『雷よ! 【ライトニング】!』
リオナが突き出した杖の先から一瞬の眩い閃光が走り、50センチ位のでかい黒蟻が稲妻に撃たれて動かなくなって、風に吹かれた塵のように消えていく。
「エレン! 【ブラストポーション】使う!」
「はいっ! 【バッシュ】!」
迫るコボルトを盾を使って押し留めていたエレンは、ハツキの宣言を聞いて盾で振り下ろされたコボルトの剣ごと押し返して盾で殴る。
その瞬間、ハツキのスキルで作られたオレンジ色の液体が入った封管がエレンの足元に投げ落とされる。
割れた瞬間、白い閃光、橙の爆発、赤い炎、爆風と衝撃が駆け抜けてモンスターたちは吹き飛ぶ。
あるモンスターは壁に叩きつけられ、あるモンスターは地面に転がる。
爆発の中心に居たエレンは一切の影響は見られず、そのエレンの正面に居たコボルトは爆発に耐えきれずに塵となって消し飛んだ。
「えいっ!」
起き上がろうとしていたモンスターに飛びかかるエレン、振り下ろしの一撃は抵抗感無く両断する。
そうして実質三対五の戦闘は、三人が圧倒して勝利を収めた。
「つよーい!」
「いやー、一撃だから楽だわー」
「ほんとほんと、今までならまだ戦ってたでしょ」
「はい! すっごい楽ですね! スパスパ切れます!」
能力値の暴力は適正階層を蹂躙する、まじでモンスターが相手になっていない。
リオナのレア属性とハツキのレア職業、これがまた強い。
リオナのジョブ、魔法使いは基本の四大属性、火水風土を使える。
その他の属性はレア属性で雷は威力と速度が突出しているようで、基本雷速で回避は不可能な上に生物系だと死ななければ火傷の持続ダメージや電気麻痺に陥ることもある。
土系統のモンスターには効果が激減するが、別に四大属性を使えば対処できる。
ハツキのレア職業、錬金術師。
ファンタジーの方の錬金術師で、何らかのファンタジー薬剤を作って敵に投げたり味方に投げたり。
先程のブラストポーションのように敵を攻撃したり何らかのデバフポーションで状態異常を起こしたり、味方には回復ポーションやバフポーションを与えることが出来る。
後衛の万能職業と言える、ただ万能は特化に勝つことはない。
リオナとダメージレースでは間違いなく負けるし、回復メインの魔法使いだと回復力が劣る。
それでも広めの範囲攻撃が出来るし、パーティーへの貢献度はかなり高い。
重宝される職業、パーティー全体を支えられるスキル群。
今はまだ覚えてないらしいが、耐性弱化ポーションや防御力弱化ポーションなどもあってアタッカーの火力を底上げできる。
どのパーティーでも一定以上の活躍ができる、素晴らしいレア職業。
じゃあ普通っぽいと言ったエレンのジョブ、騎士はリオナとハツキに劣っているのかと言うと違う。
騎士は守りに優れた前衛ジョブ、モンスターの注意を引きつけるスキルやまるで城壁のようにパーティー全体を守るスキルもある。
死んだら困る俺が居る中でエレンに守護られると非常に助かるし、リオナとハツキも安心して攻撃をぶっ放せる。
ある意味普通と言えるがこのパーティーだとよく噛み合って、居なくちゃ困るレベルになっている。
剣による物理攻撃もそこそこあるからバフが掛かっている今、主力に成り得る攻撃力も持っている。
結構バランスがいいパーティー、リオナが強いと言った意味がよく分かる。
そこに俺のテイマーのバフが入って、基本能力が底上げされて殲滅力が上がった。
文句を付けるとすればモンスターの不意打ちや挟み撃ちを防げる斥候ジョブとかも欲しいだろう。
あるいは負傷を治せる回復役か、最大5人パーティーだからジョブの配分は悩みどころ。
俺という戦闘が出来ない絶大なバフ役を抜ければ、選択肢が広がってパーティーはもっとバランスの取れたものに成り得る。
今後さらにバフが強化されるだろう俺か、全体の戦闘能力が下がるがいろんな状況に対応出来るバランスか。
勿論俺だよなぁ! テイムモンスター専属バッファーで色々スキルがあるし、他にもバフがある。
単体のみのバフをパーティーメンバー全員に適用とか、ちょっと強化倍率が高すぎますね……。
