楽しい楽しいデートが終われば、解散して帰路に着く。
家に帰り、明日の準備をして、寝床につく。
そうなるはずなのに、出発したバス停で降りたときには四人。
四人で一塊になって、俺の家に向かう。
太陽は地平線の向こうに落ちた、未だ空は明るい。
三人の家は俺の家じゃない、帰るべき家は俺の家じゃない。
帰れというのは簡単だ、だがあの話を聞いたら口には出せない。
小さな頃から家に一人で、ダンジョンに潜ることになっても借りた部屋に一人。
日付が変わってもチャットをやり取りするのは、寂しさを紛らわすためか。
まあ、一人になりたくないならならなくて良い。
小学生の頃の延長だ、日が暮れても遊ぼう。
借りているアパートの部屋に戻れば、三人も普通に入ってくる。
「晩御飯、何食べる?」
「食べに行くのも面倒だしねぇ」
「いっそのこと頼んじゃいます?」
まるで自宅のように、晩御飯の相談をしている。
「家主を除け者にしていいと思ってんのかー、俺ピザが食べたいなー」
学生ダンジョンマイナーとして補助費と両親から生活費を貰っている。
そこそこ外食しても問題ない位にはあるが、食べたいが店に行くのは面倒くさい。
配達も選択肢にあるが、当然店に行って買うより高いので頼まない。
その結果、動画サイトにある簡単にできる料理とか、納豆とか卵かけ御飯で済ませることがよくある。
今回はそのどれもに当てはまらないから食べたい物を伝える、ダンジョンポイント様々だぜ。
「何のピザか選んでよ」
上着を脱いでベッドに座るリオナから手招きされて、前で覗き込む。
「……どれにすっかなぁ」
リオナの前からスマホの画面を逆さで見る、同時にリオナの胸の深い谷間と谷間の上にネックレスの宝石が小さな輝きを放っている。
まったく、こいつはハレンチな女だ、胸の谷間もそうだがミニスカートだからちょっと角度を変えるだけで下着が見えかねないぜ。
だが俺は紳士だ、指摘すると間違いなくセクハラされるので指摘しないのぜ。
「……これだな、ポテトのなんとかかんとか」
「おっけー、二人はどれにすんのー?」
リオナはハツキとエレンに交代でスマホを渡して選ばせる。
「コーラも頼んどいてー」
部屋に一脚しかない椅子に座り、スマホを操作する。
三人の雑談をBGM代わりに見ているのはダンジョンの情報、ダンジョンは毎回構造が変わるが、出現するモンスターは変化していない。
15階層から魔法攻撃、つまり遠距離攻撃をしてくるから初手で俺が狙われて死ぬ可能性がある。
戦闘はこれからより注意しなくちゃならない、予兆を見逃して魔法を食らって死にましたは話にならない。
となると防具も大事になるな、自己バフないから外付けで防御力や属性耐性を上げなきゃならない。
一発耐えるのと一発で即死は天と地の差がある、盾とか装備しても装備適正無いから期待できないしなぁ。
俺が死んでもバフが消えるだけで戦えないわけじゃないし、三人の装備を優先して殲滅力を上げたほうが良いか?
