色欲の悪魔 作:アスモデウス
俺が救出された少女を救急車に運んでからマキマの元へ戻ると、マキマはデンジにうどんを食わせていた。
マキマが此方に気付く。
「お帰り、ラスト君」
「あの子はちゃんと送ったよ。で、何してんの?」
「デンジ君が貧血で自分だけじゃうどんを食べれないみたいだから食べさせてあげてたの」
「成程ね。あ、そうだ。デンジ君に自己紹介してなかったね。俺はラスト。色欲の悪魔で、公安のデビルハンターをしてる」
「私はマキマ。よろしくね、デンジ君」
「よろしくお願いします。それで…あの、マキマさん…すっ、好きな男のタイプとかあります?」
「う〜〜ん……」
マキマは暫し答えに悩む。
そして頬杖を突きながら答えた。
「デンジ君みたいな人」
「デンジ君……?─俺じゃん……」
マキマの真意はデンジの中のチェンソーマンが好きか、単純にデンジのように犬みたいな男が好きということなのだろう。
デンジ君はそんなことも知らず頬を緩めてニヤニヤしている。
「さぁ、公安に戻ろうか」
「りょーかい」
俺はマキマの指示に従い車に乗り込む。
そして全員乗ったことを確認すると車が走り始める。
向かう先はデビルハンター東京本部。公安のデビルハンターの活動拠点である。
本部に着いた後に中を移動しながらマキマが説明を始める。
「東京には民間も含めてデビルハンターが1000人以上いるけど、公安は有給多いし、福利厚生が一番良いんだよ」
「給料も高いしね」
「俺、給料出るんすか?」
「そりゃあ公安のデビルハンターとして雇うからね。ちゃんと給料は出すでしょ」
悪魔とは良好な利害関係を築くことがデビルハンターにとっては大切なのである。
だから特異課にいる魔人にも給料は出てるし、悪魔である俺もちゃんと有給まで貰っている。
マキマの執務室に入ると、マキマがデンジに制服を渡す。
「デンジ君、ウチは基本制服だからこれ着てね。着替えたら君の同僚に会わせるから」
「更衣室の場所分かんないでしょ?案内したげる」
デンジ君と部屋を出て更衣室に向かう。
更衣室に入って着替えたは良いが、ネクタイが結べていない。
仕方ないので俺が結び方を教える。
「デンジ君はスーツも着たことないの?」
「すんません。前雇って貰ってたとこがあんまり待遇良くなくて」
「謝ることじゃないよ。公安は厳しいけど良いとこだよ。まあ、暫くは逃げ出さないか監視が付くと思うけど」
「逃げたらどうなるんすか?」
「悪魔として処理される。詳しくはマキマから聞きな」
「あの…マキマさんとは……付き合ってるんすか?」
「いいや。上司と部下で、ただの友達だ」
デンジ君はマキマに好意を抱いてるのだろう。
マキマを攻略するのは難易度が高いので止めた方が良いと思うが、本人が夢見てるのに水を差すのは無粋だろう。
さて、デンジ君の着替えも終わり、マキマの執務室に戻るとそこにはアキ君がいた。
「彼の名前は早川アキ。デンジ君より三年先輩。今日は早川君について行きな」
「…俺、マキマさんと一緒に仕事すんじゃないんすか?」
「そんな訳ないだろ。お前とマキマさんとでは格が違う。見回り行くぞ」
「ヤダー!マキマさぁーん!!」
アキ君に引き摺られるデンジ君が駄々を捏ねる。
マキマがデンジ君に近寄って顔を寄せた。
「君の働きぶりが良ければ一緒に仕事できるよ。だから頑張ってね」
デンジ君はマキマの言葉にやる気を出したのか立ち上がって歩き始めた。
「やる気出たみたいで良かった」
「ラスト君は早川君と一緒にデンジ君の監視をお願い」
「分かった」
俺は先を行くアキ君達について行くのだった。
◇
「なぁ、先輩よぉ。マキマさんって男いんの?」
デンジ君がアキ君に問い掛ける。
アキ君は完全に無視の態勢を整えている。
「なあよぉ。なぁ」
「ちょっと来い」
アキ君がしつこいデンジに我慢の限界を迎えた。
デンジ君は路地裏に連れて行かれ、一方的にボコられる。
俺はその様子を路地裏の入り口で壁に背を預けて見ていた。
デンジ君がゴミ袋の山に倒れる。
アキ君がタバコに火を付けながら話し始めた。
「お前仕事辞めろ。明日も来たらまたボコるからな」
「なんでだよ…」
「俺の優しさが伝わらないかなぁ…軽い気持ちで仕事する奴は死ぬぜ?俺の同僚も給料だけ見てデビルハンターなった奴は全員悪魔に殺されたよ。生きてる奴は皆根っこに信念がある奴だけだ。お前さ…マキマさん目当てでデビルハンターなったろ」
