ダンジョンの外に出れば、ダンジョンジョブの効果は消える。
つまりただの人間に戻り、忠誠心もテイムされた効果も消える。
実際、ダンジョン内で感じていた繋がりは感じ取れなくなっている。
となると、やっぱりテイマーのスキルはダンジョンの外では危惧する必要がないのか?
頭の中でもやもや考えながら、換金しているリオナたちを見る。
「換金したポイントはどうされますか?」
「パーティープールに入れといてください」
「わかりました、そのように処理をしておきます」
装備を預けた後ダンジョンゲートターミナルの換金フロアで、拾った素材をすべて渡してポイントに換金。
パーティーの共同口座に全部入れる、こうやってパーティーを組んで活動するなら分前のことを考えなければならない。
分け方はパーティー次第だが例えば半分は共同口座に入れて、残り半分は頭数で割って個人の口座に入れてもらうなど。
パーティー全体で使うような物なら共同口座から引き出して購入したり、個人で使うものは個人で買ってくれと言う塩梅。
だがこのパーティーは全額共同口座で、個人の装備も全部共同口座から出す。
言うなれば運命共同体。
互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。
一人が四人の為に、四人が一人の為に。
だからこそダンジョンで生きられる。
パーティーは姉妹、パーティーは家族。
冗談はなしだ、俺はクソまじめな男だ。
「かーえろかえろー!」
「さぁ~かぁえろぉ~!」
嬉しそうなリオナとハツキ、それとまだ上の空なエレン。
「待ちな」
その三人を呼び止めるのは俺。
「金、あるんだろ? 装備更新しようやぁ……」
とりあえずダンジョンジョブの事は置いといて、これから潜り続けるならやらなきゃいけないこと。
正直初期装備は卒業しておきたい、もっとちゃんとした装備ならさらに効率的になれる。
とくにエレンは一式総取っ替えして、ダメージを可能な限り減らすべきだ。
最悪剣はそのままでいい、だが防具はガッチガチにしときたい。
テイマーのバフで能力値が増加してたからゴーレムの攻撃を受けても問題なく動けるダメージだったが、俺が居らずに三人だった場合でゴーレムの攻撃を受けていたら無視できないダメージを負っていたと思う。
エレンは文字通り壁だ、エレンという壁がなくなった時に迫るモンスターたちを処理できなければ全滅する。
エレンの装備を更新して、受けるダメージを極力減らせば肉体的にも精神的にもエレンの負担は減る。
そうなればリオナとハツキへの圧力も減る、圧力が減れば憂いなく攻撃をぶっ放せる。
ぶっ放された攻撃でモンスターが減る、そしたらエレンの負担が減る。
つまり、永久機関が完成しちまったなアア~!! これで学年首席は俺たちのモンだぜ~!!
逆にリオナとハツキは武器とか攻撃力アップを狙える装備だけを更新してもいい。
「それはいいけど、ダンジョン帰りだし明日でいいっしょ」
「シャワー浴びたーい」
「……しゃあねぇか、じゃあ明日にすっか」
俺は戦闘に殆ど参加していない、ただスキルの命令を使ってただけ。
しかもテイマーのスキルは殆どMPを使わずに発動できる、応急処置のような回復スキルは流石に使うが回復が雑魚いせいか使用MPは少ない。
なので肉体的にも精神的にも他の皆よりはるかに負担が小さい。
楽勝とは言え気を張って戦っている三人は俺よりはるかに疲れている、無理強いして連れて行くのは流石に違うか。
「集合場所とか後で連絡入れるー」
「入れるー」
「うー」
「ゾンビかお前は、ほら、家に帰ってシャワーを浴びてしっかり休む、わかったか?」
「ふぁい」
「よし、じゃあまあ明日な!」
エレンの背中を押して、リオナとハツキの方へと押し出す。
だがエレンを受け取ったリオナとハツキが、エレンを引っ張りながら戻ってくる。
「あんたも帰んのよ!」
「どうせ一人で工房に行こうとしてんのバレバレなんだかんね、あの時も帰ったふりしてケーキ買いに行ってんの知ってんだから!」
バ レ バ レ で し た 。
「……俺疲れてないし、先に調べとくくらいさせてくれよ」
あとケーキを買いに行った時の話は、ハツキがケーキを落としたせいだからな。
しかも俺のじゃなくてハツキの分を落としたから、すっごい空気が冷えたしハツキが泣きそうになったから俺の分をハツキの分と偽って渡したんだぞ。
全く、人の優しさを知らないで……。
「そんな気遣いいらないっての!」
「いいから! もう帰るよ!」
リオナとハツキに左右から腕を掴まれて、強制的に帰らされた。
翌日、授業が終わってダンジョンマテリアル開発製作所、通称『工房』の傍で待ち合わせするも生徒がごった返している。
国立ダンジョン専門学校の生徒数は1万人を超える超マンモス校、ある程度の生徒数を収めるためにどの建物もでかい。
一番生徒が集まるのは校舎で、次はダンジョンゲートターミナル、三番目がこの工房。
生徒がダンジョンを攻略するために必要な装備はこの工房で作られている、武器や防具、アイテムと色々。
外観からして大型ショッピングモールと言っていい、中にはダンジョン素材をメインとした店舗がひしめき合っている。
民間ではなく国営なので並ぶのは検査済みの店舗だけ、使用されるダンジョン素材もここのダンジョンから掘ってきた物を使っているので変な店はあっても詐欺のような店はない、らしい。
どっかの怪しい店で買うより国営で買っとけって話、支払いはダンジョンポイントで出来るので楽。
ダンジョンに潜って素材を持って帰る → ダンジョン素材を換金してポイントを貰う → そのポイントで装備を整える → またダンジョンに潜るの永久機関。
今まさに俺たちはダンジョンのメビウスに囚われたのだ!
