色欲の悪魔 作:アスモデウス
石神井公園の水辺でデンジ君とパワーちゃんが休憩を取っている。
その周りには俺とエンジェル、姫野とアキ君、宮城から来た日下部と玉置、民間から来た吉田がいる。
此処に京都から更に三人加わってデンジ君達を護衛する。
という名目ではあるが、実際は囮作戦だ。死なないデンジ君を餌に各国からの刺客を呼び、一斉に叩く。
各国へ俺の存在を知らしめ、日本には簡単に手出しできないようにする為の作戦だ。
デンジ君達がそれを知る必要はないので、今回は表向きの理由で納得して貰っている。
デンジ君達は呑気におにぎりを食べている。
「ああいう鳥って捕まえて食っても良いのかなあ」
「ワシが大統領だったら許可するがのお…」
「あ」
デンジ君が食べていたおにぎりを落としてしまった。
デンジ君は暫し悩んだ後に拾って食べようとした。
それを日下部君が止める。
「信じられないぞ…落ちた物を食べるな!地面には数億の菌が潜んでいるんだ。その中に食中毒などを引き起こす原因となる菌が潜んでるかもしれないんだぞ。不用心だ。寄越しなさい、捨てるから」
「あ〜!?俺が買ったおにぎりだぞ!!何をしようが俺んおにぎりだ!!」
「人間はすぐ盗むからのお….醜い生き物じゃ…」
「デンジ、後で金を払ってやるから捨てておけ」
「言うこと聞いといた方が良いよ」
「腹を壊されたら警護に支障をきたすかもしれん」
「だってさ」
皆がデンジ君を説得しようと試みるが、残念ながらそれではデンジ君に響かない。
何せ、デンジ君はゴミ箱を漁って残飯を食べるような生活を送っていたのだから。
だからこそ、デンジ君には『普通』を意識して貰う必要がある。
「デンジ君、確かにそれは何をしようとデンジ君の物だし、デンジ君は普通の人間よりもかなり頑丈だ。だけど、普通はどんなに体が強くても落とした物は食べないんだよ?」
「……先輩が言うなら」
「なんでラストさんの言うことだけは聞くんだ…」
「そりゃ、先輩は人並みに扱ってくれっからな。俺を犬みてえに扱う奴は嫌いだね!マキマさんは別だけど!」
ヤクザに雇われてた時は人権も何もなかったんだろう。それがある種トラウマになって普通を望んでいる。
デンジ君はまだ子供だし、社会常識を俺以上に知らない。
だから、大人が正しく導く必要がある。デンジ君の望む普通な人間になれるように。
◇
翌日、ハンバーガー屋で朝食を食べることにした。
パワーちゃんは野菜が多いハンバーガーは食べられないと思うのだが、分かっていて注文しているのだろうか。
パワーちゃんがハンバーガーを食べ始めると険しい顔付きになった。
「ラスト〜野菜やる〜……」
「はいはい、食べれないのは俺に渡してね」
「ラストさん、甘やかし過ぎですよ。パワーは家でも残し過ぎです」
「嫌いな物を無理に食べさせるべきじゃないよ。それにパワーちゃんは魔人だから血さえ飲めば健康状態を保てる」
「それは…そうですけど…」
「自分から食べるようになるまで待ってあげるのも大切だよ」
パワーちゃんが食べれない野菜を取り出したのでそれを食べる。
皆が食べ終わったら見回り再開だ。
数時間歩いたら休憩の為に一度自宅に戻る。
「もう人間は嫌いじゃあ……」
「11時まで歩かせやがって…これで分かった。アイツら俺を守ってんじゃねえ。俺を餌にしてんだ」
「餌ぁ?」
「そうだ。お前達を餌にして誘き出してるんだ」
「この畜生が!」
「なんじゃとお!?」
アキ君の暴露に二人が憤る。
「お前達は俺達普通の人間より頑丈だ。少しでも早く江の島に行く為だから許せよ」
「江の島ぁ〜…!?…なら、許すけど!」
「待て!!ズルいズルい!!卑怯じゃ!!ウヌらには仕事の褒美があるのにワシには何もない!あんまりじゃ!」
「パワー、じゃあ何が欲しいか言ってみろ」
予想外の提案にパワーちゃんが一瞬固まる。
