翌日、ダンジョンに潜るために集合して装備を整えた。
1年生のダンジョン初心者なので、全員支給の革装備を身に纏っている。
勿論地球にいる動物の皮じゃない、ダンジョンの低階層で出てくる狼系モンスターの皮から作られた装備らしい。
今はダンジョンの外だから普通の皮装備だが、ダンジョン内に入ると活性化してそこそこの防弾チョッキ並になる。
「うっし、装備確認オッケー?」
「おっけー」
リオナは魔法使いらしく1メートルくらいの木製の杖を持っていて。
「問題なし」
ハツキはジョブ故に素手で、腰に巻き付けたベルトを確認する。
「全部確認しました!」
ダンジョン素材でできたマジモンのブロードソードが腰の鞘に収まっていて、左腕に固定してある上半身が隠れるくらいの楕円形の円盾ごと手を上げるエレン。
「それじゃあダンジョンに潜るぞ」
学生でごった返しているダンジョンゲートターミナル、申請も全て終わらせて、いざダンジョンの入口である空間の裂け目へ列に並んで入っていく。
潜った瞬間視界が一瞬で変わり、石造りの空間に俺達は立っていた。
「……ん?」
ダンジョンの1階層に降り立つなり、自分に起こった変化に気がつく。
「……なんだ?」
周囲を見渡す、これまで一切反応がなかったテイムスキルが使用出来る状態になっていた。
そうなると周囲にテイム出来るモンスターが居るということになる、だが転移してきたこの場所はモンスターが入れないセーフティーゾーン。
通路の先も見てみるが、モンスターの影すら無い。
ダンジョンはインスタンス方式で、パーティー毎に区切られるから離れたところで他の学生にモンスターが倒されているということもない。
「どったの? そんなキョロキョロして」
「いや……、なんかテイムスキルが使える状態になってる……」
「え、やったじゃん!」
「テイム出来るモンスターが居るんですか!?」
ハツキはとりあえず喜び、エレンはブロードソードを引き抜いて周囲を見渡す。
「モンスター、居るのか?」
四人して全周囲を見回すも、スライムもゴブリンも見当たらない。
地面に居ないし天井にも居ない、壁に張り付いても居ない。
周囲には誰がどう見たってモンスターの姿形が見えない、なのにテイムスキルは使用可能という謎。
「もしかしてバグなんてあるのか?」
ゲームのようなダンジョンだから、まさかバグがあってそのせいで俺のジョブがおかしくなっているんじゃないかと疑念が沸き起こる。
「とりあえず、スキル使ってみたら? もし居たらテイム出来るんだし」
リオナが提案してくる。
確かに何のモンスターかわからないが、テイム出来ればヒモから抜け出せる。
「使ってみるか……」
バグか仕様か、よくわからないが戦力外通告は避けられるかも知れないので念じるようにテイムのスキル使用する。
───
───
───
「は?」
「ん?」
「えっ?」
その瞬間、全員に変化が起こった。
俺の脳裏には誰をテイムしたのか、三人には俺のパッシブスキルが発動して永続バフが掛かった事を教えてくれる。
「……なん」
モンスターではなく人間である三人をテイムした、テイマーとして一切聞いたことがない事が起こった。
言葉では言い表せない繋がりを三人から感じ、三人も繋がりを感じて俺を見ている。
「……え、どうしよ」
俺がテイムできる存在はダンジョンのモンスターではなく、人間でしたー!
ちょっと何を言っているのかわからない事態に、自然と声が漏れる。
ただ何となく分かる、かなりまずいことが起きてそうな感じがする。
「え? なに? なに? 何が起きてんの?」
「なんかわかんないけどタツの事がわかるんだけど!」
「センパイとなんか見えない線で繋がってるような感じがします!」
他の人がパニックになっているところを見ると、自分はなんか冷静になるとか聞いたことがあるけど本当なんだなぁと実感した。
「……えー、発表します。 テイムスキルを使ってみたら三人をテイムできました! あとテイムしたせいか、俺のパッシブスキルのバフが三人に掛かりました!」
「……ほんとだ! なんかすっごい上がってる!」
テイマーのスキルで【忠誠心】というのがある。
テイムしたモンスターの忠誠心に応じて能力値が増加する、テイマーが死亡しない限り永続するパッシブスキル。
忠誠と言うと、相手に献身的になるとか服従するとかそういう意味がある。
ステータスには表示されないマスクデータだろうから、言葉通りの意味ならちゃんと命令を聞くかどうかのパラメーターか?
