色欲の悪魔 作:アスモデウス
「残りの魔人二人はどうした?」
「逃げられた。ここら一帯公安と警察で囲むからすぐに捕まるぞ。下にいる人形達を一掃したらお前を連行する。それまで何もするなよ」
「狂犬岸辺が随分と小賢しくなったな。首輪を付けられて本当に犬になったのか」
「こっちは50過ぎてんだぞ。大人しくもなるさ。牙もとっくに抜け落ちた」
そう言いながら岸辺が取り出したのはメモ帳だ。そこには大きな文字で「会話はマキマに聞かれている」と書かれていた。
「デビルハンターは老ける前に死ぬからな。さっさと引退しておけば良いのに」
「年金生活なんて信じられねえ。けど、もうそういう時期だからな。今は悪魔より隠居してボケるのが一番怖いよ」
岸辺がメモ帳を捲ると更に文字が現れる。
そこには「言う通りにすれば逃がす。安全は保障する」と書かれている。
「時代を追えばボケはしない。ニュースとか新聞を見続けろ。新しいものを常に味わえ」
岸辺は無言でメモ帳を捲る。そこには「マキマを殺す。協力するなら全てを教える」と書かれている。
クァンシはポツリと言葉を溢した。
「ニュース……朝のニュースに出ているリポーターにタイプの子がいて……毎日そのニュース番組を見てたんだ。その子が出てる雑誌とかも買ったりしてた。ある日、その子の年齢詐称が発覚して…そこから芋蔓式に昔の彼氏や悪行がテレビで流されるようになった。その子はそれでも朝のニュースに出続けたんだけど…私はその番組を見なくなった。その子が変わったんじゃなくて、変わったのは私の脳みそ。この世でハッピーに生きるコツは無知で馬鹿のまま生きること。岸辺、テメェは大人しく首輪付けときな。元バディからのアドバイス」
交渉は決裂したようだ。
その直後、銃を持った顔に傷のある男が乱入する。
事前に写真を見せられたから覚えている。その男は数日前に天童ちゃん達を襲った三兄弟の一人だ。
吉田君が一人だけ取り逃がしたと言っていたが、近くに隠れていたとは。
俺はその男の手首を切り落として抵抗できなくする。
「っ…あ゛!」
「こっちは今忙しいの。雑魚に構ってる暇ないんだわ」
「いであっ!」
いつの間にかデンジ君が魔人に押さえつけられている。先程男が撃った弾で負傷したところを狙われたのだろう。
デンジ君は頭から血を流している。
「クァンシ!!」
角の生えた魔人が叫ぶと同時に岸辺とクァンシが同時に拳を繰り出した。
岸辺の拳は避けられ、クァンシの一撃がヒットする。
更に岸辺は蹴りを頭に喰らってしまう。
それでも尚倒れない岸辺がナイフを懐から取り出してクァンシに投げる。
クァンシはそのナイフを指で掴み取り、岸辺の蹴りを受け止めて逆に岸辺を窓の外へと放り投げた。
岸辺は窓ガラスを割って下に落ちる。二本目のナイフを取り出して壁に突き刺し、何とか落下の勢いを抑えた。
そして最終的に岸辺はコベちゃんの車をクッションにして生き延びた。
「コベちゃんの車が死んだ!」
「ワシに近付いたらコイツを殺すぞ!!後デンジを放せ!」
「お嬢さん。その子を放してくれないか。でなければ戦うことになってしまう」
「う〜ん…」
パワーちゃんが捕らえている魔人が目を覚ます。
その魔人は目覚めた直後だと言うのに素晴らしい動きでパワーちゃんの拘束を解いた。
その時、ビーム君が床から現れてデンジ君を連れて逃げた。クァンシは深追いすることはなく、この場に留まった。
そしてクァンシと魔人二人が徒党を組む。
「3対1なら勝てるとでも?」
「あ…あぁ…」
クァンシの仲間の魔人の内、髪が口の形になっている魔人が俺を見て冷や汗を流し始めた。
「ク…クァンシ様…ヤバいです。相手はあの…色欲の悪魔ラストですぅ…一度も死を経験していない…根源的恐怖の名を持つ悪魔達に並ぶ超越者…銃の悪魔なんかよりずっとずっとヤバい…うっ…私達は敵意を向けられた瞬間に死にます……クァンシ様ぁ…じじ、じっ、自殺の許可を…」
「…馬鹿!私がどうにかする…」
「その子は観測の魔人かな?俺が何者か分かってるようだし、投降するなら今の内だよ」
「………投降すれば、私の女達は助かるか?」
「君が大人しく投降するなら安全は保障しよう。マキマからも守ってあげる」
「投降する」
「良し、じゃあ先ずはデンジ君達を探すところから─」
俺がそう口にした瞬間、辺りが一瞬で暗くなる。
そして次の瞬間には景色が切り替わっていた。
そこは空を無数の扉が覆い尽くし、地面には季節など関係なく花達が咲き乱れる地獄であった。
