色欲の悪魔 作:アスモデウス
アキ君の指導を始めてから半年が経過した。
人材不足でバディが見つからない為、未だに三人一組で動いている。
今日は民間で片付けられなかった悪魔の退治が任務である。
目標は蜚蠊の悪魔である。
動きが素早く、巨体で街を破壊して回るので早急な対応が求められる。
現場に到着すると、既に現場は瓦礫の山と化していた。
蜚蠊が人を摘んで食べている。
「アキ君」
「分かってます」
アキ君が右手を狐の形にして悪魔へと狙いを定める。
そして「コン」と呟くと狐の悪魔の頭部が現れ蜚蠊を丸呑みにしようとした。
しかし、蜚蠊はその圧倒的な速度と危機感知で上手く躱す。
「ありゃ私達の手に負える相手じゃないな」
「じゃあ、俺がやろう」
俺は前に進み出て蜚蠊の悪魔を視認する。
次の瞬間には蜚蠊の悪魔はバラバラに切り刻まれて地面の染みとなった。
「わぁーお」
「相変わらず、出鱈目な能力ですね」
「精力を糸よりも細く伸ばして、それを飛ばして切っただけだよ。圧力で押し潰すこともできるんだけど、死体が残った方が都合が良いからあんまし使わないかな」
「悪魔は持って生まれた名前が恐れられている程強くなるんですよね?なら、死の悪魔とかはもっと桁外れに強いってことですか」
「そうだね。俺と同じ超越者枠だし、現世に顕現したら銃の悪魔なんかより余程被害が出る」
「銃の悪魔は超越者じゃないんですか」
「そりゃあ違うよ。超越者と呼ばれる根源的恐怖の名を持つ悪魔達は次元が違う」
アキ君は黙して考え込むような仕草を見せる。
いきなり仇である100万人以上の人を殺した悪魔よりも強い奴等がいるって知ったら動揺もするだろう。
アキ君は動揺しながらも冷静に疑問を投げ掛けた。
「そいつ等はどうして現世に来ないんですか?」
「悪魔は地獄で死んで現世に来る。つまり、悪魔は最初地獄で生まれるのさ。そして超越者達は一度も死を経験していないから現世に来ることもない。来ることはできるけどね。俺も自分の意思で現世に来たし」
但し、ノストラダムスの大予言が本当なら死の悪魔は近い内必ず現れるだろう。
あの子は人間に友好的だが、死への恐怖が高まり続ければ暴走する恐れがある。
自分でも能力を制御できなくなるのだ。
そうして恐怖の大魔王が降臨する。
「死の悪魔が最も恐れられた瞬間こそ狙い目だな…」
「?何か言いました?」
「いや、何でもない」
思わず思考を口に出してしまった。まだ俺の正体に勘付かれる訳にはいかないから、正体がバレそうなことは言わないように気を付けなければ。
そう考えを巡らせているとアキ君が口を開いた。
「今日か明日の夜、飲みに行きませんか」
「そりゃあ良いけど…どうして?」
「成人したので」
「そっか、もう成人か。時の流れは早いなぁ。良し、俺が金出すから好きに飲みな」
「それと…マキマさんも誘えませんか?」
アキ君が遠慮がちに聞いて来た。
俺は頷いて快諾した。
「俺から誘ってみるよ。あの子意外と寂しがり屋だから仕事に追われてなければ来るんじゃないかな」
「ラスト先輩はマキマさんとどういう関係なんですか?」
「そうだなぁ……知り合い以上友達未満ってとこかな」
マキマとは仲は良くないが、険悪でもない。
ただ寂しがり屋ってことを知ってるくらいの仲だ。
「さ、飲みに行く為にもさっさと帰ろう」
◇
その日の夜、俺と姫野とアキ君は先に居酒屋で飲み食いしていた。
マキマは遅れて来るらしい。
「ラスト先輩、俺は残りの寿命で銃の悪魔まで辿り着けますかね?」
「アキ君は積極的に銃の肉片を集めてるから、辿り着けるとは思うよ。でも、アキ君がまともにやり合えるかと言われたら頷けないかな」
「先輩なら、銃の悪魔を殺せますか?」
「よゆーです!何せ俺は悪魔も震える超越者の一人だからね」
「なら、もし銃の悪魔と戦うことになって、先輩が追い詰めたら、止めは俺に刺させて下さい」
「……良いよ。止めはあげる」
「ありがとうございます」
アキ君は深く頭を下げて礼を口にした。
そこでマキマが到着する。