攻撃されなきゃ死なないし、先手必勝ならぬ先手必殺のスタンスもありか。
でもそうなるとタフなフロアボスや大型モンスターが危ないんだよなぁ、10階層の石のゴーレムのように5レベル分上の能力値でも一撃で倒せないから今後はもっと無理だろうな。
待てよ? 確か魔法使いには自己バフがあったような……。
……属性ブースター、特定の属性の威力を増大させる自己バフスキルか。
ハツキがいつか覚える属性耐性低下ポーションと合わせれば、超火力で夢の一撃必殺も行けたりするか。
問題はいつ覚えるかだよなぁ、個人で覚える順番違うのはつれぇー。
まあ今必要じゃないけど、シナジーで火力が跳ね上がるから覚えたら──。
「──うおっ! 何だよ!」
雑談BGMがいつの間にか聞こえなくなって、ふと顔を上げたら囲まれていた。
「何見てるんですか?」
正面からニッコリと笑顔で聞いてくるエレン、前かがみで覗いてきて顔が近い。
「何って、ダンジョンの情報だけど」
「それって今見なくちゃいけないこと?」
左からはハツキが聞いてくる、視線の高さを合わせているから前かがみで笑顔が近い。
「……いや、今じゃなくていいけど」
「じゃあ、今大事なのって何?」
右からリオナ、やはり笑顔で前かがみ、深い谷間が長い谷間になっていた。
「……相手をして欲しいならそう言えよ」
「だからそう言いに来たんだけど?」
「……仕方ねぇだろ、もうすぐ15階層なんだから」
あーこわいこわい、飛び道具こわいこわい。
「………」
し、視線がこわいこわい……。
「……わぁーったよ、でも今日はデートとか言って全部こっちに投げたんだから、こんくらいはそっちで決めろよ」
俺と遊びたい? 遊んでやるからそっちで決めろ。
外はもう暗くなってるし、俺はゲームくらいしか思いつかねぇ!
「だから言ったでしょ」
俺の手、ではなく肘掛けや背もたれを掴んで椅子ごと動かされる。
「一緒に居てくれるだけでいいってさ」
ベッドの傍まで動かされ、三人はベッドに対面になるように座る。
うーん、赤! 青! 黒! だからミニスカートにすんなってあれほど言っただろっ!
「俺は適当に頷いときゃ良いのか?」
「それもいいけど、シンプルに遊ぼうよ」
スマホを見せつけてくるハツキ。
「……カードゲームか、いいぜ……!」
DLしてインスト、起動してプライベートルームマッチ。
「きたぜ、ぬるりと・・・」
始まるトランプゲーム、シンプルなババ抜きや神経衰弱などを楽しむ。
「はぁっ!? ちょっとそれずるいです!」
「ずるくないでーす」
「1位を蹴落とすのは当たり前だよねー、っでぇ!?」
「2位も蹴落とす、当たり前だよなぁ!」
勝った負けたで声を上げる、白熱していた所に呼び鈴。
「お、来たか」
ピザか荷物か、ゲームを中断してスマホを持ったまま玄関に向かう。
玄関のカメラを覗けば特徴的な制服を来た配達員、ピザを受け取り部屋に戻る。
「晩飯ターイム」
小さなテーブルに落ちない程度に置く。
蓋を開けば出来たて数分の、熱々なピザが姿を見せる。
「わぁ! わたし、あんまりピザ食べたこと無いんですよね!」
「俺もあんまりないんだよな、スーパーに売ってる焼くだけの小さいやつは結構あるんだが」
「へー、そんなのあるんだ」
「値段相応の味だけどな」
「……あー、おいしっ」
「もう食ってるけど、手は洗ったのかよ」
「洗ったに決まってんでしょ!」
プンプン怒るハツキをよそに、台所に手を洗いに行く。
ガシガシとしっかり手を洗い、タオルでしっかり水気を拭って部屋に戻ると。
「……あ、おい! 俺の食うんじゃねぇよ!」
俺のピザが3ピース無くなっていた、三人の手元には1ピースずつあった。
既に食べていたハツキのはともかく、リオナとエレンのピザは1ピースも欠けていない。
「……ったくよぉ、食べていいかぐらい聞けよな」
「食べたよ」
「事後スギィ!」
ピザを美味しくいただいた後、ピザの箱を片付けた時には19時を回っていた。
完全に夜の帷が落ちていて暗い、だと言うのに三人は楽しそうにはしゃいでいる。
この分だとまだまだ終わりそうにない、流石にもうちょっとしたら送っていかないとな。
そう考えた所に、呼び鈴がまた鳴った。
おそらくショッピングモールで発送した荷物だろう、カメラを確認した後ドアを開ける。
「お届け物です」
配達員が持っていたのは段ボール、それとやけに長いビニールに包まれた円柱状のなにか。
配達先がうちになっているのを確認して、2つの荷物を受け取る。
「……おーい、なんか買ったのか?」
そこまで重くないので肩に担いで部屋に持ってくる。
「お、来たか」
「……何買ったんだよこれ」
段ボールと円柱状の何かが入った長いビニールを床に置く。
「はいはい、ちょっとどけてどけて」
三人はテーブルとかを端に寄せ始め、スペースを開ける。
「なにする気だよ」
「こうする気」
リオナがスマホを見つつ、荷物を開封すると勢いよく広がる。
次第に厚みが増していくそれは、部屋の端から端まで届くクソデカいマットレス。
「え?」
「5分ぐらい待たないと大きくなんないんだってさ」
「……え? 何してんの?」
何でいきなりクソデカマットレス展開してんの?