そんなこんなで9階層のモンスターを全滅させる勢いでぶっ飛ばし続けているから、俺のレベルも7まで上がった。
レベルアップに伴い俺は新しいスキルを覚えた、それは【命令】スキル。
テイムしたモンスターに命令して、行動に関連した能力値を一時的に増加させるもの。
例えば俺がリオナに魔法で敵を攻撃しろと命令する、そうするとリオナのステータスの知性が増加して魔法で与えるダメージが増加する。
エレンだったら守りを固めろと命令すれば、丈夫さと精神が増加して物理と魔法の両方の受けるダメージを軽減できる。
まだ覚えたばかりのスキルなので増加量も効果時間も少ないが、バフは【忠誠心】と重ねられるのでその行動に対しての能力値が一時的に1.4倍を超える。
瞬間的な能力値ブースト、雑魚戦とかは命令を出さなくても楽勝だが、大型モンスターや階層ボスでは積極的に使っていったほうがいいだろう。
「俺はお前らのバフ奴隷だ!」
モンスターが落としたダンジョン素材を拾いながらの一言。
「元からそういうジョブなんだから仕方ないでしょ」
「そうそう、秒殺だからタツも安心でしょ」
「センパイのおかげで全然痛くないんですよ!」
全く危なげなく勝てているんだから、実際は何も言うことはないけど。
やってることはモンスターを三人に置き換えただけ、だからテイマーのバフが三人に入って馬鹿みたいに強くなっている。
パーティーに置物バフ要員を入れると運を除く全能力値が常時1.3倍以上になります、戦闘時は1.4倍を超えます。
欲しい所はマジで欲しそうだな、ヒューマンテイマー。
「それじゃ、10階層に行きますか」
「おー!」
その後も現れるモンスターを粉砕して、10階層への階段を下っていった。
10階層、一つの区切りとなる階層。
フロアボスが居て、11階層への階段を守っている。
実にわかりやすい構造で、セーフティーゾーンを出れば大きな広場があって中央にフロアボスが鎮座している。
その背後には半透明の揺れるベールのような障壁があり、フロアボスを倒さないと障壁が消えない仕様となっている。
「……こっからリオナの魔法をぶち込めない?」
「それが出来るならボスなんて要らないでしょ」
「ですよねー、じゃあフロアに入って魔法ぶっ放してすぐここに戻るってのはどう?」
「だからー、そんなセコいこと出来るならボス要らない! わかった!?」
「ハイワカリマシタ」
かなり古いゲームではフロアの外の通路から攻撃出来るとか、行動制限でプレイヤーがフロアの外に出ればフロアの所定の位置に戻っていくなんてこともあるようだが、流石にダンジョンはそこまでゲームすぎなかった。
「作戦会議、ボスはあの積まれている石のゴーレムね。 あれは土属性だからあたしは風の魔法をぶっ放す、ハツキはエレンの回復重視で合間に爆発させといて、エレンは効果薄いけど攻撃と挑発スキルでヘイト稼いで引き付ける、タツはあたしたちの攻撃や防御の前に命令スキルを掛ける。 おっけー?」
特別な戦い方をする必要はない、事前の情報でいつもの戦闘パターンで勝てると踏んでいる。
石のゴーレムは物理特化で魔法は使ってこない、そのゴツい岩の腕でぶん殴ってくるのと、たまに後衛に向かって岩を投げつけてくるくらい。
知能はかなり低いから、エレンがヘイトを集めればエレンばっかり攻撃して岩を投げてこないだろう。
問題は負担がエレンに集中することか、ボスと呼ばれるだけのことはあってザコモンスターよりは強いのは間違いない。
騎士のジョブはヘイトタンク、モンスターの注意を引きつけて攻撃を受けるもの。
盾で防御しても衝撃やらで痛いのは間違いない、性別の差で能力値は変わらないらしいけど女の子に攻撃を一身に集めさせるのは結構気が引ける。
だから俺が守護れたらよかったが、生憎クソ雑魚テイマー。
「……エレン、負担を掛けちまうな」
「! だいじょぶです! センパイは絶対守りますから!」
声をかければ硬い表情からニッコニコの笑顔になって強く頷くエレン、クールな顔立ちから溢れるような笑顔が出てくるのは中々にギャップがあって可愛らしい。
