※この作品はR-18です。

女帝・緋村怜華、恥じらい乙女に還る夜~部下の俺はギャップにもう限界です~【毎話読み切り】   作:ren@ハーメルン

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6話 怜華、出勤前に朝のホテルで愛される★

 ゆっくりと、緋村(ひむら)怜華(れいか)は薄目を開けた。

 

 朝の柔らかな陽光が、カーテンの隙間からそっと差し込んでいる。

 

 ひんやりした上質なシーツが、肌にじかに触れている。

 いつもと少し違う空気。見慣れない部屋。

 そして、すぐそばに感じられる、確かな体温。

 

(ああ、そうだ……昨日、あのまま、ゆうくんと……)

 

 佐久平(さくだいら)悠斗(ゆうと)との甘い時間を緊急コールで中断され、二人で会社に直行して対処に追われた昨晩。

 ようやく全部片付けた頃には、すでに深夜になっていて。

 悠斗の提案で、会社の近くのホテルに一泊することになって。

 そして……。

 

 その事実に気づいた瞬間、顔から火が出そうになった。

 昨晩の甘い記憶に、体が熱くなり、どこか照れくさい幸せが心を満たしてゆく。

 

「あ……」

 

 小さく吐息を漏らす。隣に横たわっている存在を、どうしようもなく意識してしまう。

 悠斗はすでに目を覚ましていて、怜華の髪を優しく撫でながら、低い声で微笑んだ。

 

「おはよ。れいちゃん」

 

 その呼び方に、怜華のからだの奥がきゅんと震える。

 目の前の穏やかな顔に、焦点が合う。やや細められた垂れ目が、静かにこちらを見つめている。

 逆光に照らされた、無造作に跳ねた寝癖。かすかに伸びた髭と、鎖骨の陰影。

 恥ずかしくて正視できない。

 

「ん……ゆうくん……おはよう」

 

 出た声は、少し眠たげだ。けれど、心臓は既に高鳴っている。

 悠斗は怜華の顎を優しく持ち上げると、いつものように、ゆっくりと唇を重ねた。

 朝のキスは、いつもより少し長く、深く、怜華の息を奪う。

 

「ちゅ……んむっ……。はぁっ……」

 

 するりと胸元に、大きな手が滑り下りてくる。

 乳房を優しく包み込まれ、先端にそっと触れられる。

 寝起きのそこは安心しきって力が抜け、いつもより敏感で、指先で軽くこねられるだけで、怜華の腰がびくんと跳ねる。

 

「ひゃっ……朝から……」

 

 指の腹で、ゆっくりと転がされる。

 

「れいちゃんのここ、寝起きはいつもより、ふにゅふにゅだね」

 

「……やめて、そんな……あんっ……」

 

 恥ずかしくて悠斗の胸に顔を伏せるが、彼の鼓動が伝わってきて、さらにどきどきしてしまう。

 

 軽く摘まれ、ゆっくりと引っ張られる。じらすように撫でられる。

 その触り方は完全に事前準備のそれで、その意図に気づいてしまった途端、今は何時なのだろうと急に不安になる。

 枕元のスマホを探して視線を泳がせると、察した悠斗が指の動きを止めて、くすりと笑う。

 

「ふっ、心配性だなあ、怜華さん。まだ六時台だよ」

 

「だって……今日これからしご……あんっ……やめっ……」

 

「八時過ぎに出れば十分間に合うって。こっから会社まで二駅だし」

 

「もうっ……。ぎりぎりまで粘ったりなんてしないでよ」

 

「だいじょぶだいじょぶ。時計、ちゃんと見てますから」

 

 ほんとに大丈夫なんだろうか、と訝しみつつ、すかさずこりこりっと捻られると、もう細かいことはどうでもよくなってしまう。背中が弓なりに反り、甘い吐息が漏れる。

 

「はあっ、ずるい……。んっ……」

 

 横向きで向かい合ったまま、もう片方の手で腰を抱き寄せられると、脚が自然と開いてしまう。そこに悠斗の脚が割って入った。

 二人の脚が、互いに絡み合う。熱く潤んだ怜華のそこが、悠斗の太ももに触れた。

 無意識に押し付け、腰をくねらせてしまう。

 

「はぁん……っ」

 

 突如、押し当てられた柔らかい熱に、たまらないという顔で、悠斗は呟く。

 

「くっ……れいか、さん……っ」

 

