色欲の悪魔 作:アスモデウス
あれから、二道の店員を監視する為に毎日カフェに通っている。
そうすると段々分かってくることもあった。
店員はレゼという名前らしく、現在は学生に偽装しているようだ。
店内で勉強している姿をよく見かける。
そして意外とマスターとの関係は悪くなさそうだ。
本当にこのカフェでは何も事を起こす気はなく、ただ自然にデンジ君と出会うのを待っているようだ。
此処がデンジ君の巡回エリアに被っている関係上出会うのはそう先のことではない。
もし出会ったら、戦闘は避けられない。
デンジ君を奪われない為に俺も参戦せざるを得ないだろう。
そうしたらレゼは捕まり、サムソと同じ結末を辿ることは容易に想像が付く。
俺はそうなって欲しくない。だから、逃がす準備を色々と整えている。これには岸辺の協力もあった。
岸辺はマキマを警戒している。いずれ日本を脅かす存在になると。その前にマキマを排除する為に策を練っているのだ。
俺もマキマが度を超えた行動を始めたら岸辺に協力することを約束して今回の逃走を手伝って貰った。
まあ、全てはレゼ次第ではあるが。
考え込んでいると、レゼがコーヒーとカレーを運んで来た。
「一週間も続けて来る程美味しくないでしょ」
「「美味しいよ」」
「馬鹿舌」
「なんか前にも言われた気がする」
サムソに舌が馬鹿だと幸福度が下がるとか言われたのを思い出す。
「美味しく食べれるものが減る方がよっぽど不幸だと思うので、俺は馬鹿舌で結構」
「そうやって屁理屈捏ねる」
レゼは勉強道具を此方の席に移動させる。
俺の隣で勉強することにしたらしい。
「私がデンジ君を襲ったらどうするの?」
レゼの小声での質問に俺は悩むことなく答える。
「君を拘束する」
「ふーん…でも、私をマキマに差し出すのは嫌なんでしょ?」
「あぁ。だから一つ策を練った」
「策?公安に引き渡さなくて良いの?公安に背くことになるでしょ」
「別に俺は公安の味方って訳じゃないしね。俺は俺の目的で動いてる」
「ラスト君の目的?」
「そう。世界中から、或いは異世界からでも可愛い子を集めてハーレムするの」
「馬鹿みたい」
「生憎、マキマみたいな高尚な夢は持てない性質でね」
そう言うと、レゼは頬を緩めて笑みを浮かべた。
俺は暴走しそうになる性欲を抑える為にカレーを食べていた天使君を抱き締めた。
「きゅ、急に何さ!?」
「何となく。落ち着く為に」
「理由になってないよ!?」
天使君は何とか俺の腕から脱出しようと試みる。
しかし、圧倒的な腕力の差故に叶うことはなかった。
「ほんと、馬鹿みたい」
◇
翌日、俺と天使君は見回りの休憩の為に公園でソフトクリームを食べていた。
天使君は既に三つも食べている。
「食べたら疲れた。食べるのにも体力って使うらしいよ。疲れたから今日はもう帰ろうよ」
「あんまりサボると怒られちゃうからなぁ。今日は真面目に仕事しよ?」
「マキマに連れて来られなければ田舎でのんびり過ごせたのに」
「そうか、君はマキマに捕まったんだ」
「そう。だから逃げられる筈もない」
天使君の顔には憂鬱が浮かんでいた。
そりゃあ、働きたくもないのに働かされていたら嫌にもなる。
その上悪魔には寿命がないから老いて死ぬこともできない。
戦って死ぬまで働かされ続けるのは中々の地獄だろう。
「生きるのは辛い?」
「……時々、夢に僕が殺した人が出て来るんだ。良くも武器にしやがったなってさ。死ねば、それに魘されることもない」
「死にたいなら、俺が楽に殺してあげるよ」
「……どうして君は僕に優しくするの?」
「可愛いから」
「僕、男だけど…」
「関係ないね。可愛いの前に性別など無意味である」
「変なの」
天使君はそれっきりアイスを食べるのに集中し出した。
変だと言われてしまえば同意せざるを得ない。俺は確かに変な性格をしている。
悪魔なのに人に敵意はないし、何なら好意的ですらある。そして可愛い子が何より好きである。
そんな奴が変なのは当たり前だ。
それでも俺は良いと思っている。どんな性格でも生まれて来た事に意味はある。
だから変だと言われても気にならない。きっと俺が生まれたことにも意味はあると思うから。
「ん、天気が悪くなって来たね」