「今日、泊まってくから」
「……それは今言うことか?」
お泊り会は事前に確認を取るべきではないでしょうか?
部屋の借り主に無断で決めて、強制的に決行するのは違うんじゃあないんですか?
「……さっきも言ったけど、何かするなら先に許可取れって。 三人だけでなにかするなら何も言わないけど、ここ俺の部屋だぞ? 俺が優しいからってゴリ押しすりゃなんとかなるって、俺のこと考えてないやり方だぞ」
こういうのはガチでいただけない、親しき仲にも礼儀ありだぞ。
「……あー、そっか、なるほどなるほど、そういう事か。 幼馴染だからって好き勝手して良いって思ってるんだ? 俺が良いとかなんだかんだ言っといて、俺の考えとか無視して勝手に決めるんだ?」
「ぁっ……いや、そんな──」
「お前らもそう思ってんだろ? 三人だけで決めて押し付ければいいと思ってんだろ? じゃないとこんな事しねぇよなぁ?」
先程までの楽しい空気から一変、リオナの言葉を遮って怒ったような口調で言葉を飛ばす。
「……いや、これは違くて……」
「お、良いねぇ。 俺のことは無視して勝手に泊まることを決めたけど、実は他の理由があるってちゃんと説明してくれんだ?」
俺がこんな事を言うと思っていなかったのか、気まずそうにする三人。
「……どうした? 違うんなら理由があるんだろ? ちゃんと聞くから説明してくれよ」
少し離れたところにあった椅子を引き寄せ、深く座る。
それから待てど、三人の口から言葉が出てこない。
「……おーい、説明はまだですかー? 理由があるんだろー? ちゃんと聞くけど何時間も無言とか待てないんだけど?」
わかりやすく壁掛け時計を見て、そのまま視線をエレンに向ける。
「エレーン、説明はあるの? ないの?」
「……その、わ、わたしはセンパイと、一緒に居たくて……」
「……うん、それで? 一緒に居たくて? 押し付ければ頷いてくれるって?」
「そ、そんなことっ!」
「そんなことない? 良かった、他に理由があるんだな」
「……そ、れは……」
声が小さくなっていったエレンの目が泳いでいる、リオナとハツキを見てすぐ視線をそらしている。
「……ハツキー? エレンはちょっと説明できないみたいだからお前がしてくれよ」
「……ごめん、タツなら、う、受け入れてくれるかと思って……」
「つまり?」
「………」
「……おーい、続きは?」
少し待ってはぁー、とわざと聞こえるように大きくため息を吐く。
「リオナー? ハツキも説明できないみたいだけど?」
「………」
「何だよ、俺に勝手な決定を押し付けているんじゃないんだろ? 早くその説明してくれない?」
「……これ、あたしが決めて、二人を巻き込んで……。 勝手に決めてごめん」
「違う違う、誰が決めたとかどうでも良くて、俺に聞かないで決めた理由を聞いてんの」
そう言えばリオナも、ハツキも、エレンも、何も言わない。
三人にそんなつもりはなかったのかも知れないけど、言葉にすればそのつもりだとしか思えない。
俺を軽視している、そういうことではないかもしれない。
俺なら受け入れてくれる、そういう甘えかもしれない。
「……タツと、一緒になりたくて」
少し待っていれば、リオナが絞り出すように呟く。
「せっかくタツと遊びに行けるから……、それで、タツと……、一緒に……」