「防具店って言ってもあり過ぎるからどこの店がいいかわかんないわね」
「だから事前調査しとくべきだったんだよ」
「はいはい、手近な店からいこっか」
「はーい」
装備の種類ごとに店舗が固まってるから助かるな、人によっちゃ工房に入って一番近い店で済ますだろう。
「まずは鎧とか盾を飾ってるとこを探そうぜ」
2階の防具エリア、地図を見れば100店舗はある。
1万人の生徒の防具を支えるんだから、こんだけの店があっても不思議ではない。
手広く色んな防具を扱っている店から、一種類だけを扱っている専門店もある。
現代のショッピングモールで店先に飾ってあるのは、間違いなくほかで見られないいかつい防具ばかり。
商品はそのままで、店の雰囲気を整えれば一気にファンタジックな光景になる。
「あっ、あそこは?」
リオナが指さした先には、色んな盾や全身鎧が飾られた店。
いかにもらしい防具店、足を運んでみる。
見た目はアパレルショップだ、だがおしゃれな洋服や靴ではなく盾やガントレット、ヘルムやガントレットなどが棚に飾ってある。
よく見れば西洋的な鎧ではなく、ファンタジーで出てきそうな防具ばかりだ。
装飾も凝っており、カッコイイと言える造形の防具。
「……やっぱ高いか」
今見ている装飾は少なく性能を重視したようなガントレットの値札には15万と書いてある、さらに詳しく読めば付与能力なども書いてあって完全にファンタジー防具なもの。
RPG的に見れば物理ダメージ軽減や軽量化の特殊効果が施されている、それでも15万なんで低階層向けの装備なんだろう。
となると、やっぱり装備は青天井で値段が上がっていくのが予想できる。
妥協はしたくないがポイントが限られているので妥協するしか無い状況、11階層くらいならさほど変わらないだろうからレベリングしつつポイント稼ぎした方が良いか……?
「センパイ、なにか良い物ありましたか?」
「予算から見るとそれなりのしか買えないかな、やっぱ」
「これは良さそうなんですかね?」
俺が見ていたガントレットをフレンが指さす。
「15階層まで魔法を使ってくるモンスターは出てこないから、間違いなくあの皮装備よりありっちゃありだな」
「へー」
「でも一式揃えると高くなるからなぁ……、いっそ店員さんに聞いてみるか?」
「よくわかんないんでそのほうがいいかもです」
素人の俺達より遥かに詳しいだろう店員に聞いてみるか、そう考えたところでいつのまにか結構近くまで近づいてきていた女性の店員を呼ぶ。
「すみません」
「はい、いかがされましたか?」
聞かれるまで話しかけてこない、こういう店は好きだよ。
「一式揃えたいんですけど、詳しくないんで予算内で揃えられるか確かめたいんですが」
「予算の方はおいくらまででしょうか?」
「150万っすね」
結構な額ではあるが、スキルで何とかしてきたから装備を更新していないのでポイントが溜まっていた。
そして今回話し合って今共同口座に入っている7割のポイントを使って、エレンの装備を揃える事にした。
「150万ですか、予定の階層はおいくつでしょうか?」
「11階層からですね」
「もう10階層を突破されたのですか? おめでとうございます」
「ああ、ありがとうございます」
やっぱ潜る速度は早いみたいだな。
「やっぱり少ないですか? 10日も経ってないのに10階層抜けるって」
「それなりに勤めていますが、覚えている限りですと軽く数えられる程度ですね」
「やっぱ早いか、もうちょっとじっくり行っていいかもしれんね」
俺はRPGでその時の最強装備にしたいタイプだから、11や12階層をぐるぐるしてもいいかもしれんな。
「とりあえず見繕ってもらえませんか?」
「わかりました、着用される方のジョブはどのようなものですか?」
「騎士ですね、ほらエレン」
「えっ!? わたしですか!?」
話を振られたエレンが目を丸くして驚く。
「お前話し合いで何聞いてたんだよ、お前の装備を更新しに来たの!」
エレンの背中を軽く押して、前に出させる。