なんとなくではあるが、レトリバーのような大型犬のイメージが湧いてくる。
「タツだけじゃなくてあたしらもちゃんと守ってよ」
「そうだぞー」
「勿論です! 皆を守ります!」
皆で笑って、気合を入れる。
気が抜けるほどに簡単に倒せるか、笑えないくらい苦戦をするか。
もしかしたら全滅もあり得るかも知れない、全力で潰しに行く。
「よし! 行くよ!」
前衛はエレン、5メートルほど離れた後方にリオナ、俺、ハツキで斜め一直線。
基本リオナとハツキが俺を挟んで守る陣形だがもし岩を投げられた時、横一直線だと避けようとした時ぶつかるかも知れないので今回は斜めの配置。
パーティーは同じ歩調でフロアに足を踏み入れる、すると石の小山が震えだしてガタガタとゴーレムの足元から全身を形成する。
「うおっ、でっか」
男の平均身長の3倍、5メートルはありそうな石のゴーレムが完成して歩き出す。
「バフ掛けるよ!」
ハツキがスキルで作った緑色の防御ポーションをエレンの足元に投げる。
ガラスと同じようにパリンと割れると、無数の緑色の光がエレンに纏わりついて防御力を増加させる。
「行きますっ! うおおおおお!」
エレンが盾を構えて駆け出し、全然怖くない【挑発】スキルを放ちながらゴーレムへと接近。
それに反応してゴーレムが右腕を上げる、文字通り石の塊である1トンは優に超えていそうな腕が振り下ろされる。
見た目に反して振り下ろす速度は早い、駆け抜けて足を斬りつけるつもりだったエレンは反射的に盾を構えた。
『エレン! 防御だ!』
エレンに防御の【命令】を飛ばす、瞬間的にエレンの丈夫さと精神の能力値が引き上げられ、それからわずかに遅れてゴーレムの腕が直撃する。
地面が小さく揺れる、殴り飛ばされたわけでも、叩き潰されたわけでもなく、エレンはゴーレムの右拳を盾で受け止めていた。
「タツ!」
『リオナ、魔法攻撃だ!』
ゴーレムの動きが止まる、エレンを潰そうとして集中している隙にリオナに攻撃の【命令】を飛ばす。
『風よ! 【ウインド・ボルト】!』
命令スキルのバフが掛かった風の魔法、螺旋の風を纏った見えない何かが放たれてゴーレムに向かって高速で直進。
一瞬でゴーレムの左胸に到達し、肩から根こそぎ左腕を吹き飛ばす。
「タツ! 回復と攻撃!」
『ハツキ! エレンを回復! その後に攻撃!』
「でぇい!」
スキルの回復ポーションをエレンに向かって投げ、すかさずブラストポーションを生成して体勢を崩していたゴーレムに投げつける。
弧を描いたオレンジ色が、ゴーレムの上半身で炸裂。
ゴーレムは爆発の衝撃に耐えきれず、石に大きなヒビが入りつつ派手に仰向けで倒れる。
『エレン! ゴーレムを攻撃して立たせるな!』
「はいっ!」
右腕を支えとしてゴーレムが立ち上がろうとした所に、駆け寄ったエレンがゴーレムの右前腕にブロードソードを叩きつける。
金属と石の鈍い音が同時に響き、振り抜くと同時にゴーレムの右腕が崩れてもう一度ゴーレムが倒れる。
「もう一発で終わりっしょ! タツ!」
『リオナ、魔法攻撃だ!』
『風よ! 【ウインド・ボルト】!』
ウインド・ボルトが空間を駆け抜け、ゴーレムの股から突き刺さって上半身ごと吹き飛ばしてバラバラに石が飛び散る。
「やったかっ!」
ゴーレムの散らばった石は再度集まることはなく、塵のようになって消えていく。
すると奥の障壁のベールが消えて、ボスを撃破した事が確認できた。
「やりぃ!」
グッとガッツポーズをとる、実際の戦闘時間は短いものの初めてのボス戦だからかなり緊張感があった。
とくにエレンがゴーレムの攻撃を受けた時はかなりヒヤリとした、一撃で潰されたのかとブルってしまった。
わかっていたことだがダンジョン内では人間を超人にしてしまう、漫画やアニメみたいな突っ込んでくる車を体一つで止めたようなもんだ。
「エレン! 大丈夫かー!」
「ちょっとだけ痛いでーす!」
俺が腕を振るとエレンも振り返してくる、流石に交通事故クラスの衝撃だと無傷とは行かないか。
歩いてゴーレムが居た場所に集まると、幾つかゴーレムのドロップアイテムが落ちている。