「……どんくらい上がってる?」
「……えーっと、昨日の魔力が90で今が117だから……、1.3倍?」
「上がりすぎじゃね?」
「私のバフスキルだと1%くらいだから、めっちゃ上がってる」
「わたしの体力121になってます!」
ブロードソードを持つ右手を上げるフレン。
「元の数値を言えよ、わかんねぇだろ」
「90はあったと思います!」
「じゃあエレンは1.35倍か、ハツキは?」
「器用さが昨日は85で今は112」
「1.32倍か、上がり方が均一じゃないからそれぞれの忠誠心ってのを参照してるみたいだな。 他のステータスもだいたいその倍率で上がってる?」
「うん、おんなじだね」
「じゃあエレンが一番高いってこと?」
「そうじゃないか? 知らんけど」
1.3倍弱、バフなしでこの能力値になるには、今のレベル帯だと6とか7くらいレベルが上がらないと届かない。
「レベルは幾つだ?」
「全員9」
「たっけぇな、まだ一週間しか経ってねぇのによ」
そうなるとこの3人はレベル15前後相当の能力値になる、フルパーティーじゃなくても多分10階層に行っても苦戦はしなさそうだ。
しかも【忠誠心】の上限倍率はわからないので今後もバフ倍率は上がるかも知れないし、レベルを上げていって能力値を上げれば上昇値も増える。
ダンジョンの適正レベルは階層数と言われているので、現在レベルより2か3の上の階層でレベリングすれば経験値ボーナスが付いてレベルが上がりやすくなる。
レベルは低くても能力値は数段上のレベルと同じ、安全性と装備の更新を考えれば一つ上の階層をレベルが上がるまでガン回しすれば他のパーティーとは比較にならないほど安全にダンジョンを潜れる。
「やばいね!」
「つまりあたしたちは最強になれるってこと?」
「最強になれるかわからんが、他のパーティーとレベルが同じで人数も同じなら俺が死ななきゃ能力差で押し切れる」
「へー」
「そんなに頑張らなくても学年首席も狙えると思うぞ」
「えっ、欲しいです! 学年首席!」
学年首席、良い響きだ。
同学年で一番ダンジョンを深く潜れる一番強ぇやつと言ってもいいからな、後補助金も凄い。
よーいどんで同時に潜り始めても、バフの能力値増加分で先行できるのは間違いない。
「……でも首席取ったらやっかみが酷そうだよなぁ」
結局俺はモンスターをテイムしていないから、他所から見たら三人が天才的に優秀で何故かモンスターをテイムできないお荷物のテイマーをパーティーに入れているように見える。
どんどんダンジョンを潜って一年生で一番深く潜れると、間違いなく才能あるダンジョンマイナーとして見られるだろう。
そうなると最悪正義感があったり、三人を引き抜きたかったりパーティーに入りたいやつから俺が嫌がらせを受ける漫画みたいな展開もありえる。
もしそんな事に出くわしたら、笑ってしまうかもしれんが。
「でもその前に! 人間をテイムするとか聞いたこと無い! 外聞も良くない! スキルはモンスター用だからなんかお前たちに副作用とかあるかもしれない! 結論! 怖い!」
「そりゃあそうだけど……、一回だけ潜らない? 報告はその後でいいでしょ」
「勘違いするなよ、俺にはテイム解除というスキルもある……」
「それこそ待ってよ、テイム解除したモンスター消えるじゃん、テイム解除したら私たちが消えるかも」
「えっ、せっかくセンパイと会えたのに消えたくないんですけど!」
「……八方塞がりじゃん」
今までのテイマーの常識に当てはめれば、絶対にテイム解除なんて出来ない。
もしテイム解除で三人が消えたらどうなるかわからない、死亡扱いでダンジョンの外に放り出されるか、そのまま消滅するのか。
モンスターのテイム解除で消えた後のモンスターがどうなったのかわかっていない、楽観視してテイム解除して三人が消えて戻ってこなかったらと思うと怖い。
「……いや、先に報告したほうが良くないか?」
とりあえずテイム解除は無しになった、一か八かで三人が消える可能性を試したくない。
「……えー、せっかくダンジョンに来たのにとんぼ返りとか嫌なんだけど?」
「……私もリオナに賛成、能力値上がってんだから9階層位抜けときたいし」
「……わたし、センパイとダンジョンに潜りたいです!」
ずいっと三人が近づいて言ってくる。
「てかさ、報告したら初めてのことなんだし、色々調べられるんじゃない?」
「そだねー、あれしてこれしてばっかで何も出来なくなるかもよ?」
「何されるかわかんないんですから、今報告しなくてもいいと思います!」
そう言われると、たしかにその可能性はあるな。
なんか検査器具つけてダンジョンに潜らされそうな気もする。
検査ばっかりで窮屈な生活になるかも知れない、俺が死んだら本当にバフが切れるのか確かめたいので死んでくださいとか言われたら溜まったもんじゃない。
「別に調査なんかあたしたちで出来るっしょ、わかったことメモに書き込んどいて後で渡せば向こうも手間が省けるし」
「まあ……、確かにな。 でもなんかおかしくなったら潜るの止めてすぐ帰るからな!」
「それはそうでしょ、別に私たち死にたいわけじゃないし」
ハツキの言葉にリオナとエレンが頷く。
「……しゃあねぇ、9階層に行くか」
「おっけ~」
「やったー!」
「言っとくけどテイマーのバフは自分は対象外だからな! 9階層とか殴られたら即死するからな!」
「わかってます! センパイはちゃんと守りますから!」
情けないことだが、自衛手段がほぼ無いから完全に戦力外。
なんか持ち込んで適当に攻撃したら、ヘイトを集めて余計に狙われかねない。
くっそ情けないけど三人を盾にしなきゃいけない、まさにテイマーの鑑だな。
ため息を吐いて肩を落としながら、セーフティーゾーンにある転移盤をリオナが操作して9階層に飛ぶのであった。