「お疲れ様。アキ君はどうして頭を下げてるの?」
「アキ君が銃野郎の止めを刺させて下さいってお願いしたんですよぉー」
「銃の悪魔討伐には必ず俺を連れて行くだろ?」
「そうだね。私は特異4課を活躍させたいからラスト君に倒して貰おうと思ってるよ」
「なら、アキ君の望みは叶うね」
まぁ、銃の悪魔がまともに戦える状態であればの話だが。
どうにも、100万人以上を殺してから一度も姿を見せていないのが引っ掛かる。
既に倒されて瀕死の可能性もある。地獄にはいなかったから死んではないだろう。
「マキマ、銃の悪魔の肉片はまだ動きを見せてないんだよね?」
「うん。もっと大きくしないと本体には反応しないだろうね」
「うし、強い悪魔片っ端から殺して集めないとな」
「ラスト君は意外と銃の悪魔を殺すのに積極的だよね。どうして?」
姫野から問いが投げられる。
別に恨みがある訳じゃないし、格下だから倒しても大して意味はない。
俺が銃の悪魔を狙うのは完全な私情だ。
「世界中から憎まれてる銃を殺せばモテると思って」
「ラスト君は色欲だもんね」
「でも、マキマさん。ラスト君ってそんなに性欲強くないんですよ」
「姫野、ぶっちゃけ過ぎ。もう酔ってる?」
「そんなことらいよ」
「舌回ってないじゃん」
さっきからハイペースで飲んでるとは思ってたけど、もう完全に酔っ払いとして出来上がってる。
「ラスト君はもう姫野ちゃんに手を出したんだ」
「もうって…バディとしてやってたらそうもなりますよ」
「ラスト君が公安入ってから一年も経つんだもんね」
「え、同期じゃないですか」
アキ君が意外な事実を口にした。
「そうなの?」
「俺も入ったのは一年前ですよ。初めは対魔2課に配属されて半年経って特異4課に移動になりました」
「同期だったんだぁ。じゃ、これからは敬語なしで行こう」
「いや、ラスト先輩は俺より遥かに強いのでそれはできません」
「そう?まぁ、敬われるのは気持ち良いからいっか」
先輩と呼ばれると嬉しくなるので続行ということで。
マキマが生ビールを飲みながら俺に質問する。
「ラスト君は上位の悪魔だけど、眷属はいないの?」
「眷属ぅ?そんなの要らないね。勝手に崇拝されるのも面倒なんだよな。性病の悪魔とか俺のストーカーして来るし」
「悪魔が悪魔にストーカーされるって面白い状況だね」
「笑い事じゃないよ。勝手に女性連れて来て献上して来るのとか良い迷惑だよ」
「モテたいんじゃないの?」
「可愛い子にモテたいだけで可愛くない子にモテても意味ないの。それに偶に筋肉ムキムキの男連れて来るし」
「ふーん。大変そうだね」
絶対にそんな風に思ってない声色でマキマがそう口にした。
俺は逆にマキマに問い掛けることにした。
「マキマは男作らないの?一人暮らしは寂しいでしょ」
「私は良いかな。一箇所に留まることが難しいくらいだから恋愛なんてしてる暇ないよ」
アキ君が絶望を顔に表した。
命の恩人で好きな人が恋愛興味ないとか聞いたらそうもなろう。
アキ君を無駄に傷付けてしまった。
「さて、そろそろ解散しようか」
「ん、もうこんな時間か。すいませーん!お会計お願いします!」
俺は店員を呼んでレジで会計を済ませる。
外に出ると新鮮な空気が肺を満たす。
「ふぅ、食った食った。じゃ、また明日」
そう言って姫野とアキ君と別れるとマキマが俺について来た。
「家こっちだっけ?」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「何?」
「ラスト君、本当は何の悪魔なの?」
マキマは不敵な笑みを浮かべてそう問い掛ける。
どうやら支配の悪魔であるマキマは俺の正体に勘付いているらしい。
「さぁ…何だろうね」
俺は曖昧な返事をしてマキマと別れるのだった。
・ラスト
色欲としての能力は精力を操ること。
それ以外にも何故か黒い触手を操ることができる。
自分の正体を隠す為に世界規模で記憶改竄を行った。その影響は悪魔にも及んだ。
・マキマ
支配の悪魔であるのでラストによる記憶改竄の影響が薄かった。