「アイテムの相場がわからねぇからまだ喜べないな」
アイテムを見たらどんなものかわかるようなスキルは誰も持っていない、全部持ち帰るけどレアアイテムが一つもない可能性も当然ある。
「まあ、まずは突破できたのを喜ぼうや」
「リオナの魔法が刺さりすぎてるから、フロアに入ってすぐ魔法ぶっ放せば簡単に倒せそうよね」
あらゆる行動には何らかのステータスが参照される、レベル9か10で行けるボスをさらに命令スキルでバフ掛けてレベル17か18くらいの能力値で殴ればゴーレムは死ぬ。
リオナの風魔法で下手しなくても一撃でHPを半分以上消し飛ばしてそうだよなぁ、弱点属性だからマシマシで十分あり得る。
「そうだ、レベル上がったし新しいスキル試すか。 エレン、ちょっと試していい?」
「いいですよ! どんなスキルですか?」
ボスの経験値を獲得してレベル8になった、その際新しいスキルを習得した。
「応急処置って回復スキル、いつも通りテイムしたモンスターだけに使えるやつ」
先程まで回復出来るのはハツキだけだった、でも俺も回復スキル覚えたから戦術の幅は広がっただろう。
本職には届かないだろうが、回復手段はいくらでもあったほうがいい。
とりあえずエレンを見て応急処置を使おうとするも、使える状況じゃないのかスキルが反応しない。
「……ん? 使えない? エレンは全快してないよな?」
そう言ってエレンを見ると、エレンのステータスが脳裏に映る。
「はいっ! まだちょっとHP減ってます!」
「……おー、マジか。 テイム済みのせいかエレンのステータスが見える……」
名前、レベル、最大HPとMPに現在HPとMP、能力値や習得済みスキルも見える。
パーティーメンバーとは言え当然他人のステータスは見えない、だがテイムモンスター扱いなのか三人のステータスが全部見える。
「まぢ? あたしの見えんの?」
「ああ、リオナもハツキも見える。 これならHP管理も簡単だな」
ゲームのように仲間のHPやMPは見えないので、返事を待たなくても回復させることが出来る。
「便利だけど、やることがどんどん増えていくな……」
「すごいですね! それが応急処置のスキルですか?」
「いやちがう、まだスキルが反応しねぇ」
距離の問題か? そう思って離れてみるもスキルは反応せず。
今度は逆に近づいていくもやはり反応しない、エレンをもう一度見れば現在HPはたしかに少し減っている。
HPが全快で使えないならわかるが、HPが減っているのに使えないなら回復スキルなんて言えない。
「……応急処置ってスキル名だし、痛い場所に触って使ったりするんじゃ?」
ハツキの予想に確かにと頷く、ハツキの回復ポーションは範囲内に入っていないと効果が出ない。
魔法使いの回復魔法も対象に当てて回復させるから、魔法のように飛ばせない可能性もある。
「どっか痛いところはあるか?」
「……左腕が少しだけ痛いですね」
「おっけ、お体に触りますよ……」
「たまに出てくるキモいのなんなん?」
「漫画のセリフ」
差し出されたエレンの左腕に触れる。
「……ダメだ、使えねぇ」
やはりスキルが反応しない、誰がどうやって何を回復させるんだよこのスキルはよぉ!!
「意味わかんねぇ~、でも放っておくのはダメだしなぁ……」
わかんないから放置して、いざ回復しなきゃいけない時が来たのに使い方はわかりませんじゃまずい。
「離れても使えないし近づいても使えないし触っても使えない、わけわかんないねぇ」
「んー、回復で場所指定なんて聞いたこと無いしなぁ」
「……テイマー、回復……」
勉強したテイマーの情報を思い出そうとして唸る。
テイム、テイム解除、命令、応急処……置……。
「……つ、使えねぇ……」
思い出した、実用性皆無な回復スキルだこれ。
「え? なんかわかった?」
「……ああ、思い出した。 戦闘してる時は全く使えない回復スキルだわこれ」
「どうやって回復するんですか?」
「……テイムしたモンスターを、抱きしめて使う」
犬や猫のペットを可愛がる時、抱きしめたりしないだろうか?