 怜華のお腹に当たっていたものが、硬さを増した。

 目を細めた、余裕のないその顔つきが、怜華の劣情を加速する。

 腰を前後左右に、こねるように動かす。花びらが吸い付き、撚(よ)れて、ぬちょ、ぬちゅ、と水音がする。

 

「あ、あ、あっ、あん、あ……」

 

 動きに合わせ、恥ずかしい吐息が漏れてしまう。でも腰は止まらない。

 他人の太ももでこんなことをしている、という背徳感が、興奮を増幅させていく。

 

「ああ……。そんなに気持ちいい? 俺の太もも……」

 

 悠斗の声は、意地悪く、優しい。

 怜華は顔を真っ赤にして、悠斗の胸に顔を埋めながら、小さく頷く。

 

「んっ……きもちい……」

 

 くちゅ、くちゅ、と水音が響く。

 悠斗がゆっくりと上体を起こし、浅い息をしている怜華を見下ろした。

 

「怜華さんって、なんか、たまにめちゃくちゃ大胆なことしますよね」

 

「……っ」

 

「ほら、自分でこねちゃってるそこ、見せてみて……」

 

 悠斗は怜華を仰向けにすると、脚を優しく開かせ、茂みをかき分けて、下の口に唇を寄せた。

 ちゅぷ……っ。

 

「あん……っ」

 

 すっぽりと唇で覆われて、はむはむと優しく、口全体で愛撫される。

 声が、細く、切なげな調子を帯びてしまう。

 

「んっ……ゆう、くん……。あっ……そこ……だめっ……」

 

 舌先で、慎ましやかに、あるいは猥雑に、ひたすら舐め上げられてゆく。

 好きな場所、好きな角度、悠斗だけに知られている弱点を、的確に責められる。

 敏感な突起の下側を、舌で下から上にれろれろと擦られると、思わず腰が浮いた。

 

「ひゃうん……っ」

 

 悠斗が入口を軽く吸い上げると、怜華の内側が震えた。

 溢れた蜜は悠斗の唇を濡らし、シーツに染みを作っていく。

 

「あっ……やっ……。もう…………」

 

 悠斗は顔を上げると、ゴムを被せた自身を怜華の入り口に当てがった。

 熱く柔らかい入口を先端で撫でられただけで、ひくひくと動き、蜜がさらに溢れるのを感じる。

 

「怜華さん……いいよね……?」

 

「ん……ゆうくん……」

 

 ゆっくりと、悠斗が入ってくる。

 ちゅくん……という湿った音が響き、滾(たぎ)る熱が下腹部を満たしてゆく。

 怜華の内壁は悠斗を優しく、でも貪欲に包み込んでいく。

 ——ゆうくんの一部を、自分のカラダが受け入れている。

 何度経験しても、なんだか信じられなくて、そしてすごく愛おしい。

 

「んんっ……」

 

「全部、入ったよ……」

 

「あ……」

 

 そのまま、動かさずに、くっついたままじっとしている時間が、怜華は好きだった。

 体の奥から、幸せがじんわりと溢れ出してくる気がする。

 

「れいちゃん……動くよ」

 

 悠斗は怜華の腰を抱き寄せ、優しく、深く、腰を動かし始めた。

 怜華の内壁はうねり、絡みついて離さない。

 丁寧なストロークに、怜華は震えるような快感を感じつつあった。

 

「あっ、あんっ……ゆうくん……しゅき……」

 

「くっ……れいちゃん……俺もだよ……怜華さんのナカ、気持ち良すぎる……」

 

「あんっ……そこ……」

 

「……ここ?」

 

「んっ、そこっ、ゆうくん、ゆうくん……っ」

 

「ああ……っ、可愛いよ、れいちゃん……っ」

 

 不意に胸の先を摘ままれて、下腹部がきゅうんとしてしまう。

 

「ああっ……!」

 

 そのままくにくにと、指先でこねられると、腰がガクガクした。

 

「やっ、それ、だめぇっ……!」

 

「ほんと、ちくび弱いね、怜華さん。ほら」

 

「あ、ああ、あ、あっ……」

 

 あまりの快感に、腰が大きく動いてしまう。ひたすら恥ずかしい。でも、止まらない。

 結合部から響く水音が、部屋に満ちていく。

 家とは違う幅広のベッドは、どれだけ手足を伸ばしても邪魔されない。

 その解放感に、二人の動きもどんどん大胆になっていく。

 

