色欲の悪魔 作:アスモデウス
「天使君、今日の夜飲みに行くんだけど来る?」
「何の飲み会?」
「俺がレゼを逃す時に協力してくれた人達へのお礼だよ」
「それって僕に言って良い話なの?」
「バディだからね」
「僕がマキマに告げ口するかもしれないよ?」
「そこは信用してる。君は優しいからさ」
「……僕だって悪魔なんだけど」
天使君は呆れたように溜め息を吐いた。
「……君の奢りなら行くよ」
「じゃ、決まりだ。今日の18時に集合ね」
◇
昨日、レゼを逃した時にマキマにした言い訳は「連行中に逃げられた」だ。
事後処理班に無理を言って口裏合わせを行い、岸辺の協力の元レゼをセーフティハウスに移動させた。
一度バラしてるから殺したでも良かったが、それだと死体の回収をしなかったことを詰められるし、そもそも不死身だという問題がある。だから苦しい言い訳だが、連行中に逃げられたということにした。
マキマも今は強引に人を支配することはないだろうし、暫くは安全な筈だ。
さて、飲み会はそこそこ盛り上がって楽しく終わりを迎えた。
意外だったのは天使君が悪魔の癖に酒に弱いことだ。
生を三杯飲んだくらいでグデングデンになってしまった。
その為、天使君を家まで送り届けたのたのだが、問題が一つ発生した。
酔った天使君が俺を抱き枕にしてしまったのだ。
無理矢理剥がすのも忍びないし、どうしたものかと頭を悩ませている。
正直、悪魔としての本能が襲ってしまえと叫んではいる。
一方で、現世で培って来た常識と理性がそれを拒んでいる。
俺が悩んでいると天使君が寝言を溢した。
「ごめん……ごめんよ……」
「……馬鹿だな俺は」
俺は悪夢に魘される天使君の頭を優しく撫でて手を握る。
そうすると天使君は険しかった表情を緩めて穏やかな寝息を立て始めるのだった。
◇
「おはよう、天使君」
「……なんで僕の家で、僕の目の前にいるのさ」
「そりゃあ君が離してくれなかったからさ」
「……昨日の夜、僕に何かした?」
「何も」
「そう……なら…良いんだけど」
天使君は何かを疑問に思いながらも俺から手を離す。
やっと解放された俺は体を伸ばして凝りを解す。
「朝食にしようか。天使君、要望はある?」
「サラダ。後……エンジェル」
「エンジェル?」
「僕の名前。いつまでも天使呼びだとバディらしくないでしょ」
「抱き締めて良い?」
俺はエンジェルの余りの可愛さに思わず口が滑る。
エンジェルは一頻り悩んだ後に答えた。
「……仕方ないなぁ。良いよ」
「よっしゃあ!」
俺はエンジェルを抱き締めて性欲を落ち着かせるのだった。
◇
一度家に戻った俺は朝帰りをデンジ君達に弄られながらも制服に着替えて早川家の皆で公安庁舎に向かった。
マキマの執務室でマキマの話を聞く。
「私暫く忙しかったし、有給取って江の島に行くの。早川家も一緒に来ない?」
「やったー!!」
「行きます」
「旅行かぁ。初めて行くな」
「……ワシはその日急用の会議があるのお…」
「まだ日にちは決めてないよ、パワーちゃん」
パワーちゃんはマキマに嘘を見破られて絶望している。
最近は俺よりもマキマの方が怖いらしい。
「早川君達の都合に合わせるから休める日教えて」
「俺は有給使ってないんでいつでも…」
「マキマさんと旅行なんて夢みてえだ……!生きて来て良かったことランキングベスト10に入るぜ!」
その時、突如として執務室の扉が開いて中に複数のデビルハンターが入って来る。
デビルハンター達はマキマに何事か報告している。
「なんじゃ、なんじゃ」
「不味いことになったね」
部屋を移動し、テレビのある部屋に入るとマキマがテレビを点ける。
朝のニュースには変身したデンジ君がデカデカと映されていた。
『敵か、味方か。恐怖、デンノコ悪魔。町に現れた悪魔をブウンと斬り倒していくのは公安デビルハンター職員の服を着たデンノコ悪魔だ』
「公安で報道規制をかけてたけど今回は駄目だった。被害が大き過ぎてテレビ局を止められなかったみたい」