「……お客様、申し訳ありません。 こちらのお客様ですと胴鎧の調整にお時間が掛かりまして……」
でしょうね、エレンの胸のサイズならこの店に飾ってある鎧は全部着られない。
着れても強く胸を押しつぶす形になるし、ちゃんと合わせたものならオーダーメイドになりかねん。
「胴体だけ調整が効くやつで揃えられませんか?」
「いくつか種類がございまして、モデルサンプルですがご覧になられますか?」
「お願いします、エレンのだし選んでこい」
「センパイが選んでください!」
「なんでもこっちに投げんなよ!」
とりあえず小物を見ていたリオナとハツキを呼んで、店員に案内されて店の奥にある採寸室へと入る。
長方形の部屋、部屋の奥には大きめの機械が置いてある。
「採寸しますので、あちらの床のバツ印の上にお立ちください」
「……あの、服は脱ぐんですか?」
エレンがチラチラと俺を見ながら店員に聞く、確かに服を脱いで採寸するなら俺が居るとまずいが。
「いえ、服の上からでも採寸できますので」
どこかホッとしたような表情で、バツ印の上に立つエレン。
「腕を水平に上げていただけますか? すぐに採寸できますので」
言われた通り腕を上げて、いわゆるTポーズで数秒。
「はい、採寸は終わりました」
腕を下ろして戻ってくるエレン、店員がパソコンを操作するとさきほどフレンが立っていた位置にT字ポーズの3D全身マネキンが現れる。
ただ店頭に服を着せて飾ってあるようなマネキンとはスタイルがぜんぜん違う、体の凹凸が際立ったマネキン。
服の上からでもすごいでかいとわかるのに、計測機器で正確に測られたエレンのボディラインが詳細に再現されたマネキン。
でっっっっっっ! ふぅ……。
その超グラマラスマネキンを見ていたら、左右から手のひらがフェードインしてきて顔の前に置かれる。
「………」
無言のリオナとハツキの手が俺の視界を遮っていた、俺がいいって言ってたけど俺が好きとは違うのか?
ふっ、いつか生で見て俺がいいって言ったことを後悔させてやらねぇぜ。
「胴鎧は3種類ありまして……」
二人の手が降ろされた時には、3Dマネキンは全身に鎧を纏っていた。
ゲームでよくある同じ装備なのに男は全身覆われていて、女だと肌面積が一気に増える現象は起こらずにちゃんと全身鎧の姿。
3種類全部別のとこが作ったんであろうデザイン、装飾は少なくシンプルな防具。
「……俺は3番目がいいかな」
それぞれデザインは違うも性能差は殆ど無い、なら好みのデザインで選んでいいだろう。
その中で3番目の鎧が少し華やかに見えた、とくに胸元とヘルムのデザインがいい。
胸元にはワンポイントの羽のデザインが入っていて、ヘルムは頭の前面だけを覆うタイプで正面から見れば目、鼻、口部分がY字に空いた物。
大きな無骨さの中に小さな華やかさが見える、ジョブが前衛でも女の子はこんなゴツゴツした鎧は着たくはないだろう。
そういう心理を汲み取って低予算の中で性能を重視しつつもちょっとした可愛らしさを入れ込んだのは悪くない、エレンの可愛らしさは減るだろうが代わりに格好良さが映える。
「じゃあ三番でお願いします!」
「イエスマンやめろ?」
俺の一声はエレンの一声だったようで、あっさり三番目の装備に決まる。
支払いを済ませて出来上がり次第エレンの装備倉庫に納品することに、今日の買い物はこれで終わりと帰ろうとしたところで左右から腕を絡め取られる。
「あたしらのもちょっと新調するから」
「そうそう、あの皮装備ちょっと臭いし」
「皆で稼いだポイントなんですから、皆変えてもいいと思います!」
リオナとハツキに引っ張られて歩き出す。
エレンも乗っかって、俺の背中を押してくる。
「それはわかるけど、ポイント足りねぇだろ」
「別にエレンのように一番いいのじゃなくていいの」
「ちょっとだけマシなのでいいから」
そう言われてあれこれ言いながら防具屋巡り、二人の装備を選ばされて防具一新。
その後は俺の装備を三人が選んで、長時間着せ替え人形になりましたとさ。
嘘キャン