「おかしいな。今日の予報は快晴だった筈…」
その時、近くから爆発音が響いた。
天候の急変と何かしら関係があるだろう。
「天使君、仕事だ」
「はぁ…仕方ないか」
天使君と共にベンチから立ち上がり、爆発音のした方に向かう。
現場に到着すると、そこには変身したデンジ君とビーム君がいた。対面には悪魔の姿に変身したレゼがいた。
「デンジ君、状況は?」
「目が合った瞬間に襲われたけど、間一髪で変身が間に合った!!」
「そうか、やるしかないか」
「レゼ様ぁ!!台風只今参上しましたぁ!!」
「なんか出て来た!?」
レゼの背後から建物を破壊して巨大な赤ちゃんの姿の悪魔が現れた。
匂い的にアレは台風の悪魔だろう。腸が体を覆っているのが気持ち悪い。
「デンジ君、女の方は俺が片付ける。デンジ君達は奥のデカい悪魔を倒して」
「了解!!行くぞビーム!!」
「はい!!チェンソー様!!」
デンジ君が鮫の悪魔の姿に変身したビーム君の上に乗り、台風の悪魔へと向かっていく。
レゼは此方を見据えて警戒した。
「悪いけど、チェンソーの心臓は貰っていくよ」
「残念だけど、そうはいかない」
レゼが指を鳴らして爆弾を俺の方へと投擲する。
俺は爆発する前に爆弾を砂に変えた。
「げ。何今の」
「君じゃ俺に勝てないよ。天使君、下がってて」
天使君は無言で頷いて俺の後ろに隠れた。
レゼは大量の爆弾を此方に放る。
大量の爆発が起きて爆煙で周りが見えなくなる。
煙の中からレゼが現れて右腕を巨大な爆弾に変えて突っ込んで来る。
それを正面から受け止めて無傷で制する。
「化け物…」
「今ので無傷なのはおかしくない!?」
「言ったでしょ天使君。俺は銃の悪魔よりも強いって」
天使君は驚愕に目を見開く。
レゼは果敢に爆弾を投下して此方を殺そうと試みる。
しかし、この程度では俺にとっては攻撃ですらない。蟻が幾ら奮闘したところで巨人には通じないのと同じだ。
レゼの爆弾で俺を殺すことはできない。
「強いにも程がある…!」
「本当に残念でならないよ。君を殺すことになるのは」
俺はレゼに人差し指を向ける。
それだけでレゼはバラバラに切り崩された。
「さて、天使君。これから俺がやることは口外禁止ね」
「何する気?」
天使君の疑問には答えないまま俺はレゼの死体に歩み寄るのだった。
◇
階段を降りて目の前の扉を開けると、その先には薄暗い室内が広がっていた。
部屋には簡素なベッドと椅子とテーブル、テレビが置かれていた。
ベッドの上には五体満足のレゼが眠っている。
俺が扉を閉めた直後、レゼが目を覚ます。
「……此処は?」
「マキマの目から逃れる為のセーフティハウスだ。食べ物持って来たから食べな」
「なんで私を助けるの。私はソ連の刺客だし、君達の敵なのに」
「言ったろ?俺は君をマキマのものにはしたくないの。だから匿うことにした」
「バレたら貴方はマキマに殺されるかもしれないよ?」
「俺の方がマキマより強いし、最悪バレても我儘は押し通せるよ」
レゼは尚も分からないといった顔をする。
モルモットである自分の味方をする奴なんていなかったのだろう。
「俺はいつだって可愛い子の味方。それに短い間だったけど、二道での日々は割と楽しかったし」
「……馬鹿みたい」
「そうかなぁ?俺は真剣に考えた上で行動してるだけなんだが」
「私が逃げたらどうするの?」
「その時考える」
「行き当たりばったりじゃん」
「人生そんなもんよ。なるようにしかならないのさ」
「はぁー…貴方に付き合ってたら疲れそう」
レゼは溜め息を吐いて考えるのを放棄したようだった。
そして俺が持って来たパンを頬張るのだった。
・ラスト
岸辺とマキマ対策同盟を組んでいる。
セーフティハウスは岸辺が用意した場所。
マキマにはレゼに逃げられたと報告している。
・レゼ
二道でラスト達と馬鹿みたいな会話をしていたのを心から楽しんでいた。
ソ連からもマキマからも追われる身となった。
・デンジ
台風の悪魔を退治してマキマから褒められたのでとても喜んでいる。レゼのことは頭から抜け落ちている。
・台風の悪魔
契約していた人間が偶然レゼを狙ったのでレゼに服従する羽目になった上にデンジにぶった斬られた可哀想な奴。