「テレビに映るってのは良い気分ですね」
「報道のせいでデンジ君が日本にいることを世界中に知られた。アメリカと中国辺りはデンジ君を欲しがるだろうね。デンジ君のような悪魔でも魔人でもない存在は凄く貴重だから」
「ラストさんが戦ったのはソ連の刺客でしたよね?なんで態々欲しがる敵を増やすんですか?」
「…デンジ君が私の手にさえなければ良いってことだろうね」
デンジ君とパワーちゃんは呑気に旅行の話をしている。
だが、残念ながら旅行は中止だ。何なら日常生活が大きく変わることになる。
「デンジ君、旅行は延期」
「え…?」
「やったー!!」
「宮城公安の対魔2課から日下部と玉置を呼んで。京都公安対魔1課からはスバルさんを。あと民間にいる吉田ヒロフミを一月雇っておいて。これから暫くは色んな国の刺客がデンジ君を殺しに来る。暫くは自由がないと思ってね」
デンジ君とパワーちゃんを置いて皆で部屋を出る。
「ゴタゴタが続いてるけど来年には銃の悪魔と戦うから。早川君も作戦に参加して貰う。今回の件で死なないように。銃の悪魔相手には幾らでも戦力が要る」
マキマはそう言って足早に去って行った。
◇
公園でエンジェルと姫野、アキ君とおにぎりを食べる。
アキ君が徐に口を開いた。
「ラストさん、デンジは何者なんですか?」
「デンジ君はチェンソーの悪魔から心臓を貰った特別な存在だ」
「それだけなら他の国にも同じような存在はいます。なのに何故デンジだけは世界中から狙われるんです?」
「そりゃあデンジ君が持ってるのはチェンソーの心臓だからね」
「前にも言ってましたね。チェンソーの悪魔は銃の悪魔よりも強いって」
「あぁ。何せ悪魔から最も恐れられる悪魔だからね」
「チェンソーの悪魔が?」
「そう。チェンソーの悪魔、チェンソーマンが食べた悪魔はその名前の存在がこの世から消えてしまう」
「そんな馬鹿なこと…」
「アキ君はナチスがユダヤ人にしたことを覚えてる?」
「……ナチス?」
俺は存在を奪うという能力の関係上覚えてられるが、普通の悪魔や人間は認識すらできない。
チェンソーマンの力は世界そのものに作用する。
「デンジ君みたいな悪魔の心臓を持つ者のことを武器人間と呼んでいたんだけど、それすらこの世から消えてしまった。何故か呼称がなくても存在が許されるてるのが謎だけど」
「武器人間だけは例外的にこの世に残ったってことですか?」
「うん。何故かは分からない。だけど、唯一チェンソーマンに名前を食べられても存在できてる。他は皆、世界から消えて歴史が変わってしまった。第二次世界大戦とか、世界規模で起こった戦争すら失われた程だ」
「ラスト君とは真逆の存在だね」
「確かに。俺は存在を奪い、成り代わる。チェンソーマンは名前を消し、存在を失わせる。対極の存在であることは間違いない」
お互いに天敵であることもそうだ。俺はチェンソーマンが食べた悪魔を取り出せる。
チェンソーマンは俺の一部を食べることで俺が奪った存在を消せる。
そして互いが消した存在を覚えている。
それは地獄で殺し合った時に確認済みだ。
「そんな訳だからチェンソーの心臓は皆欲しがるんだよ。そういえば、中国からはクァンシが来るらしいよ」
「強いんですか?」
「岸辺がいうには全人類が素手で殴り合う競技があったら、一位がクァンシらしい。元バディが言うんだから間違いないだろう。一番面倒なのはドイツのサンタクロースかな。悪魔使われたら人間じゃ太刀打ちできないらしい」
「どっちもラスト君なら対処できる?」
「さぁ…やってみないと分からないな。兎に角、俺達は俺達でデンジ君を奪われないようにしないとね」
そう言って俺はおにぎりを頬張るのだった。
・ラスト
チェンソーマンが天敵。
肉体の一部を食べられるとラストが奪った存在を一部消される。
・チェンソーマン
ラストが天敵。
触れられると食べた悪魔が奪われる。
・エンジェル
悪夢が途中からなくなったことでラストが何かしたのだろうと疑っている。