色欲の悪魔 作:アスモデウス
翌日、リビングで布団を敷いて寝ていた俺は朝日で目を覚ました。
体を伸ばして筋肉を解す。
その内デンジ君とアキ君も起きて来る。
「朝飯は食パンあるから適当に食べろ」
「ジャムある?」
「キッチンの棚に置いてある」
アキ君がデンジ君に朝飯の指示を出す。
デンジ君はキッチンの棚から食パンと大量のジャムを持って来てテーブルで何か作り始めた。
「苺ジャム、梅ジャム、オレンジジャムにぃ〜……バターと蜂蜜ぅ〜後…シナモンもかけちゃお。最強のパンができちまったぜ〜─うまっ!」
「健康には良くないだろうけど美味しそうだね。ただ、テーブルはあんまり汚さないようにね」
俺も食パンに苺ジャムを塗って食べながらデンジ君に注意する。
苺ジャムを選んだのは血の色に似ていて食欲を唆るから。
最近まともに血を吸ってないので似た色の物で代用しているのだ。
さて、朝飯が終わったら風呂の時間だ。
デンジ君が陽気に歌いながら長風呂をするものだから、洗濯物を手にしたアキ君が切れた。
その後もトイレで眠る上に最後までトイレットペーパーを使ったのに補充しなかったりと問題を積み重ね、アキ君の顔がどんどん険しくなっていった。
俺は爆弾と化したアキ君を刺激しないようにひっそりと暮らすのであった。
◇
朝の支度を終えて、俺達三人は任務の為に東練馬区のとある住宅に足を運んでいた。
住宅は規制線が張られ、一般人の立ち入りは不可能となっていた。
現場の警察官が状況を説明してくれる。
「目標の魔人は2階奥の部屋で立て篭ってる。後はデビルハンターに任せる」
「ラストさん、隣の人新人?」
「あぁ、デンジって言うんだ。よろしく頼む」
俺達は魔人の立て篭ってる住宅に足を踏み入れる。
デンジ君が入り口で疑問を溢した。
「なあ、魔人って何?」
「…はぁ?お前義務教育受けてないのか?」
「お〜俺受けてねえよ」
デンジ君の発言にアキ君が驚愕する。
そしてデンジ君に説明を始める。
「人の死体を乗っ取った悪魔…それが魔人だ」
「ふーん。え…あぁ。それじゃ俺魔人じゃね?」
「違う。魔人は頭の形状が特徴的だ。まあ、見れば一発で分かる」
アキ君が奥の部屋の扉を蹴って開ける。
その先にいたのは口の形状が特徴的な魔人であった。
魔人は鳥を食い殺しており、死体の血を啜っている。
「魔人の人格は悪魔だ。今回はお前が殺せ。悪魔になって力を見せてみろ。それで使えるもんかどうか判断する」
「見るな、殺すぞ殺すぞ殺すぞデビルハンター共が!」
吠える魔人の頭をデンジ君が斧でぶった斬る。
魔人は床に倒れ伏し、首から吹き出す血が床を汚す。
アキ君がデンジ君を問い詰める。
「おい、なんで悪魔の力使わなかった?」
「あ〜…俺の力使ってで悪魔を殺すとよぉ。すっげぇ痛そうなんだわ。だから〜あ〜俺もコイツみてえな魔人になってたかもしれねえからな。それでなんか楽に殺して…やりたくて……」
「デンジ君、デビルハンターにとって大事なのは正義の心とか正しい倫理観じゃない。大切なのはどれだけ頭の捻子を外せるか。敵に同情するようなまともな奴じゃ一年と保たないよ」
「うっす。すんません」
「俺の言いたいことも大体同じだ。次からはちゃんと悪魔の力を使え。後片付けは俺達の仕事じゃないからさっさと帰るぞ」
そうしてアキ君はさっさと部屋を出て行く。
俺はデンジ君の方を向いて建前ではなく本音を聞き出す。
「デンジ君、本当はなんでチェンソーを使わなかったの?」
「…そこに落ちてるエロ本…血で汚したくなくて……すんません」
「ハハハッ!正直で良いね!デンジ君は良いデビルハンターになれそうだ」
態々エロ本の為に気を遣うとか普通はしないだろう。
それに生物を殺すことに躊躇いがない。
頭の捻子が緩いのはデビルハンターにとっては良いことだ。
俺が一人で考え込んでいるとデンジ君が悩ましげな声で疑問を口にした。
「先輩、俺はもう100点の生活をしてます。風呂にも毎日入れて、良いもん食えて、面の良い女も近くにいて……なのに、何故か足りない気がするんです」
「そりゃあ、人は夢を見る生き物だもの。何かを手に入れたら次へ次へと進んでいく。だから無意識の内に新しい目標を探してるんだよ」
「成程!分かったぜ!俺の次のゴール!それは─
◇
「胸だ!!」
「ムネダ?」
「おい!話聞けバカ!」
「はなし…?」
任務を終えて、俺達は公安のマキマの執務室に来ていた。
マキマから話があると呼び出されたのだ。
「デンジ君には今日からバディを組んで貰う」