 悠斗は怜華の両足を抱え上げ、自分の肩に掛けるようにして、さらに深く突き入れた。

 

「よっ……と」

 

「ひゃぁ……っ! なっ、なに……これ……」

 

 カラダの奥に、とちゅ、とちゅ、と無数のキスをされている感覚。

 誰にも触れられたことのない未知の領域を、悠斗の熱い先端に曝かれているのを感じる。

 はじめての感触に、声すらうまく出せない。

 

「んっ……はっ……」

 

 悠斗は腰の動きを少し速め、角度を変えると、怜華の敏感な一点を、規則的に狙い撃つ。

 体を〝く〟の字に折り畳まれたまま、怜華はその動きに身を委ねる。

 

「あっ! あっ! やんっ! ああっ!」

 

 霞む視界で、必死に悠斗を見上げる。

 いつも余裕ぶっている彼が、この時にしか見せない表情が、そこにある。

 衝動に支配された、キャパオーバーな目つき。緩みきった口元。時折苦しそうに歪む眉根。

 ぱちゅ、ぱちゅ、といういやらしい音と、乱れた息遣い。

 全身で感じる、圧力と重み。荒々しい動き。ゆうくんの……匂い。

 

「は……っ。れい、ちゃんっ……」

 

 掠れた声で、名を呼ばれる。

 そのたびに、頭の中が焼き切れそうになる。

 力強く突かれ、身を委ねて、朦朧となりながら。

 この人のことを、たまらなく、好きだ、と思った。

 ゆうくん。佐久平、悠斗、くん。

 ——すき。だいすき。

 

「あっ、あっ、ゆうくんっ、だいしゅき……っ」

 

「く……そんな顔、されたら、俺……もう……っ」

 

 ふわりと浮遊感に襲われ、怜華の華奢な指は本能的にシーツをまさぐり、掴む。

 そこに、悠斗の指が絡められた。

 すかさず怜華は、ぎゅっと繋ぎ止める。離ればなれにならないように。

 

「ああっ、ゆうくん、ゆうくんっ……!」

 

「れいちゃんっ、一緒にイこう……っ」

 

「あ、あ、あっ、あ、あ……ゆう、くんっ、一緒、に……っ。あ、ああああっ……!」

 

 スピードを上げて、昇り詰めていき。

 てっぺんで、大きな波に呑まれる感覚。

 真っ白な世界に放り出されながら、怜華は。

 からだの中心で、放たれた熱をかすかに感じた。

 

   * * *

 

 朝の光が強まっている。ホテルの部屋に現実が忍び寄りつつあった。

 

 怜華は悠斗の胸に顔を埋めたまま、余韻の中で小さく息を吐く。

 

「……ゆうくん……そろそろ、支度……」

 

 優しく髪を撫でながら、悠斗も答える。

 

「うん……わかってる」

 

 悠斗はゆっくりと腰を引き、ちゅぽん……と湿った音を立てて抜いた。

 内壁がひくひくと震え、熱い蜜が太ももを伝う。

 切ないようなほっとしたような、言いようのない感情が静かに心を満たす。

 

「……んっ」

 

 小さく吐息が漏れる。

 ひくつくそこを、不意にそっと指でなぞられる。

 

 くちゅん……。

 

 絶頂に達したばかりの今は、わずかな接触すら気持ちいい。電流が走ったような感覚に、体がびくんっと跳ねた。

 

「ああん……!」

 

 怜華は両手で顔を覆う。

 

「やっ……ゆうくん……そこ、まだ……すごく……」

 

 優しくちゅぽちゅぽと撫でられると、さらに蜜が溢れ、お尻のほうまで伝うのを感じた。

 ああ、このまま、会社なんて休んで、ずっとゆうくんに──。

 そんな悪魔の囁きに、最後の理性が警告を鳴らした。

 飛びそうになった意識を、やっとのことで繋ぎ止める。

 余韻を断ち切るつもりで勢いよく起き上がると、悠斗の手をそっと抑えた。

 

「だめ……ほんとに、これ以上は……お願い」

 

「……ですよね。ごめん、怜華さんがあまりにも可愛すぎて……。じゃあ、続きは夜に」

 

「もうっ、ばか……。先にシャワー浴びてくるから」

 