あんな感じでテイムしたモンスターのどこかに腕を回して、抱きしめると使用可能になる回復スキル。
スライムとかぶよぶよしてるテイムモンスターとかどうすんだよ、相当な好きものじゃないと応急処置で回復できねぇだろ!
しかも即時回復じゃなくて、抱きしめている間だけ継続回復するやつだろ!
「………」
恐らくこの方法で応急処置スキルは使えるとわかったので、ダンジョンを先に進むか帰るか。
そう提案しようとして顔を上げると、瞼を閉じて口を噤いで気をつけの姿勢のエレンが視界に入る。
「……それじゃあ帰るか」
明らかに待っている状態に、呆れて帰ることを宣言すると。
「……あた、あいたたたた。 なんか体が痛くなってきたかも……」
「うっ、頭が痛い……。 誰か回復してぇ……」
「お前らのHPは見えてるからな」
ダンジョンに潜ってから一度も攻撃を受けていないリオナとハツキが急に痛がり始める。
「で、でも、本当にその方法じゃないとスキルが使えるかわかんないから今しっかり確かめておいたほうがいいって」
「う、う……、必要な時にやっぱり使えませんでしたはまずいって、いたたたたた……」
何でこいつら小賢しいことしてんだ、正論吐きながらやることじゃねぇだろ!
「……はぁ~、確かに使えるか確かめとかないとな。 それに、エレンは一番頑張ってくれたし」
ハツキの回復力は高くない回復ポーションを投げれば全快する程度のダメージでも、モンスターの攻撃を一身に受けてくれた。
これからも体を張ってくれるんだから、エレンの体を労ってやるのは当然か……
こんな待ってる体勢だし、受け入れる気満々だし、俺の役得でもあるからスキルを使ってみるか。
「……エレン、スキルを試させてもらうぞ」
「はいぃ!」
何だこの返事、上擦りすぎて変な声になっている。
「……エレン、前からと後ろからと、どっちがいい?」
「前からお願いしまぁす!」
要望通りに前からエレンの背中に腕を回す、だがスキルは反応しない。
出来るだけ触れないようにしているせいか、下手すると密着しないと使えないんじゃないかこれ。
少しずつ腕を閉じていって、エレンに触れていく。
触れた時にビクッとエレンの体が跳ねたが、そのまま抱きしめる。
体を押し付けるから皮装備ごしにエレンの胸が潰れていってるのがわかるが、お互い皮装備を付けているから柔らかさは殆ど感じられない。
「………」
ギュッと抱きしめた時、応急処置のスキルが使用可能になる。
エレンのいい香りがするが、皮装備の獣臭さも感じるので思ったより役得じゃなかったかも知れない。
すぐにスキルを発動、減っているHPが少ないから5秒ほどで全快。
スキルレベルが低いから、1割も減っていないHPを回復するのが遅すぎる。
戦闘が終わってMPを節約するときぐらいしか使えねぇなこれ。
「……それじゃ、帰るぞ」
「あぁ……」
離れた時にエレンは名残惜しそうな声を漏らす、そんなに俺がいいんか?
「いたたたたたぁ!!」
「うわぁー! いたいぃぃぃぃ!」
「……応急処置を受けたいから痛がってんのか? それとも抱きしめられたいからか?」
「うわぁー! そんな事言わせんなばかぁー!」
「そんなはれんちなぁー!」
「はいはい、抱きしめて欲しかったら外でしてやるからさっさと帰るぞ」
「帰るかー」
「素材いくら位になるかねぇ」
今にも地面に転がりそうだったリオナとハツキは、何事もなかったかのように普通に歩き出す。
「……おら、エレンも帰るぞ」
「……ふぁい」
エレンはエレンでふらふらとしながら歩き出す。
思っていた以上に、あいつらの脳みそは俺で一杯らしい。
ため息を吐いて少し笑う、バフを掛けているが実際に戦闘しているのは三人。
三人の比べれば遥かに楽な立場、俺も三人の事を好きだし、望むなら答えるくらいはしてあげよう。
……ちょっと待て、これって忠誠心のスキルのせいでは?
やっぱ戻ったら学校に報告したほうがいいかも知れない……。