君を殺そうとしたことのお詫びだって言ってたから遠慮なく食いな」
「何処行くんすか?」
「俺と姫野がよく行く居酒屋。デンジ君は未成年だからお茶ね」
「うっす」
デンジ君はウキウキで歩き始めた。
パワーちゃんも今から何を食べるか考えているようだ。
「荒井君と東山ちゃんのことは許してあげて。気に病んでるんだ」
「良いっすよ!結局殺されなかったし!」
「デンジ君は明るくて良いね。こっちまで元気が出るよ」
チェンソーマンがデンジ君に心臓を渡した理由が分かる気がする。
きっとデンジ君と一緒に楽しく過ごしたんだろう。
デンジ君なら悪魔相手でも分け隔てなく接するだろうし、沢山抱き締めて貰ったんだろう。
そしてデンジ君が普通の生活をしている姿を見たいと思ったんじゃなかろうか。
或いは、デンジ君が夢を叶えてる姿を間近で見たいと感じたか。
兎に角、ポチタとなったチェンソーマンがデンジ君に愛されていたことは分かる。
デンジ君ならパワーちゃんとも兄妹のような関係を築けるだろう。
そんなことを思いながら、俺はデンジ君の監視を続けるのだった。
・ラスト
永遠の悪魔の能力と存在を手に入れた。
・デンジ
ラストの印象が怒らせたくない人に変化した。