「バディ…?」
「公安では小規模任務とかパトロールは安全の為二人一組で行動することになるんだ。丁度良かった。来たみたい。気を付けてね…彼女は魔人だから」
執務室の扉が勢い良く開かれ、中に赤い角が生えた魔人が入って来る。
そして勝手に自己紹介を始める。
「おうおう!平伏せ人間!!ワシの名はパワー!バディとやらはウヌか!?」
「パワー!?名前パワー!?」
デンジ君が驚愕を露わにする。
俺は元気一杯なパワーちゃんに手を振る。
「久しぶりパワーちゃん。元気そうだね」
「あっ…ひっ…!」
「あぁ?何だぁ?」
パワーちゃんが俺を見て顔を青褪めさせて怯える。
デンジ君が不思議そうな声を出した。
「俺は地獄でも恐れられてた悪魔だからなぁ。パワーちゃんは俺の匂いを嗅いだだけでトラウマを思い出しちゃうんだろうね」
「地獄ってなんすか?」
「悪魔が最初に生まれる場所。パワーちゃんもそこで生まれて、殺されたから現世に来たんだ。そんな訳だから現世に来る悪魔は殆どが大したことはないんだよね。俺は別だけど」
「先輩は死んだことはないんすか?」
「ないよ。俺は自分の意思で現世に来た」
「ラスト君は別格だからね。だからラスト君には引き続きデンジ君の監視を任せる」
「期限は?」
マキマは顎に手を当てて考え込む。
「半年くらいかなぁ。デンジ君が強くなるまでを想定してるよ」
「りょーかい。良し、デンジ君、パワーちゃん、見回り行くよ」
そうして俺はデンジ君達とパトロールに行くのだった。
◇
「全っ然悪魔いねーじゃん!」
建物の屋上の柵に腰掛け、デンジ君が悪態を吐く。
パワーちゃんは怯えて何も喋らない。
「多分俺の匂いを嗅ぎ取って身を潜めてるんだろう。さっきも言ったけど俺は地獄でも恐れられてたから」
「じゃ、俺達結果出せないじゃないすか!」
「そんなことはないよ。俺の匂いに気付かない鈍感な悪魔なら身を隠すこともない」
「血の匂いじゃ!!」
「ほら、早速現れたよ」
パワーちゃんが血の匂いに引き寄せられて走って行く。
俺はその後をついて行く。
デンジ君も数秒遅れて走り出す。
「おいおい!テメェ!どこ行く!」
「勝負じゃ!勝負じゃ!戦いじゃ!」
パワーちゃんが屋上から飛び降りる直前、俺はパワーちゃんの襟首を掴んで止めた。
「ぐえ…」
「駄目だよパワーちゃん。下をよく見て」
「んえ?」
パワーちゃんが屋上の縁から下を見る。
デンジ君も遅れて到着する。
「下の電話ボックスに民間のデビルハンターがいる。アレはもう民間が手を付けた悪魔だ。それを横取りするのは業務妨害。普通なら逮捕だよ」
「ごめんなさい……」
「知らなかったのは仕方がない。今度からちゃんと周りを見るようにね」
「はい……」
俺はパワーちゃんを離して自由にする。
パワーちゃんは慌てて俺から距離を取り、デンジ君の後ろに隠れた。
「喉乾いたし自販機でジュース買いに行こ」
「はーい」
「………」
デンジ君は素直に返事したが、パワーちゃんは無言で頷くだけだった。
超越者だし怯えられるのは仕方がないが、何もする気はないのだから肩の力を抜いて欲しいところだ。
◇
自販機でコーラを買って飲む。
デンジ君も適当にジュースを買って飲んでいる。
パワーちゃんは野良猫を撫でてる。
「パワーちゃんはどうしてマキマに捕まったの?」
「飼ってたニャーコを悪魔に人質に取られて、街中で人間を探してたら捕まったんじゃ…ニャーコはもう殺されてるかもしれんが諦めきれん」
「じゃ、助けに行こう」
「良いのか!?」
「監視付きなら巡回エリア外に出ても大丈夫だろうし、何よりデンジ君に活躍して貰わないとだからね」
「俺が倒すんすか?」
デンジ君の質問に俺は頷いて答える。
「そう。君に任せる。今度は悪魔の力を使ってちゃんと倒すこと。マキマも言ってたけど、成果が上げられなければ特異4課はすぐにでも解体されちゃうからね。期待してるよ」
「任せて下さいよ。悪魔なんて俺がぶった斬ってやるんで」
「その調子だ。さぁ、パワーちゃん。悪魔のいるところまで案内して」
「はい!」
俺達はパワーちゃんの案内で悪魔の元へと向かうのだった。
・ラスト
地獄で悪魔から精力を奪い、己の糧とすることで強くなり続けた結果超越者入りした。
色欲としての能力は精力を操ることで奪うことではない。
・パワー
マキマよりも恐ろしい超越者であるラストにビビりまくっている。
地獄での惨劇を覚えているから恐れているのではなく、本能に恐怖を刻まれているから恐れている。