「……つまり遊びに行くことになったから、それを利用して俺んちに泊まって一緒に……ってのはぁ……、そういうこと?」
リオナは小さく頷いて、ダンジョン終わりで遊びに行く事が決まった時に立てた計画を話し始める。
四人で遊びに行くことになり、攻めたコーデで俺に意識させ、俺んちに泊まり、最後は俺を誘惑して抱いてもらおうとしていた。
それをリオナが提案し、ハツキとエレンも賛同して乗っかった。
でもお泊り会の下りで俺が怒り出したのでこうなった、ということらしい。
「……言っておくけど、別に俺は怒ってないからな? その計画とやらは置いといて、俺んちに泊まるんだからまずは俺に聞かなきゃダメだろ? その……、そういう事は隠しておいていいけど、泊まりたいのは事実なんだし」
三人が結託して俺を食おうと、俺に食ってもらおうとした計画。
そして理由を聞いていた俺に言いづらそうにしていたのは後ろめたさではなく、性行為を狙っていたために恥ずかしくて言えなかったとのこと。
「……なんか、お前ら凄いな……」
「……だ、だってあれだけ体押し付けてんのに、タツは何もしてくれなかったじゃん!」
「何もって、普通は何もしないだろ!」
「うそ! あたしの胸ばっか見てたじゃん!」
「む、胸を見るのと触ったりするのは違う話だろ!」
「じゃあ触っていいです! センパイなら沢山触ってもらっていいです!」
そう言って三人が近づいてくる。
まずい! まずくないけどこいつら俺を狙っている捕食者だった!
「お前ら急ぎすぎなんだよ! 好きなら好きでもうちょっとやり方があんだろ!」
「じゃあ今決めてよ! あたしたちはエッチなことしてもいいくらいタツのことが好きなの! 一緒に居たいの!」
「タツじゃなきゃ嫌! 私もタツと一緒がいいの! タツといっぱいエッチなことしたいの!」
「わたしも、センパイと一緒がいいんです! 抱きしめて、エッチなこともして欲しいんです!」
心の吐露と言える言葉。
振り切ったのか、まっすぐに心を伝えてくる三人。
「……わかったよ、はっきりさせておく。 俺は三人のことが好きだし、エッチなこともしたいと考えてる。 ……でもなぁ」
「でもって何よ!」
「……猿になっちまいそうでなぁ」
服の上からでも凄いとわかる三人の体、そういう事になったら虜になって腰を振ることしか考えられなくなりそうだ。
「さる?」
「お前らのことしか考えられなくなるってことだよ」
「じゃあわたしも猿になってるんで、猿同士で一杯エッチなことしましょう!」
「言葉ァー!」
こいつら吹っ切れすぎだろ!
「……はぁ、猿はともかく、するなら決めてんだろ?」
もう何を言っても止まらなさそうなので、諦めて切り出す。
「決めてるって、何を?」
「……あのさ、俺一人、そっち三人、同時無理、順番決めろ、俺順番決めない」
俺が決めると残り二人が不満に思うかも知れない、なので三人で順番を決めてもらうしか無い。
……待て、三人? 同時じゃないなら、連続?
……ヤバい、これ下手したら三連発になってしまう。
俺の息子が耐えきれなくなって爆発四散するかもしれない。
一人ずつ日をずらすか、最低でも長めの休憩を作ってもらおうと顔を上げると三人が鬼気迫る表情でじゃんけんをしていた。
うーん、グッバイマイサン。
こいつら交尾するんだ!