アキ君達やコベちゃん達、デンジ君達もいる。それに加えて見知らぬ男が突っ立っている。
「あ…!?デンジ!?糞っ…!どうなっていやがる……!」
アキ君がデンジ君の胸のスターターを引く。
デンジ君の頭からチェンソーが生えるが変身はしない。
「いったああああ!!」
「完全なデンノコ男にならないな。血が足りないんだろう」
アキ君がクァンシを見て剣を構える。
「私達は既に投降することにしている。それより魔人達の様子がおかしい」
「どうして!?どうしてここに…?」
「あ、あっ、ああ、あっ」
「ああー…気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い」
「どうしたんですか暴力さん!?」
「ラストさん!!此処は何処です!?」
「此処は地獄だ。誰が差し向けたか知らないが、地獄の悪魔の力で俺達は地獄に落とされたんだ。三年ぶりに帰って来たな。相変わらず窮屈なところだ」
「此処から逃げる方法はあるか?」
「天井の扉が現世に繋がっている。俺が触手で皆を持ち上げるから順次出て行くのが良いだろう。早くしないと他の奴等が来るぞ」
「他の奴等?」
「…間に合わなかったな。来るぞ、闇の悪魔が」
天井の扉の一つが開いて黒い液体が落ちて来る。
地面に落ちたその闇から、闇の悪魔が現れる。
その姿は正に悪魔。曲がった角の生えた異形の頭部に胴体から上にかけての四つの顔、更に背中から生やした闇のローブといった威圧感たっぷりの姿をしている。
闇の悪魔の眼前には祈りを捧げる宇宙飛行士の死体が11体並んでいる。
更に周囲は一瞬で闇に包まれた。
闇の悪魔が移動を開始する。
俺は皆が負傷しないように無数の触手で覆う。
唯一庇わなかった下手人と思われる男の眼前に闇の悪魔が立つ。
俺が触手を解くと同時に男が話し始めた。
「私は人形の悪魔です。契約通りチェンソーの心臓を持って来ました。私にどうか……マキマを殺せる力を下さい」
「なっ………何…言ってんだテメェ…マキマさんを殺す…だぁ…?」
闇の悪魔が人形の悪魔と名乗った男を持ち上げる。
そして男の首を切り離した。
俺は指先を闇の悪魔に向けて特大の精力弾を放つ。
闇の悪魔は精力弾を受け止めて耐える。
しかし、流石の闇の悪魔と言えど俺の全力の攻撃は堪えたようでその場に崩れ落ちる。
だが、暗闇の中では闇の悪魔は瞬時に怪我を治してしまう。
俺と闇の悪魔は互いに指を向け合って、互いに圧力で押し潰す。
しかし、色欲と老いの悪魔の力を持つ分、俺の方が軽傷で済む。
俺は闇の悪魔が怪我を治し切る前に時を止めて移動し、右腕で闇の悪魔の肉体に触れる。
右腕は闇の悪魔の肉体を透過し、その中にある闇の悪魔の存在そのものを掴む。
そしてそれを引き摺り出して俺のものにする。
存在を奪われた闇の悪魔は体が崩れた消えていく。
ちなみに今までの闇の悪魔との攻防は現実で0.01秒も経過していない。
皆は何が起きたか理解する間もなく、闇の悪魔が消えていく。
「な、何が起きた…!?」
「ラストさん、何をしたんですか!?」
「闇の悪魔の存在を奪った。俺の勝ちだ。さ、他の奴等に目を付けられる前にさっさと帰ろう」
俺は触手で皆を持ち上げて天井の現世に繋がっている扉へと押し込む。
皆を送り返したら、俺も扉を潜って現世に帰る。
幸い、事前に人形の悪魔と契約していた闇の悪魔以外の奴等は襲って来なかった。
デパートの屋上で一息吐く。
皆が一瞬の内に事が終わって唖然としている。
その内、闇の悪魔の肉片を取り込んだと思われる人形の悪魔、サンタクロースが屋上に現れる。
「マキマの前に、先ずは貴方達から消すとしましょう」
「それは随分と無謀だね。闇の肉片を取り込んだからって調子に乗りすぎてやしないか?」
「どうやって帰って来たかは知りませんが、闇の悪魔から逃げ帰ったのでしょう?」
「さて、どうだろうね?」
「貴方を殺してマキマへの手土産としましょう」
俺はサンタクロースと向かい合い、笑みを浮かべるのだった。
・ラスト
新たに闇の悪魔の能力を手に入れた。
それにより夢へ一歩近付いた。
本来の能力発動の際に相手に右腕で触れているが、別に触れる場所は何処でも良い。
・クァンシ
一瞬見えた闇の悪魔とラストとの攻防で、ラストがマキマなんかよりも余程恐ろしい存在だと認識した。
・サンタクロース
ラスト達が闇の悪魔から逃げ帰ったと勘違いしている。