「ピンポーン」
「じゃあ殴って正解だったな」
アキ君がデンジ君の服にタバコを捨てて、唾を飛ばして火を消した。
「マキマさんには俺から言っといてやるよ。お前は悪魔にビビって逃げたってな」
アキ君は振り返り、もう一本タバコを取り出して吸い始めた。
その時、アキ君の背後からデンジ君の股間蹴りが炸裂した。
苦悶の表情で倒れるアキ君を見て俺は思わず笑いが溢れた。
「アハハハハッ!やられてやんの!」
「先輩は優しい人なんだなぁオイ…俺は!男と!喧嘩する!時ゃ!股間!しか!狙わねぇ!」
デンジ君が何度も何度もアキ君の股間を蹴る。
これは後でネタにできるな。
「ふぅ…!俺ぁ今日初めてうどん食ったぜ……フランクフルトもな…初めて人並みの扱いされたし、初めて飯食わせて貰った。俺にとっちゃ夢見てえな生活だ。俺は軽〜い気持ちでデビルハンターなったけどよぉ。この生活続ける為だったら死んでも良いぜ」
デンジ君は逡巡した後に前言を撤回する。
「……死んでも良いっつーのはやっぱなし。俺だけの命じゃなかったわ─ごっ!」
アキ君が立ち上がって決死のタックルを決める。
そして顔面にパンチを叩き込んだ。
代わりにデンジからは股間蹴りが返って来る。
「マキマさんはなぁ…お前みたいなチンピラが好きになって良い人間じゃねぇんだよ!」
「ああ!?んだよ!テメーもマキマさんが好きなだけじゃねーか!!」
「お前…マジで…玉ばっか…狙いやがって……」
アキ君が余りの痛みに倒れ伏した。
俺はそんなアキ君に肩を貸して立ち上がらせる。
そしてデンジ君にサムズアップした。
「ナイスファイト!良い喧嘩だったよ!」
「…怒んないんすか?」
「先に仕掛けたのアキ君だし。お互い様ってことで。さ、一回マキマのところ戻るよ」
「うっす」
デンジ君は素直に俺の後をついて来たのだった。
◇
「先輩が金玉の悪魔に玉を襲われました」
「嘘です…コイツの嘘です…」
満身創痍のアキ君がデンジ君の嘘を指摘する。
マキマは興味なさそうに流した。
「ふーん。で、どう?仲良くできそう?」
「全っ然」
「こいつ屑ですよ…」
「仲良くできそうで良かった。デンジ君は早川君の部隊に入って貰う」
「ぶたい?」
「…このチンピラがですか!?ウチはただでさえ面倒臭いのが多いんですよ!?これ以上変な奴が増えたら…」
アキ君の動揺を意に介さず、マキマが言葉を続ける、
「部隊を作った時に言ったよね。他じゃ見ないような実験的な体制で動かしてみるって」
「…こいつ何者なんですか?」
「デンジ君は人間だけど悪魔になることができるんだ」
「どうだ!凄えだろ!」
「……マジの話ですか?そういうの噂半分でしか聞いたことありませんけど……」
「デンジ君は特別なの。だから特別な対応で扱うことになりました。公安を辞職したり、違反行動があった場合デンジ君は悪魔として処分されます」
アキ君が動揺しながらデンジ君を見る。
デンジ君は数秒経ってから疑問を口にした。
「それって……どういうこと?」
「死ぬまで一緒に働こうってこと」
「まぁ、デンジ君は不死身だから処分するとなったら俺が手を下すことになるから」
「えぇ!?」
デンジ君は漸く事を理解した様子で驚愕を露わにしたのだった。
◇
公安からの帰り道をアキ君とデンジ君と歩く。
アキ君が口を開いた。
「お前を見張る為、ラストさんと俺とお前で一緒に住むことになった。どっかに逃げたら殺して良いって言われてるからな」
「…なぁ、マキマさんって悪い人なの?」
「そう思うならマキマさんは諦めろ。お前、悪魔なら殺されないだけ感謝しろよ。俺達はデビルハンターなんだぞ」
「でもラスト先輩だって悪魔じゃん」
「ラストさんは特別だ。悪魔の中でも人間に友好的だし、強さも別格だ。公安にはラストさんの力が要る」
「へぇーそんなに強えのか」
暫し沈黙が場を満たし、デンジ君が唐突に爆弾を落とす。
「マキマさん……もう一回抱きてえなぁ」
「はああああ!?」
俺は敢えて勘違いを訂正することなく、アキ君の混乱を楽しむのだった。
・ラスト
悪魔らしい部分もある。人の絶望や恐怖が好きだったり、敢えて場を混乱させたままにすることもある。
早川家に加わった。
・アキ
デンジの爆弾発言に暫くフリーズした。
・デンジ
ラストに対しては砕けていても敬語を使うし、言うことも聞く。
早川家に加わった。