そして此方も予想外の答えを返して来た。
「…四人で…旅行に行きたい…」
「…分かった。江の島とは別に俺達四人で旅行をする」
あのパワーちゃんが若干照れながら早川家での旅行を提案した。
俺は少し嬉しくなってパワーちゃんの頭を撫でるのだった。
◇
更に翌日、見回り中に暴力の魔人ガルガリとコベちゃん、それと京都公安の黒瀬君と合流する。
黒瀬君は頭に包帯を巻いている。何でも東京に向かう途中で刺客の急襲に遭ったらしい。それによりスバルさんと天童ちゃんが死亡した。
偶然生き残った黒瀬君がコベちゃん達と合流したらしい。
ガルガリが手を挙げて挨拶する。
「ヘイよ〜。元気?」
「黒瀬さん、お久しぶりです……天童さん達のこと聞きました…今回の仕事は無理に加わらなくても良いとマキマさんからの伝言です。俺も療養するべきだと思います」
「東山さん達に無理を言って病院から抜け出して来たんです。俺はどうしても仲間の仇を討ちたい。どうかお願いします……!」
俺は無言で黒瀬君に歩み寄り、その腹を右腕で貫いた。
黒瀬君は血を吐いて地面に倒れた。
「ラストさん!?何を…」
「なんてことだ…!早川君、見ろ!!顔が変わった…!」
「この顔は間違いない。アメリカで殺し屋紛いのことをしているデビルハンターだ。皮の悪魔と契約している三兄弟の一人だな。触れた死体の身なりを奪えるらしいが…」
「……ラストさん、何で分かったんですか?」
「前に東京に指導しに来てくれたことがあったろ?その時に俺も会ってたんだけど、その時と見えた魂が違ったから偽物だと気付いてね」
「魂が…見える?」
「俺は魂の悪魔の力を使えるのさ」
アキ君は俺の本当の能力を知ってるので今の言い方で大体伝わった筈だ。
俺は過去に魂の悪魔と出会い、その存在を奪っている。
その魂の悪魔の能力で、魂を視認でき、魂を自由に操ることができる。
魂を入れ替えて身体を変える、なんてこともできる。
「契約しているのは三兄弟だ。後二人いる。もしかしたら既にこの中の誰かが成り代わっているかもね」
「少なくとも、三兄弟が成り代わったのは昨日だ。だから昨日より前に会ってる護衛の皆は成り代わられていない。成り代わっていたら既に気付いているからね。だから一般人に紛れてる可能性が高い」
「何人か離れた人がいたな。ちょっと見て来る」
吉田君が通りを離れた一般人を見に行く。
俺は死体を見て吐きそうになってるコベちゃんの背中を摩る。
「すいません…ラスト先輩…私…まだ慣れなくて」
「普通は慣れないよ。無理しなくて大丈夫……コベちゃんはどうして公安に残ったの?」
「ボーナスが…入るので……」
「そうか。そのボーナスで美味しい物沢山食べて忘れな」
俺はコベちゃんが落ち着くまで背中を摩り続けるのだった。
◇
その翌日、ガルガリとコベちゃん、ビーム君を護衛に加えて見回りをしている。
「昼飯はこのデパートで食おうぜ」
デンジ君が先程打ち合わせた通りにデパートに入ることを提案する。
皆でデパートに入り、入り口で人形達を迎え討つ。
日下部君が陣を描き、人形達に息を吹き掛ける。
そうすると見事に人形達が石になった。
「お〜。石になった。凄え」
「アイツらみたいにされたくなかったら離れてろ。石の悪魔は気紛れだ」
「人形の悪魔だ……服にでも触れられたら人形のお仲間になっちゃうぜ」
「どうしてコイツらが来るって分かったの?」
「遠くにいる人達の足音が規則的過ぎた。観察すれば分かるが、人間の歩き方はもっと個性が出る」
「ドイツのサンタが来ることはマキマさんから聞いていたんだ。後は警戒と対策を怠らなければ……」
人形の第二陣が石になる。
デンジ君が何度も現れる人形に顔を顰める。
「キメぇなぁ。どんだけいるんだコイツらは」
「サンタがどういう契約をしてるかは分からないが……強い悪魔には強い契約が必要…人形にできる数は限られている筈だ…」