 逃げるようにベッドを出て、バスルームに籠もる。

 熱いシャワーを浴び、情事の跡を洗い流していく。

 次第に冷静な自分が戻ってくる。

 さっきまでの出来事が、なんだか夢だったような気さえしてくる。

 

 シャワーを浴び終えた怜華は、キャミソール姿でバスルームから出た。

 TVから朝の情報番組が流れている。

 悠斗はボクサーパンツ一丁で、昨夜チェックイン前に買ったコンビニパンを頬張っている。

 

「シャワー、お先。最初熱いから気をつけて」

 

「あ、はい。先、食ってました」

 

 パンと一緒に調達したコスメを取り出していると、食べ終わった悠斗がドライヤーを手に、横に立った。

 

「そこ、座ってください。髪、乾かします」

 

「え!? そんな、自分でやれるから……いいから、早くシャワー」

 

「まあまあ、いいじゃないですか、こんな時くらい」

 

「こんな時……?」

 

「ホテル帰りの朝くらい、ってことですよ」

 

「……っ!!」

 

 動揺した隙に、やや強引にベッドの端に、ぽすんと座らされてしまう。

 悠斗は怜華のゆるくウェーブした髪を丁寧に梳きながら、温風を当てていく。

 怜華はスキンケアの手を止め、目を閉じる。髪をまさぐられる感触に、身を委ねる。

 

(ん……。誰かに、こんなこと、してもらったことない……)

 

「だいたい乾いたかな、これで」

 

「ありがと……。なんだか、美容院みたい」

 

「仕上げはわかんないんで、あとは自分でやってくださいよ」

 

 ドライヤーを怜華に手渡すと、悠斗はデスクの上の電気ケトルを指差した。

 

「お湯、湧いてます。コーヒーでも何でも。あ、あと、そうだ」

 

 悠斗が小さな紙袋を突き出す。

 中を見た怜華は、息を呑む。

 怜華の部屋に掛かっていた淡いブルーの襟付きシャツが、無造作に畳まれて入っていた。

 

「えっ、これ……どうして、ここに」

 

「勝手なことしてすいません。でも怜華さん、昨日と服が同じとか、朝帰りとか、そういうの気にするかもなって……。怜華さんのスーツに合うかとか全然わかんないですけど」

 

 シャワーの支度をしながら、悠斗が答える。

 

「え、待って。もしかして、泊まりって見越して……?」

 

 昨晩、呼び出されて、一緒に会社に向かう時。

 仕事のことで頭が一杯になっていた。

 悠斗が不自然な紙袋を持っていることすら、気づいていなかった。

 

「まあ、咄嗟にですけど、もしかしたらもしかするかもって。あ、さすがに下着は無理でした、すいません。昨日ので我慢して下さい。じゃ、シャワー浴びてきます」

 

 こちらを見ずに早口でまくし立てられる。怜華が何か言おうとするより早く、バスルームに逃げられてしまう。

 後には、唖然としている怜華だけが残された。

 

   * * *

 

 シャワーを終えた悠斗が、シャツの袖に腕を通していく。

 一足先に身支度を終えた怜華は、メイク道具を片付けながらその様子を眺めている。

 

 やや童顔な悠斗も、ちょっと良い服に身を包めば一気にビジネスマン然とする。

 いつもながら、惚れ惚れしてしまう。

 仕事で釣り合いたい悠斗が、奮発して買ったコーデであることを、怜華自身は知らない。

 

 悠斗がネイビーのネクタイを手に取る。

 いつものように早業で結ぼうとする悠斗に、怜華は思い切って声を掛ける。

 やってみたいことがあった。

 

「ね、ゆうくん……ネクタイ、結んであげる」

 

「えっ!?」

 

 悠斗が素っ頓狂な声を出した。

 

「そんな、怜華さんに……そのくらい自分でやりますって」

 

「ふふ、いいじゃないですか、こんな時くらい」

 

「……っ!!」

 

 〝こんな時〟をほんの少しだけ強調するように、さっきの悠斗の言葉をそのまま返す。

 いつになく照れる悠斗がやけに可愛く見えて、つい、からかいたくなってしまった。

 

 悠斗の前に立つ。

 ほぼ同じ背丈。向き合うと少し照れくさい。

 軽く緊張しつつ、丁寧にネクタイを結んでいく。棒立ちのまま悠斗は、所在なさげに怜華の手元をじっと見ている。

 

 結びながら、あ、まただ、と怜華は思う。

 

(誰かに、こんなこと、してあげたことない)

 

(想像したこともなかった。髪を乾かしてもらうのも、ネクタイを結んであげるのも……こんなに幸せなことだなんて)

 

 最後にノットをきゅっと締め、全体を整える。

 どこに出しても恥ずかしくない優秀な部下、佐久平悠斗がそこに立っていた。

 

「うん、完璧」

 

 思わず、声に出てしまう。

 自分の手で悠斗の最後のピースを完成させた感じがして、なんだかすごく嬉しい。

 

「……っ!」

 

 なぜか狼狽える悠斗。

 怜華は、気づいていない。

 自分自身もまた、完璧な女帝に仕上がっているのだということを。

 最高にカッコいい緋村部長にネクタイを結んでもらうことが、どれほどのクリティカルダメージを悠斗に与えたのかを。

 

   * * *

 

 五分後。チェックアウト直前。

 鏡の前に立つ、二人の男女。スタイリッシュな戦闘服(スーツ)に身を包んだ、業界随一のシゴデキ女帝と優秀な部下。

 もはや、ゆうくんとれいちゃんは完全に隠蔽され、影も形も消え失せてていた。

 

「佐久平くん、今日の会議、全体はこちらでリードするけど、クライアントへのプレゼンは任せるわ」

 

「承知しましたっ、部長」

 

 二人は鏡の前で最終チェックしつつ、本日の立ち回りを口頭で確認し合う。

 

「先方は、同業他社とうちとで迷っている。だけど私達の提示している条件のほうが、お互いにとって有利なはず。そこはちゃんと強調して。定量的なエビデンスを手持ちのスライドにして、いつでもさっと出せるように」

 

「は、はいっ。このあと、急いで用意します」

 

 やっぱすげぇな怜華さん、と今日も悠斗は感心し、さっそく頭の中で段取りを始める。

 怜華は怜華で、悠斗のクライアント対応力の高さを尊敬し、頼りにしていた。

 一の指示で十が返ってくる、最強のコンビ。

 

「それと、出社したらまず昨晩の件のフォロー。わかってるわね?」

 

「昨晩の、というと、部長が最後に電話で念押ししてた件ですか」

 

「ええ、かなりぎりぎりで妥協案を取り付けたから」

 

「しかも全裸にバスローブで、ですよね」

 

「△※×○*@#……っ!?」

 

 完璧な女帝となっていた緋村部長の脆弱性が、ほんの一瞬、崩されてしまう。

 

「…………かっ……会社で言ったら殺すわよ」

 

 氷の女帝の脅しも、そんな真っ赤な顔で言われると、全然怖くねぇな、と悠斗は思う。

 

「わかってますよ、部長。……ちゃんと、フォローします」

 

 少し生意気に微笑むと、悠斗はホテルの部屋のドアを開けた。

 

   * * *

 

 廊下に出る。無言でエレベーターホールに向かう。ロビーに降り、自動でチェックアウトを済ませた二人は、目配せをした。

 ここから先は別行動になる。

 時間差で出勤して、二人の関係が会社に絶対にバレないように。

 

 一足先に雑踏に消えていく悠斗の後ろ姿を、怜華は見送る。

 共犯関係の甘い心地よさを、しばらく反芻した。

 

(ゆうくん……私、今日も頑張るから。佐久平くんの上司として、部長として)

 

(だから、仕事が終わったら、また……私の知らない幸せを教えて)

 

 ドライヤーとネクタイが教えてくれた幸せを噛みしめる。

 

 いつの日か、どこかの旅先で。

 今朝のように。

 二人で朝を迎えてみたい——。

 怜華の中に、そんなささやかな目標が生まれた。

 

 それを、そっと心の大切な場所にしまうと、氷の女帝・緋村怜華は。

 足取りも軽く、駅までの道をひとり歩き始めた。

 

(つづく)




次回、「7話 怜華、ノーブラで出勤してしまう」
ノーブラで出勤してしまったと気づいた怜華さん。どうする!? 意外と真面目な話です笑

今回、意識して怜華さん視点にしてみました。どうだったでしょうか。
なにげにシゴデキつよつよカップルなところも伝わっていれば幸いです。

独自路線を突っ走ってる自覚があるので、
果たして読む人がいるのか、カテエラじゃないか、正直すごい不安です。
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