その時、入り口を埋め尽くす量の人形が一斉に入って来た。
日下部君が退避する。
「2階!2階に逃げろ!数が多すぎる!」
「おい!石にしろよ石に!」
「数がぁ多すぎる!陣の上でしか無理だ!」
「来た来た来た来た!ぎゃああ!!早く登れクズ共!!ンアアアア!」
「パワー!!」
パワーちゃんが人形に捕まる。
デンジ君が人形を蹴り飛ばし、何故か無事なパワーちゃんが人形を血の武器で斬り殺す。
「なっ!?」
「おい!糞!人形にならねえぞ!」
「嘘吐きが!!」
「成程!人形にされるのは人間だけだ!魔人は大丈夫なのか!」
「俺は!?俺は大丈夫!?」
「デンジ君も人じゃないでしょ」
「そっか!じゃあ大丈夫か!」
「後ろ来てるぞ!」
「中村ぁ!!やれ!!」
「押忍!ウオオオ─「誰です!?」「誰!?」「誰だよコイツ」
突然現れた中村君にアキ君達が混乱する。
そんな中で中村君は狐の悪魔を使って人形を返り討ちにする。
「危なかったですね…私は公安対魔2課の─「この数日、デンジ君達の巡回ルートにあるビル全てにデビルハンターを複数配置していた。被害を抑える為にも短期決戦で戦いたかった。人形にされた人間は二度と元に戻れないからな…サンタから逃げるのではなく、奴を殺しておきたかったんだ…」
可哀想な中村君は自己紹介すらまともにさせて貰えなかった。
まあ、緊急時なので仕方ない。呑気に名乗ってる暇なんてないからな。
「この数日間囮に使って…すまなかった。デンジ君」
「人形は近くでしか操れない…サンタは近くにいるぞ。今日で全て終わらせる」
◇
「ぎゃあああああ!!おいおいおい!凄え来てるぞ人形軍団!!」
「コン!」
中村君が狐の悪魔を使うも人形はするりと避ける。
「なぁ〜っ」
「学習して来てやがる!」
「下がってな」
俺は皆を下がらせる。
そして黒い触手を右腕から生やして人形を一掃する。
「そんなことできるなら早くやってよ!?」
「俺が出張るのは最終手段でしょ。相手の奥の手を見てからの方が良かった」
「本部に連絡しました。近くにいるデビルハンターが応援に来てくれます!」
「良し…!」
日下部君が冷や汗を流しながらも笑みを浮かべた瞬間、俺は超速で迫る敵を視認する。
俺はエンジェルを抱えて下に避ける。
中村君の首が切り落とされた。
見た目の特徴からその人物こそが岸辺の言っていた中国からの刺客、クァンシだと分かった。
クァンシは常人を遥かに超えた速度と力で日下部君、玉置君、吉田君、アキ君、デンジ君を制圧する。
パワーちゃんはやられた振りをしている。
「流石に強いなぁ。岸辺から聞いてた通りだ」
「何故加勢しなかった?」
「君がどの程度強いのか観察したくてね。まぁ、大体分かった。君じゃ俺は殺せない。大人しく投降するなら逃がしてやっても良い」
クァンシは無言で構えを取った。
「あ、そ。じゃ、死んでくれ」
「クァンシ、久しぶりだな」
俺がクァンシを殺す直前で岸辺が割って入る。
両腕で魔人二人を捕らえている。
「デンジ、パワー。この二人を拘束。暴れたら殺せ」
「パワ子…….おい、起きろパワー」
「どうじゃ。死んだ振りしとったわ」
「バ〜カ!あ〜いってえ〜」
クァンシは構えを解いて窓際の椅子に座る。
対面に岸辺が座った。
一度話し合うらしい。
俺は取り敢えずエンジェルとやられた奴等の介抱をするのだった。
・ラスト
魂の悪魔の存在を奪っている。
その能力は魂の視認と操作。魂を分裂させて肉体を分けるとかできる。
天童が死んだことを心の底から残念がっている。
・デンジ君
人並み扱いしてくれるラストに懐いている。
・パワー
早川家を家族だと認識している。
野菜嫌い克服の道程は遠い。
・岸辺
まだラストの強さがどの程度かあんまり分かってない。
マキマよりは強いと認識している。
女好きという点でラストと意気投合し、良く飲みに行っている。